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2022年7月 3日 (日)

炭焼き長者――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、分限者の酒屋があった。娘がいたが大層な酒好きで朝から酒ばかり飲んでいた。旦那は色々言って聞かせたが一向に効き目がない。とうとう娘に大判小判を持たせて追い出してしまった。

 追い出された娘は江戸へ上り、日本橋でぶらぶらしていると易者に呼び止められた。娘の手相と人相をみた易者は娘の縁談は佐渡の国の何村の何兵衛に決まっているから訪ねるよう勧めた。

 娘は喜んで佐渡へ渡った。何日も探してようやく炭焼きのことだと分かった。炭焼きの家へ行って一晩泊めて欲しいと頼むと、あなたの様な人をこんな家には泊められないと断られた。無理に頼むとようやく泊めてくれた。

 夜が明けても米がないので娘は炭焼きに大判を一枚渡し、これで米を買ってくるように言い付けた。ところが炭焼きは途中でサギに大判を投げてしまった。もう一度渡すと今度は犬に投げて帰ってきた。あれは大判といって米でも何でも買えるのだと説明すると、炭焼きはあんなものは幾らでもあると答えた。行ってみると本当に黄金がごろごろ転がっていた。炭焼きもこれが黄金だと理解し、それから黄金を掘り出して大金持ちになって娘と夫婦になって楽しく暮らした。

◆モチーフ分析

・昔、分限者がいた。大酒飲みの娘がいた
・分限者、娘を諭すが効き目がない。娘に金をやって放逐する
・娘、江戸へ上る
・日本橋で易者と出会う。手相と人相を占った結果、佐渡に婿がいると予言される
・娘、佐渡へ渡る。あちこち探しまわって炭焼き小屋に辿り着く
・娘、炭焼きに一夜の宿を頼む。炭焼き、初めは拒否していたが、止むなく迎える
・朝、朝食の米がない。娘、炭焼きに大判を渡して買い物にいかせる
・炭焼き、サギに大判を投げてもどってくる
・娘、再び大判を渡す
・炭焼き、今度は犬に大判を投げて帰ってくる
・娘、炭焼きに大判の価値を説明する
・炭焼き、そんなものは裏にあると答える
・果たして黄金があった
・黄金を掘り出した炭焼きは金持ちとなり、娘と夫婦になった

 形態素解析すると、
名詞:娘 炭焼き 大判 佐渡 分限者 黄金 あちこち もの サギ 一夜 予言 人相 今度 価値 初め 効き目 大酒飲み 夫婦 婿 宿 小屋 手相 拒否 放逐 日本橋 易者 昔 朝 朝食 江戸 犬 米 結果 裏 説明 買い物 金 金持ち
動詞:いる ある なる 投げる 渡す いく もどる やる 上る 出会う 占う 帰る 掘り出す 探しまわる 渡る 答える 諭す 辿り着く 迎える 頼む
形容詞:ない
形容動詞:そんな
副詞:再び 果たして 止むなく

 娘/炭焼きの構図です。抽象化すると、女/男の構図です。分限者―放逐―娘、娘―大判―炭焼きの図式です。

 分限者が大酒飲みの娘を放逐[追放]、娘は江戸へ上る[上京]。易者と遭遇した娘は占いをしてもらい未来の夫が佐渡にいると情報を得る[予言]。佐渡に渡って探し歩き、炭焼きと出会う[遭遇]。炭焼きに大判を与え買い物に行かせたところ無駄にしてしまう[放棄]。炭焼きはそんなものはいくらでもあると答え黄金を発見[発掘]、結婚する[婚姻]。

 大判の価値が分かっていない炭焼きに価値を教えたところ、そんなものは幾らでもあると言って黄金が発見される……という内容です。

 発想の飛躍は黄金の価値が分かっていないというところでしょうか。佐渡の金山の由来を説明する昔話でもあります。また、娘が大酒飲みであるのも独自性があります。

 <追放>が<結婚>に転換される点でユニークな話型です。大判を<無駄>にしたところ黄金の<発見>につながる、また<占い>が黄金の<発見>に結びついたとも読み取れます。

 <追放>から<帰還>へと着地しない点も挙げられるでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.52-54.

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