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2022年8月

2022年8月13日 (土)

葬式の使い――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに猟の好きな六兵衛という男がいた。毎日いろいろな鳥獣を獲ってくるので女房が嫌がって猟を止めるように頼んだが、六兵衛は猟が面白くて止めようとしない。いつも女房と口げんかをしていた。ある日のこと、また口げんかをして山へ鉄砲を担いでいった。そして山の中をあちこち獲物を探したが、その日に限って獲物が獲れない。山奥深く探していく内に道に迷ってしまった。六兵衛は大きな木に登って夜を明かすことにした。すると、夜中頃になってどんどん人の足音がしてきた。六兵衛を呼ぶ声がして、女房が腹痛で苦しがっている。帰るようにと告げた。六兵衛が黙っていると、そこにいるのは分かっているんだ。早く帰りなさいと告げた。それでも黙っていると、これほど言っても戻らんなら死んだって知らない。集落の者まで集まって相談しているのにと言ってぶつぶつ言いながら帰った。六兵衛は変な事を言ってきたと思っていた。すると提灯の火が見えてきた。また六兵衛に家に戻るように告げた。六兵衛が黙っていると、女房が死にそうなのに猟に憑かれた者は訳が分からないとぶつぶつ言って帰ってしまった。しばらくすると、また提灯の火が見えてきた。女房がとうとう死んだ。葬式のことがあるから早く戻るようにと告げた。それでも黙っていると、帰ってしまった。しばらくして夜が明けたら帰ろうと思っていると、今度はぞろぞろと人が棺を担いで来た。六兵衛が戻らないから死人を一人おく訳にもいかないから棺をこしらえてここまで持ってきたと告げた。六兵衛は一晩の内にこしらえて持ってくるはずはないから何かが化かそうとしているのだと思ってずっと動かずにいた。その内だんだん夜が更けてしんとしてきたら柩がバリバリと音をたてて裂けた。そして中から女房が出てきた。女房が六兵衛に呼びかけたが黙っていると木へ登りはじめた。だんだん近づいてきて手が届くかと思ったところで六兵衛は鉄砲を構え、足に手が触ったのでズドーンと撃つとドッタンと落ちた。その内に夜もしらじらと明けたので、やれやれ変なことがあったが何が化かしたのだろうかと思って下へ降りてみると、ずっと血の跡が続いているので、その跡をつけていくと自分の家へ帰っていた。おかしなことだ。本当に女房が死んだのだろうかと思って帰ってみると、女房が鉄砲で撃たれて死んでいた。これは仏さまが見せしめのためにやってくださったのだろうと思って、はじめて六兵衛も目が覚めて、それから猟をすっぱりと止めた。

◆モチーフ分析

・六兵衛という猟が好きな男がいて、殺生を諫める女房と喧嘩ばかりしていた
・ある日、山に入ったが獲物が一匹も撮れない
・その内に道に迷ってしまった
・大きな木に登り、一晩明かすことにする
・夜が更けると、足音がして女房が腹痛で苦しんでいると告げる
・六兵衛は黙ったままやりすごす
・今度は提灯の火が見え、女房が死にそうだと言い六兵衛に家に帰るように告げる
・六兵衛は黙ったままやり過ごす
・今度は女房が死んだ、葬式のことがあるから帰るようにと告げる
・六兵衛は黙ったままやり過ごす
・今度は棺を運んでくる
・六兵衛は黙ってやり過ごす
・棺から女房が出てくる
・女房、木に登ってくる。手が触れそうになる
・六兵衛、女房を鉄砲で撃つ
・六兵衛、血の跡を追うと自宅に戻る
・女房が鉄砲に撃たれて死んでいた
・六兵衛、改心する

 猟の途中で道に<迷った>六兵衛は木の上で一晩<明かす>ことにする。得体の知れない者がやってきて女房の身に不幸があったから戻るように<告知>する。六兵衛は<黙殺>する。それを何度か繰り返して、死んだはずの女房が<登場>する。六兵衛は近づいてきた女房を鉄砲で<撃つ>。血の跡を<追跡>すると、自宅で女房が撃たれて<死亡>していた。六兵衛は<改心>した。

 発想の飛躍は木の上に登った者に得体の知れない何ものかが引き返すように諭すところでしょうか。更に死んだはずの女房まで登場して物語はバッドエンドとなります。これはバッドエンドですが、実は狸が化かしていたのだというハッピーエンドのパターンもあります。私はこのバッドエンド版が何か得体の知れない感じがして好きです。

 また、六兵衛が日常→非日常→日常と巡る話でもあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.166-170.

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2022年8月12日 (金)

難題聟――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、大仙(だいせん)の麓に色粉(いろこ)(染粉)屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた。ある日西の方からきれいな娘が来た。この娘はお前の聟になる者は大仙の色粉屋の手代より他にいないと聞いていたので、手代を試しにきたのであった。娘は色粉を二両も買って出ようとしたが、手代はその金を受け取らず貰うところで貰うと言った。そして娘が去りかけると呼び返して所を訊いた。娘は「所はふさんの麓」「家の名ははるば屋」名前は「四月生え五月禿げ」と答えて行ってしまった。それから手代は考えてみたが、どうしても分からない。休みの日に山寺の和尚さんのところへ将棋をしに行って、将棋の入れ言葉に「ふさんの麓」と言って打ち込んだ。和尚は「草津の町に」と打ち返した。「はるば屋とは」「あめがた屋」「四月生え五月禿げ」「お竹さんの事よ」それで草津の町のあめがた屋の小竹という娘と分かったので手代は主人に暇を貰った。主人は草鞋(わらじ)銭に二十両くれた。手代はそれを持って西に向けて三日目の箸間(はしま)時分に茶店によって「ここは何という町か」と訊くと、婆さんが「草津の町だ」と言った。「草津の町にはあめがた屋という家があるか」と訊くと「それは白壁の物持ちの家だ」と言う。「そこにお竹さんといういい娘がいるか」と訊くと、「それは一人娘だ」と言う。手代は「その娘の男になりたいから世話をしてくれ」と頼むと、婆さんは「自分のような者では相手にしてくれない。手紙の小使いくらいならしてやる」言うので手代は思いのたけを手紙に書いて婆さんに頼むと娘から返事が来た。それには「このよでなし、今度のよでなし、その次のよに、天竺の花の咲く時分、草へ実のある時分に、背戸の裏門までこい。話し会おう」とあった。こんな難しいことを言ってくるのは逢わないつもりかも知れないと思って沈んでいると、婆さんがそれを聞いて「この意味は昨夜でなし、今夜(こんべ)でなし、明日の晩のことだが、今夜行ってもかまわないのだ」と言った。そして時刻は「星が空に出、草に露のおく時分という意味だ」と教えてくれた。そこでその晩の夕方に訪ねていくと、娘は「汝(わ)は聟にするけえ、この奥(おき)の五兵衛という者が町の当職だ。それへ行って話してみい」と教えた。そこを訪ねていくと五兵衛がお前ならあそこの若旦那になろう、自分が世話をしよう」と腰をあげた。五兵衛があめがた屋の旦那に話すと、それだけの働きのある者ならここへ連れてこいと言うので、五兵衛が手代を連れて行くと、旦那は「聟にはするが、三品の買物をしてくれ。みなこの草津の町にある物だけえ」と言って書付けを渡した。書付けには「一には西行法師、二には夜のドージマ(履き物のポックリ)、三に花嫁じょう」とあった。手代は幾ら考えてみても分からないので、呼んで歩けば売ってくれるものがあるかもしれないと思って、大きな声で呼び歩いたが売ってくれる者がいない。困っていると町中で大夫(神主)さんと和尚さんが将棋をさしていた。手代はそこへ入って仲間になり、和尚さんに「西行法師」と打ち込むと「法螺(ほら)貝のことよ」「闇夜のドージマ」「ろうそくのことよ」「花嫁じょうとは」「麦饅頭のことだ」。そこでその品を探してみると、皆あめがた屋の近所で売っているものばかりであった。これを買って帰りかけると、途中で座頭に出会って、その杖に引っかかったので座頭が転んだ。座頭は手代の持っていた法螺貝をひったくって中の身を食ってしまった。手代が「杖に当たったのはこっちが悪いが、人の物をとって食う奴があるか」と怒ると、座頭が「それはお前を聟にしたい故に食ったのだ。俺もあの家では世話になっている。これからはお前にも世話にならねばならんから言うて聞かせるが、これをこのまま持っていんだのでは旦那は取りはせん」と言って今度は麦饅頭の粉を抜いて食った。そして「これには意味がある。先ずあれへ去(い)んだ時分にはようやく戻りました。西行法師と書いてありましたが、西行法師さんのところへ行ったところが、今日は歌詠みに出て留守でありました。何ぼ待っても戻れんで、あれの家のを持って戻りましたと言え。また、花嫁じょうと書いてありましたが、それはこの奥(おき)に子を生んでおりました。子は川へ流れましたからそれで親ほどと思って持って戻りました。闇の夜のドージマは怪我なしに戻りました。こう言えば旦那はもう難しいことは言い付けまい」と教えてくれた。手代は教えられた通りに三つの品を差し出すと、旦那は感心して手代を聟にして安穏に暮らした。

◆モチーフ分析

・大仙の麓に色粉屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた
・ある日、西の方からきれいな娘が来た
・娘は時分の夫になるのは大仙の色粉屋の手代と聞いていたので手代を試しに来た
・娘、色粉を二両も買う
・手代、その金を受け取らず、貰うところで貰うと言う
・手代が訊くと娘は謎かけして去る
・手代、考えても分からないので山寺の和尚さんの所へ将棋をしに行く
・和尚、謎を解く
・草津だと分かったので手代、主人に暇をもらう
・手代、三日かかって草津に行く
・手代、茶店の婆さんに娘の夫になりたいからと世話を頼む
・手代、娘に手紙を書く
・娘、手紙で謎かけする
・婆さんが謎を解く
・娘に会いに行くと、五兵衛に会う様に言う
・五兵衛、旦那に取り次いでくれる
・旦那、買物の謎かけをする
・神主と和尚が将棋を指していたので仲間に入る
・和尚、謎を解く
・手代、買物をする
・手代、座頭とぶつかる
・座頭に文句を言うと、自分は旦那に世話になっている。これからはお前にも世話になるといって買物の謎を解く
・座頭の言う通りにして旦那に面会すると旦那は手代を聟にする

 娘が手代に会いに<来訪>する。娘、手代に<謎かけ>する。手代、謎を和尚に<解読>してもらう。手代、草津に<出立>する。草津の茶店で手代、婆さんに手紙を<言付ける>。謎かけされた手紙が<返信>される。婆さんが謎を<解読>する。手代、娘に会う。娘、ある男に取り次いでもらうよう<進言>する。男、その男に<会う>。男、旦那に<取り次ぐ>。旦那、<謎かけ>する。手代、和尚に謎を<解読>してもらう。その通りに<買物>をする。座頭と<衝突>し、座頭、買物を<奪取>する。<文句>を言うと手代のためにしているのだと<返答>する。座頭の言う通りにすると、旦那は手代を聟に<取る>

 発想の飛躍は数々の謎かけでしょうか。手代自身は謎を解かず、他人の助力を得る形となります。大仙は草津の東にあるので、元々は島根の昔話ではないのでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.160-165.

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2022年8月11日 (木)

出版開始から一年経過

気がつくと、電子書籍を出版開始してから一年が経過していた。この一年で稼いだ額は5000円に満たない。他の人のひと月分にも満たない結果である。

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2022年8月10日 (水)

怪我の功名――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、大ほら吹きの男がいた。どこへ行って何を殺したと剣術が上手だとかほらを吹いていた。そこへ余所の村からそんなに強いならうちの村で化物が出て困っているが来て退治してくれないかと頼みに来た。どうも行かれないとは言えない。それで応じてその村へ出かけた。これは大変なことになった。どんな物が出るだろうと思って来てみると、大きな蜘蛛(くも)の巣の張った空き家で長押(なげし)に五人張り二十五束という弓が掛けてあった。これはいいものがあると思って弓を取ってみた。さて、夜遅く静かになってから向こうの山がごうっといってしばらくすると破風でダダダッと大きな音がした。すると天井の間から一ツ目の大きな化物がニューっと覗いた。それで恐ろしくなってその方へ向けて五人張りの弓をパーンと投げた。すると化物はギャーッといって逃げてしまった。そうこうする内に鶏(にわとり)が鳴いて夜が明けた。夕べの男はどうなったかと村の者たちが連れ立って見に来た。男は元気で座っているので、どうしたかと言うと、確かに化物が出た。ここにあった弓で自分が退治した。確かに手応えがあったから見よ、血を落として逃げていると答えた。村の者が見るとずうっと血が落ちているので、跡をつけて行くと山の奥の洞穴に大きな古狸が死んでいた。それで化物を退治してくれたというので村では手のたつ名人ということになった。とうとう村一番の身上のよい家の聟(むこ)に貰われた。その家の娘はとてもきれいな娘だった。ところが大ほらふきの男は手がたつとは言っても大変みっともない男だった。それで娘はこんな聟では恥ずかしいからどうにかして帰ってもらいたいと思ったが、どうしても帰らない。そこである日、遠くの村からうちの村で山賊がたくさん出て悪いことをして困っている、ここには大変手の立つ人がいたので来て退治してくれないかと頼みに来た。男は快く引き受けた。これはいい。山賊を退治しに行けば弁当を持っていくからその時に毒むすびをこしらえて持たせればいいと思って女房はむすびの中へ毒を入れて風呂敷に包んで持たせた。さて、山賊がいるという山へ行ってみると、山賊たちは大きな松の木の根元へ鍋やら釜やら置いてそこで寝起きしていた。ちょうど山賊たちは出かけていない。戻ったら恐ろしいので松の木のずっと上の方へ登って隠れていた。そんなことを知らない山賊は夕方になると分捕ったものをたくさん持って帰って飲み食いした。ところが松の木の下で火を焚いて酒を沸かすので煙たくてどうしようも無い。それで風上へあっち行きこっち行きして廻っていたところ、腰へつけていたおむすびがいつの間にか落ちてしまった。山賊は大騒ぎをして飲んだり歌ったりしていたが、その内に静かになった。山賊は寝た塩梅だから、むすびでも一つ出て食おうと思って男は腰を探したがむすびは一つも無い。ははあ、ああだこうだする内に落ちたのだろうと思って降りてみると山賊たちは皆酒に酔ったのか死んだのか分からないようになって寝ている。男はそれを片っ端から首を切って、山賊は皆退治したと言って戻った。山賊は男の弁当を拾って食べたので毒にあたって死んだのだ。これは本当に手のたつ偉い人だと思って、それからは女房も男を大切にして仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・ほら吹きの男がいて自分は強いと吹聴していた
・そんなに強いのならある村の化物を退治しろと言われる
・行かないとは言えないので、その村へ出かけた
・空き家に入る。五人張りの弓を手にする
・夜、一ツ目の化物が出るが弓で射る
・村の者たちが様子を見にきた
・血の跡を辿ると古狸が死んでいた
・手の立つ名人と見なされ、村一番の家に婿入りする
・嫁、男がみっともないと嫌う
・遠くの村で山賊が出るという話が出、男が行くことになった
・嫁、毒入りのおむすびを作って男に持たせる
・男、松の木の上で山賊の様子を窺う
・山賊たちが戻ってきて宴会をはじめる
・男、煙たいのであっちこっちへと逃げ回る
・その隙に腰の弁当を落としてしまう
・静かになったので降りてみると、山賊たちは死んだ様になっていた
・男、山賊たちの首を切り凱旋する
・山賊たちは毒入りのおむすびを食べて死んだのだった
・嫁、男を見直した

 ほら吹きの男、ある村の化物の退治を<依頼>される。<受諾>した男、村へ行き空き家に<入る>。五人張りの弓を<入手>する。一ツ目の化物を弓で<射る>。血の跡を<追跡>したところ、古狸が死んでいたのを<発見>する。それで村一番の家に<婿入り>する。嫁、男を<疎んじる>。遠くの村で山賊が出たので<退治>しに行くことになる。嫁、男に毒入りのおむすびを<渡す>。男、松の木の上で<監視>する。山賊たちが帰ってきて<宴会>する。煙いのであちこち動き回っていたところ、弁当を<落とす>。山賊たち静かになる。降りた男、山賊たちの首を<斬って><凱旋>する。嫁、男を<見直す>。
 発想の飛躍は毒入りのおむすびでしょうか。夫を殺すはずが山賊たちを退治してしまいます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.156-159.

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2022年8月 8日 (月)

えんこうの一文銭――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに川の東の岸と西の岸に一軒ずつ家があって、それぞれ爺さんと婆さんが住んでいた。東岸の爺さんは正直者で一匹の猫を飼っていたが貧乏なので十分食べさせることができなかった。ところがある日、竜宮さまがえんこうの一文銭をやるから天井の裏へ下げて祀れとお告げになった。朝起きてみると果たして爺さんの枕元にえんこうの一文銭がおいてあった。その一文銭を天井の裏に吊すと、これまで貧乏だった爺さんの家は日増しに身上が良くなった。反対に西岸の欲張り爺さんの家は次第に身上が悪くなっていった。女はとかく口さがなく東岸の爺さんがえんこうの一文銭を授かってから日ごと身上が良くなったということを西岸の婆さんに話したので、これを聞いた爺さんは早速東岸の家へ行ってえんこうの一文銭を貸してくれないかと頼んだ。正直者の爺さんは長い間は貸せられないが一時なら貸してあげようと言って貸した。西岸の爺さんはその一文銭を持って帰って天井裏に吊しておくとその日から身上が次第に盛り返してきた。東岸の家は一文銭を貸した日からまた昔のように目に見えて貧乏になっていった。そこで西岸の爺さんに貸した一文銭を返してくれと催促にいったが、何とか理由をつけてどうしても返さないので、爺さんは困って戻ってきた。婆さんは考えあぐねた末に家の飼い猫に一文銭をとって来るようにいいつけた。猫は川が渡れないので困っていると、一匹の犬が来た。犬に訳を話して川を背負って渡してくだされと頼んだので、猫は犬に負われて川を渡ることができた。猫が西岸の家に行ってみると、鼠がいたので猫はすかさずこの鼠を捕って、お前の命を助けてやるから天井裏にある一文銭を取ってこいと頼んだ。鼠は天井裏に上がって一文銭を落として持ってきた。猫はそれを貰って、また犬に川を渡してもらうように頼んだ。犬の背に負われて川の中程まで来たとき、犬がくわえた物を落とすなよと言ったので猫はハイと返事した。その調子で一文銭が水の中へ落ちた。猫は泣かんばかりになって思案した。そうしたら空から一羽の鳶(とび)が下りて来たので猫は鳶を狙って咥えた。そして命を助けてやるからこの川に落ちた一文銭を探してこいと頼んだ。鳶は川の底にあるものは見えないので、川の上を泳いでいた鵜(う)を咥えて、お前は水の底にいる鮎(あゆ)でも捕るのだから水の底に落ちた一文銭を拾ってくれと頼んだ。そこで鵜は川の端を上下したがちっとも見えないので大きな鮎を咥えてお前の命をとるのではない。この川に落ちているえんこうの一文銭を取ってくれ。お前は水の底を歩いて蟹(かに)とえびでさえ餌にするくらい水の底のことは達者だからと頼んだ。鮎は水の底を泳いでいくと果たしてえんこうの一文銭があった。それを拾い上げて鵜に渡した。鵜はそれを鳶に渡して鳶はそれを猫に渡した。猫はとうとう水の底から一文銭を拾い上げることができたので、喜んで歌にうたった。「猫に鼠に空たつ鳶に 川で鵜の鳥、鮎の魚」。犬は川を渡してくれたが大切な一文銭を水の中に落とすようなことをさせたので、この歌の仲間に入れていないそうだ。猫はえんこうの一文銭を持って帰って爺さんに渡したので東岸の家はまた次第に身上がよくなった。

◆モチーフ分析

・川の東岸と西岸に爺さんと婆さんがそれぞれ住んでいた。
・東岸の爺さんは正直者だったが、飼い猫にろくに食わせられないほど貧乏だった
・竜宮からえんこうの一文銭を授かり、天井裏に下げて祀る
・すると身上が段々と上向いてきた
・東岸の婆さんが口さがなく西岸の婆さんに話す
・西岸の爺さんが東岸の爺さんに一文銭を貸して欲しいと頼む
・東岸の爺さんは、少しの間だけならと貸す
・すると西岸の爺さんの身上が上向き、東岸の爺さんの身上が下向く
・東岸の爺さん、一文銭を返す様催促するが、何かと理由をつけて返さない
・東岸の婆さんが飼い猫に一文銭を取り戻すように言い付ける
・猫、川を渡れないので困っていると犬がやって来る
・猫、犬の背に負われて川を渡る
・猫、西岸の家の鼠を捕まえ、一文銭を持ってくるように言い付ける
・鼠、一文銭を天井から取って猫に渡す
・一文銭を受け取った猫、再び川を渡ろうとする
・犬が声をかけたので応答してしまい、一文銭を川底に落としてしまう
・猫、鳶を捕まえて川底の一文銭を取ってくるように言い付ける
・鳶、川底が見えないので鵜を捕まえて一文銭を取るように言い付ける
・鵜、川底をさらえないので鮎を捕まえて一文銭を取るように言い付ける
・鮎、川底の一文銭を取って鵜に渡す
・鵜は鳶に一文銭を渡す
・鳶が猫に一文銭を渡す
・喜んだ猫は歌を詠む。ただし犬は除く
・一文銭を取り戻した東岸の家はまた身上がよくなった

 東岸の爺さん、えんこうの一文銭を<授かる>。次第に身上が<上向く>。婆さんがおしゃべりで西岸の婆さんに<露呈>してしまう。西岸の爺さんが一文銭の<貸与>を<申し入れる>。東岸の爺さん、<承諾>して<貸与>する。西岸の爺さん、一文銭を<返却>しない。東岸の婆さん、飼い猫に一文銭を取り戻すように<命令>する。猫、犬に負われて<渡河>する。猫、鼠を<捕獲>して一文銭を<奪取>する。再び<渡河>する。犬の言葉に<応答>してしまったために一文銭を川底に<落下>させる。猫、鳶を捕まえて一文銭を<回収>しようとする。鳶、できないので鵜を捕まえて<命令>する。鵜、できないので鮎を捕まえて<命令>する。鮎。一文銭を<回収>する。鮎、一文銭を鵜へ<渡す>。鵜、鳶へ<渡す>。鳶、猫へ一文銭を<渡す>。喜んだ猫は歌を<詠む>。犬は<除く>。一文銭を<回収>した東岸の爺さん、身上が<上向く>

 発想の飛躍はえんこう(河童)の一文銭を回収する動物たちのリレーでしょうか。えんこうの一文銭は豊かさをもたらす魔法のアイテムです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.152-155.

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2022年8月 7日 (日)

メタフィクションが好きな批評家

このところ批評家・東浩紀の評論集を読んでいる。僕は作家買いする傾向があるので気に入ったというところだろう。彼の主著である「存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて」はまだ読んでいない。電子書籍化されていないのが主な理由だが、フランス現代思想についての博士論文なので難解だろうという苦手意識もある。

東氏はサブカルチャーの評論家でもあったのだけど、メタフィクション的な構成の作品を好む傾向にある。なので、その観点からいうと見落とされた作品も多々ある。

現在は社会思想に軸足を移したようだ。これは東日本大震災の影響が大きいだろう。東日本大震災の影響でゼロ年代的な思考形態が修正を余儀なくされたからだ。ただ、具体的な内容は知らないが、何らかのトラブルで現在はTwitterのアカウントを削除してしまったようだ。

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西行法師――モチーフ分析

◆あらすじ

 西行法師が鼓が原へ行った。タンポポの花がきれいに咲いているので「人に聞く鼓が原に来て見れば 磯辺に咲けるタンポポの花」と詠んだ。我ながら良く詠めたと感心する。広い原で家が無い。どこか泊まるところはないかと探していると小さな家が見つかった。入って見ると髪の白い老人夫婦がいたので一夜の宿を求めた。許されたので上がると何しに来たのか問われた。花を見に来たと答える。西行と名乗ると歌詠みの先生だなと言われる。ひとつ歌を詠んで欲しいと言われたので、我ながらよく詠めたと思う歌だといって詠んだ。それを聞いた老人はどうにもいけないところがある、自分がこの歌を直そうとと答える。鼓というものは音のするものである。それでは音に聞くと言わなければ鼓が原に来た甲斐がない。磯辺に咲ける、鼓は皮を張ったものである。だから川辺に咲けるとやってみよ。「音に聞く鼓が原に来て見れば 川辺に咲けるタンポポの花」と直すように言った。西行は感心して、そのうちうとうとと寝てしまった。目が覚めてみるともう夜明けで、そこには家もなくただの野原であった。そしてほとりに短冊が落ちていた。そこには「柿本人麿」と書いてあった。

◆モチーフ分析

・西行法師、鼓が原へ行く
・西行法師、歌を詠んで自賛する
・西行法師、宿を借りる
・西行法師、老人に歌を詠んで聴かせる
・老人、歌に手入れを施す
・納得した西行法師、そのまま寝てしまう
・目が覚めるとそこは野原で「柿本人麿」と書かれた短冊が落ちていた。

 鼓が原へやって来た西行法師、歌を<詠んで><自賛>する。宿を<借りた>西行法師、宿の主に歌を<詠んで><聞かせる>。すると老人は歌を<修正>する。<納得>した西行法師、<寝て>しまう。目が覚めると家は<消滅>し「柿本人麿」と書かれた短冊が<残存>していた。

 西行法師に歌の指導を行うのが柿本人麻呂だったというところが発想の飛躍でしょうか。西行法師が石見国を訪れたのかは分かりませんが、柿本人麻呂は石見で生涯を終えた歌聖であり、石見にふさわしい昔話と言えるでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.149-151.

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神楽があったが外出せず

松見町の八幡神社で神楽が催されるが、オミクロン株の感染がピークなので行くのを見合わせた。神楽はオープンエアなので大丈夫だとは思うのだが、これだけ蔓延しているとどこで感染するか分からない状況なので。

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Scrapboxを使ってみる

キンドル・アンリミテッドでObsidianとScarpboxのマニュアル本を読む。Obsidianは難解で使いこなせそうにない。Scarpboxは使えそうだが、基本的にはチームで作業するもののようだ。もちろん個人でも使える。仕組み的にはマークダウン記法が簡略化されたWikiである。Scarpboxは[]でキーワードをくくると、そのキーワードが見出しとなったページが作られリンクが貼られる。たとえば[昔話]と入力すると「昔話」というタイトルのページができる。この調子で次々とページを作っていく。するとリンクを通じてネットワークが生成されるといった具合だ。リゾーム状になると言えばよいか。TABキーを押せば箇条書きもできる。

試しに今取り組んでいる昔話のモチーフ分析について付けたメモをScarpboxに移してみた。これはこれでいいのではないかと思う。ただ、発想の飛躍を起こすまでには至らない。

シンプルな操作性で奥深さが実現できる点で優れたツールと言えるだろう。ライフハック系の電子書籍を何冊か読んでみたが、自分が使っているタブレット端末(Kindle Fire HD8)では使えないアプリも多く、実感が湧かなかった。

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2022年8月 6日 (土)

天の釣舟――モチーフ分析

◆あらすじ

 馬鹿な息子がいた。兄だったが跡取りにできそうもないので百両渡されてお前はこれで利口を買ってこいと追い出された。息子は大金を貰ったのでうれしくてたまらない。毎日利口を買わせてくださいといって歩いた。ある日ばくち打ちのいるところに通りかかった。ひとつ騙して取ってやろうとなって、ばくち打ちは短冊に「天の釣舟」と書いて渡し、息子から百両貰った。息子はこれが利口だと喜んであっちこっち歩いていると日が暮れてしまった。見るとそこに大きな家があった。宿を貸してもらうと思って縁側に寝ることになった。息子は縁側に寝てみたが、どうも眠れないないので障子の穴から覗いてみると、きれいなお姫様が机に向かって一生懸命何か書いていた。夜遅くまで何をしているのかと思ったのでなおも覗いていたが、その内に眠ってしまって、障子に頭をぶつけてしまった。お姫様は「とんとん鳴る沖のとなかの音は」と歌を詠んだ。息子は今日買った短冊のことを思い出して「天の釣舟」と答えた。お姫様は感心して、誰だろうとなった。両親が起こされてそのうち家に使われている人も皆起きた。探してみると、宿を借りている小丁稚であることが分かった。お姫様はこれはただのお方ではない。この家の若旦那として差し支えない。早く祝言をしてくださいと言った。お姫様は歌の師匠でたくさんの弟子がいたが、呆れたのは一の弟子、二の弟子で、何だ夕べの夜這いがと忌々しがったが仕方がない。すぐに祝言があげられた。

 ある日一の弟子が若旦那の前に進み出て一つ歌の題を出してくださいと言った。若旦那は小便に行くと待たせて思案した。考えていると便所の前に白い藁(わら)もく(藁くず)がふわりふわりとしていた、早速帰って「白いもくあり黒いもくあり」と題を出した。さすがの一の弟子もさっぱり分からない。お姫様はお前は一の弟子でありながら分からぬか「雀が門に巣をかけて 白いもくあり黒いもくあり」と答えた。今度は二の弟子が自分にも題を出してくれと言った。若旦那は今度も題が分からないのでしばらく考えていたが、さっき便所に行ったとき、上履きが上の段に片つら下の段に片つらあったことを思い出して、「上の片かた下に片かた」と出した。二の弟子もさっぱろ分からないので困っていると、お姫様は「月も日も水鏡でみるならば 上の片かた下に片かた」と答えた。今度は三番目の弟子が申し出た。若旦那はいよいよ題がないので小便に行った。すると小便がぼたりぽたりと落ちたので「頭ぶるぶる雫(しずく)ぽたぽた」と題を出した。三番目の弟子もさっぱり分からない。お姫様は「鷺(さぎ)が水田にこりをして 頭ぶるぶる雫ぽたぽた」と詠んだ。一の弟子も二の弟子も三の弟子もみな失敗したので、それからは若旦那とあがめるようになった。

◆モチーフ分析。

・馬鹿な息子がいた
・跡取りにできないので百両渡されて追い出された
・息子、百両で利口を買おうと歩き回る
・ばくち打ちと遭遇、短冊を百両で買う
・息子、大きな家で宿を借りる
・縁側から障子の穴を覗くとお姫様が歌を詠んでいた
・末の句に「天の釣舟」と答える
・お姫様、驚き、下の句を詠んだのは誰かと探す
・息子のことだと分かり、祝言をあげる
・面白くない一番弟子、二番弟子が歌の題を要求する
・便所で思案中に題を思いつく
・一番弟子、答えられない
・二番弟子、答えられない
・三番目の弟子が申し出る
・再び便所に行き、題を着想する
・三番弟子、答えられない
・お姫様それぞれに回答する
・それで若旦那と認められる

 馬鹿な息子、百両を渡されて<追放>される。息子、<騙されて>短冊を百両で<買う>。息子、大きな屋敷で宿を<借りる>。息子、姫の歌の下の句を<詠む>。それがきっかけで姫と<結婚>する。面白くない弟子たちが息子に歌の題を<要求>する。息子、便所で<着想>し、答える。弟子たち、<解答>できない。姫が解答する。息子、若旦那と<認知>される。

 発想の飛躍は馬鹿な若旦那と頭のよい姫のカップルでしょうか。若旦那が危機に直面したら、姫の知恵で切り抜けるのかもしれません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.144-148.

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2022年8月 5日 (金)

今年も開催――ブックショートアワード

https://bookshorts.jp/entry2022
第9回ブックショートアワード(日本博・日本各地のストーリー公募プロジェクト) 応募要項:

テーマ:「日本各地に伝わる昔話やおとぎ話、民話、小説などの<二次創作>」
文字数:5,000文字以内
締切:12月31日(土)

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2022年8月 4日 (木)

竜宮女房――モチーフ分析

◆あらすじ

 孝行息子と母親が二人で暮らしていた。毎日薪(たきぎ)をとって町に売りに行って、それで母親を養っていた。大晦日の日、息子は薪を町に売りに行ったが、誰も買う者はいなかった。日も暮れたので、この薪は竜宮にあげようと橋の上から川へ投げた。それから家へ帰ったところ、美しい女の人が来て今夜泊めてくれと頼んだ。何も食べるものがないと断ったが、きかないのでとうとう泊めてやって嫁にした。女は金を出したので三人でよい年をとった。それから何日か経って男は畑に行ったが、嫁が見たくてたまらないので、家へ帰って話すと、嫁は自分の姿を絵に描いてやった。男はその絵姿を木にかけて、それを見ながら畑仕事をしていた。その内に酷い風が吹いてきて、その絵をどこかへ持っていってしまった。男は悲しんで嫁にそのことを話した。その内に殿様から何月何日出てこいと殿様から手紙が来た。何か悪いことをしたのかと心配して出ていくと、こんな女房を持っているかと問われた。それを見ると、嫁の絵姿だったので持っていると答えると、女房を連れてこいと言われた。連れてこられないと断ると、それなら殿様の言うことを叶えよと難題を言われた。「けむくぞうに、これわいさに、打たん太鼓に鳴る太鼓、音なし笛のじんばらほ」を持ってこいと。心配して嫁に話すと、それはたやすいこと。私が整えてあげると言われた。明くる日、嫁はそれぞれ桐の箱に入れてこれを持っていけ。自分はこれまで隠していたが竜宮の乙姫だ。今日から別れると言った。男は悲しんだ。仕方ないので仰せの通りの物を殿様のところへ持っていった。殿様が箱を開けると毛虫やら二丈ある男やら蜂が出てきて殿様を苦しめた。殿様は痛くてたまらないので早くしまえと仰せになり、よくその品物を持ってきたと褒美をくださったので、一生安楽に暮らした。

◆モチーフ分析

・孝行息子が母と二人で暮らしていた
・大晦日に薪を売りに町にいったが買い手がつかない
・薪を竜宮にあげようと橋の上から川に落とす
・美しい女人がやってきて泊めて欲しいと頼む
・断り切れず泊めてやる
・女人、そのまま嫁になる
・女人の金でよい年始をおくる
・男、畑仕事に出るが、女房のことが気にかかる
・男、嫁に相談して絵姿を描いてもらう
・絵姿を畑に持っていったところ、風で飛ばされてしまう
・殿様から呼び出しがかかる
・参上したところ、絵姿は男の嫁か訊かれる
・そうだと答えたところ、では連れてこいと命じられる
・断ると無理難題を申しつけられる
・帰って嫁に相談する
・嫁、正体を明かす。竜宮の乙姫
・嫁が課題の品を箱に入れて渡す
・嫁と別れて殿様のところにいく
・殿様が箱を開けたところ散々な目に遭う
・男、それで許されて褒美をもらう

 薪が<売れ>ない。薪を川に落として竜宮に<献上>する。家に帰ると女人が<来訪>してくる。女人、<嫁入り>する。男、嫁に絵姿を<描いて>もらう。絵姿が風で<飛ばされる>。絵姿が殿様の手に<渡る>。<呼び出>された男、嫁を<参上>させるよう<要求>される。男、<断る>が難題を<課せ>られる。嫁に相談したところ、嫁が解決策を<提示>する。嫁、正体を<明かす>。嫁と<別れ>、殿様の許に行く。課題の品で殿様、散々な目に<遭う>。男は<許され>褒美を<獲得>する。

 薪を竜宮に献上する形でお話は進行しますが、途中から話が絵姿女房に変わります。発想の飛躍は難題に対する回答でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.140-143.

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誤読する可能性あり――大塚英志「ストーリーメーカー 創作のための物語論」

大塚英志「ストーリーメーカー 創作のための物語論」を読む。初読時は講談社現代新書だったと記憶しているが、現在は星海社e-SHINSHOとして発行されている。読み返して思い起こしたのは初読時に誤読していたことである。ロシアのプロップの昔話の形態論が紹介された際、昔話には普遍的な法則があるのかと感心してしまったのである。実際には「ロシア」の「魔法民話」と限定されていたのであるが。また、キャンベルの英雄論についても似たような誤読をしてしまった。実際には「パッチワーク」であると記されているのだが。キャンベルの神話学には強い批判があるとのことなので、そこら辺には触れておくべきだったと思う。この本にはこのように誤読を誘う箇所があるので留意が必要である。

本書ではスターウォーズが事例として挙げられているが、執筆時期から察するに4・5・6のみが分析対象となっていると思われる。

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2022年8月 3日 (水)

榎の実ならいで金がなる――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、二人の兄弟がいた。弟は横着者で、兄の財産を皆もって分家した。兄は年取った母を養わねばならないのに、財産は皆弟に取られて貧乏していたので、除夜がきても餅もつけない有様だった。弟は餅をたくさん搗いたが兄へはひとつもやらない。兄はせめて母だけでも餅を食べさせたいと思って弟のところへ餅をもらいに行った。弟の家ではたくさん餅を並べていたが、兄に一つでも食えとは言わない。自分で搗いて食べさせたらいいだろうと言ってくれようとしなかった。兄はすごすごと戻ってきたが、つくづく情けなくなって自分は年の暮れになっても餅さえよく搗かぬと言って杵を海に捨ててしまった。すると竜宮から使いが来て兄を竜宮へ連れていった。竜宮では唐金の馬を一匹くれた。そしてこの馬に一日を米を五合ずつ食べさせよ。五合しか食べさせてはいけないと言った。兄は喜んで馬を連れて帰ると、米を五合食べさせた。すると馬は金を一升ひった。そして毎日五合ずつ食べさせたので、まもなく沢山の金が貯まった。それを聞いて弟がやって来て、いい馬を貰ったそうだが兄弟の間柄だ、少し貸してくれないかと言った。兄は自分が貧乏して暮れに餅のよく搗かないので、せめて母に食べさせたいと思って弟のところに貰いにいったが、一つもくれなかったと言って馬を貸さなかった。すると母がそれでは二日だけ貸してやらぬかと言ったので、とうとう馬を貸してやった。そして決して一日に米を五合しか食わせてはいけないぞと言った。弟は馬を連れて帰ると、欲張りだから一日に一升の米を食べさせた。すると馬はぽっくり死んでしまった。弟は馬を背戸の柿の木の根元へ埋めた。兄は弟がいつまで待っても馬を返さないので、馬を戻すように弟のところへやって来た。弟は馬は死んだから柿の木の根元へ埋めたと言った。兄はお前が米を余計に食わせたからだと言って、大層力を落として柿の木の根元に埋めてある馬を掘りあてて持って帰り、自分の家の背戸の畑へ埋めて、墓印に榎(えのき)を一本植えておいた。ところが榎には葉が出ないで黄金がいっぱいついて出た。それで「これのお背戸の三つ又榎 榎の実ならいで金がなる」というのだそうだ。

◆モチーフ分析

・二人の兄弟がいた
・弟は兄の財産を皆もって分家した
・兄は母を養わなければならないのに、貧乏だった
・兄、弟に餅を分けてもらうよう頼む
・弟、一つも分けてやらない
・兄、情けなくなって杵を海に捨てる
・竜宮から使いが来る
・竜宮で唐金の馬をもらう
・一日に五合の米を食べさせるように教えられる
・言われた通りにすると、馬は一升の黄金をひる
・兄、次第に裕福になる
・弟が知って馬を借りようとする
・兄は餅のこともあって貸そうとしない
・母が二日だけ貸してやれと言う
・それで兄は馬を弟に貸す
・弟、馬に一升の米を食わせて死なせてしまう
・弟、馬を柿の木の根元に埋める
・兄、弟に馬を返すように言う
・弟、死んだので埋めたと答える
・兄、死体を掘って自分の家の畑に植え、榎を植える
・榎には葉が成らないで黄金が出た

 兄、弟に餅の<分配>を<依頼>する。弟、<断る>。兄、杵を海に<投棄>する。竜宮から使いが<来訪>する。竜宮を<訪問>する。唐金の馬を<贈与>される。馬、五合の米を<食う>と一升の黄金を<排出>する。弟が貸して欲しいと<依頼>する。兄、<断る>。母が二日だけ貸せと<言う>。兄、弟に馬を<貸す>。弟、馬に一升の米を<食わせ>て<死なせて>しまう。弟、死骸を柿の木の根元に<埋める>。兄、それを<掘り出す>。兄、自分の畑に<埋葬>し、榎を<植える>。榎から黄金が成る。

 竜宮を訪問する点では異郷訪問譚であります。また兄弟譚でもあります。発想の飛躍は米を五合食べて一升の黄金をひる唐金の馬でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.137-139.

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批評の意義――東浩紀「テーマパーク化する地球」

東浩紀「テーマパーク化する地球」を読む。10年代の批評・インタビューを中心にまとめられている。ゼロ年代の批評は東日本大震災で変化を余儀なくされる。

批評が大学化したのがカルチュラル・スタディーズであるという指摘はなるほどと思った。ただ、カルチュラル・スタディーズは特定の思想に傾き過ぎているのではないかと思う。一面的な見方に陥っている。

自分がやらなくても、いずれ誰かがやるという醒めた見方だけど、一面では正しいかもしれない。ただ、例えば東氏なら、郵便、誤配、動物化、一般意志2.0、観光客の哲学という組み合わせで生み出せるのは東氏以外にいないのである。

それにしても、やはり東氏はメタフィクションが好みなのだと再認識させられた。

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2022年8月 2日 (火)

屁ひり爺――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに爺さんがいた。ある日お殿様の山で木を伐っていたら、お殿様の行列が通った。お殿様が人の山で木を伐るのはどいつだと言った。爺さんは日本一の屁ひりじいと言った。それなら屁を一つひってみよとなり、ここには尻にとげがたってひられない、板の間は冷たくてひられない、畳はつるつるしてひられないとなり、毛氈(もうせん)ならひられるとなった。毛氈の上で錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原はスッポロポンのポンと大きな屁を見事にひった。お殿様は大層喜ばれて、まさしく日本一の屁こき爺だ。褒美をとらせると言った。爺さんは褒美をもらった。それを聞いた隣の欲張り爺さんが自分も褒美を貰わねばと、お殿様の山で木を伐っていた。お殿様の行列が通って人の山で木を伐るのはどいつだと言った。欲張り爺さんは日本一の屁ひり爺と言った。それでは屁をひとつひってみせよとなった。ここには尻にとげがたってひられない、板の間は冷たくてひられない、畳はつるつるしてひられないとなり、毛氈ならひられるとなった。毛氈の上で錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原とやったが屁が出ない。そこで爺さんは錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原はスッポロポンのポンとやったが、出たのは屁ではなく大きな黄色なのがポン。お殿様は怒って、よくも嘘をついたなと一刀のもとに尻を切ってしまった。だから欲張りをして人まねをしてはいけない。

◆モチーフ分析

・爺さんがお殿様の山で木を伐っている
・そこにお殿様の行列が通りかかり、とがめられる
・爺さんは自分を日本一の屁ひり爺と言う
・それなら屁をひってみよとなる
・爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
・毛氈の上で大きな屁をひる
・お殿様、大層喜んで、褒美を賜る
・それを隣の欲張り爺さんが聞く
・隣の爺さん、お殿様の山で木を伐る
・お殿様の行列が通りかかり、とがめられる
・隣の爺さん、自分が日本一の屁ひり爺と名乗る
・それなら屁をひってみよとなる
・隣の爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
・毛氈の上だが屁が出ない
・もう一度ひると大便が出てしまう
・お殿様、怒って隣の爺さんの尻を切ってしまう

 爺さんが殿様の山で木を<伐採>する。そこへ通りかかった殿様が<とがめる>。爺さん、日本一の屁ひり爺と<名乗る>。爺さん、あれこれ理由をつけて屁を<ひらない>。毛氈の上で見事に屁を<ひる>。殿様、喜んで褒美を<賜る>。それを聞いた隣の爺さん、山で木を<伐採>する。そこへ殿様が通りかかって<とがめる>。隣の爺さん、日本一の屁ひり爺と<名乗る>。隣の爺さん、あれこれ理由をつけて屁を<ひらない>。毛氈の上で大便を<ひって>しまう。怒った殿様、隣の爺さんの尻を<斬る>。

 発想の飛躍は中々屁をひらずにここぞというところで屁をひることでしょうか。これも隣の爺譚です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.134-136.

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2022年8月 1日 (月)

桃太郎――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、爺さんと婆さんがいた、爺さんは山へ木を伐りに、婆さんは川へ洗濯に行った。婆さんが川で洗濯していると上流から大きな桃が流れてきた。あまりに大きな桃なので爺さんと一緒に食べようと思って持って帰った。婆さんが包丁で桃を切ろうとすると桃がひとりでに割れ、中から大きな男の子が生まれた。たらいに湯を入れて洗ってやると、力の強い子でたらいを高くさしあげた。桃から生まれた桃太郎と名づけられた。桃太郎は成長して力の強い息子となった。ある日桃太郎はこれから鬼ヶ島へ征伐に行くから、きび団子を作ってくれと言った。婆さんはきび団子をこしらえて爺さんは鎧(よろい)や兜(かぶと)をこしらえて持たせ、刀も持たせ大きな幟(はた)をこしらえてやった。桃太郎は爺さん婆さんと別れて弁当を食べていると犬が来てどこに行くか訊いた。鬼ヶ島へ行くと答えて、きび団子を与えると犬はお供となった。次に猿がやって来た。猿もきび団子を与えてお供にした。今度は雉子(きじ)がやって来た。雉子もきび団子を与えてお供にした。それから丸木舟に乗って鬼ヶ島へ渡った。鬼ヶ島に行ってみると鬼が門番をしていた。雉子が鬼の目や鼻をつついて門番は中に逃げた。猿が門をよじ登って中から門を開けた。桃太郎が中へ攻め込んだ。犬はワンワン吠えて噛みつく。桃太郎は一番大きな鬼に刀を抜いて斬りかかった。鬼は金棒を振り回して桃太郎と戦ったがとうとう負けて降参した。助命する代わりに鬼たちが取った宝物を出させた。これを船に積み込んで戻った。爺さん婆さんは大喜びで、鬼からとった宝物や金を村の人に分けた。

◆モチーフ分析

・爺さんは山へ木を伐りに、婆さんは川へ洗濯へ行った
・婆さんが洗濯していると、上流から大きな桃が流れてきた
・婆さん、桃を家へ持って帰る
・婆さんが包丁で切ろうとすると、桃が割れ、中から男の子が生まれた
・男の子、たらいを差し上げて力の強いことを示す
・桃太郎と名づける
・桃太郎、成長して力の強い息子となった
・桃太郎、鬼ヶ島に征伐に行くから、きび団子をこしらえてくれと頼む
・爺さんと婆さん、きび団子や武具をこしらえる
・桃太郎、出発する
・桃太郎、きび団子で犬をお供にする
・桃太郎、きび団子で猿をお供にする
・桃太郎、きび団子で雉子をお供にする
・丸木舟に乗って鬼ヶ島へ渡る
・門番を雉子がつつく
・猿が門をよじ登って中から開ける
・桃太郎、中に攻め込む
・犬は鬼に噛みつく
・桃太郎、一番大きな鬼と戦う
・桃太郎、勝利。鬼たち降参する
・助命する代わりに宝物を持って帰る
・桃太郎、村に帰る
・爺さんと婆さん、宝物を分配する

 桃太郎、桃から<誕生>する。力の強い息子に<成長>する。鬼ヶ島を<征伐>に行くときび団子と武装を<依頼>する。きび団子で犬、猿、雉子を家臣に<採用>する。鬼ヶ島に<攻め込む>。鬼を<退治>する。宝物を持って<凱旋>する。

 発想の飛躍は桃から生まれた桃太郎というところでしょうか。それ以前のパターンだと桃を食べて若返った爺さんと婆さんの間に桃太郎が生まれるという筋となっているそうです。きび団子で犬、猿、雉子を家来にするのも発想の飛躍と言えるでしょうか。

◆参考文献・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.129-133.

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脳には糖分が必要――外山滋比古「思考の整理学」

外山滋比古「思考の整理学」を読む。発想にはアイデアを寝かせる、熟成させる時間が必要だと述べられている。また、寝て起きた後の朝の思考が自動的に整理され効果的であるとある。また、思いついたことを積極的にメモに取り、更にそれを選んでノートに移していくことが述べられている。これはコンピューターが発達した今日ではクラウドに保存する方向性になっている。いずれももっともだと思うが、朝食抜きで考えるのはいかがなものか。脳が働くには糖分が必要である。

本書が出版された時期はパソコンが登場して事務の電算化がはじまった時代である。現代の我々はいずれAIに仕事を奪われると言われており、その点でも創造的な発想力が求められるのである。

……このところ発想法に関する本をチェックしている。現在、昔話のモチーフ分析に取り組んでおり、発想の飛躍を渇望しているのである。でも、何年か寝かさないと駄目かもしれないし、それでも何もないかもしれない。

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