とりつこうかひっつこうか――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、あるところに爺さんと婆さんがいた。爺さんは山へ木こりに行った。婆さんは後から弁当を持っていった。松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がした。恐ろしくなった婆さんは急いで爺さんのところへ行った。帰りはどうしようかと婆さんが言うと「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と言えと教えた。そこで婆さんが帰りに松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がしたのでは婆さんは爺さんに聞いた通りに言った。そうしたら大判、小判、白金が手も足も動かないほどに引っ付いた。婆さんはうんうん唸って家に戻って、身体にひっついた黄金、白金、大判、小判をむしりとって大金持ちになった。
これを隣の婆さんが聞いて、爺さんを無理やり山へ木こりにやった。そして後から弁当を持っていった。松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がした。帰りにまた声がした。婆さんは「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言った。すると婆さんの身体に松やにが一杯引っ付いた。そこへ六部さんが通りかかった。婆さんがうんうん唸っているので具合が悪いのか訊いたところ、「具合どころではない。松やにだらけで手も足も動かされん」と言った。そこで六部さんがこの松やにを取るには家へ帰って大火を焚いて焙(あぶ)れと言った。そこで婆さんは家へ帰って大火を焚いて焙った。そうしたら、婆さんの身体に火がついて、婆さんは焼け死んだ。人まねをして欲張るものではない。
◆モチーフ分析
・爺さん、山へ木こりに行く
・婆さん、弁当を持っていく
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
・婆さん、爺さんにどうするか相談する
・爺さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と教える
・婆さん、爺さんに言われた通りにする
・大判、小判、白金が身体にひっつく
・爺さんと婆さん、大金持ちになる
・隣の婆さん、爺さんを無理やり木こりにやる
・隣の婆さん、弁当を持っていく
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
・帰りに声がして婆さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言う
・松やにが隣の婆さんの身体につく
・通りかかった六部が火を焚いて焙れと教える
・焙ったら、松やにに火がついて隣の婆さんは死んでしまう
形態素解析すると、
名詞:婆さん 爺さん 隣 声 大判 小判 弁当 木こり 松やに 火 白金 身体 途中 六部 大金持ち 山 相談 通り 黄金
動詞:ひっつく する つく とりつく とりつける とる ひっつかむ 持っていく 教える 焙る 言う なる やる 帰る 死ぬ 焚く 行く 通りかかる
副詞:どう 無理やり
婆さん/隣の婆さんの構図です。抽象化すると、主人公/模倣者です。婆さん―大判/小判―声、隣の婆さん―松やに―声の図式です。
山へ木こりに行った爺さんの許へ婆さん、弁当を持って行く[持参]。すると不思議な声がする[呼び声]。「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と叫ぶ[応答]すると、黄金が身体中にひっつく[付着]。婆さん、大金持ちになる[到富]。隣の婆さん、それを真似する[ものまね]。すると松やにがひっつく[付着]。松やにを取るために火で焙ったところ、身体に火が付いて[着火]して焼け死ぬ[焼死]。
隣の婆さんが真似したところ、松やにがひっついた……という内容です。
発想の飛躍は婆さんと隣の婆さんでひっつくものが違うというところでしょうか。婆さん―大判/小判―声、隣の婆さん―松やに―声の図式です。
隣の爺譚です。善良な婆さんと欲深の婆さんで同じパターンを繰り返しますが結末が異なります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.113-115.
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