文学青年だった柳田――大塚英志「社会をつくれなかったこの国がそれでもソーシャルであるための柳田國男入門」
大塚英志「社会をつくれなかったこの国がそれでもソーシャルであるための柳田國男入門」(角川EPUB選書)を読む。「ソーシャル」という英語には実は適切な日本語訳がないのではないかとしている。米国では結社がそうであるとのこと。
柳田がロマン主義の文学青年だった話は知らず、田山花袋との関係は勉強になった。文学を止め、官僚/農政学者の道をまず歩みはじめることになる訳だが、「経世済民」の思想はその後の民俗学、戦後の国語・社会科教育でも一貫しているとしている。また、自分で学んで自分で判断するという近代における個の確立を重視していたともする。周囲に流されるのでは自分で判断していることにならないのである。
著者は柳田の学問における手法をデータベース的、ハイパーテキスト的と指摘する。それは雑誌の運営において研究者個人の他に先駆けた発表を重視する方法論と齟齬をきたす。柳田がやろうとしていたことは現代になってWEBが発展することによってようやく機能する方法論だったのである。そういう意味で柳田の方法論はソーシャルなものだったのである。
基本的に漫画編集者/原作者でサブカル評論家であり民俗学に関しては学士でしかない著者が大学で民俗学の講義を行うことはアカデミック・ポストを一つ奪うものであり、いかがなものかと思っていたが、本書を読んでまあ許せるかという印象に変わった。
<追記>
要するに大塚が言いたいのは、近代的自我の確立だろう。それは果たして達成しなければならないものだろうか。欧米とは異なるルートを通ってきた日本人が小魚の群れ的な行動をとる傾向にあるのは、ある意味本能的な処世術である。
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