竜宮女房――モチーフ分析
◆あらすじ
孝行息子と母親が二人で暮らしていた。毎日薪(たきぎ)をとって町に売りに行って、それで母親を養っていた。大晦日の日、息子は薪を町に売りに行ったが、誰も買う者はいなかった。日も暮れたので、この薪は竜宮にあげようと橋の上から川へ投げた。それから家へ帰ったところ、美しい女の人が来て今夜泊めてくれと頼んだ。何も食べるものがないと断ったが、きかないのでとうとう泊めてやって嫁にした。女は金を出したので三人でよい年をとった。それから何日か経って男は畑に行ったが、嫁が見たくてたまらないので、家へ帰って話すと、嫁は自分の姿を絵に描いてやった。男はその絵姿を木にかけて、それを見ながら畑仕事をしていた。その内に酷い風が吹いてきて、その絵をどこかへ持っていってしまった。男は悲しんで嫁にそのことを話した。その内に殿さまから何月何日出てこいと殿さまから手紙が来た。何か悪いことをしたのかと心配して出ていくと、こんな女房を持っているかと問われた。それを見ると、嫁の絵姿だったので持っていると答えると、女房を連れてこいと言われた。連れてこられないと断ると、それなら殿さまの言うことを叶えよと難題を言われた。「けむくぞうに、これわいさに、打たん太鼓に鳴る太鼓、音なし笛のじんばらほ」を持ってこいと。心配して嫁に話すと、それはたやすいこと。私が整えてあげると言われた。明くる日、嫁はそれぞれ桐の箱に入れてこれを持っていけ。自分はこれまで隠していたが竜宮の乙姫だ。今日から別れると言った。男は悲しんだ。仕方ないので仰せの通りの物を殿さまのところへ持っていった。殿さまが箱を開けると毛虫やら二丈ある男やら蜂が出てきて殿さまを苦しめた。殿さまは痛くてたまらないので早くしまえと仰せになり、よくその品物を持ってきたと褒美をくださったので、一生安楽に暮らした。
◆モチーフ分析
・孝行息子が母と二人で暮らしていた
・大晦日に薪を売りに町にいったが買い手がつかない
・薪を竜宮にあげようと橋の上から川に落とす
・美しい女人がやってきて泊めて欲しいと頼む
・断り切れず泊めてやる
・女人、そのまま嫁になる
・女人の金でよい年始をおくる
・男、畑仕事に出るが、女房のことが気にかかる
・男、嫁に相談して絵姿を描いてもらう
・絵姿を畑に持っていったところ、風で飛ばされてしまう
・殿さまから呼び出しがかかる
・参上したところ、絵姿は男の嫁か訊かれる
・そうだと答えたところ、では連れてこいと命じられる
・断ると無理難題を申しつけられる
・帰って嫁に相談する
・嫁、正体を明かす。竜宮の乙姫
・嫁が課題の品を箱に入れて渡す
・嫁と別れて殿さまのところにいく
・殿さまが箱を開けたところ、毛虫や蜂が出てきて散々な目に遭う
・男、それで許されて褒美をもらう
形態素解析すると、
名詞:嫁 ところ 男 女人 殿さま 絵姿 相談 竜宮 箱 薪 こと それ 上 乙姫 二人 参上 品 売り 大晦日 女房 孝行 川 年始 息子 散々 橋 正体 母 毛虫 気 無理難題 町 畑 畑仕事 目 蜂 褒美 課題 買い手 金 風
動詞:いく かかる 断る 泊める あげる おくる つく なる もらう やる 入れる 出る 別れる 呼び出す 命じる 帰る 持っていく 描く 明かす 暮らす 渡す 申しつける 答える 落とす 訊く 許す 連れる 遭う 開ける 頼む 飛ばす
形容詞:よい 欲しい 美しい
副詞:そう そのまま
男/女房、男/女房/殿さまの構図です。抽象化すると、夫婦/領主です。男―薪―竜宮、男―絵姿―女房、男―無理難題―殿さまの図式です。
薪が売れない[不振]。薪を川に落として竜宮に送る[献上]。家に帰ると女人が訪れてくる[来訪]。女人、嫁になる[嫁入り]。男、嫁に絵姿を描いてもらう[似姿を描画]。絵姿が風で飛ばされる[飛散]。絵姿が殿さまの手に渡る[奪取]。呼び出された男、嫁を参上させるよう命じられる[要求]。男、断るが難題を課せられる[出題]。嫁に相談したところ、嫁が解決策を教える[提示]。嫁、正体を明かす[判明]。嫁と別れ[別離]、殿さまの許に行く[出頭]。課題の品で殿さま、散々な目に遭う[遭難]。男は許され褒美をもらう[獲得]。
薪を竜宮に献上したところ、乙姫さまが嫁入りしてきた……という内容です。
発想の飛躍は難題に対する回答でしょうか。箱―毛虫/蜂―殿さまの図式です。
薪を竜宮に献上する形でお話は進行しますが、途中から話が絵姿女房に変わります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.140-143.
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