怪我の功名――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、大ほら吹きの男がいた。どこへ行って何を殺したと剣術が上手だとかほらを吹いていた。そこへ余所の村からそんなに強いならうちの村で化物が出て困っているが来て退治してくれないかと頼みに来た。どうも行かれないとは言えない。それで応じてその村へ出かけた。これは大変なことになった。どんな物が出るだろうと思って来てみると、大きな蜘蛛(くも)の巣の張った空き家で長押(なげし)に五人張り二十五束という弓が掛けてあった。これはいいものがあると思って弓を取ってみた。さて、夜遅く静かになってから向こうの山がごうっといってしばらくすると破風でダダダッと大きな音がした。すると天井の間から一ツ目の大きな化物がニューっと覗いた。それで恐ろしくなってその方へ向けて五人張りの弓をパーンと投げた。すると化物はギャーッといって逃げてしまった。そうこうする内に鶏(にわとり)が鳴いて夜が明けた。夕べの男はどうなったかと村の者たちが連れ立って見に来た。男は元気で座っているので、どうしたかと言うと、確かに化物が出た。ここにあった弓で自分が退治した。確かに手応えがあったから見よ、血を落として逃げていると答えた。村の者が見るとずうっと血が落ちているので、跡をつけて行くと山の奥の洞穴に大きな古狸が死んでいた。それで化物を退治してくれたというので村では手のたつ名人ということになった。とうとう村一番の身上のよい家の聟(むこ)に貰われた。その家の娘はとてもきれいな娘だった。ところが大ほらふきの男は手がたつとは言っても大変みっともない男だった。それで娘はこんな聟では恥ずかしいからどうにかして帰ってもらいたいと思ったが、どうしても帰らない。そこである日、遠くの村からうちの村で山賊がたくさん出て悪いことをして困っている、ここには大変手の立つ人がいたので来て退治してくれないかと頼みに来た。男は快く引き受けた。これはいい。山賊を退治しに行けば弁当を持っていくからその時に毒むすびをこしらえて持たせればいいと思って女房はむすびの中へ毒を入れて風呂敷に包んで持たせた。さて、山賊がいるという山へ行ってみると、山賊たちは大きな松の木の根元へ鍋やら釜やら置いてそこで寝起きしていた。ちょうど山賊たちは出かけていない。戻ったら恐ろしいので松の木のずっと上の方へ登って隠れていた。そんなことを知らない山賊は夕方になると分捕ったものをたくさん持って帰って飲み食いした。ところが松の木の下で火を焚いて酒を沸かすので煙たくてどうしようも無い。それで風上へあっち行きこっち行きして廻っていたところ、腰へつけていたおむすびがいつの間にか落ちてしまった。山賊は大騒ぎをして飲んだり歌ったりしていたが、その内に静かになった。山賊は寝た塩梅だから、むすびでも一つ出て食おうと思って男は腰を探したがむすびは一つも無い。ははあ、ああだこうだする内に落ちたのだろうと思って降りてみると山賊たちは皆酒に酔ったのか死んだのか分からないようになって寝ている。男はそれを片っ端から首を切って、山賊は皆退治したと言って戻った。山賊は男の弁当を拾って食べたので毒にあたって死んだのだ。これは本当に手のたつ偉い人だと思って、それからは女房も男を大切にして仲良く暮らした。
◆モチーフ分析
・ほら吹きの男がいて自分は強いと吹聴していた
・そんなに強いのならある村の化物を退治しろと言われる
・行かないとは言えないので、その村へ出かけた
・空き家に入る。五人張りの弓を手にする
・夜、一ツ目の化物が出るが弓で射る
・村の者たちが様子を見にきた
・血の跡を辿ると古狸が死んでいた
・手の立つ名人と見なされ、村一番の家に聟入りする
・嫁、男がみっともないと嫌う
・遠くの村で山賊が出るという話が出、男が行くことになった
・嫁、毒入りのおむすびを作って男に持たせる
・男、松の木の上で山賊の様子を窺う
・山賊たちが戻ってきて宴会をはじめる
・男、煙たいのであっちこっちへと逃げ回る
・その隙に腰の弁当を落としてしまう
・静かになったので降りてみると、山賊たちは死んだ様になっていた
・男、山賊たちの首を切り凱旋する
・山賊たちは毒入りのおむすびを食べて死んだのだった
・嫁、男を見直した
形態素解析すると、
名詞:男 山賊 村 嫁 おむすび 化物 弓 手 様子 毒入り 五 あっちこっち こと ほら吹き 一ツ 上 凱旋 古狸 名人 吹聴 夜 宴会 家 弁当 村一番 松の木 空き家 者 聟 腰 自分 血 話 跡 退治 遠く 隙 首
動詞:出る 死ぬ 行く 言う ある いう いる くる する なる はじめる 作る 入る 出かける 切る 嫌う 射る 戻る 持つ 窺う 立つ 落とす 見なす 見る 見直す 辿る 逃げ回る 降りる 食べる
形容詞:強い みっともない 煙たい
形容動詞:静か
副詞:そんなに
連体詞:その
男/化物、男/山賊の構図です。抽象化すると、主人公/動物、主人公/敵対者です。男―弓―化物/古狸、男―おむすび/毒―嫁、男―おむすび/毒―山賊の図式です。
ほら吹きの男、ある村の化物の退治を頼まれる[依頼]。請けた[受諾]した男、村へ行き空き家に入る[入所]。五人張りの弓を手にする[入手]。一ツ目の化物を弓で射る[攻撃]。血の跡を追った[追跡]ところ、古狸が死んでいたのを見つける[発見]。それで村一番の家の聟となる[聟入り]。嫁、男を疎んじる[嫌悪]。遠くの村で山賊が出たので退治しに行くことになる[使命]。嫁、男に毒入りのおむすびを渡す[謀略]。男、松の木の上で様子を窺う[監視]。山賊たちが帰ってきて宴会する[宴]。煙いのであちこち動き回っていたところ、弁当を落とす[落下]。おむすびを食べた山賊たち静かになる[沈黙]。降りた男、山賊たちの首を斬って帰る[凱旋]。嫁、男を見直す[再評価]。
毒入りのおむすびを渡したところ、それが山賊の手に入って、山賊たちが食べて死んでしまった……という内容です。
発想の飛躍は毒入りのおむすびでしょうか。男―おむすび/毒―嫁の図式です。夫を殺すはずが山賊たちを退治してしまいます。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.156-159.
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