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2022年7月28日 (木)

大歳の火――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、出雲に長者の家があった。大歳の晩になった。この晩には昔から火を絶やしてはいけないことになっているので、下女や下男の中から一番年下の女中に火の番を命じて他の者は寝てしまった。女中は一生懸命寝ないようにして火の番をしていたが、昼間の疲れで眠たくなってうとうとしてしまった。気がつくと囲炉裏の火はすっかり消えていた。大切な大歳の火を消したことが分かったら大変だ。驚いた女中が辺りを見回すと向こうの山に火が見えた。女中は度胸がよいので夜中の真っ暗な中を独りその火のところへ歩いて行った。火を目当てに山の上へ登っていると、髪の真っ白な老人が一人で火を焚いていた。火をくれるように女中が頼むと、死んだ人と一緒ならあげると老人は言った。見ると火のほとりに亡者が横にしてあった。亡者と一緒でもいいから下さいと言って女中は火をもらい、亡者を背に引っかけて帰ってきた。そして亡者は庭先へ寝かせてむしろを掛けておいて火を焚きつけ夜が明けるまで一生懸命火の番をした。夜明けになって皆が起きてきた。番頭が女中をよく番をしたと褒めた。その内に皆が庭先にむしろの掛けてあるのを見つけて、これは何だろうという話になった。女中がそれを今めくってはいけないと言ったが、番頭が何気なしにめくると中からざあっと小判が出た。皆、びっくりした。それで女中が昨夜の話をすると旦那が出てきて、白髪の老人とは金の神さまだ。女中があまりに度胸がいいので今の通りになったのだろうと言った。そして女中を若旦那の奥さんにした。

◆モチーフ分析

・一番年下の女中に大歳の日の火の番が命じられる
・女中は疲労からついうとうとしてしまう
・気がつくと囲炉裏の火が消えてしまう
・山の向こうに火が見える
・女中、屋敷を出て山に向かう
・白髪の老人が火を焚いていた
・老人、亡者と一緒なら火をあげると言う
・女中、応じる
・女中、亡者を背負って火を屋敷に運ぶ
・亡者を庭におき、むしろを掛ける
・女中、火の番を終える
・他の者たち、起きてくる
・番頭、女中を褒める
・庭のむしろが皆の目に入る
・番頭がめくってみると小判の山だった
・女中、昨夜の経緯を話す
・旦那が出てきて、それは金の神だと言う
・女中、若旦那と結婚する

 形態素解析すると、
名詞:女中 火 亡者 山 むしろ 屋敷 庭 番 番頭 老人 それ 一緒 他 向こう 囲炉裏 大歳 小判 年下 日 旦那 昨夜 気 疲労 白髪 皆 目 神 経緯 結婚 者 若旦那 金
動詞:出る 言う あげる おく する つく めくる 入る 向かう 命じる 応じる 掛ける 消える 焚く 終える 背負う 褒める 見える 話す 起きる 運ぶ
副詞:うとうと つい 一番

 女中/白髪の老人の構図です。抽象化すると、女/神です。女中―火/亡者/金―老人の図式です。

 一番年下の女中に大歳の日の火の番が命じられる[命令]。女中、疲れからまどろんでしまい、気づいたときには火は消えていた[消火]。山の向こうに火が見えた[展望]。女中、山に向かう[赴く]。山では白髪の老人が火を焚いていた[たき火]。老人、亡者と一緒なら火をやろうと言う[提案]。女中、亡者を背負って屋敷に運ぶ[帰還]。亡者を庭に置き、むしろを掛ける[隠蔽]。夜が明け、番頭が女中を褒める[讃辞]。番頭が庭のむしろをめくったところ、亡者は小判の山となっていた[変化]。女中、事情を話す[説明]。それは金の神だとなり[推定]、女中、若旦那と結婚する[結婚]。

 亡者を厭わず背負って帰ると金に変化していた……という内容です。

 発想の飛躍は亡者が小判の山に変化することでしょうか。女中―火/亡者/金―老人の図式です。

 死体が小判に変化するのですが、こういう場合は死体化生型と呼ぶのでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.116-118.

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