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2022年8月30日 (火)

茶栗柿ふ――モチーフ分析

◆あらすじ

 馬鹿な息子がいた。母親が遊んでばかりでいたらいけない。少しは商いをして戻れやと言った。息子は商いとはどんなことかと訊いたので母親は何か売って戻ることだと答えた。どんなものを売りに行くと息子が訊くと、母親は茶やら栗やら柿やらふやら売って戻るんだと答えた。それから息子は茶、柿、栗、ふをこしらえてもらって「茶栗柿ふ、茶栗柿ふ」と言って歩いたが誰も買ってくれなかった。晩になって戻って、やれ、しんどいと息子が言った。多少は売れたかと母親が訊くと、いっそ売れん。誰も買ってくれんと息子が答えたので母親はどういう風に言ったと訊いた。茶栗柿ふ、茶栗柿ふと言ったと息子が答えたので、それではいけない。茶栗柿ふじゃなんのことか分からないから、そういう風には言わずに茶は茶で別に、栗は栗で別に言わないといけないと言った。息子はそれから「茶は茶で別、栗は栗で別、柿は柿で別、ふはふで別」と言って歩いた。いっこも買い手がなくて晩になって戻った。多少は売れたかと母親が訊いたので全然売れないと息子が答えた。どう言ったのだと母親が訊くと「茶は茶で別、栗は栗で別、柿は柿で別、ふはふで別」と息子は言った。それではいけない。茶は茶で別々に、栗は栗で別々に、柿は柿で別々に、ふはふで別々に言わないとと答えた。息子は明くる日に「茶は茶で別々、栗は栗で別々、柿は柿で別々、ふはふで別々」と言った歩いた。とうとういっこも売れなかった。馬鹿な息子というものはなんぼ言っても訳が分からない。

◆モチーフ分析

・馬鹿な息子がいて母親が商いでもしろと言う
・息子が母親に商いとはなにか訊く
・母親、茶や栗や柿やふを売るのだと答える
・息子、母親から言われた通りに宣伝するが全く売れない
・息子、そのことを母親に話す
・母親、別々に売るのだと教える
・息子、母親に言われた通りに宣伝するが全然売れない
・母親、別々に売るのだと教える
・息子、母親に言われた通りに宣伝するが全然売れない
・馬鹿な息子は幾ら言っても訳が分からない

 形態素解析すると、
名詞:母親 息子 宣伝 通り 別々 商い 馬鹿 こと ふ 柿 栗 茶 訳
動詞:言う 売る 売れる 教える いる する 分かる 答える 訊く 話す
副詞:全然 なにか 全く 幾ら
連体詞:その

 母/息子の構図です。抽象化すると、家族同士です。息子―(売る)―茶/栗/柿/ふ、母親―教える/馬鹿―息子といった図式でしょうか。

 馬鹿な息子が母親に言われて商いに行く[商売]。母親に言われたそのまま売り文句にする[宣伝]ので全く売れない[販売不振]。それを報告した息子に母親は別々に売るのだと教える[教示]。以上を繰り返して終わる[繰り返し]。馬鹿は訳が分からない[教訓]。

 商いをするが売れない。それを報告すると宣伝の仕方を教えるが売れないという繰り返しとなる……という内容です。

 発想の飛躍は息子が母親に言われたそのままに声を上げて売ることでしょうか。その繰り返しが三度あります。

 これも息子の馬鹿さ加減が可愛らしく感じられます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.217-218.

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