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2022年7月22日 (金)

榎の木山の山姥――モチーフ分析

◆あらすじ

 清見の大掛と平田の田原との境に榎(えのき)の木山という山がある。むかし榎の木山に山姥がいて大掛の川渕や田原の伊の木へ時々木綿を引きに出てきた。山姥は一日に糸巻きの管にやっと二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと不思議に巻いても巻いても糸が出てきて榎の木山の高さよりもっと長く出た。山姥の髪は真っ白だったが、山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くしていつまでも流れた。その後榎の木山の持ち主が山の木を伐り払ったため、山姥は髪の白いのが恥ずかしくていることができず石見町の原山へ逃げていった。その時、清見の川渕と田原の伊の木の二軒だけは食物に不自由のないようにといって飯杓子を一本ずつ渡して、飯が少ないときはこの杓子でまぜるといくらでも増えると教えていった。ところが伊の木では父親が外から帰ってきてこんな汚い杓子はいらんと捨ててしまった。後からその杓子の有り難さを知って探しに行ったが、どこにも見えなかった。山姥が田原の金沢へ一度宿を借りに来た。気持ちよく宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をあげるから、これからは水に不自由はせぬと言った。この水は濁っているが今でも絶えることはない。榎の木山の九合目には山姥のせんち石といって山姥がせんちにした跡という岩がある。

◆モチーフ分析

・昔、榎の木山に山姥がいて時々木綿を引きに出てきた
・一日に糸巻きの管に二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと巻いても巻いても糸が出てきた
・山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くした
・榎の木山の木が伐り払われたため、山姥は恥ずかしがって原山へ逃げていった
・その際、二軒の家に飯杓子を渡した
・その飯杓子で混ぜると飯が幾らでも増えた
・伊の木では父親が汚いといって飯杓子を捨ててしまった
・後でありがたさを知って探したが見つからなかった
・山姥に宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をくれた
・その水は濁っているが涸れることがない
・山姥が雪隠にしたという岩がある

 形態素解析すると、
名詞:山姥 飯 杓子 榎 二 とぎ汁 木 木山 米 一 お礼 かせ ぐ こと ため ところ 伊 原山 家 宿 岩 幾ら 後 昔 時々 木川 木綿 水 父親 管 糸 糸巻き 際 雪隠
動詞:巻く する 出る 引く ある いう いく いる くれる 伐り払う 増える 捨てる 探す 涸れる 混ぜる 渡す 濁る 知る 見つかる 貸す 逃げる
形容詞:ありがたい ない 恥ずかしい 汚い 白い
連体詞:その

 山姥/人の構図です。山姥―引く―糸、山姥―杓子―家、山姥―とぎ汁―宿、山姥―雪隠―岩といった図式です。

 山姥がかせに巻くと幾らでも糸が出てきた[無尽]。山の木が伐り払われたので、山姥は恥ずかしがって逃げていった[逃散]。山姥が渡した飯杓子で混ぜると飯が幾らでも増えた[無尽]。山姥に宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をくれた[贈与]。その水は濁っているが枯れることがない[無尽]。山姥が雪隠にしていた岩がある[由来]。

 榎の木山の山姥は人に幸いをもたらした……という内容です。

 発想の飛躍は糸巻き、飯杓子、米のとぎ汁でしょうか。山姥―引く―糸、山姥―杓子―家、山姥―とぎ汁―宿といった図式です。

 榎の木山の山姥に関する伝説を幾つかまとめたものの様です。怖い山姥ではなく優しい山姥です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.104-105.

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