大森銀山――モチーフ分析
◆あらすじ
昔、博多にゆう丹という船乗りがいた。ある年の初夢に梶の棒が折れた夢をみた。縁起が悪いのでゆう丹は起きずに寝ていた。妻が心配したので夢見が悪いと訳を話した。妻はそれは吉夢だと答えた。博多のゆう丹己詩(おれかじ)と言うではないかと。ゆう丹は喜んで起きた。
間もなく萩へ向かって出帆した。にわかに大南風(はえ)になって朝鮮の近くまで流された。そこへ南風のかわしが来たので、あの手この手で地方(じかた)に近づこうと努めたが、萩へ入ることができない。とうとう温泉津(ゆのつ)を過ぎて琴ヶ浜の神子地(みこじ)に着いた。
船を浜に上げて痛んだところを修理していると、大森から薪を売る者が来た。見ると薪の間に銀鉱がついていた。驚いて尋ねたところ、こんな石はいくらでもあると答えた。ゆう丹は倍払うからと言って船一杯の石を買いつけた。薪売りはゆう丹を馬鹿だと思った。帰ったゆう丹はそれを売って大もうけした。
また神子地へやって来たゆう丹だったが、薪売りはまた馬鹿な船頭が来たので石を出し始めたところ、船に半分出したところで代官から出してはいけないとなった。代官が石を鑑定させたところ銀鉱だと分かったからである。
ゆう丹は仕方なく船半分の荷を積んで帰ったが、今度は博多を引き上げて大森へやってきて銀を掘ることにした。これが大森銀山のはじまりだという。
◆モチーフ分析
・船乗り、初夢をみる
・船乗り、縁起が悪いと思い、そのまま寝ている
・妻に夢の内容を打ち明ける
・妻、それは吉夢だと言う
・船乗り、出帆するが大風で流される
・船乗り、目的地に辿り着けず、神子地へ漂着する
・船の修理をしていると、薪売りが来る
・薪売りの薪に挟まっていた小石を薪の倍の値段で買う
・船一杯に小石を買い、博多へ帰る
・再度、神子地へやって来る
・小石を買いつけていると、船に半分で止められた
・代官が小石を鑑定させ、銀鉱石だと判明した
・船乗り、止むなく半分の荷で博多へ帰る
・船乗り、博多を引き上げて大森へ移住する
・大森銀山の元となった
形態素解析すると、
名詞:船乗り 小石 薪 博多 船 半分 売り 大森 妻 神子 それ 代官 修理 倍 値段 元 内容 再度 出帆 初夢 判明 吉夢 夢 漂着 目的 移住 縁起 荷 鉱石 銀 銀山 鑑定
動詞:帰る 買う する なる みる やって来る 寝る 引き上げる 思う 打ち明ける 挟まる 来る 止める 流す 言う 買いつける 辿る
形容詞:悪い
形容動詞:一杯 大風
副詞:そのまま 止むなく
船乗り/妻、船乗り/薪売り、船乗り/代官の構図です。船乗り―夢―妻、船乗り―小石―薪売り、船乗り―鉱石―代官の図式です。
夢見が悪いと寝ていた船乗りだが、それは吉夢だと妻が読み解く[夢占い]。出航したところ、大風で流される[漂流]。神子地へ着く[漂着]。船を修繕していたところ、薪売りが来る[販売]。薪にはさまっていた小石を高値で買う[購入」。船一杯に小石を買う[大量購入]。博多に帰った船乗り、大もうけする[利益計上]。神子地を再訪、小石を買いつける[買いつけ]。船に半分のところで制止させられる[禁止]。小石は銀鉱石だったと判明[露見]。船乗りはそのまま博多へ帰る[帰還]。船乗り、博多を引き上げて大森へ移り住む[移住]。大森銀山の元となる[由来]。
銀鉱石を安い値段で仕入れて大儲けするが、代官所から禁止され、大森に移住する……という内容です。
発想の飛躍は、小石を薪の倍の値段で買うといった行為でしょうか。船乗り―小石/鉱石―薪売りの図式です。後に銀鉱石だったと判明する訳ですが、いち早く本質を見抜くことで商機を見いだす訳です。
大もうけするという<夢見>が<実現>する。妻の<夢判断>が<助言>となる。銀鉱石を安く<買いつけ><大もうけ>する。再度、買いつけようとしたが代官に<制止>させられる。結局、大森へ<移住>する……といった流れになっています。
初夢がきっかけで大もうけし、そのまま大森へ移住するとなります。この際、船乗りは小石を高値で買う馬鹿者だと思われていることも要注目でしょうか。知恵で抜け目なく大もうけし、そのまま銀山を開く形となったのです。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.62-64.
| 固定リンク
「昔話」カテゴリの記事
- Amazon Kindleストアで電子書籍の販売を開始しました。(2023.03.01)
- 専門家でも難しい問題だと思うが(2023.02.26)
- 積むと天井まで届くか――『日本昔話通観 第28巻 昔話タイプ・インデックス』(2023.02.14)
- ロールバック完了(2022.12.15)
- 昔話の時空――近藤良樹「子供の昔話を哲学する(論文集)」(2022.12.08)