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2022年7月18日 (月)

名馬池月――モチーフ分析

◆あらすじ

 治承(じしょう)三年の頃は邑智郡阿須那(あすな)の牛馬市が最も盛んな時だった。出雲の国飯石郡松笠村に竜頭ヶ滝という滝があった。後に名馬として有名になった池月はこの滝の近くで生まれた。小さいとき母馬が死んだ。母馬を探して滝の辺りをさ迷っている内に自分の姿が滝壺に映るのを母馬と思って滝壺に飛び込んだ。しかし水の中には母馬はいないので上に上がってみると水の中に母馬の姿が見える。そこで飛び込むが、やはり母馬はいない。こうした事を繰り返す内に泳ぎが上手になった。

 治承三年四月の阿須那の市にこの馬は馬喰(ばくろう)に連れられて都賀本郷まで来た。が、江川は雪解けで水が多く渡ることができない。しかし川向こうの都賀西では市へ行く牛や馬がひっきりなしに通っていく。これを見た馬は激しい流れに飛び込んで川を真一文字に渡って都賀西から阿須那の市場に駆け込んだ。驚いた人々が見ていると一人の商人が池月を栢(かや)の木に繋いだ。

 それからしばらくして雲州から馬の持ち主がやって来た。そして馬を売ろうとしたが買う人がいない。羽村長田までいったところで買い手がついた。その男は指を六本出した。持ち主は六百文だと思って手を打った。ところが買い手は六百両出したので売主は驚いた。この馬は名馬の相があり六百両でも安い位だとのことであった。

 この馬は後に東国に下って名馬の名が高くなり、遂に源頼朝に買い上げられた。元暦(げんりゃく)元年正月、宇治川の合戦に佐々木四郎高綱が池月に打ちまたがって先陣の名を天下にあげた。池月を繋いだ栢の木は阿須那の賀茂神社の境内に今もある。

◆モチーフ分析

・母馬をなくした子馬がいた
・子馬は滝壺の水面に映った自分の姿を母馬と思って飛び込んだ
・それを繰り返す内に泳ぎが上手になった
・江川は雪解けの水で増水していた
・馬は江川に飛び込んで一直線に対岸まで泳ぎ切った
・馬の買い手が持ち主に指六本示した
・それは六百文ではなく六百両だった
・その馬は名馬の相があるので六百両でも安いと評された
・その馬は東国へ上がり源頼朝に買い上げられた
・宇治川の先陣争いでその馬は見事に勝利した

 形態素解析すると、
名詞:馬 六〇〇 それ 子馬 母 江川 六 一直線 上手 先陣争い 内 勝利 名馬 増水 姿 宇治川 対岸 持ち主 指 東国 水 水面 源頼朝 滝壺 相 自分 買い手 雪解け
動詞:飛び込む ある いる する 上がる 思う 映る 泳ぎ切る 泳ぐ 示す 繰り返す 評 買い上げる
形容詞:ない 安い
形容動詞:見事
連体詞:その

 池月/滝壺、池月/江川、持ち主/池月/買い手、池月/宇治川の先陣争いの構図です。抽象化すると、動物/自然、人/動物/人です。池月―(飛び込む)―滝壺、池月―(泳ぎ切る)―江川、持ち主―池月―買い手、池月―勝利―先陣争いの図式です。

 母馬を亡くした[喪失]子馬は滝壺に飛び込むことを繰り返す[意図しない訓練]。成長した馬は増水した江川を泳ぎ切る[渡河]。馬は六百両で買い上げられる[買収]。東国に上がった馬は宇治川の先陣争いで勝った[勝利]。

 活きの良い馬は六百両で買われ、宇治川の先陣争いで勝利した……という内容です。

 発想の飛躍は、母馬と間違えて滝壺に飛び込む、増水した江川を泳ぎ切る、六百文どころか六百両で売れる……といった点と言えるでしょうか。複数ありますが、これは元々は別々の伝説が一つにまとまったものと考えられますから複数あり得る訳です。

 名馬池月の伝説は全国に伝播しており、その島根県バージョンです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.91-92.

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