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2022年7月 6日 (水)

猟師徳蔵――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、徳蔵という猟師がいた。毎日山へ入って生計を立てていた。ある日山から帰りがけに友達に会った。友達は変わった話として、どこぞの女房が他所の男と親しくなって自分の夫を殺すらしいという話をした。特に疑問に思わなかった徳蔵は女房に鏡を買って帰った。家へ戻ると女房が間男と徳蔵を殺す算段をしていた。その場に踏み込んだ徳蔵は女房にこの鏡は権現さまから授かった鏡で良い事悪い事が分かる鏡だとかまをかけた。間男は逃げた。驚いた女房はこれまでのことを白状して詫びた。

 そんな事があって徳蔵の鏡でみるとどんな事も分かると評判になった。その頃、村の庄屋で四百両が無くなった。そこで庄屋から徳蔵に呼び出しがかかった。庄屋はケチでろくに給金を払わないと評判が悪かったので、誰かが盗んだのではないかと噂がたった。引き受けた徳蔵は夜中にこっそり権現さまに参詣して、かくかくしかじかの事情で嘘をついているが、どうか願いを聞いて欲しいと祈った。すると、誰かがきざはし(段)を上ってきた。隠れてみていると庄屋の女中であった。女中は徳蔵には気づかず、掃除をしていて大金を見つけた。給金を払ってもらってないが老母を養わねばならないので、つい盗んでしまった。どうか自分が取ったということは分からぬように庄屋のところに戻る様にして欲しい。金はきざはしを上り詰めた所の椎の木の穴の中に入れておくと頼んで帰った。徳蔵はあくる朝庄屋へ四百両のありかを伝えた。そして給金の払いがよくないから先々よくないことが起きると話した。庄屋は心を入れ替え、これまでの給金を払った。

 無くなった四百両が無事戻ってきたので徳蔵の評判はますます高くなった。そこへ代官から呼び出された。徳蔵は自分がでたらめなことを言っているのでお叱りを受けるのではないかとびくびくしながら出頭すると、代官も失せ物があるという話だった。請け給わった徳蔵だったが、今度は権現さまの機嫌を損じたものか、誰も現れなかった。

◆モチーフ分析

・昔、徳蔵という猟師がいた
・ある日、友達と会う
・友達からどこぞの女房が夫を殺そうとしているらしいと聞く
・徳蔵、鏡を買う
・家に帰ったところ、女房が間男と一緒にいた
・間男、逃げる
・徳蔵、魔法の鏡と嘘をつき、女房を謝罪させる
・このことが評判となる
・ある日、庄屋から盗まれた四百両のありかを探して欲しいと頼まれる
・徳蔵、権現様に参る
・すると、四百両を盗んだ女中が現れ、四百両のありかを漏らす
・それを聞いた徳蔵、庄屋に話す
・無事、四百両がみつかる
・ケチだった庄屋の給金払いがよくなる
・ある日、徳蔵は代官所から呼び出される
・嘘をついていることを叱られるのかと思いビクビクする
・代官から失せ物の相談を受ける
・請け負った徳蔵、権現様に参る
・しかし、誰も現れなかった

 形態素解析すると、
名詞:徳蔵 四〇〇 女房 庄屋 ありか こと 代官 友達 嘘 権現 鏡 間男 それ ところ どこ ケチ 夫 失せ物 女中 家 昔 無事 猟師 相談 給金 評判 誰 謝罪 魔法
動詞:いる する つく 参る 現れる 盗む 聞く いう なる みつかる 会う 受ける 叱る 呼び出す 帰る 思う 探す 殺す 漏らす 話す 請け負う 買う 逃げる 頼む
形容詞:よい 欲しい
副詞:ある日 ビクビク 一緒に
連体詞:この

 徳蔵/女房、徳蔵/女中、徳蔵/代官といった構図です。徳蔵―鏡―女房、徳蔵―権現―女中、徳蔵―権現―代官といった図式です。

 よからぬ噂を聞いた徳蔵が家に帰ると女房と間男が一緒にいた[目撃]。間男は逃げる[逃走]。徳蔵は鏡を魔法のアイテムだと女房を騙す[嘘]。女房は謝る[謝罪]。このことで評判が立つ[世評]。庄屋から盗まれた金のありかを探す様頼まれる[依頼]。承知した徳蔵は権現様に参る[祈願]。すると犯人の女中が現れ罪を漏らして去る[告白]。金のありかを把握した徳蔵は庄屋に説明し、四百両は見つかる[解決]。ある日、徳蔵は代官所から召される[召喚]。嘘がばれたのではないかと徳蔵はビクビクする[畏怖]。代官が徳蔵に失せ物の捜索を頼む[依頼]。徳蔵、権現様に参る。が、何もなかった[不発]。

 何でも見通す魔法の鏡だと触れ回るが権現様の加護は一度だけだった……という内容です。

 発想の飛躍は、何でも見通す鏡と騙すところでしょうか。徳蔵―鏡―権現の図式です。

 偽の魔法のアイテムで<千里眼>を得たと<騙し><謝罪>される。後日、仕事を<依頼>され<承知>、権現に<祈願>したところ<成功>する。二度目は何もおこらず<不発>に終わった。

 <依頼>から<承知>、<祈願>から<解決>という型を繰り返しますが、二回目では未解決のまま終わります。あっけない結末と言えます。

 この後、徳蔵は代官から叱られたという結末を想像することも可能です。が、そこまで描かれていないのは何故かという問いかけも大切でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.58-61.

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