« 賀茂神社の三重の塔――モチーフ分析 | トップページ | 丸瀬山の山姥――モチーフ分析 »

2022年7月19日 (火)

鏡が渕――モチーフ分析

◆あらすじ

 鳴美の堤から切り立った岩の上に登ると、小さな祠がある。竜の明神で、祠の前の岩角に立っている松を髪かけの松という。弘安(こうあん)正応(しょうおう)の頃、阿波麻生庄の領主小笠原長親は海辺防備の功によって村之郷に移封されて海を渡った。後に川本温湯城三原丸小城を中心にして十五代およそ三百年間この辺りを治めた小笠原氏の先祖である。長親は村之郷に来ると南山城を築いて根拠地とした。重臣に何々太夫宗利という武士がいた。まだ若年であったが優れた武士だったので軍師として重く用いた。足利の勢が攻め寄せた時、川を上って魚断(いおき)りに押し寄せると味方の軍勢は天嶮によってこれを防ぎ敵は意を断(き)って引き返したので魚断りというようになった。

 この戦いで最も手柄を立てたのは軍師の宗利だった。それで長親は宗利に自分の娘を妻に与えた。ところがしばらく経って疫病にかかり生まれもつかぬ醜い女になった。その頃小間使いに美しい女があって、宗利は次第に本妻を避けるようになった。本妻はこれを恨んで、ある日宗利を動かして小間使いを連れて魚断りの景色を見に出かけた。そして景色のよい明鏡台へいって、しばらく休息していると、小間使いは懐中から小さな鏡を取り出してほつれた髪をかきあげた。その時後ろから忍び寄った本妻はいきなり小間使いを岩の上から突き落とした。

 この時小間使いは手鏡に映った本妻の顔からそれと察したので、本妻の袖をしっかり掴んだ。それで、あっという間に二人の女は相重なって落ちていった。驚いた宗利が駆け寄ってみると、数十丈の岩壁を悲鳴をあげて落ちていく二人の黒髪はどちらも竜となって互いにもつれ争いながら途中の松の枝にかかって抜け、二人はそのまま遙か谷底の深さも知れぬ渕に呑まれてしまった。宗利は意外のことに驚くとともに、深く嘆き悲しんで蟇田まで帰り、自刃して果てた。二人の女を呑んだ渕を鏡が渕といい、以来二人は竜となって永遠に相戦ったと言われている。古くから三人を神に祀ってあったのを昭和九年の明神勧請のときに合祀した。
◆モチーフ分析

・足利との戦いで宗利、軍功を挙げる
・宗利、小笠原長親の娘を賜る
・宗利の本妻、疫病で醜い容姿になってしまう
・宗利、美しい小間使いに心を移してしまう
・本妻、宗利と小間使いを魚断りに誘う
・小間使い、髪のほつれを直そうとして背後に本妻が迫っていることに気づく
・本妻の裾を掴んだ小間使い、共に崖から転落する
・二人の髪が竜となる
・二人は渕に飲み込まれる
・衝撃を受けた宗利、自刃する
・本妻と小間使いは竜となって永遠に争った
・三人を祀った祠が建った

 <軍功>を挙げ、主君の娘を<賜った>宗利だったが、本妻が疫病で<醜女>となってしまう。小間使いに心を移した宗利だったが、<嫉妬>した本妻が小間使いを<殺そう>とする。本妻と小間使いは共に渕に<落下>する。宗利、<自刃>する。

 発想の飛躍は本妻と小間使いが共に渕に転落するところでしょうか。そこから更に二人が竜と化して互いに争うという形となっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.99-100.

|

« 賀茂神社の三重の塔――モチーフ分析 | トップページ | 丸瀬山の山姥――モチーフ分析 »

昔話」カテゴリの記事