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2022年8月19日 (金)

化物退治――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに一人暮らしの猟師がいた。度胸のすわった男で近くの山に化物が出るというので退治に出かけた。猟師は日が暮れるのを待って山に入り、たき火を焚いていた。夜が更けて丑三つ時になった頃、大きな牛のようで目がぎょろぎょろと鋭く光っている怪物が現れた。猟師は度肝を抜かれたが、ここで度胸をすえねば自分の命がないと思って、ここにきてたき火に当たれと言った。怪物は少し当たらしてくれと言ってたき火の側へ来た。猟師は何もご馳走はないが団子があるから食わないかと言うと、一つよばれるとしようとなった。猟師はじゃあ口を開けておれ、団子を放り込んでやると言って鉄砲の筒口を怪物の口に突っ込んで引き金を引いた。ズドンと大きな音がして、この一発で怪物は倒れると思ったところが、怪物は平気で団子を皆出せと言った。そこで猟師は持っているだけの玉を皆怪物の口の中に撃ち込んだ。が、怪物はけろりとして皆食ってしまった。そして今度はわしがお前に団子を食わせてやろうと言ったので猟師は震えだした。怪物に食い殺されると思って八幡大菩薩に祈った。すると猟師はまだ守り玉があったのに気がついた。それを込めてドンと一発撃つと、怪物はきゃーと血を吹きながら山奥へ逃げ込んだ。その内に夜が明けたので、血の跡を追って山奥へ行ってみると、大きな岩穴があって中でウンウンうめく声が聞こえた。そこで岩穴をそっと覗いて様子を見ると大きな男の狒々(ひひ)が女の狒々の傷口を一生懸命手当をしている。そして自分が仇をとってやる。あの猟師は独り者で女房がいないから自分が女に化けて食い殺してやると言っていた。猟師はこれを聞いて油断ならないと度胸を決めて狒々のやって来るのを待った。すると間もなく、ある夕方にきれいな女がやってきて一晩泊めてくれないか、そして自分を嫁にしてくれないかと頼んだ。猟師は承知した。そこで隣近所や親類を呼んで宴会となった。しかし猟師は油断せず、こっそり鉄砲に玉をこめ外に出て障子の穴から女を撃った。すると嫁が血だらけになって倒れたので大騒ぎになった。人殺しだというので役人が来て取り調べ、猟師は人殺しの罪で連行されることになった。猟師は訳を話して、三日もすれば化けの皮がはげて元の狒々になるからと言って三日間の日延べを願った。そこで四日目に来たときにこのままであったらお前を人殺しとして打ち首にするぞと言って役人は帰った。四日目に役人が来て見ると、女は狒々になって牙をむいて死んでいたので、役人は猟師の勇気を褒めた。

◆モチーフ分析

・一人暮らしの猟師が化物退治に出かけた
・猟師が山の中でたき火を焚いていると怪物が現れた
・猟師、怪物にたき火に当たらせる
・猟師、怪物に団子を食わせると言って怪物の口に銃口を突っ込み発砲する
・が、怪物、死なない
・猟師、玉を打ちつくしてしまう
・怪物、今度は自分が猟師に団子を食わせると言う
・驚愕した猟師だったが、八幡に祈ると守り玉が残っていることに気づく
・猟師、守り玉で怪物を撃つ
・怪物、手傷を負って逃げ出す
・跡を追った猟師、岩穴に辿り着く
・中で雄の狒々と雌の狒々が話していた
・狒々の会話を聞いた猟師、家に戻る
・女が訪ねてきて嫁にしてくれと頼む
・結婚式で猟師は女を撃ち殺す
・殺人となり役人に取り調べられる
・猟師は事情を説明し、三日後には正体が明かされると言う
・それで猟師は一時的に解放される
・四日目に役人がやってくる
・果たして狒々の正体が明かされる
・役人、猟師の勇気を褒める

 形態素解析すると、
名詞:猟師 怪物 狒々 役人 玉 たき火 中 団子 女 正体 三 四 こと 一人暮らし 事情 今度 会話 八幡 勇気 化物 口 嫁 家 山 岩穴 手傷 殺人 発砲 結婚式 自分 解放 説明 跡 退治 銃口 雄 雌 驚愕
動詞:言う 守る 明かす 食わせる する なる やる 出かける 取り調べる 当たる 戻る 打ちつくす 撃ち殺す 撃つ 死ぬ 残る 気づく 焚く 現れる 祈る 突っ込む 聞く 褒める 訪ねる 話す 負う 辿り着く 追う 逃げ出す 頼む
形容動詞:一時的
副詞:果たして

 猟師/化物、猟師/狒々/役人の構図です。抽象化すると、主人公/妖怪です。猟師―守り玉―怪物、猟師―嫁/狒々―役人の図式です。

 猟師、化物退治に行く[出発]。猟師、山の中で怪物に遭う[遭遇]。猟師、怪物を銃で撃つ[射撃]が効かない[無効]。危機が迫った猟師、守り玉で怪物を撃つ[呪具での射撃]。怪物、逃げる[逃走]。怪物たちの会話を聴いた[盗み聞き]猟師、家で待ち受ける[待機]。女が来て[来訪]嫁にして欲しいと頼む[求婚]。結婚式の席で猟師は女を撃つ[射殺]。殺人の嫌疑が掛けられるが[疑惑]、四日目に正体を現し[露見]事なきを得る[無事]。

 守り玉で化物を撃ったところ、効いた……という内容です。

 発想の飛躍は銃弾が効かない怪物でしょうか。猟師―守り玉―怪物の図式です。守り玉でようやく手傷を負わせます。

 守り玉は使ったら猟を止めなければならないという決まりがあるパターンが多いと思いますが、ここではそうではありません。後半、女が嫁にして欲しいと訪ねてくる場面は異類婚姻譚を連想させます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.193-196.

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