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2022年7月

2022年7月31日 (日)

瓜姫――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに爺さんと婆さんがいた。ある日爺さんは木を伐りに行った。婆さんは川へ洗濯に行った。婆さんは川で着物をすすいでいると、上の方から瓜が流れてきた。婆さんがそれを拾って食べたところ旨かったので、もう一つ流れよ、爺さんに持って帰ろうと言うと、また大きなのが流れてきた。持って帰るには難儀な大きな瓜だった。その瓜を婆さんは櫃(ひつ)の中に入れて爺さんが戻るのを待っていた。爺さんが帰ってきたので瓜を包丁で割ろうとすると瓜がぽっかり割れて中から可愛いお姫様が出てきた。瓜の中から出てきたから瓜姫という名にして可愛がって育てた。瓜姫が大きくなると、婆さんは糸を紡ぎ、爺さんは杼(ひ)やくだをこしらえて機を織った。瓜姫は毎日機を織っていた。ある日、爺さんと婆さんは外出するので、留守中にあまんじゃくが来ても戸を開けるなと言い付けて出ていった。それで瓜姫は独りで機を織っていた。そこへあまんじゃくがやって来て姫さん、ちいと開けちゃんさいと言った。瓜姫が嫌だと言うと、そう言わんと指の入るほど開けちゃんさい。叱られたらわしが詫びるからと言って指の入るほど戸を開けさせた。今度は手の入るほど開けちゃんさいと言ったので手の入るほど開けてやった。次に頭の入るほど開けちゃんさいと言ったので頭の入るほど開けてやった。今度は身がらの入るほど開けちゃんさいと言った。瓜姫は嫌だと言ったが、あまんじゃくが自分が侘びるからと言ってとうとう中に入ってしまった。それから話をしていたが、これから柿を採りに行こうと言った。瓜姫はここから出たら爺さん婆さんに叱られるから嫌だと言ったが、爺さん婆さんの居ない内に戻ればいいと言って瓜姫を連れて柿の木谷へ出した。あまんじゃくは高い柿の木に登って採っては食いしたが瓜姫には一つもやらなかった。瓜姫には渋柿ばかり投げてよこした。瓜姫がせっかく来たのだから柿が食べたいというと、瓜姫を上がらせて、瓜姫の着ていた着物とあまんじゃくのぼろの汚い着物を交換して姫を高いところへ登らせて、葛(かずら)を持ってきて姫を柿の木に縛りつけてしまった。あまんじゃくは瓜姫のきれいな着物を着て姫に化けて戻ってきて機を織っていた。そのうちに瓜姫はよいところに嫁にもらわれた。嫁入りの日が来て瓜姫に化けたあまんじゃくを駕籠(かご)に乗せて出かけた。柿の木谷を通ろうか栗の木谷を通ろうかと言うとあまんじゃくが栗の木谷を通ろうと言った。そこで栗の木谷を通ったが、栗のいがが足にたってやれないので引き返して柿の木谷を通った。柿の木の下を通ると瓜姫があまんじゃくが嫁入りすると言って泣いた。爺さんが上を見ると瓜姫が縛られているので、駕籠の中のはあまんじゃくが化けていることに気づいて、瓜姫は縄を解いて下ろして、あまんじゃくは引きずり出して三つに切った。粟(あわ)の木に一切れ、麦の根に一切れ、蕎麦(そば)の根に一切れ埋めた。するとそれらの根は赤くなった。瓜姫はきれいな着物に着替えて嫁入りをした。

◆モチーフ分析

・爺さんは木を伐りに、婆さんは川へ洗濯に行く
・婆さんが洗濯していると、上流から瓜が流れてくる
・瓜をとって食べると美味しいので、もう一つ流れてこいと言う
・今度は大きな瓜が流れてくる
・婆さん、大きな瓜を難儀して家に持ち帰る
・爺さんが帰ってきたので食べようとしたら、瓜が割れて中から姫が出てくる
・瓜姫と名づけて可愛がって育てる
・大きくなった瓜姫、機を織るようになる
・爺さんと婆さん、外出するので瓜姫にあまんじゃくがやって来ても戸を開けないように言いつける
・瓜姫が機を織っていると、あまんじゃくがやってくる
・あまんじゃく、言葉巧みに徐々に戸を開けさせる
・中に入ったあまんじゃく、柿を採りに瓜姫を外出させる
・柿の木に登ったあまんじゃく、柿を独り占めする
・あまんじゃく、瓜姫と着物を交換する
・あまんじゃく、瓜姫を柿の木に上がらせて葛で縛る
・瓜姫に化けたあまんじゃく、家に戻る
・姫、嫁に行くことになる
・瓜姫に化けたあまんじゃく、駕籠に乗る
・栗の木谷を通ろうとするが、栗のいがが沢山で引き返す
・柿の木谷を通ったところ、瓜姫が危機を知らせる
・瓜姫を救出する
・あまんじゃくを三つに斬る
・あまんじゃくの死骸を埋める
・蕎麦などの根が赤くなる
・瓜姫は無事嫁に行った

 形態素解析すると、
名詞:瓜 姫 あまん 婆さん 柿 爺さん くが 中 外出 嫁 家 戸 木 木谷 栗 機 洗濯 いが くの こと ところ もう一つ 三つ 上流 交換 今度 危機 川 救出 柿の木 根 死骸 無事 独り占め 着物 葛 蕎麦 難儀 駕籠
動詞:くる 流れる 行く する 化ける 織る 通る 開ける 食べる とる なる やって来る やる 上がる 乗る 伐る 入る 出る 割れる 名づける 埋める 帰る 引き返す 戻る 持ち帰る 採る 斬る 登る 知らせる 縛る 育てる 言いつける 言う
形容詞:可愛い 大きい 美味しい 赤い
形容動詞:沢山 言葉巧み
副詞:徐々に
連体詞:大きな

 瓜姫/あまんじゃくの構図です。抽象化すると、姫/妖怪です。婆さん―瓜―瓜姫、瓜姫―(入る)―あまんじゃく、瓜姫―柿―あまんじゃくの図式です。

 瓜から生まれた瓜姫[誕生]。瓜姫、機を織る[機織り]。爺さんと婆さんが外出すると、あまんじゃくがやってくる[来訪]。言葉巧みに戸を開けさせる[侵入]。柿を食べに外へ出る[外出]。あまんじゃく、瓜姫と着物を取りかえる[交換]。あまんじゃく、瓜姫を縛って[緊縛]、瓜姫に化ける[変化]。嫁入りの駕籠に乗ったあまんじゃくだが、瓜姫が危機を知らせる[警告]。あまんじゃく、三つに切られ[切断]、畑に撒かれる[散布]。瓜姫、無事に嫁に行く[嫁入り]。

 瓜姫に化けたあまんじゃくだったが、正体を見抜かれ殺されてしまう……という内容です。

 発想の飛躍は瓜から生まれた瓜姫でしょうか。婆さん―瓜―瓜姫の図式です。

 途中、あまんじゃくが言葉巧みに戸を開けさせる場面も魅力的な語りです。瓜姫は生存する結末と殺される結末とがありますが、このお話では無事です。蕎麦などの根がなぜ赤いかを示す由来譚でもあります。

 ちなみに、瓜が流れてくる様は「つんぶりこんぶり」と形容されています。また、瓜姫が機を織る際は「キーリスットンバットントン」と形容されています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.123-128.

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夏祭りの日

今日は鷲宮神社の夏祭りの日だったが、コロナで行くのを見合わせる。10月頃に収束しているといいのだけど。

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2022年7月30日 (土)

ぶいが谷の酒――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔あるところに良い爺さんと悪い爺さんがいた。良い爺さんがあるとき山の中で木を伐っていると、木を伐るたびに「ぶいぶいぶいが谷に酒が湧く」という音がする。ぶいが谷に行ってみると谷から酒が湧き出ていた。爺さんが飲んでみると、とても旨いので、夢中になって飲むうちにすっかり酔って寝込んでしまった。すると、猿がたくさん出てきて、ここに地蔵さんが寝ている。どこかへ持っていってお祀りしようと言って爺さんをかついで走っていった。その内に爺さんの金玉がぶらりと下がった。猿たちはこれを見て、ぶらりと下がった。何だろうと言ったので、爺さんはお香の袋と言った。しばらく行くと爺さんが屁をひった。ぷうんと出たのは何だろう。爺さんはお香の匂いと言った。爺さんは山の中のどこかへ連れて行かれて地蔵にされた。猿たちは爺さんを座らせると供物をたくさん供え、拝んでどこかへ行ってしまった。爺さんは猿がいなくなると供物を持って帰って近所の人たちに配った。

 隣の悪い爺さんはそれを聞いて、自分もそんな目に遭おうと思って、ぶいぶい谷へ行って酒を飲んで寝ていた。すると猿がまた出てきて爺さんをかついで行った。その内に屁の方が先に出たので、爺さんがおかしくてくすくす笑うと、猿たちは怒ってまた昨日の様に地蔵さまの真似をして供物だけをとって行こうとするふとい奴だと言って、よってたかってかきむしったので爺さんは血だらけになってしまた。婆さんは夕方になっても爺さんが帰らないので山へ迎えに行くと遠くに爺さんが見えた。爺さんと同じ様に欲張りの婆さんは爺さんが赤いきれいな着物を着て帰ったと思って大喜びしたが、近寄ってみると、爺さんは血だらけになってうんうん苦しんでいた。

◆モチーフ分析

・良い爺さんと悪い爺さんがいた
・良い爺さんが山で木を伐っていると、ぶいが谷に酒が湧くという音がする
・谷に行ってみると酒が湧き出ていた
・夢中になって飲む内に酔って寝込んでしまう
・猿が出てくる
・猿、地蔵さんが寝ていると爺さんを担いでいった
・爺さんの金玉がぶらりと下がる。お香の袋と答える
・爺さん、屁をする。お香の匂いという
・爺さん、山の中のどこかで地蔵さんとして祀られる
・猿、たくさんの供物を供える
・猿が去った後で爺さんは供物を持って帰り、近所の人に配る
・隣の悪い爺さんは良い爺さんの話を聞いてぶいが谷に行く
・悪い爺さん、谷で酒を飲んで寝てしまう
・猿がまた出てきて悪い爺さんを担ぐ
・悪い爺さん、屁をする。爺さん、くすくす笑う
・猿たちは昨日のように地蔵さまの真似をして供物を取ると言って、よってたかってかきむしる
・悪い爺さん、血だらけになる
・悪い婆さん、爺さんが赤い着物を着ていると思う
・近づくと、爺さんは血だらけになって苦しんでいる

 形態素解析すると、
名詞:爺さん 猿 谷 供物 地蔵 酒 お香 ぶい 屁 山 血 たくさん どこか 中 人 内 匂い 夢中 婆さん 後 昨日 木 着物 袋 話 近所 金玉 隣 音
動詞:する いう なる 出る 寝る 担ぐ 行く 飲む いる かきむしる よる 下がる 伐る 供える 去る 取る 寝込む 帰る 思う 持つ 湧き出る 湧く 真似る 着る 祀る 笑う 答える 聞く 苦しむ 言う 近づく 配る 酔う
形容詞:悪い 良い 赤い
副詞:くすくす ぶらり また

 良い爺さん/悪い爺さんの構図です。抽象化すると、主人公/模倣者です。良い爺さん―供物―猿、悪い爺さん―(かきむしる)―猿

 良い爺さんが木を伐っていると[木こり]、谷に酒が湧くと聞こえる[聴聞]。谷で飲酒して寝てしまう[泥酔]。猿がやってきて爺さんを地蔵と間違えて[誤認]担いでいく[運搬]。金玉をお香と誤魔化す[騙す]。屁をお香の匂いと誤魔化す[騙す]。爺さん、地蔵として祀られて供物を供えられる[祭祀]。猿が去った後で爺さんは供物を持って帰る[帰還]。悪い爺さん、良い爺さんの真似をする[ものまね]。悪い爺さん、谷で飲酒して寝てしまう[泥酔]。猿が出てきて[出現]爺さんを担いでいく[運搬]。爺さん、屁をしてくすくす笑う[微笑]。地蔵でないと見破られ[露見]、かきむしられる[負傷]。爺さん、血だらけになって帰る[帰還]。

 隣の爺さんの真似をしたところ、猿に見破られて負傷する……という内容です。

 隣の爺譚です。発想の飛躍は猿が爺さんを地蔵さまと勘違いするところでしょうか。余所の真似をするものではないという教訓話になっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.121-122.

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2022年7月29日 (金)

神さまから授かった下駄――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔々、お爺さんとお婆さんが二人で暮らしていた。二人は貧乏だった。ある日お爺さんは畑から帰ると、お宮へ参ってくると言って仕事着のまま出かけていった。お爺さんはお宮へ参ってどうかお金を授けて下さいますようにと一生懸命お願いした。すると、神さまが裏庭に下駄があるから、それを持って帰れと言った。お爺さんが喜んで行ってみると、古ぼけたきたない下駄が片っぽだけあった。こんなぼろ下駄が片っぽでは仕方がないと思ったが、それでも神さまの授け物だからと思い直して持って帰った。家へ帰ってお婆さんに下駄を見せると、お婆さんはそんな古い下駄では何にもならないではないかと言った。お爺さんは捨ててしまおうかと思ったが、試しに履いてみようと思った。するとおじいさんはころりと転げた。起きてみるとその拍子にお爺さんの身体の下に金がごっそり出ていた。お爺さんは大喜びでもう一遍履いてみた。すると、またころりと転んで起きてみると身体の下にお金がごっそりあった。お爺さんは面白くなってまた転んだ。ところが不思議なことに、お爺さんが転ぶたびにお爺さんの身体は段々小さくなった。お爺さんはそれでも履いては転び、歩いて転びしたので、お金は山の様にたまった。しばらくしてお婆さんが来てみると、大きな金の山のほとりにお爺さんが虫のように小さくなっていた。

◆モチーフ分析

・貧乏な爺さんと婆さんが二人で暮らしていた
・爺さん、仕事着のままお宮に参りに行く
・爺さん、お金を授けて欲しいと祈る
・裏庭に下駄があるからそれを持って帰れと神さまが教える
・爺さんが見ると、汚い下駄がかたっぽだけだった
・神さまの授け物だからと、爺さん、下駄を持って帰る
・家に帰って婆さんに下駄を見せる
・婆さん、そんな古い下駄では何にもならないと言う
・爺さん、捨ててしまおうかと考えるが、試しに履いてみる
・爺さん、転げる
・すると、お金がどっさり出てきた
・爺さん、何度も履いては転ぶを繰り返す
・婆さんが気づくと、爺さん、虫の様に小さくなっていた

 形態素解析すると、
名詞:爺さん 下駄 婆さん お金 神 お宮 かた それ まま 二人 仕事着 何度 家 授け物 虫 裏庭
動詞:帰る 履く 持つ ある なる 出る 参る 捨てる 授ける 教える 暮らす 気づく 祈る 繰り返す 考える 行く 見せる 見る 言う 転げる 転ぶ
形容詞:古い 小さい 欲しい 汚い
形容動詞:そんな 貧乏
副詞:どっさり 何にも 試しに

 爺さん/下駄の構図です。抽象化すると、主人公/呪具です。爺さん―お金―(転ぶ)―下駄の図式です。

 爺さん、お宮に参る[参拝」。金が欲しいと祈る[祈念]。すると神さまが裏庭に下駄があると教える[教示]。爺さん、それを取って家に帰る[帰宅]。試しに履いてみると転ぶ[転倒]。するとお金が出てくる[獲得]。何度も繰り返した[反復]爺さんは虫の様に小さくなってしまう[小型化]。

 お金欲しさに何度も転ぶと身体が小さくなってしまった……という内容です。

 発想の飛躍は転ぶとお金が出てくるが、代わりに身体が小さくなるところでしょうか。爺さん―お金―(転ぶ)―下駄の図式です。欲をかいてはいけないという教えになっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.119-120.

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私と他者――高田明典『「私」のための現代思想』

高田明典『「私」のための現代思想』を読む。「私」は様々な役割の仮面を被って世界という劇場で物語を演じている。そういった「私」に関する分析を現代思想的な手法で行っている。後半は「私」と「他者」の関係の分析が主となる。

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2022年7月28日 (木)

大歳の火――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、出雲に長者の家があった。大歳の晩になった。この晩には昔から火を絶やしてはいけないことになっているので、下女や下男の中から一番年下の女中に火の番を命じて他の者は寝てしまった。女中は一生懸命寝ないようにして火の番をしていたが、昼間の疲れで眠たくなってうとうとしてしまった。気がつくと囲炉裏の火はすっかり消えていた。大切な大歳の火を消したことが分かったら大変だ。驚いた女中が辺りを見回すと向こうの山に火が見えた。女中は度胸がよいので夜中の真っ暗な中を独りその火のところへ歩いて行った。火を目当てに山の上へ登っていると、髪の真っ白な老人が一人で火を焚いていた。火をくれるように女中が頼むと、死んだ人と一緒ならあげると老人は言った。見ると火のほとりに亡者が横にしてあった。亡者と一緒でもいいから下さいと言って女中は火をもらい、亡者を背に引っかけて帰ってきた。そして亡者は庭先へ寝かせてむしろを掛けておいて火を焚きつけ夜が明けるまで一生懸命火の番をした。夜明けになって皆が起きてきた。番頭が女中をよく番をしたと褒めた。その内に皆が庭先にむしろの掛けてあるのを見つけて、これは何だろうという話になった。女中がそれを今めくってはいけないと言ったが、番頭が何気なしにめくると中からざあっと小判が出た。皆、びっくりした。それで女中が昨夜の話をすると旦那が出てきて、白髪の老人とは金の神さまだ。女中があまりに度胸がいいので今の通りになったのだろうと言った。そして女中を若旦那の奥さんにした。

◆モチーフ分析

・一番年下の女中に大歳の日の火の番が命じられる
・女中は疲労からついうとうとしてしまう
・気がつくと囲炉裏の火が消えてしまう
・山の向こうに火が見える
・女中、屋敷を出て山に向かう
・白髪の老人が火を焚いていた
・老人、亡者と一緒なら火をあげると言う
・女中、応じる
・女中、亡者を背負って火を屋敷に運ぶ
・亡者を庭におき、むしろを掛ける
・女中、火の番を終える
・他の者たち、起きてくる
・番頭、女中を褒める
・庭のむしろが皆の目に入る
・番頭がめくってみると小判の山だった
・女中、昨夜の経緯を話す
・旦那が出てきて、それは金の神だと言う
・女中、若旦那と結婚する

 形態素解析すると、
名詞:女中 火 亡者 山 むしろ 屋敷 庭 番 番頭 老人 それ 一緒 他 向こう 囲炉裏 大歳 小判 年下 日 旦那 昨夜 気 疲労 白髪 皆 目 神 経緯 結婚 者 若旦那 金
動詞:出る 言う あげる おく する つく めくる 入る 向かう 命じる 応じる 掛ける 消える 焚く 終える 背負う 褒める 見える 話す 起きる 運ぶ
副詞:うとうと つい 一番

 女中/白髪の老人の構図です。抽象化すると、女/神です。女中―火/亡者/金―老人の図式です。

 一番年下の女中に大歳の日の火の番が命じられる[命令]。女中、疲れからまどろんでしまい、気づいたときには火は消えていた[消火]。山の向こうに火が見えた[展望]。女中、山に向かう[赴く]。山では白髪の老人が火を焚いていた[たき火]。老人、亡者と一緒なら火をやろうと言う[提案]。女中、亡者を背負って屋敷に運ぶ[帰還]。亡者を庭に置き、むしろを掛ける[隠蔽]。夜が明け、番頭が女中を褒める[讃辞]。番頭が庭のむしろをめくったところ、亡者は小判の山となっていた[変化]。女中、事情を話す[説明]。それは金の神だとなり[推定]、女中、若旦那と結婚する[結婚]。

 亡者を厭わず背負って帰ると金に変化していた……という内容です。

 発想の飛躍は亡者が小判の山に変化することでしょうか。女中―火/亡者/金―老人の図式です。

 死体が小判に変化するのですが、こういう場合は死体化生型と呼ぶのでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.116-118.

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後半はゴッホ論――坂崎乙郎「絵とは何か」

坂崎乙郎「絵とは何か」を読む。美学についてYahoo知恵袋で質問して紹介された本。感性の衰えと審美眼の関連について質問したもの。本書では審美眼は「違いがわかる」と言い表されている。昔、インスタントコーヒーのCMで「違いの分かる」というキャッチコピーがあった。CMの登場人物はいずれも四十代のクリエイター、アーティストであるとしている。違いが分かるためには上限から下限まで経験することが必要だとしている。また、老化で感覚の衰えは訪れるが、むしろ審美眼にはプラスに働くとしている。後半はゴッホの人生について語られている。ゴッホの伝記が読みたくなった。

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2022年7月27日 (水)

とりつこうかひっつこうか――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、あるところに爺さんと婆さんがいた。爺さんは山へ木こりに行った。婆さんは後から弁当を持っていった。松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がした。恐ろしくなった婆さんは急いで爺さんのところへ行った。帰りはどうしようかと婆さんが言うと「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と言えと教えた。そこで婆さんが帰りに松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がしたのでは婆さんは爺さんに聞いた通りに言った。そうしたら大判、小判、白金が手も足も動かないほどに引っ付いた。婆さんはうんうん唸って家に戻って、身体にひっついた黄金、白金、大判、小判をむしりとって大金持ちになった。

 これを隣の婆さんが聞いて、爺さんを無理やり山へ木こりにやった。そして後から弁当を持っていった。松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がした。帰りにまた声がした。婆さんは「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言った。すると婆さんの身体に松やにが一杯引っ付いた。そこへ六部さんが通りかかった。婆さんがうんうん唸っているので具合が悪いのか訊いたところ、「具合どころではない。松やにだらけで手も足も動かされん」と言った。そこで六部さんがこの松やにを取るには家へ帰って大火を焚いて焙(あぶ)れと言った。そこで婆さんは家へ帰って大火を焚いて焙った。そうしたら、婆さんの身体に火がついて、婆さんは焼け死んだ。人まねをして欲張るものではない。

◆モチーフ分析

・爺さん、山へ木こりに行く
・婆さん、弁当を持っていく
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
・婆さん、爺さんにどうするか相談する
・爺さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と教える
・婆さん、爺さんに言われた通りにする
・大判、小判、白金が身体にひっつく
・爺さんと婆さん、大金持ちになる
・隣の婆さん、爺さんを無理やり木こりにやる
・隣の婆さん、弁当を持っていく
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
・帰りに声がして婆さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言う
・松やにが隣の婆さんの身体につく
・通りかかった六部が火を焚いて焙れと教える
・焙ったら、松やにに火がついて隣の婆さんは死んでしまう

 形態素解析すると、
名詞:婆さん 爺さん 隣 声 大判 小判 弁当 木こり 松やに 火 白金 身体 途中 六部 大金持ち 山 相談 通り 黄金
動詞:ひっつく する つく とりつく とりつける とる ひっつかむ 持っていく 教える 焙る 言う なる やる 帰る 死ぬ 焚く 行く 通りかかる
副詞:どう 無理やり

 婆さん/隣の婆さんの構図です。抽象化すると、主人公/模倣者です。婆さん―大判/小判―声、隣の婆さん―松やに―声の図式です。

 山へ木こりに行った爺さんの許へ婆さん、弁当を持って行く[持参]。すると不思議な声がする[呼び声]。「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と叫ぶ[応答]すると、黄金が身体中にひっつく[付着]。婆さん、大金持ちになる[到富]。隣の婆さん、それを真似する[ものまね]。すると松やにがひっつく[付着]。松やにを取るために火で焙ったところ、身体に火が付いて[着火]して焼け死ぬ[焼死]。

 隣の婆さんが真似したところ、松やにがひっついた……という内容です。

 発想の飛躍は婆さんと隣の婆さんでひっつくものが違うというところでしょうか。婆さん―大判/小判―声、隣の婆さん―松やに―声の図式です。

 隣の爺譚です。善良な婆さんと欲深の婆さんで同じパターンを繰り返しますが結末が異なります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.113-115.

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2022年7月26日 (火)

狸と狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 狐と狸が出会った。狐が狸に空死にするように言って、狐は猟師に化けて狸を背負って町へ出て狸を売った。狐は狸は空死にするものだから、しっかり縛り付けておくように言ったので買い手は狸をしっかり縛った。狐の猟師は狸を売った金で焼き餅を買って、吊されている狸のところへ行って、焼き餅を買ったから下りてこいと言った。しっかり縛られているので中々身体が抜けない。ようやく下りてくると狐は焼き餅を全部食べてしまった。狸は皆食ったとプンプン怒った。狸は仇をとってやるぞと思って翌晩狐のところに鮒(ふな)を持っていった。狐がどうして獲ったか訊くと、狸は夜に堤へ尻尾をつけているといくらでも食いつくと言った。狐は狸に案内されて堤へ行った。そして狸の言う通り尻尾を水につけてじっとしていた。狸がまだまだと言うので狐はじっと尻尾をつけていた。そうして夜中尻尾を堤につけていたので氷が張って尻尾がとれなくなった。夜が明けて動けなくなっているところを人に見つけられ、散々な目に遭った。

◆モチーフ分析

・狐と狸が出会った
・狸に空死にするように言い、狐は猟師に化けて狸を売る
・買い手、言われた通りに狸をしっかり縛る
・狐、狸を売った金で焼き餅を買う
・狐、狸に降りてこいと言う
・狸、しっかり縛られているため身体が抜けない
・ようやく下りてくると、狐は焼き餅を全部食べてしまった
・狸、狐が全部食べたと怒る
・狸、仇を取るために翌晩狐のところに鮒を持っていく
・狸、夜に堤に尻尾をつけていると食いつくと言う
・狐、狸に連れられて堤へ行く
・狐、狸の言う通り、尻尾を水につける
・狐、尻尾を水につけ続ける
・氷が張って、狐、動けなくなる
・夜が明けて人に見つかり、散々な目に遭う

 形態素解析すると、
名詞:狸 狐 尻尾 ため 堤 夜 水 焼き餅 通り ところ 人 仇 散々 氷 猟師 目 空死に 翌晩 買い手 身体 金 鮒
動詞:言う つける 売る 縛る 食べる つけ続ける 下りる 出会う 動く 化ける 取る 張る 怒る 抜ける 持っていく 行く 見つかる 買う 連れる 遭う 降りる 食いつく
副詞:しっかり 全部 ようやく 明けて

 狐/狸の構図です。抽象化すると、動物同士です。狐―焼き餅―狸、狸―鮒―狐の図式です。

 狐、狸と会う[邂逅]。狐、狸に空死にするように狸に言う[騙す]。狐、猟師に化けて狸を売る[売却]。狸、しっかり縛られる[緊縛]。狐、焼き餅を独り占めする[独占]。狸、怒る[憤怒]。狸、狐のところに鮒を持って行く[持参]。狸、狐に堤で尻尾を水につけていると釣れると言う[騙す]。狐、尻尾を水につけ続ける[垂らす]。水が凍って狐、動けなくなる[凍結]。夜が明けて人に発見され、散々な目に遭う[遭難]。

 狐に騙された狸は意趣返しで狐を騙す……という内容です。

 狐と狸の化かし合いが発想の飛躍でしょうか。狐―焼き餅―狸、狸―鮒―狐の図式です。

 狐と狸が争うと狐が勝つ話の方が多いような気がするのですが、ここでは引き分けとなります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.110-112.

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2022年7月25日 (月)

猫と鼠――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、神さまが十二の干支(えと)を決めるため正月十二日朝、まっさきに来た者から順番を決めることにした。猫はその会議に差し支えがあって行けなかったので、鼠(ねずみ)に干支を決める日はいつだったか訊いた。鼠は猫を騙して十三日だったと答えた。鼠は十一日の晩、牛小屋の中で寝ていた。夜中頃、牛がごそごそ出始めたので、どこへ行くか訊いたところ、そろそろ出かけないと間に合わないと言った。鼠はずるい事を考えて牛の背中に乗った。そうして神さまの門口についた時、ぴょんと飛び降りて牛より先になった。そこで鼠が一番、牛が二番となった。十三日の朝、猫は一番になろうと早々に出かけていった。すると門番が何しに来たと訊いたので、今年は干支が決まるというのでやって来たt答えた。すると何を寝ぼけている。顔を洗ってこい。あれは昨日済んだと散々に笑われた。猫は鼠に騙されたと腹が立ち、その日から顔を洗うことを始めた。そして鼠を探しては捕る様になった。

◆モチーフ分析

・干支を決めるため正月十二日朝にまっさきに来た者から順番を決めることになった
・猫はその会議に行けなかった
・猫、干支を決める日を鼠に尋ねる
・鼠、十三日だと猫を騙す
・十一日の晩、鼠は牛小屋で寝ている
・牛が出発したので、その背中に飛び乗る
・牛が門口に到着した際に飛び降りて一番乗りとなる
・鼠、干支の一番目となる
・十三日、猫が神さまの門口に行く
・干支を決めたのは昨日だ。顔を洗ってこいと嘲笑される
・鼠を恨んだ猫はそれから顔を洗い、鼠を捕るようになった

 形態素解析すると、
名詞:鼠 猫 干支 十三 牛 門口 顔 一 十一 十二 こと それ ため まっさき 一番乗り 会議 出発 到着 嘲笑 日 昨日 晩 朝 正月 牛小屋 神 者 背中 際 順番
動詞:決める なる 洗う 寝る 尋ねる 恨む 捕る 来る 行う 行く 飛び乗る 飛び降りる 騙す
連体詞:その

 鼠/猫、鼠/牛の構図です。抽象化すると、動物同士です。鼠―(騙す)―猫、鼠―(飛び乗る)―牛の図式です。

 干支を決まる集まりが開かれることになった[開催]。猫は鼠にその日は何時か訊く[質問]。鼠は猫に嘘の日を教える[騙す]。鼠は牛の背中に乗り、一番乗りを果たす[一番乗り]。鼠、干支の一番目の地位を得る[獲得]。猫は鼠に騙されたことに気づく[判明]。鼠を恨んだ猫は顔を洗うようになり[洗顔]、鼠を捕るようになった[捕獲]。

 干支を決める日に出遅れた猫は顔を洗うようになり、鼠を捕るようになった……という内容です。

 発想の飛躍は鼠のずる賢い知恵でしょうか。鼠―(騙す)―猫の図式です。猫が顔を洗い、鼠を捕るようになった由来譚ともなっています。これもアジアで見られる昔話です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.108-109.
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)p.290.

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文学青年だった柳田――大塚英志「社会をつくれなかったこの国がそれでもソーシャルであるための柳田國男入門」

大塚英志「社会をつくれなかったこの国がそれでもソーシャルであるための柳田國男入門」(角川EPUB選書)を読む。「ソーシャル」という英語には実は適切な日本語訳がないのではないかとしている。米国では結社がそうであるとのこと。

柳田がロマン主義の文学青年だった話は知らず、田山花袋との関係は勉強になった。文学を止め、官僚/農政学者の道をまず歩みはじめることになる訳だが、「経世済民」の思想はその後の民俗学、戦後の国語・社会科教育でも一貫しているとしている。また、自分で学んで自分で判断するという近代における個の確立を重視していたともする。周囲に流されるのでは自分で判断していることにならないのである。

著者は柳田の学問における手法をデータベース的、ハイパーテキスト的と指摘する。それは雑誌の運営において研究者個人の他に先駆けた発表を重視する方法論と齟齬をきたす。柳田がやろうとしていたことは現代になってWEBが発展することによってようやく機能する方法論だったのである。そういう意味で柳田の方法論はソーシャルなものだったのである。

基本的に漫画編集者/原作者でサブカル評論家であり民俗学に関しては学士でしかない著者が大学で民俗学の講義を行うことはアカデミック・ポストを一つ奪うものであり、いかがなものかと思っていたが、本書を読んでまあ許せるかという印象に変わった。

<追記>
要するに大塚が言いたいのは、近代的自我の確立だろう。それは果たして達成しなければならないものだろうか。欧米とは異なるルートを通ってきた日本人が小魚の群れ的な行動をとる傾向にあるのは、ある意味本能的な処世術である。


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2022年7月24日 (日)

ホトトギス――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、ホトトギスと雉子(きじ)がどちらがたくさん鳴くか自慢し合った。雉子が自分は秋の彼岸から春の彼岸までに一千一声鳴くと自慢した。ホトトギスは負けん気になって自分は一夏に八千八声鳴いてみせると自慢した。それでは見せてみよという話になった。さっそくホトトギスは鳴き始めたが中々八千八声は鳴けなくて、仕方がないから飛んでいるときも鳴いた。それでも八千八声には届かないので、今度は夜も寝ずに鳴いた。しまいには喉から血が出た。それでも雉子に約束した八千八声鳴かねばならない。困った。卵を産んでかえすときに鳴かなかったら八千八声にならない。そこで考えた。鶯(うぐいす)がいない時には鶯の卵を放りだして自分の卵を産んでおいた。そうと知らない鶯は一生懸命かえして育てた。ホトトギスの子は一人で飛べるようになると、他所へ飛んでいってしまうそうだ。そうしてホトトギスは八千八声鳴く。八千八声鳴くと喉から血を出して死んでしまうそうだ。

◆モチーフ分析

・ホトトギスと雉子がどちらがたくさん鳴くか自慢し合う
・雉子、秋の彼岸から春の彼岸までに一千一声鳴くと自慢する
・ホトトギスは負けじと一夏に八千八声鳴くと自慢する
・それでは見せてみよと実行を迫られる
・一日中鳴いても八千八声に届かない
・ホトトギス、鶯の巣に自分の卵を産み付ける
・鶯、ホトトギスの卵をかえして世話する
・ホトトギス、八千八声鳴いて喉から血を流して死ぬ

 形態素解析すると、
名詞:ホトトギス 八千八 自慢 卵 彼岸 雉子 鶯 千一 たくさん どちら 一夏 世話 喉 実行 巣 春 秋 自分 血
動詞:鳴く かえす 届く 死ぬ 流す 産み付ける 見せる 負ける 迫る
副詞:一日中

 ホトトギス/雉子の構図です。抽象化すると、鳥同士です。ホトトギス―(無く)―雉子、ホトトギス―卵―(産み付ける)―鶯の図式です。

 ホトトギスと雉子が自慢し合う[自慢合戦]。ホトトギス、見栄をはったところ、それでは実行せよと迫られる[追求]。一日中鳴いても届かない。そこで鶯の巣に卵を産んで鳴き続ける[托卵]。約束を達成したら喉から血を流して死ぬ[喀血死]。

 八千八声を鳴くと自慢したホトトギスだったが、約束の実行を迫られてしまう……という内容です。

 発想の飛躍は八千八声でしょうか。ホトトギス―(無く)―雉子の図式です。見栄を張ったばかりに実行せねばならなくなってしまいます。鶯に托卵させる理由づけとしても発想の飛躍が見られます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.107.

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サブカル談義ではない――大塚英志、東浩紀「リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか」

大塚英志、東浩紀「リアルのゆくえ――おたく/オタクはどう生きるか」(講談社現代新書)を読む。サブカル評論家として知られている二人の対談なのでサブカル談義と思っていたら、政治的なもの、更に言えばもっと根源的なものに対する議論の応酬だった。お互いツーカーの仲の人が予定調和的に対談するよりは生産的なのかもしれない。

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第11回高校生の神楽甲子園 二日目

「第11回高校生の神楽甲子園」二日目をYouTubeのライブ配信で視聴する。高千穂神楽、備後神楽、豊前神楽、富山のおわら等普段見られない演目が鑑賞できた。全国大会のメリットである。石見神楽・芸北神楽は安定の出来だった。日芸選賞は賀茂北高校・備後神楽部「剣舞・折敷舞」だった。視聴者数は300人ほどだった。

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2022年7月23日 (土)

藁しべと炭と豆――モチーフ分析

◆あらすじ

 炭が囲炉裏から真っ赤になって逃げ出した。藁しべも囲炉裏から逃げ出した。鍋の中で煮えていた蚕豆も飛び出した。三人は一緒になって逃げたが、途中に小川があって渡れないので途方に暮れた。藁しべが橋になって炭と蚕豆がその上を渡ることになった。まず炭が渡りはじめたが、まだ身体が焼けているので橋の真ん中で藁しべを二つに焼き切ってしまった。藁しべは落ちて流れてゆき、炭は川に落ちてブクブクと沈んでしまった。それを見て笑った蚕豆だったが、あんまり笑ったので腹の皮が裂けてしまった。蚕豆の腹にある筋はその時医者に縫ってもらった跡である。

◆モチーフ分析

・炭が囲炉裏から逃げ出した
・藁しべも囲炉裏から逃げ出した
・鍋の中の蚕豆も逃げ出した
・三人は一緒に逃げた
・途中に小川があって渡れない
・藁しべが橋になった
・炭が橋を渡りはじめたが、藁しべが焼き切れてしまう
・藁しべは流れて落ちていった
・炭は川に落ちて沈んだ
・それを見た蚕虫は笑う
・笑い過ぎたので腹の皮が裂けてしまった
・蚕豆の腹にある筋はそのとき医者に縫ってもらった跡である

 形態素解析すると、
名詞:藁しべ 炭 囲炉裏 橋 蚕豆 三 それ とき 中 医者 小川 川 筋 腹 腹の皮 虫 蚕 跡 途中 鍋
動詞:逃げ出す ある 落ちる なる 沈む 流れる 渡す 渡りはじめる 焼き切れる 笑い過ぎる 笑う 縫う 裂ける 見る 逃げる
副詞:一緒に
連体詞:その

 藁しべ/炭/蚕豆の構図です。抽象化すると物同士の構図です。藁しべ―(焼き切れる)―炭―(笑う)―蚕豆の図式です。

 炭と藁しべと蚕豆が逃げ出した[逃亡]。逃げる途中、小川があって渡れない[渡河]。藁しべが自らを橋として橋を架けた[架橋]。炭が通ろうとすると焼けて切れた[切断]。炭は落下して川に沈んだ[沈没]。それを見た蚕豆は笑った[嘲笑]。笑い過ぎて腹が割けた[割腹]。割けた腹を医者に縫ってもらった[縫合]。

 藁しべの上を炭が通ろうとして焼け切れたのを見て蚕豆が笑った……という内容です。

 発想の飛躍は炭と藁しべと蚕豆が一緒に逃げ出すところでしょうか。藁しべ―(焼き切れる)―炭―(笑う)―蚕豆の図式です。

 それぞれの特性通りの結末となります。これは世界中に分布する昔話です。日本に入ってきたのは、それほど昔ではないでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.106.
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)p.329.

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第11回高校生の神楽甲子園 一日目

「第11回高校生の神楽甲子園 ひろしま安芸高田」をYouTubeのライブ配信で視聴する。睡眠不足で前半は半分寝落ちしていた。良かったのは鳥取県の日野高校の「荒神神楽 大蛇」。普段と違う大蛇が見られた。浜田商業は「塵輪」から「八幡」に演目の急遽差し替えがあったようだが安定していた。日芸選賞は益田東高校の「鞨鼓・切目」だった。動画視聴者数は200人を切る水準だった。まだまだ伸ばせる数字だと思う。

去年は電子書籍の作業を優先して見なかったのである。

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時系列的には2章→3章→1章――東浩紀「ゆるく考える」

東浩紀「ゆるく考える」を読む。時系列的には2章→3章→1章と並ぶので、その順で読んだ方が良かったかもしれない。著者の考えは例えば東日本大震災を契機に変化しているが、グラデーション的に変化しているはずなのである。内容的には新聞や文芸誌に載った評論をまとめたもので、特に難しい概念もなくすらすらと読めるだろう。

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2022年7月22日 (金)

榎の木山の山姥――モチーフ分析

◆あらすじ

 清見の大掛と平田の田原との境に榎(えのき)の木山という山がある。むかし榎の木山に山姥がいて大掛の川渕や田原の伊の木へ時々木綿を引きに出てきた。山姥は一日に糸巻きの管にやっと二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと不思議に巻いても巻いても糸が出てきて榎の木山の高さよりもっと長く出た。山姥の髪は真っ白だったが、山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くしていつまでも流れた。その後榎の木山の持ち主が山の木を伐り払ったため、山姥は髪の白いのが恥ずかしくていることができず石見町の原山へ逃げていった。その時、清見の川渕と田原の伊の木の二軒だけは食物に不自由のないようにといって飯杓子を一本ずつ渡して、飯が少ないときはこの杓子でまぜるといくらでも増えると教えていった。ところが伊の木では父親が外から帰ってきてこんな汚い杓子はいらんと捨ててしまった。後からその杓子の有り難さを知って探しに行ったが、どこにも見えなかった。山姥が田原の金沢へ一度宿を借りに来た。気持ちよく宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をあげるから、これからは水に不自由はせぬと言った。この水は濁っているが今でも絶えることはない。榎の木山の九合目には山姥のせんち石といって山姥がせんちにした跡という岩がある。

◆モチーフ分析

・昔、榎の木山に山姥がいて時々木綿を引きに出てきた
・一日に糸巻きの管に二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと巻いても巻いても糸が出てきた
・山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くした
・榎の木山の木が伐り払われたため、山姥は恥ずかしがって原山へ逃げていった
・その際、二軒の家に飯杓子を渡した
・その飯杓子で混ぜると飯が幾らでも増えた
・伊の木では父親が汚いといって飯杓子を捨ててしまった
・後でありがたさを知って探したが見つからなかった
・山姥に宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をくれた
・その水は濁っているが涸れることがない
・山姥が雪隠にしたという岩がある

 形態素解析すると、
名詞:山姥 飯 杓子 榎 二 とぎ汁 木 木山 米 一 お礼 かせ ぐ こと ため ところ 伊 原山 家 宿 岩 幾ら 後 昔 時々 木川 木綿 水 父親 管 糸 糸巻き 際 雪隠
動詞:巻く する 出る 引く ある いう いく いる くれる 伐り払う 増える 捨てる 探す 涸れる 混ぜる 渡す 濁る 知る 見つかる 貸す 逃げる
形容詞:ありがたい ない 恥ずかしい 汚い 白い
連体詞:その

 山姥/人の構図です。山姥―引く―糸、山姥―杓子―家、山姥―とぎ汁―宿、山姥―雪隠―岩といった図式です。

 山姥がかせに巻くと幾らでも糸が出てきた[無尽]。山の木が伐り払われたので、山姥は恥ずかしがって逃げていった[逃散]。山姥が渡した飯杓子で混ぜると飯が幾らでも増えた[無尽]。山姥に宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をくれた[贈与]。その水は濁っているが枯れることがない[無尽]。山姥が雪隠にしていた岩がある[由来]。

 榎の木山の山姥は人に幸いをもたらした……という内容です。

 発想の飛躍は糸巻き、飯杓子、米のとぎ汁でしょうか。山姥―引く―糸、山姥―杓子―家、山姥―とぎ汁―宿といった図式です。

 榎の木山の山姥に関する伝説を幾つかまとめたものの様です。怖い山姥ではなく優しい山姥です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.104-105.

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2022年7月21日 (木)

山姥の手つだい――モチーフ分析

◆あらすじ

 石見町矢上の原山にある岩窟は市木浄泉寺の下まで続いていると言われている。そしてこの岩窟には山姥が住んでいたという。昔、大石の田植えは分限者のことで大田植だった。毎年のように早乙女(さおとめ)を十四五人雇っていたが、田植えの日になると夜明けからきれいに身支度をした早乙女が集まって田に入る。苗取りのときはそんなにはっきりしないが、並んで植え始めるとどうも雇った人数より一人多い。ところが不思議なことに顔を見ても違った人は見当たらない。それが、数えてみると一人多いので、誰か手伝いに来てくれたのだろうと昼飯の準備は一人増やしておいた。昼になって早乙女は田からあがって食事をした。ところが済んでから見ると一人分残っている。変に思って午後田に出た早乙女を数えてみると、やはり一人多い。ますます変だと思いながら田植えが済んで田から上がった人数を数えてみると、間違いなく雇っただけの人数だった。それでいよいよ訳が分からなくなってしまった。明くる年もその明くる年も同じ様な事が続いて、結局一人増えるのは山姥が手伝いに来たのだろうということになった。

◆モチーフ分析

・矢上の原山にある岩窟は浄泉寺の下まで続いていると言われている
・この岩窟には山姥が住んでいたという
・昔、大石の大田植は毎年のように早乙女を十四五人雇っていた
・田植えをはじめて見ると、どうも雇った人数より一人多い
・ところが顔を見ても違った人は見当たらない
・一人多いので昼食を一人分増やしておいたが、済んでみると一人分余っている
・変に思って早乙女の数を数えるが、やはり一人多い
・田植えが済んで田から上がった人数を数えると、雇っただけの人数だった
・明くる年もその明くる年も同じ様なことが続いた
・一人増えるのは山姥が手伝いに来ているのだろうということになった

 形態素解析すると、
名詞:一人 人数 こと 山姥 岩窟 早乙女 明くる年 田植え 十四 下 人 原山 変 大石 寺 数 昔 昼食 毎年 浄泉 田 田植 矢上 顔
動詞:雇う いう 数える 済む 続く 見る ある なる 上がる 住む 余る 増える 増やす 思う 手伝う 来る 見当たる 言う 違う
形容詞:多い
形容動詞:同じ
副詞:どう はじめて やはり
連体詞:この その

 山姥/早乙女の構図です。抽象化すると、妖怪/娘です。山姥―田植え―早乙女の図式です。

 大田植で人数を数えると一人多い[計算]。顔を見ても違わない[確認]。昼食を一人分多く用意したが、一人分余る[余剰]。田植えが終わって数えると雇っただけの人数である[確認]。毎年同じことが続いた[継続]。山姥が手伝いに来訪しているのだろうということになった[解釈]。

 どう数えても一人多いですので、山姥が手伝いに来ているということになった……という内容です。

 発想の飛躍はいつの間にか一人増えているということでしょう。山姥―(手伝う)―田植え―早乙女の図式です。

 座敷童と似たテイストでもあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.103.

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二十代の頃の仕事――東浩紀「郵便的不安たちβ」

東浩紀「郵便的不安たちβ」を読む。著者の90年代の評論をまとめたもの。二十代の頃の仕事となる訳だが、この時点で東氏はメタフィクショナルな構造というか仕掛けを好んでいる。また、サブカル評論の世界に足を踏み入れるきっかけはエヴァンゲリオンだったことが明らかとなる。やっぱりエヴァですかといった感想。セカイ系の到来を予知した様な記述もある。近年の東氏はサブカル評論を止め、政治思想的なものに軸足を移しているが、一貫性はあるのだということが分かる。

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2022年7月20日 (水)

丸瀬山の山姥――モチーフ分析

◆あらすじ

 平安時代のはじめ、唐から帰ってきた弘法大師は金剛杖をつきならしながら宇坂峠を越えて市木の里へ入ってきた。峠から真正面にあおぐ丸瀬山の気高い姿は若い弘法大師の心をとらえた。この山を開いて道場を建て、金剛峯寺を開基しようと思った。大師はいばらの茂みを分けて丸瀬山に入った。そして谷から峯へと調査して回った。調査も大体終わって谷の数も峯の数も開基に都合のよいことが分かってきた。ところがこの事を知ってこの山に住む山姥が気をもみはじめた。このままでおくと山は開かれ大勢の人が出入りするようになって住む所が荒らされてしまう。その様な事にならぬよう細工をしてやろうと言って山姥は谷を一谷隠してしまった。弘法大師が最後の調査をしてみると、開山には四十八谷なければいけないのに四十七谷しかない。不審に思ってもう一度数えてみた。しかしどうしても四十七谷しかない。遂に諦めるより仕方がなかった。しかし、せめてこの山へ入った記念にと、大師は三体の観音さまを刻んで山に留め、次の山をもとめて三坂を超え芸州路へ向かった。こうして丸瀬山は山姥の邪魔でついに開かれることなく終わった。今でも隠しが谷といってその時山姥が隠したという谷がある。

 大師はまたこのとき丸瀬山から日本海の激しい波風の有様を見て、行き交う船の安全を祈願して仏像を残された。その後丸瀬山には夜な夜な灯がともり、沖に出た船はこの灯を唯一の目印にした。ことに海の荒れる時は、どんな大荒れにも消えることのないこの灯を頼って帰れば難船を免れた。

 観音さまの一体は観音寺原に、一体は麦尾に飛んで行き、一体は山に残っている。山に残った一体は昔ある人が丸瀬山の頂きの岩屋で見かけたので、明くる日に迎えて帰ろうと思っていったが、どうしても見つけることができなかったという。

◆モチーフ分析

・弘法大師、市木の里へ入ってくる
・弘法大師、丸瀬山の山並みに惹かれる
・弘法大師、丸瀬山に道場を開基しようと考える
・弘法大師、開基のための調査を行う
・調査は順調に進む
・丸瀬山に住む山姥がこのままでは丸瀬山に人が増え、自分の住処が荒らされると懸念する
・山姥、谷を一つ隠す
・弘法大師が谷の数を数えると四十七谷しかない
・四十八谷に一谷足りないので諦める
・弘法大師、市木の里を去る
・弘法大師、丸瀬山に仏像を残した
・その後、丸瀬山の漁り火によって多くの船が難破を免れた
・仏像は二体が外に流出した
・残りの一体は頂きの岩屋で見つかったが、その後見た者はいない

 形態素解析すると、
名詞:弘法大師 丸 丸瀬 山 瀬山 四〇 仏像 山姥 市木 調査 谷 里 開基 二 このまま ため 一つ 一体 一谷 七谷 人 住処 八谷 外 多く 山並み 岩屋 後 後見 懸念 数 流出 漁り火 者 自分 船 道場 難破 頂き 順調
動詞:いる よる 住む 免れる 入る 去る 増える 惹く 数える 残す 残る 考える 荒らす 行う 見つかる 諦める 足りる 進む 隠す
形容詞:ない
連体詞:その

 弘法大師/山姥の構図です。抽象化すると、宗教家/妖怪です。弘法大師―谷―(隠す)―山姥の図式です。

 丸瀬山で開基しようと調査を開始した弘法大師だったが[調査]、丸瀬山に住む山姥が谷を一つ隠してしまう[隠蔽]。再調査したところ四十八谷に一つ不足し開基を諦める[断念]。弘法大師は市木を去る[撤退]。弘法大師は去り際に三体の仏像を残す[形見]。それによって多くの船が難を逃れる[救済]。三体の仏像は離散して今は無い[不存在]。

 発想の飛躍は山姥が谷を一つ隠してしまうというところでしょうか。弘法大師―谷―(隠す)―山姥の図式です。

 実際にそのような谷があるということも想像を膨らませます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.101-102.

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2022年7月19日 (火)

鏡が渕――モチーフ分析

◆あらすじ

 鳴美の堤から切り立った岩の上に登ると、小さな祠(ほこら)がある。竜の明神で、祠の前の岩角に立っている松を髪かけの松という。弘安(こうあん)正応(しょうおう)の頃、阿波麻生庄の領主小笠原長親は海辺防備の功によって村之郷に移封されて海を渡った。後に川本温湯城三原丸小城を中心にして十五代およそ三百年間この辺りを治めた小笠原氏の先祖である。長親は村之郷に来ると南山城を築いて根拠地とした。重臣に何々太夫宗利という武士がいた。まだ若年であったが優れた武士だったので軍師として重く用いた。足利の勢が攻め寄せた時、川を上って魚断(いおき)りに押し寄せると味方の軍勢は天嶮によってこれを防ぎ敵は意を断(き)って引き返したので魚断りというようになった。

 この戦いで最も手柄を立てたのは軍師の宗利だった。それで長親は宗利に自分の娘を妻に与えた。ところがしばらく経って疫病にかかり生まれもつかぬ醜い女になった。その頃小間使いに美しい女があって、宗利は次第に本妻を避けるようになった。本妻はこれを恨んで、ある日宗利を動かして小間使いを連れて魚断りの景色を見に出かけた。そして景色のよい明鏡台へいって、しばらく休息していると、小間使いは懐中から小さな鏡を取り出してほつれた髪をかきあげた。その時後ろから忍び寄った本妻はいきなり小間使いを岩の上から突き落とした。

 この時小間使いは手鏡に映った本妻の顔からそれと察したので、本妻の袖をしっかり掴んだ。それで、あっという間に二人の女は相重なって落ちていった。驚いた宗利が駆け寄ってみると、数十丈の岩壁を悲鳴をあげて落ちていく二人の黒髪はどちらも竜となって互いにもつれ争いながら途中の松の枝にかかって抜け、二人はそのまま遙か谷底の深さも知れぬ渕に呑まれてしまった。宗利は意外のことに驚くとともに、深く嘆き悲しんで蟇田まで帰り、自刃して果てた。二人の女を呑んだ渕を鏡が渕といい、以来二人は竜となって永遠に相戦ったと言われている。古くから三人を神に祀ってあったのを昭和九年の明神勧請のときに合祀した。

◆モチーフ分析

・足利との戦いで宗利、軍功を挙げる
・宗利、小笠原長親の娘を賜る
・宗利の本妻、疫病で醜い容姿になってしまう
・宗利、美しい小間使いに心を移してしまう
・本妻、宗利と小間使いを魚断りに誘う
・小間使い、髪のほつれを直そうとして背後に本妻が迫っていることに気づく
・本妻の裾を掴んだ小間使い、共に崖から転落する
・二人の髪が竜となる
・二人は渕に飲み込まれる
・衝撃を受けた宗利、自刃する
・本妻と小間使いは竜となって永遠に争った
・三人を祀った祠が建った

 形態素解析すると、
名詞:宗利 小間使い 本妻 二人 竜 髪 三 こと 娘 容姿 小笠原 崖 心 戦い 永遠 渕 疫病 祠 背後 自刃 衝撃 裾 足利 軍功 転落 長親 魚
動詞:なる する ほつれる 争う 受ける 建つ 挙げる 掴む 断る 気づく 直す 祀る 移す 誘う 賜る 迫る 飲み込む
形容詞:美しい 醜い
副詞:共に

 本妻/宗利/小間使いの構図です。抽象化すると、本妻/夫/妾です。本妻―宗利―小間使い、本妻―(争う)―小間使いの図式です。

 軍功を挙げ、主君の娘を賜った宗利だったが[結婚]、本妻が疫病で醜女となってしまう[変貌]。小間使いに心を移した宗利だったが[二心]、嫉妬した本妻が小間使いを崖から落とそうとする[殺害]。本妻と小間使いは共に渕に落下する[転落死]。宗利、自刃する[自害]。

 発想の飛躍は本妻と小間使いが共に渕に転落するところでしょうか。本妻―(争う)―小間使いの図式です。そこから更に二人が竜と化して互いに争うという形となっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.99-100.

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2022年7月18日 (月)

名馬池月――モチーフ分析

◆あらすじ

 治承(じしょう)三年の頃は邑智郡阿須那(あすな)の牛馬市が最も盛んな時だった。出雲の国飯石郡松笠村に竜頭ヶ滝という滝があった。後に名馬として有名になった池月はこの滝の近くで生まれた。小さいとき母馬が死んだ。母馬を探して滝の辺りをさ迷っている内に自分の姿が滝壺に映るのを母馬と思って滝壺に飛び込んだ。しかし水の中には母馬はいないので上に上がってみると水の中に母馬の姿が見える。そこで飛び込むが、やはり母馬はいない。こうした事を繰り返す内に泳ぎが上手になった。

 治承三年四月の阿須那の市にこの馬は馬喰(ばくろう)に連れられて都賀本郷まで来た。が、江川は雪解けで水が多く渡ることができない。しかし川向こうの都賀西では市へ行く牛や馬がひっきりなしに通っていく。これを見た馬は激しい流れに飛び込んで川を真一文字に渡って都賀西から阿須那の市場に駆け込んだ。驚いた人々が見ていると一人の商人が池月を栢(かや)の木に繋いだ。

 それからしばらくして雲州から馬の持ち主がやって来た。そして馬を売ろうとしたが買う人がいない。羽村長田までいったところで買い手がついた。その男は指を六本出した。持ち主は六百文だと思って手を打った。ところが買い手は六百両出したので売主は驚いた。この馬は名馬の相があり六百両でも安い位だとのことであった。

 この馬は後に東国に下って名馬の名が高くなり、遂に源頼朝に買い上げられた。元暦(げんりゃく)元年正月、宇治川の合戦に佐々木四郎高綱が池月に打ちまたがって先陣の名を天下にあげた。池月を繋いだ栢の木は阿須那の賀茂神社の境内に今もある。

◆モチーフ分析

・母馬をなくした子馬がいた
・子馬は滝壺の水面に映った自分の姿を母馬と思って飛び込んだ
・それを繰り返す内に泳ぎが上手になった
・江川は雪解けの水で増水していた
・馬は江川に飛び込んで一直線に対岸まで泳ぎ切った
・馬の買い手が持ち主に指六本示した
・それは六百文ではなく六百両だった
・その馬は名馬の相があるので六百両でも安いと評された
・その馬は東国へ上がり源頼朝に買い上げられた
・宇治川の先陣争いでその馬は見事に勝利した

 形態素解析すると、
名詞:馬 六〇〇 それ 子馬 母 江川 六 一直線 上手 先陣争い 内 勝利 名馬 増水 姿 宇治川 対岸 持ち主 指 東国 水 水面 源頼朝 滝壺 相 自分 買い手 雪解け
動詞:飛び込む ある いる する 上がる 思う 映る 泳ぎ切る 泳ぐ 示す 繰り返す 評 買い上げる
形容詞:ない 安い
形容動詞:見事
連体詞:その

 池月/滝壺、池月/江川、持ち主/池月/買い手、池月/宇治川の先陣争いの構図です。抽象化すると、動物/自然、人/動物/人です。池月―(飛び込む)―滝壺、池月―(泳ぎ切る)―江川、持ち主―池月―買い手、池月―勝利―先陣争いの図式です。

 母馬を亡くした[喪失]子馬は滝壺に飛び込むことを繰り返す[意図しない訓練]。成長した馬は増水した江川を泳ぎ切る[渡河]。馬は六百両で買い上げられる[買収]。東国に上がった馬は宇治川の先陣争いで勝った[勝利]。

 活きの良い馬は六百両で買われ、宇治川の先陣争いで勝利した……という内容です。

 発想の飛躍は、母馬と間違えて滝壺に飛び込む、増水した江川を泳ぎ切る、六百文どころか六百両で売れる……といった点と言えるでしょうか。複数ありますが、これは元々は別々の伝説が一つにまとまったものと考えられますから複数あり得る訳です。

 名馬池月の伝説は全国に伝播しており、その島根県バージョンです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.91-92.

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賀茂神社の三重の塔――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、石見町中野の賀茂神社の三重の塔を建てた時のこと。この塔は有名な左甚五郎に頼んで建てた。甚五郎は日本一の大工だから、どんな力を持っているかと思って原山の山姥が様子を見にやってきた。山姥が甚五郎にこの塔を一夜で建てることができるか尋ねた。甚五郎は一夜で建ててみせると請け負った。すると山姥が甚五郎が一夜で建てるなら自分も一夜で機を織ってその布で原山を包んでみせると言った。勝負をすることになった。夕方から仕事にかかった甚五郎は一生懸命細工をしたが夜明け近くなったので、ふと原山の方をみると、一面に白い布らしいものが山を包んでいる。負けてしまったと思った甚五郎は道具を片付けて早々に逃げ出した。日和を通って川戸越しの月の夜という所まで逃げたが、夜が明けたので原山の辺りを見回すとどうしたことか別に白い布らしいものは掛かっていない。よく考えてみると、どうも月の光で白く見えたのを布で包んであると勘違いしたのだと気がついた。しかし、今更帰る訳にもいかないので逃げていった。「月の夜」という地名は今でも残っている。

◆モチーフ分析

・賀茂神社の三重の塔を左甚五郎が建てた
・様子を見に原山の山姥がやって来た
・山姥、塔を一夜で建てることが出来るか甚五郎に尋ねる
・甚五郎、一夜で出来ると請け負う
・山姥、ならば自分は一夜で機を織って原山を包んでみせると言った
・甚五郎と山姥、勝負することになる
・夕方から仕事を始めた甚五郎、夜明け近くに原山の方を見ると、一面に白い布が包んである
・負けたと思った甚五郎、道具を片付けて逃げ出す
・月の夜まで逃げたが、夜明けに原山を見ると白い布は掛かっていない
・月の光で白く見えたのを勘違いしたらしい
・今更帰る訳にはいかないので逃げていった

 形態素解析すると、
名詞:甚五郎 原山 山姥 一夜 こと 塔 夜明け 布 月 一面 三重 仕事 光 勘違い 勝負 夕方 夜 左甚五郎 方 様子 機 神社 自分 訳 賀茂 道具
動詞:見る 出来る 包む 建てる 逃げる いく なる みせる やって来る 始める 尋ねる 帰る 思う 掛かる 片付ける 織る 見える 言う 請け負う 負ける 逃げ出す
形容詞:白い
副詞:今更

 左甚五郎/山姥の構図です。抽象化すると、人/妖怪です。左甚五郎―塔―原山―山姥の図式です。

 三重の塔を建てていた[建築]左甚五郎の許に山姥がやって来る[来訪]。甚五郎と山姥は一夜で塔を建てられるか、一夜で原山を布で覆えるか勝負する[賭け]。夜明け近く、原山が一面布で覆われていると見えた[認識]甚五郎は逃げ出す[逃走]。夜が明け月の夜までやってくると、それは錯覚だったと分かる[判明]。今更引き返す訳にもいかないので甚五郎は逃げていった[逃走]。

 発想の飛躍は一夜で山を布で覆うというところでしょうか。左甚五郎―塔―原山―山姥の図式です。勝負は一旦負けたかに見えますが、それは錯覚だったと判明するのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.97-98.

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2022年7月17日 (日)

犬伏山の大蛇――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、邑智郡都賀村の都賀西に高橋備前守という城主がいた。備前守に仕える三十六人の小姓の中に松原千代坊師という十七八ばかりの勇士がいた。ある日集まって話をしていると年長の小姓が犬伏山の大蛇の話を持ち出して、誰か嘘かまことか見届けてくる者はいないかという話になった。返事をする者はいなかったが、千代坊が名乗り出た。千代坊は他の小姓たちから妬まれていたのである。大蛇を従えて帰ったら残り三十五人の大小を褒美として進ぜようという話になった。千代坊は褒美は断ったが、これは皆の企みだとすぐ分かった。

 千代坊は独り犬伏山に向かった。犬伏山に近い向山の出口に一軒家があって老人夫婦が住んでいた。夕方、そこに千代坊がやって来て水を一杯所望した。千代坊はこれから犬伏山を越えると告げた。老人夫婦はここから一里あまり奥に椿の大木があって、そこに年を経た雄雌の大蛇がいる。これまで夜に犬伏山を通って災難に遭った者は数え切れないと引き留めたが、千代坊は礼を言って山へ入って行った。

 だんだん暗くなり、山は次第に深くなった。椿の木の下で大蛇が出るのを待ち受けた。真夜中になって大蛇が下りてきた。千代坊は大蛇を真っ二つに斬った。次に雌蛇が下りてきた。これも一刀のもとに胴切りにした。夜が明けてきた。しかし、千代坊は大蛇の毒気を全身に浴びて身体が次第にしびれてきた。勇気を奮い起こして谷底へ下りて大蛇の耳を四つ切り取って元のところへ這い上がったが、毒が全身にまわり気を失ってしまった。

 夜が明けるのを待って老人たちが山へ登ってきた。そして倒れている千代坊を助け起こして家へ連れ帰って介抱をして城へ知らせた。千代坊が目を覚ましたときには乗り物で城中へ迎え入れられた後であった。

 千代坊の勇気に感心した備前守は三十五人の小姓たちを閉門にし、三十五の大小を改めて褒美に取らせた。千代坊は身体が回復すると暇を願い、都賀東の金東寺に入って坊さんとなった。そして名を教雲と改め仏道の修行にいそしんだ。その子孫は吾郷村に今も続いている。

◆モチーフ分析

・都賀西の高橋備前守に仕える三十六人の小姓がいた
・その中に千代坊という十七八の勇士がいた
・ある日、小姓たちが犬伏山の大蛇の噂をした
・千代坊が大蛇を退治しに行くという話になった
・残り三十五人の大小を賭ける話となった
・千代坊、犬伏山に向かう
・途中、老人の家に立ち寄る
・老人たち、千代坊を引き留めるが、千代坊、出立する
・犬伏山の椿の木の下で千代坊、大蛇を退治する
・千代坊、もう一匹の大蛇も退治する
・千代坊、証拠に大蛇の耳を切り取る
・大蛇の毒気に当てられた千代坊、意識を失う
・老人たちがやって来て千代坊を介抱する
・千代坊が目覚めたときには城中にいた
・備前守、千代坊の勇気を讃え、褒美を取らせる
・千代坊、暇を乞い、仏門に入る

 形態素解析すると、
名詞:千代 大蛇 老人 退治 備前守 小姓 犬伏 話 一 十七 三十五 三十六 とき 下 中 介抱 仏門 伏山 出立 勇士 勇気 噂 城中 大小 家 意識 暇 木 椿 毒気 犬 耳 褒美 西 証拠 途中 都賀 高橋
動詞:いる いう なる する やって来る 乞う 仕える 入る 切り取る 取る 向かう 失う 引き留める 当てられる 残る 目覚める 立ち寄る 行く 讃える 賭ける
副詞:ある日 もう
連体詞:その

 千代坊/備前守/小姓、千代坊/大蛇/老人の構図です。抽象化すると、家臣/主君/家臣、家臣/動物/人です。千代坊―備前守―小姓、千代坊―大蛇―老人の図式です。

 小姓たちが大蛇の噂をする[噂]。千代坊が確認することになり賭けをする[賭け]。犬伏山に向かった千代坊、二頭の大蛇を退治する[退治]。証拠の耳を切り取る[獲得]。気絶した千代坊を老人が介抱する[介抱]。城中に戻った千代坊、褒美を得る[獲得]。千代坊、仏門に入る[出家]。

 約束通り、大蛇を退治した千代坊は備前守に勇気を讃えられたが出家した……という内容です。

 発想の飛躍は大蛇が二頭でることでしょうか。千代坊―大蛇―雄/雌の図式です。千代坊は難なく大蛇を退治しますが、毒気に当てられて気絶します。後に仏門に入ったのも大蛇退治と関係があるでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.93-96.

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2022年7月16日 (土)

虎の皮――モチーフ分析

◆あらすじ

 彦八が死んで閻魔さまの前へ出た。彦八は嘘ばかりついて人を騙していたから地獄だと閻魔は言った。彦八は鬼に向かって忘れ物をしたからちょっと帰らせて欲しい。来るときには虎の皮を土産に持ってくると言った。鬼は虎の皮が欲しいので許した。彦八が喜んで帰ると葬式の最中だった。柩の蓋を押し上げて生き返った彦八は心を入れ替え御法義者になった。今度死んで閻魔さまのところへ行くと成績がよいので極楽に行くことになった。そして地蔵さまに連れられて極楽へ行きかけると鬼が虎の皮を催促した。彦八はあれは嘘の皮だと答えて極楽へ行ってしまった。

◆モチーフ分析

・彦八、死んで閻魔の前に出る
・生前、嘘をついて人を騙していたから地獄行きだと言われる
・彦八、忘れ物をしたから一度戻りたいという
・鬼に虎の皮を土産にするからと許可を得る
・生き返った彦八、善人となる
・二度目に死んだ際、今度は天国行きだと告げられる
・鬼が虎の皮を欲しいと言う
・あれは嘘の皮だと言って極楽へ行ってしまう

 形態素解析すると、
名詞:彦八 皮 虎 鬼 二 あれ 人 今度 前 善人 嘘 嘘の皮 土産 地獄 天国 忘れ物 極楽 生前 許可 閻魔 際
動詞:行く 言う する 死ぬ いう つく なる 出る 告げる 得る 戻る 生き返る 騙す

 彦八/閻魔/鬼の構図です。抽象化すると、男/死後の世界の者です。彦八―虎の皮―鬼の図式です。

 死んだ彦八、地獄行きを言い渡される[宣告]。忘れ物をしたから猶予が欲しいと言う[要求]。虎の皮を土産にすると鬼に言う[条件の提示]。彦八、生き返る[復活]。彦八、心を入れ替える[善人化]。再び閻魔の前に立った彦八、極楽行きを言い渡される[宣告]。鬼が土産の虎の皮を催促すると<嘘>だったと述べて極楽へ行ってしまう[騙す]。

 虎の皮を土産にするからと鬼を騙し、要求されると、あれは嘘の皮だったと言い逃れる……という内容です。

 発想の飛躍は、あれは嘘の皮だったと言うところでしょうか。彦八―虎の皮―鬼の図式です。

 彦八譚です。彦八は日本昔話におけるトリックスターと言えるかもしれません。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.83-84.

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2022年7月15日 (金)

三把の藁を十八把――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、爺さんと婆さんがいた。娘がいていい女房だった。多くの若者が我こそは聟にと思っていた。いい聟をとろうと思った爺さんと婆さんは門口に立て札をたてた。三把の藁を十八把に数えた者に娘をやると宣言した。若者が代わる代わるやってきて、どうにか十八把に数えようと思ったが、どうしてもできない。皆、諦めて帰った。そこへ村一番の頓知(とんち)の利く者が行って、「ちょいと来ると二把(庭)ござる。なかえの隅に九把(鍬)ござる。門に三把で十八把」と答えた。感心した婆さんはこの者が聟だといって娘をやった(十四把にしかならないが話はこのようになっている)。

◆モチーフ分析

・爺さんと婆さんにいい娘がいた
・多くの若者が娘を嫁に欲しがっていた
・爺さんは門に立て札をたてお題を出す
・誰も解けない
・村一番の頓知の利く者がお題を解く
・婆さんは娘を嫁にやった

 形態素解析すると、
名詞:娘 婆さん 嫁 爺さん 題 多く 村一番 立て札 者 若者 誰 門 頓知
動詞:いる たてる やる 出す 利く 解く 解ける
形容詞:いい 欲しい

 爺さん/婆さん/娘/頓知の利く者の構図です。抽象化すると、親/娘/知恵ものの図式です。難題―娘―頓知の図式です。

 求婚のお題が出される[出題]。誰も解けない[不正解]。頓知の利く若者がお題を歌にかけて解く[解読]。若者、娘を嫁に貰う[獲得]。

 頓知を利かせた者が難題を解く……という内容です。

 発想の飛躍はお題とその答えでしょうか。難題―娘―頓知の図式です。歌で解くというのが気が利いています。

 難題婿譚です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.81-82.

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東アジアで注目の思想家――東浩紀「哲学の誤配」

東浩紀「哲学の誤配」を読む。誤配の哲学について解説するのかと勘違いしていた。内容はインタビューと講演、訳者解説などである。一般意志2.0やゲンロンなどについてである。東氏は韓国で注目されている思想家らしい。

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2022年7月14日 (木)

脱線≒発想――Tak.「書くためのアウトライン・プロセッシング~アウトライナーで発想を文章にする技術」

Tak.「書くためのアウトライン・プロセッシング~アウトライナーで発想を文章にする技術」を読む。電子書籍。アウトライン・プロセッサでまずアウトラインを構築し、そこから文章に落とし込んでいくプロセスが分かり易く解説されている。書いている内に脱線することがままあるのだが、その脱線は発想であるともしている。その点でフリーライティングの重要性についても説かれている。

僕自身は(いい意味で)煮詰まったらお風呂に入るようにしている。そうするとアイデアがポコポコと湧いてくるのだ。人によっては散歩でもいいだろう。リラックスしている状態だと脳はデフォルトモードネットワークという状態になり、発想が浮かびやすくなるのだそうである。

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ポストモダンはよく分からん――東浩紀「サイバースペースはなぜそう呼ばれるか+」

東浩紀「サイバースペースはなぜそう呼ばれるか+」を読む。著者の東氏はメタフィクション的な構図のある創作物を好む傾向にある。本書でもそれは表出していてSF作品が多数引用される。ポストモダン的な議論については予備知識がないため、よく分からなかった。

まあ、言ってしまえば、外国の偉い学者が定義した世間には馴染みのない概念/用語を駆使して己の思うところを述べるといったスタイルで貫かれているため、そういう作法に不案内なものにとっては何が言いたいのか訳が分からんということになってしまうのである。

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2022年7月13日 (水)

静間の狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 静間に引迫(ひきさこ)坂といってとても淋(さび)しい坂があった。ここはよく化物が出ると言われていた。ある日、雨の降る夕方に大浦の三四郎という人が坂を通りかかった。萱(かや)みのを着て、寒いので下に狐の皮を着ていた。そこへ向こうから三人若い者が来て出会った。若い者はこの辺りには化物が出るというがこやつだ。今日は三人いるから退治してやろうと相談して三四郎を捕まえた。三四郎は自分は大浦の者で大田に用事に行っての帰りだと説明しても若者たちは放そうとしない。その内に一人が三四郎の後ろに尻尾がぶらさがっているのを見つけた。三四郎は幾ら言っても駄目だと覚悟を決めた。そこまで見られては仕方がない。自分はこの坂にいる狐だ。助けてくれる代わりに守り銭を一文ずつあげようと言って、これは福の銭だから大事に持っていよ。これを廻して手を叩くと金が出るともったいらしく一文ずつ渡した。若い者たちはようやく手を放したので三四郎は家へ帰った。

 若い者はそれぞれ家へ帰った。一人は得意になって帰る途中で狐を捕まえて守り銭を貰ったと話した。そして三四郎の言った通りに一文銭を廻して手を叩いた。しかし幾らやっても銭は出てこない。ただの一文銭だとなった。他の若い者の家でも同じことだった。段々その話が広がって三人の若い者は三四郎に騙されたのだと笑われた。

 その話が大森の代官所の耳に入ったので、代官所では三四郎を呼び出した。三四郎はどうなることかと恐る恐る代官の前へ出た。近頃評判の一件は事実かと訊かれたので三四郎は事情を詳しく話すと、代官は三四郎の知恵で四人の命が助かったと褒美をくれた。

◆モチーフ分析

・大浦の三四郎が引迫坂を通りかかった
・雨なので萱みのを着け、寒いので狐の皮を着けていた
・三人の若者と出会った
・若者たちは三四郎を狐だと責める
・三四郎、事情を話すが聞き入れてもらえない
・三四郎、一文銭を狐の守り銭だと言って渡す
・若者たち、三四郎を解放する
・若者たち、家に帰る
・若者たち、三四郎に言われた通りにするが何も起きない
・ただの一文銭だとなる
・他の若者も同じ経験をする
・三四郎に騙されたと評判になる
・三四郎、代官所から呼び出される
・三四郎、事情を説明する
・代官所は三四郎の知恵を褒め、褒美を渡す

 形態素解析すると、
名詞:三四郎 若者 狐 一文銭 事情 代官 三 ただ みの 他 何 坂 大浦 家 引 皮 知恵 経験 萱 褒美 解放 評判 説明 迫 通り 銭 雨
動詞:する 渡す 着ける 言う なる 出会う 呼び出す 守る 帰る 聞き入れる 褒める 話す 責める 起きる 通りかかる 騙す
形容詞:寒い
形容動詞:同じ

 三四郎/三人の若者、三四郎/代官の構図です。抽象化すると、男/男、男/役人です。三四郎―一文銭―若者、三四郎―(話す)―代官の図式です。

 三四郎、狐であると疑われる[疑惑]。三四郎、事情を説明するが信じてもらえない[不審]。三四郎、嘘をついて放される[解放]。その後、三四郎の話が嘘だったと判明、評判となる[喧伝]。三四郎、代官所で事情を訊かれる[聴取]。三四郎、事情を話す[解説]。三四郎、知恵を褒められる[賞賛]。

 嘘をついて一文銭を渡したところ、まんまと騙された……という内容です。

 発想の飛躍は一文銭を狐の守り銭だと嘘をつくところでしょうか。三四郎―一文銭―若者の図式です。

 三四郎→若者→三四郎と視点が切り替わります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.77-80.

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2022年7月12日 (火)

個人的には紙の本と電子書籍に差を感じない――大山賢太郎「デジタル読書のすすめ:深層読書があなたの脳を拡張する」

大山賢太郎「デジタル読書のすすめ:深層読書があなたの脳を拡張する」を読む。電子書籍だとハイライトした部分をクラウドにシームレスに保存できる。そうして溜まった知識群を外部脳とし、そこから発想の飛躍を得るというものである。従来あったKJ法といった発想法では紙ベースなため手間が多く、実際には手をつけられないとしており、デジタル化された情報で深層読書を行うことのメリットを説いている。

直感やひらめきは感性と直結しており、無意識との関連性が強い。本書では無意識のレベルを外部脳として可視化することで発想を容易にさせると主張している。

例として挙げられているのがEvernoteで、クラウドに一括保存でき、検索性も高いとしている。現代的なツールである。

ソクラテスは口承を重視し、紙の文化に懐疑的だったというのが本書を読んで得られたトリビア。弟子のプラトンが紙に書き残すことでソクラテスの哲学は後世まで残ったとのこと。

僕自身は老眼になったこともあり、紙の本と電子書籍の読書にそれほど差異を感じていない。適当にペラペラとめくって遊ぶことなどはできないが。

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久手の狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 新田(しんた)に喜六という男がいて久手(くて)の西田屋へ奉公していた。その頃は狐がたくさんいて夜になると畑へ出て芋を掘るので小屋がけして芋番をしていた。喜六も毎晩芋番に出ていた。ある日芋番をしていると狐が出てきた。喜六は持っていた鎌を力まかせに投げつけた。鎌は当たらなかったが、驚いた狐は逃げていった。

 それから三日目の晩、喜六はいつもの様に芋番に出ていると、狐が喜六の友達の姿になってやって来た。友達は観音さまの庭で踊りの最中だ。親方も見ていないし、これから踊りに行こうと誘った。応じた喜六は観音さまの庭で踊り始めた。その内訳が分からなくなってしまった。

 一方、西田屋では朝になっても喜六が帰ってこないので大騒ぎとなって、村中総出で喜六を探した。四日目の朝、喜六は新田の実家の納屋の入口に髪をおどろにして身体中血だらけになって放心して座っていた。

◆モチーフ分析

・喜六という男がいて西田屋へ奉公していた
・狐が畑で芋を掘るので喜六も芋番をしていた
・ある日、芋番をしていると狐が出てきた
・喜六、鎌を投げつけた
・鎌は当たらなかったが、狐は驚いて逃げた
・それから数日、芋番に出ていると友人(狐)がやってきた
・友人、観音さまの庭で踊りをやっていると喜六を誘う
・喜六、親方もいないしと踊りに行くことにする
・踊っていると訳が分からなくなる
・西田屋では喜六がいなくなったと大騒ぎとなる
・村中総出で探す
・四日目に血だらけの姿で新田の実家で見つかる

 形態素解析すると、
名詞:六 喜 狐 芋 番 友人 西田屋 踊り 鎌 四 こと 大騒ぎ 奉公 姿 実家 庭 数日 新田 村中 男 畑 総出 血 親方 観音 訳
動詞:いる する やる 出る いう なる 分かる 当たる 投げつける 掘る 探す 行く 見つかる 誘う 踊る 逃げる 驚く
副詞:ある日

 喜六/狐の構図です。抽象化すると、男/動物です。喜六―鎌―狐の図式です。

 狐が芋を盗まないよう芋番をしている[見張り]。狐が来たので鎌を投げつける[攻撃]と狐は逃げる[退散]。それから数日、友人の姿に化けた狐が踊りに誘った[誘惑]。踊っている内に訳が分からなくなる[茫然自失]。数日後、血だらけの姿で見つかる[発見]。

 狐に鎌を投げつけたら、当たらなかったものの、恨まれて仕返しされた……という内容です。

 発想の飛躍は、踊っている内に訳が分からなくなることでしょうか。喜六―(踊る)―狐の図式です。

 芋番を抜け出して踊りに参加したところ、狐に化かされたという流れです。

 鎌は当たっていないのですが、狐に深く恨まれるという筋です。このお話では狐が友人に化けていることは初めから明らかにされています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.75-76.

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ペーパーバックを寄贈する

拙書「石見の姫神伝説」をペーパーバック化して石見地方の全図書館と出雲・隠岐の主要図書館に寄贈した。大赤字であるが、これは紙の本として長期保存したかったからである。

「石見の姫神伝説」はブログで書いた記事をリライトして電子書籍化したものである。ブログは僕が死んだら消えてしまう。電子書籍もAmazonがなくなる可能性だって皆無とは言えない。後に同じ興味を抱いた人向けに「ここまでは分かった」という記録を残したかったのである。

「石見の姫神伝説」は島根県石見地方の神社にまつわる伝説をまとめたものである。その点で郷土資料としての性格を持っている。おそらく郷土資料コーナーに置かれるだろう。そういう意味では除籍の可能性も低いはずである。

「石見の姫神伝説」は売れない本だけど、売れ筋のハウツーものではできないことができる本でもある。

ちなみに、本の寄贈は

・レターパックを用意する
・本を濡れないようにダイソーで買ったビニールバッグで包装する
・悪筆なので宛先をラベルに印刷する
・寄贈したい旨、書いた送り状を添えて発送する

……という流れである。送り状の書式はネットにサンプルが多数掲示されている。「献本 送り状」などのキーワードで検索する。寄贈すると図書館からお礼状が届く。

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2022年7月11日 (月)

政治的無意識を探る――東浩紀「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」

東浩紀「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」を読む。ルソーが提唱した政治的な概念である一般意志には全体主義に繋がる欠点があるとして、現在の情報技術の進展を考慮に入れつつ一般意志2.0を提唱する。

一般意志2.0とはグーグル民主主義、ツイッター民主主義と言えるかもしれない。現在では膨大な個人情報が集積されている。それらを民衆の言わば無意識と見なし、政治へフィードバックすることを想定するのである。それは理性による熟議の限界を指摘するものでもある。

とはいえ、グーグルもツイッターもスパムとの戦いの歴史である。例えばタグクラウドからデータを読むとしても、それ自体はそれほど重要な指標とはなり得ないと思う。

また、現在のツイッターは自由に書ける訳ではない。ツイートの内容によってはアカウントを凍結されることもあり得る。

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お松狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 浄福寺が鳥越(とりごえ)にあった頃、ここではお松狐に化かされる者が沢山いた。鳥居村迫(さこ)の原政四郎が魚商人をしていた。ある日魚を売っての帰りがけ、日の暮れぬ時刻に浄福寺の後ろを通りかかるとにわかに暗くなった。政四郎は自分を化かそうとしても叶わない。お松は七変化しか知らないだろうが自分は九変化できる皮をもっているからと叫んだ。すると元の様に明るくなった。そしてお松狐が出てきて政四郎の九変化の皮と自分の七変化の皮を換えてくれと頼んだ。政四郎は家へ連れて帰って座布団にしている猫の皮を出して、七変化の皮と取り替えた。そして近いうちに宮脇で婚礼があるから、この皮を被ってご馳走をよばれるとよいと教えた。さて、宮脇の婚礼の晩になると、お松は九変化の猫の皮を被ってのこのこと座敷へ上がっていった。宮脇ではこの狐めとよってたかって殴りつけた。お松はやっとのことで逃げて帰った。政四郎に騙されたと気づいたお松は七変化の皮を返して欲しいと頼んだ。政四郎はもう人を化かさないと約束させて返してやった。それから浄福寺のところで人が化かされることはなくなった。

◆モチーフ分析

・浄福寺ではお松狐に化かされる者が大勢いた
・魚商人の政四郎が魚を売っての帰りがけに浄福寺の辺りを通りかかる
・急に暗くなる
・政四郎、自分は九変化の皮を持っているから化かされないと叫んだ
・お松狐が現れ、自分の七変化の皮と交換して欲しいと頼む
・政四郎、座布団にしていた猫の皮を七変化の皮と交換する
・近い内に婚礼があるから九変化の皮を被ってご馳走をよばれるといいと教える
・お松狐、九変化の皮を被って婚礼の席に出たところ、狐とばれて散々な目に遭う
・政四郎に騙されたと悟ったお松狐は七変化の皮を返して欲しいと頼む
・政四郎、これから先は人を化かさないと約束させて皮を返す
・それから浄福寺で人が化かされることはなくなった

 形態素解析すると、
名詞:皮 政四郎 狐 お松 九 七変化 変化 浄福寺 交換 人 婚礼 自分 魚 こと これ ご馳走 ところ 先 内 商人 大勢 席 帰りがけ 座布団 散々 猫 目 約束 者 辺り
動詞:化かす 被る 返す 頼む ある いる する なくなる ばれる よぶ 出る 叫ぶ 売る 悟る 持つ 教える 現れる 通りかかる 遭う 騙す
形容詞:欲しい いい 暗い 近い
副詞:急に

 政四郎/お松狐の構図です。抽象化すると、男/動物です。政四郎―九変化/七変化―お松狐の図式です。

 狐に化かされる者が大勢いた[存在]。政四郎が浄福寺の辺りを通りかかると急に暗くなった[暗転]。政四郎、自分は九変化の皮を持っているから化かされないと叫ぶ[挑発]。お松狐が出てきて九変化の皮と七変化の皮を取りかえる[交換]。お松狐に九変化の皮を被って婚礼の席に出るよう教える[騙す]。婚礼の席に出たお松狐、正体がばれる[露見]。散々な目に遭ったお松狐、七変化の皮を取り返しに来る[来訪]。政四郎、人を化かすことをしないと約束させる[誓約]。それから狐に化かされる者がいなくなった[不存在]。

 九変化の皮と思って交換したところ、偽物だった……という内容です。

 発想の飛躍は九変化の皮でしょう。政四郎―九変化/七変化―お松狐の図式です。七変化の皮を上回る魔法のアイテムと騙すことで七変化の皮を手に入れ優位に立つのです。

 <存在>から<不存在>へとおおまかに流れます。九変化の皮と<騙す>ことで政四郎は七変化の皮を<入手>します。お松狐は正体が<露見>することで散々な目に<遭い>ます。お松狐はもう人を化かさないと<約束>することで七変化の皮を<回復>します。

 「博労と狐」と同じモチーフを持ったお話です。<七変化>より上回っていると<騙す>ことで優位に立ちます。最後はもう人を<化かす>のを<止める>よう<約束>させるところが「博労と狐」と異なっています。

 とある推理小説によると、稲荷信仰とダキニ天が結びついて狐が人を騙すという考えが生じたとのことです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.73-74

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2022年7月10日 (日)

嫁と姑――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、仲の悪い姑と嫁がいた。姑は毎日文句ばかり言っている。嫁は姑を殺してしまえば家は無事に治まると思って医者のところへ行って姑を殺す毒薬を作って欲しいと頼んだ。医者はさっそく薬を作った。渡す際にこの薬を飲むと長い間はもたない、その間は精一杯懇ろにせよと言った。嫁は喜んで薬を貰って帰ると、そっと姑に飲ませて、それからは姑を大切にした。姑は喜んで金も着物もお前にやると言った。姑がこれまでとうって変わって優しくするので、嫁はこんないい姑を殺しては済まないと急いで医者に相談して、毒を消す薬を作ってもらうよう頼んだ。すると医者は前の薬は毒ではないと安心させた。それからは嫁と姑はとても仲よく暮らした。

◆モチーフ分析

・仲の悪い姑と嫁がいた
・嫁は姑を殺してしまおうと思い医者に毒薬を作らせる
・嫁、その薬を姑に飲ませる
・死ぬまでの間、姑によくする
・姑の態度が変わる
・後悔して解毒剤を医者に求める
・薬は毒ではなかった
・姑と嫁、仲良くなる

 形態素解析すると、
名詞:姑 嫁 医者 薬 仲 後悔 態度 毒 毒薬 解毒 間
動詞:なる よく 作る 変わる 嫁ぐ 思う 死ぬ 殺す 求める 飲む
形容詞:ない 悪い
副詞:仲良く
連体詞:その

 嫁/姑の構図です。家族同士の構図です。嫁―毒―医者、嫁―毒―姑の図式です。日常→非日常→日常と移り変わるとも見ることができるでしょうか。

 仲の悪い嫁と姑がいた。嫁は姑を毒殺しようとして医者に薬を作ってもらう[依頼]。医者は毒薬を嫁に渡す[引き渡し]。嫁はそれを姑に飲ませる[服用]。嫁、最後だからと姑によくする[孝行]。姑の気持ちが変わる[変化]。それを知った嫁は解毒するよう医師に頼む[依頼]。医師はあれは偽薬だったと告げる[告白]。嫁と姑、仲良くなる[仲直り]。

 毒殺のための毒薬を依頼し服用させる。優しくすると姑の態度が変化、解毒を依頼するが偽薬だった……という内容です。

 発想の飛躍は、毒薬を盛るが、それは偽薬だったというところでしょうか。嫁―毒/偽薬―姑の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.71-72.

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赤ば牛の金玉――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、たくさんの財産をもった親父さんがいた。財産をどの子にやったらいいか迷っていた。そこであるとき三人の子供にお前たちはこれから先どうしようと思っているか聞こうとした。長男におまえはどういう考えか聞くと、長男は吉田の田部さんのような長者になりたいと答えた。次男は隠岐の島一の長者になりたいと答えた。そこで三男に聞くと赤ば牛の金玉が二つ欲しいと言った。びっくりした親父さんは訳を聞くと、三男は兄貴のような大馬鹿者に一つずつ分けてやるのだと答えた。赤ば牛の金玉をわけたらどうなるのか聞くと、なんぼ一生懸命働いても一生のうちに田部さんや隠岐のすけくのような日本で何番という長者になれるものではない。それを求めるのは夢の様な話だから、そんな馬鹿たれには赤ば牛の金玉くらいがちょうど良いと言った。親父さんは三男が一番利口なので家の財産を皆三男に譲ることにした。

◆モチーフ分析

・親父は財産をどの子に継がせるか迷っている
・三人の息子にこの先どうするか聞く
・長男は吉田の田部みたいな長者になりたいと答える
・次男は隠岐島一の長者になりたいと答える
・三男は赤ば牛の金玉が二つ欲しいと答える
・驚いた親父は三男に理由を聞く
・三男は二人の兄に一つずつ分けてやると答える
・親父、分けたらどうなるのか聞く
・一生懸命に働いても一生の内で日本有数の長者になることはできない。故に大馬鹿者には金玉で十分と答える
・親父、三男が一番利口と認め、財産を三男に譲ることにする

 形態素解析すると、
名詞:三男 親父 長者 こと 財産 金玉 三 一つ 一生 一生懸命 二つ 二人 兄 先 内 利口 吉田 子 島一 息子 日本 有数 次男 牛 理由 田部 長男 隠岐 馬鹿者
動詞:答える なる 聞く する できる やる 働く 分ける 継ぐ 認める 譲る 迷う 驚く
形容詞:欲しい
形容動詞:十分
副詞:どう 一番 分けて
連体詞:この どの

 三男/親父/長男/次男の構図です。家族同士の構図です。三男―金玉―親父の図式です。

 相続で迷う[相続]。三人の息子から話を聞く[聴取]。長男、長者になりたいと答える[回答]。次男、長者になりたいと答える[回答]。三男、金玉が欲しいと答える[回答]。驚いた親父は三男に訳を訊く[聴取]。三男、理由を述べる[上述]。親父、三男に相続させることに決める[決定」。
 一代で大金持ちになるのは無理だと兄たちを批判した三男が相続する……という内容です。

 発想の飛躍は、赤ば牛の金玉と回答するところでしょうか。三男―金玉―親父の図式です。三人兄弟の図式です。

 <聴取>から意外な<回答>、<決定>という流れです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.69-70.

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自分は線形な思考――千葉雅也「メイキング・オブ・勉強の哲学」

千葉雅也「メイキング・オブ・勉強の哲学」を読む。僕はアウトライン・プロセッサは普通に使えるが(使えない人いるか?)、マインドマップは上手く使えない。図解するのも苦手である。ここら辺、線形な思考ということらしい。

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2022年7月 9日 (土)

今夏も中止か

東京都の新型コロナウイルス感染者が8000人/日を超えた。おそらく8月にピークが来るが、今年も神楽は中止かな。

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情弱の戦法――高田明典「情報汚染の時代」

高田明典「情報汚染の時代」を読む。僕自身は英語はできないしスマホも持ってないで情弱に分類される訳である。情報=データ+意図だそうで、この意図をどう読み解くかが胆となる。

この先生、ナラトロジーの研究者かと思いきや、現代思想や情報学の本も上梓していてかなり幅の広い研究者である。

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2022年7月 8日 (金)

吉田の田部――モチーフ分析

◆あらすじ

 吉田の田部(たなべ)の先祖は綿売りで綿屋と言っていた。ところが綿売りで失敗したので吉田には帰らず、大阪へ出た。住吉さまに参詣したが、賽銭をあげようとすると一両小判が一枚あるだけである。そこで初めてのことだからと小判を賽銭箱に投げ入れた。懐には一文もなくなった。ところが、そこに旦那が二人参っていて、田部が一両小判を投げるのを見て驚いた。商人らしいが並みの者ではないと感心した。それは鴻池(こうのいけ)の旦那が番頭を連れて来ていたのだった。

 鴻池の旦那は番頭に言って田部に今晩自宅に泊まって貰うよう頼んだ。田部は泊まることにした。田部は山や田畑の売り込みにくるのを見ては毎日ぶらぶらしていた。田部は旦那の碁打ちの相手もした。田部は碁が強く、旦那はやはり並みの者でないとますます田部に惚れ込んだ。

 ある日、七里四方の山を買う話が持ち上がった。旦那が番頭に入札に行かせた。大抵の場合なら取って戻れとの指示であった。田部は旦那があれほど欲しがっているからにはきっと儲かる。ここだと思って自分も同道することにした。入札したところ田部に落札した。番頭が雲州の客に落札したと報告した。旦那は雲州の客ならよいと答えた。

 帰る気になった田部は引き留められたが吉田へ帰った。帰りの旅費は旦那が出してくれた。

 大きな買い物をした田部は吉田へ戻ってきた。そして吉田の家々に少しずつ金を分けてやって家にも土蔵にも提灯にも(綿)の印を入れさせた。七里四方の山を買った田部は大勢の木こりを入れて山稼ぎを始めた。月日が流れて三年経った。

 鴻池ではあれから三年になるが金を送ってこぬし便りもない。一つ様子を見てこいと番頭が旦那の命を受けて吉田へやって来た。見ると村中(綿)の印なので驚いて、こんな大家に金の請求をすれば鴻池の恥じになると何も言わずに帰って旦那に報告した。旦那も番頭を褒めた。それから十年稼いで田部は大金を儲け、鴻池に返した。こうして田部家は今日の様に栄えた。

◆モチーフ分析

・吉田の田部は綿売りで綿屋と言った
・綿売りで失敗して大阪に出た
・住吉さんに参詣する
・一両小判を賽銭にする
・その姿をみていた鴻池の旦那と番頭が今晩泊まるように言う
・田部、泊まることにする
・ぶらぶらして数日が過ぎた
・田部、碁が強かった
・鴻池の旦那、ますます並みの者でないと感じる
・七里四方の山を買う話が持ち上がる
・鴻池の旦那、番頭を入札に行かせる
・儲かる話だと思った田部、同行する
・田部、落札する
・鴻池の旦那、雲州の客ならと諦める
・田部、引き留められるにも関わらず吉田へ帰る
・吉田に戻ってきた田部、吉田の家々に金を配り、(綿)印を入れさせる
・七里の山に木こりを入れ稼ぎはじめる
・三年が経過、鴻池の番頭が様子を見にやってくる
・見ると村中、(綿)の印だった
・大家に金を請求すると鴻池の恥になると番頭、引き返す
・十年稼いだ田部は大金を儲け、鴻池に返す
・田部家は栄えた

 形態素解析すると、
名詞:田部 鴻池 吉田 旦那 番頭 綿 七里 印 売り 山 話 金 一 十 三 こと 並み 今晩 住吉 入札 参詣 同行 四方 大家 大金 大阪 失敗 姿 客 家々 小判 恥 数日 木こり 村中 様子 碁 経過 綿屋 者 落札 請求 賽銭 雲州
動詞:する 入れる 泊まる 見る 言う なる みる やる 儲かる 儲ける 出る 帰る 引き留める 引き返す 思う 感じる 戻る 持ち上がる 栄える 稼ぎはじめる 稼ぐ 行く 諦める 買う 返す 過ぎる 配る 関わる
形容詞:ない 強い
副詞:ぶらぶら ますます
連体詞:その

 田部/住吉さん/鴻池の構図です。抽象化すると、商家/神/大商家です。田部―賽銭―鴻池、田部―碁―鴻池、田部―入札―鴻池といった図式です。

 田部、事業に失敗して、大阪に出る[出立]。住吉神社に参って、一両小判を賽銭にする[大枚をはたく]。その様子を見ていた鴻池の旦那と番頭が泊まるように言う[要請]。宿泊した田部はぶらぶら過ごす[無為]。七里四方の山の入札話が持ち上がった[発端]。田部が落札する[落札]。吉田へ帰ったした田部、家々に(綿)を印字させる[帰還]。それから山で稼ぎはじめる[商売]。吉田へやって来た鴻池の番頭、村中に(綿)の印があることに驚き[驚愕]、請求せずに帰る[帰還]。十年稼いだ田部は鴻池に金を返す[返済]。

 ただ者ではないと見抜かれた田部、大胆な行動で鴻池に返済する……という内容です。

 吉田を出た田部が大阪へ行き、吉田に帰還する話です。

 発想の飛躍は一両小判を賽銭にすることと吉田の家々に(綿)の印を入れさせることでしょうか。田部―賽銭―鴻池、田部―印―鴻池の図式です。豪商との繋がりを作り大家と見せかけるのです。しかし、その後田部は鴻池に借金を返済します。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.65-68.

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2022年7月 7日 (木)

大森銀山――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、博多にゆう丹という船乗りがいた。ある年の初夢に梶の棒が折れた夢をみた。縁起が悪いのでゆう丹は起きずに寝ていた。妻が心配したので夢見が悪いと訳を話した。妻はそれは吉夢だと答えた。博多のゆう丹己詩(おれかじ)と言うではないかと。ゆう丹は喜んで起きた。

 間もなく萩へ向かって出帆した。にわかに大南風(はえ)になって朝鮮の近くまで流された。そこへ南風のかわしが来たので、あの手この手で地方(じかた)に近づこうと努めたが、萩へ入ることができない。とうとう温泉津(ゆのつ)を過ぎて琴ヶ浜の神子地(みこじ)に着いた。

 船を浜に上げて痛んだところを修理していると、大森から薪を売る者が来た。見ると薪の間に銀鉱がついていた。驚いて尋ねたところ、こんな石はいくらでもあると答えた。ゆう丹は倍払うからと言って船一杯の石を買いつけた。薪売りはゆう丹を馬鹿だと思った。帰ったゆう丹はそれを売って大もうけした。

 また神子地へやって来たゆう丹だったが、薪売りはまた馬鹿な船頭が来たので石を出し始めたところ、船に半分出したところで代官から出してはいけないとなった。代官が石を鑑定させたところ銀鉱だと分かったからである。

 ゆう丹は仕方なく船半分の荷を積んで帰ったが、今度は博多を引き上げて大森へやってきて銀を掘ることにした。これが大森銀山のはじまりだという。

◆モチーフ分析

・船乗り、初夢をみる
・船乗り、縁起が悪いと思い、そのまま寝ている
・妻に夢の内容を打ち明ける
・妻、それは吉夢だと言う
・船乗り、出帆するが大風で流される
・船乗り、目的地に辿り着けず、神子地へ漂着する
・船の修理をしていると、薪売りが来る
・薪売りの薪に挟まっていた小石を薪の倍の値段で買う
・船一杯に小石を買い、博多へ帰る
・再度、神子地へやって来る
・小石を買いつけていると、船に半分で止められた
・代官が小石を鑑定させ、銀鉱石だと判明した
・船乗り、止むなく半分の荷で博多へ帰る
・船乗り、博多を引き上げて大森へ移住する
・大森銀山の元となった

 形態素解析すると、
名詞:船乗り 小石 薪 博多 船 半分 売り 大森 妻 神子 それ 代官 修理 倍 値段 元 内容 再度 出帆 初夢 判明 吉夢 夢 漂着 目的 移住 縁起 荷 鉱石 銀 銀山 鑑定
動詞:帰る 買う する なる みる やって来る 寝る 引き上げる 思う 打ち明ける 挟まる 来る 止める 流す 言う 買いつける 辿る
形容詞:悪い
形容動詞:一杯 大風
副詞:そのまま 止むなく

 船乗り/妻、船乗り/薪売り、船乗り/代官の構図です。船乗り―夢―妻、船乗り―小石―薪売り、船乗り―鉱石―代官の図式です。

 夢見が悪いと寝ていた船乗りだが、それは吉夢だと妻が読み解く[夢占い]。出航したところ、大風で流される[漂流]。神子地へ着く[漂着]。船を修繕していたところ、薪売りが来る[販売]。薪にはさまっていた小石を高値で買う[購入」。船一杯に小石を買う[大量購入]。博多に帰った船乗り、大もうけする[利益計上]。神子地を再訪、小石を買いつける[買いつけ]。船に半分のところで制止させられる[禁止]。小石は銀鉱石だったと判明[露見]。船乗りはそのまま博多へ帰る[帰還]。船乗り、博多を引き上げて大森へ移り住む[移住]。大森銀山の元となる[由来]。

 銀鉱石を安い値段で仕入れて大儲けするが、代官所から禁止され、大森に移住する……という内容です。

 発想の飛躍は、小石を薪の倍の値段で買うといった行為でしょうか。船乗り―小石/鉱石―薪売りの図式です。後に銀鉱石だったと判明する訳ですが、いち早く本質を見抜くことで商機を見いだす訳です。

 大もうけするという<夢見>が<実現>する。妻の<夢判断>が<助言>となる。銀鉱石を安く<買いつけ><大もうけ>する。再度、買いつけようとしたが代官に<制止>させられる。結局、大森へ<移住>する……といった流れになっています。

 初夢がきっかけで大もうけし、そのまま大森へ移住するとなります。この際、船乗りは小石を高値で買う馬鹿者だと思われていることも要注目でしょうか。知恵で抜け目なく大もうけし、そのまま銀山を開く形となったのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.62-64.

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2022年7月 6日 (水)

値上げする

「石見の姫神伝説」「石見の伝説」「神楽と文芸」を500円に値上げする。最低価格で売れないなら利益の確保を計るべし。

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猟師徳蔵――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、徳蔵という猟師がいた。毎日山へ入って生計を立てていた。ある日山から帰りがけに友達に会った。友達は変わった話として、どこぞの女房が他所の男と親しくなって自分の夫を殺すらしいという話をした。特に疑問に思わなかった徳蔵は女房に鏡を買って帰った。家へ戻ると女房が間男と徳蔵を殺す算段をしていた。その場に踏み込んだ徳蔵は女房にこの鏡は権現さまから授かった鏡で良い事悪い事が分かる鏡だとかまをかけた。間男は逃げた。驚いた女房はこれまでのことを白状して詫びた。

 そんな事があって徳蔵の鏡でみるとどんな事も分かると評判になった。その頃、村の庄屋で四百両が無くなった。そこで庄屋から徳蔵に呼び出しがかかった。庄屋はケチでろくに給金を払わないと評判が悪かったので、誰かが盗んだのではないかと噂がたった。引き受けた徳蔵は夜中にこっそり権現さまに参詣して、かくかくしかじかの事情で嘘をついているが、どうか願いを聞いて欲しいと祈った。すると、誰かがきざはし(段)を上ってきた。隠れてみていると庄屋の女中であった。女中は徳蔵には気づかず、掃除をしていて大金を見つけた。給金を払ってもらってないが老母を養わねばならないので、つい盗んでしまった。どうか自分が取ったということは分からぬように庄屋のところに戻る様にして欲しい。金はきざはしを上り詰めた所の椎の木の穴の中に入れておくと頼んで帰った。徳蔵はあくる朝庄屋へ四百両のありかを伝えた。そして給金の払いがよくないから先々よくないことが起きると話した。庄屋は心を入れ替え、これまでの給金を払った。

 無くなった四百両が無事戻ってきたので徳蔵の評判はますます高くなった。そこへ代官から呼び出された。徳蔵は自分がでたらめなことを言っているのでお叱りを受けるのではないかとびくびくしながら出頭すると、代官も失せ物があるという話だった。請け給わった徳蔵だったが、今度は権現さまの機嫌を損じたものか、誰も現れなかった。

◆モチーフ分析

・昔、徳蔵という猟師がいた
・ある日、友達と会う
・友達からどこぞの女房が夫を殺そうとしているらしいと聞く
・徳蔵、鏡を買う
・家に帰ったところ、女房が間男と一緒にいた
・間男、逃げる
・徳蔵、魔法の鏡と嘘をつき、女房を謝罪させる
・このことが評判となる
・ある日、庄屋から盗まれた四百両のありかを探して欲しいと頼まれる
・徳蔵、権現様に参る
・すると、四百両を盗んだ女中が現れ、四百両のありかを漏らす
・それを聞いた徳蔵、庄屋に話す
・無事、四百両がみつかる
・ケチだった庄屋の給金払いがよくなる
・ある日、徳蔵は代官所から呼び出される
・嘘をついていることを叱られるのかと思いビクビクする
・代官から失せ物の相談を受ける
・請け負った徳蔵、権現様に参る
・しかし、誰も現れなかった

 形態素解析すると、
名詞:徳蔵 四〇〇 女房 庄屋 ありか こと 代官 友達 嘘 権現 鏡 間男 それ ところ どこ ケチ 夫 失せ物 女中 家 昔 無事 猟師 相談 給金 評判 誰 謝罪 魔法
動詞:いる する つく 参る 現れる 盗む 聞く いう なる みつかる 会う 受ける 叱る 呼び出す 帰る 思う 探す 殺す 漏らす 話す 請け負う 買う 逃げる 頼む
形容詞:よい 欲しい
副詞:ある日 ビクビク 一緒に
連体詞:この

 徳蔵/女房、徳蔵/女中、徳蔵/代官といった構図です。徳蔵―鏡―女房、徳蔵―権現―女中、徳蔵―権現―代官といった図式です。

 よからぬ噂を聞いた徳蔵が家に帰ると女房と間男が一緒にいた[目撃]。間男は逃げる[逃走]。徳蔵は鏡を魔法のアイテムだと女房を騙す[嘘]。女房は謝る[謝罪]。このことで評判が立つ[世評]。庄屋から盗まれた金のありかを探す様頼まれる[依頼]。承知した徳蔵は権現様に参る[祈願]。すると犯人の女中が現れ罪を漏らして去る[告白]。金のありかを把握した徳蔵は庄屋に説明し、四百両は見つかる[解決]。ある日、徳蔵は代官所から召される[召喚]。嘘がばれたのではないかと徳蔵はビクビクする[畏怖]。代官が徳蔵に失せ物の捜索を頼む[依頼]。徳蔵、権現様に参る。が、何もなかった[不発]。

 何でも見通す魔法の鏡だと触れ回るが権現様の加護は一度だけだった……という内容です。

 発想の飛躍は、何でも見通す鏡と騙すところでしょうか。徳蔵―鏡―権現の図式です。

 偽の魔法のアイテムで<千里眼>を得たと<騙し><謝罪>される。後日、仕事を<依頼>され<承知>、権現に<祈願>したところ<成功>する。二度目は何もおこらず<不発>に終わった。

 <依頼>から<承知>、<祈願>から<解決>という型を繰り返しますが、二回目では未解決のまま終わります。あっけない結末と言えます。

 この後、徳蔵は代官から叱られたという結末を想像することも可能です。が、そこまで描かれていないのは何故かという問いかけも大切でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.58-61.

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2022年7月 5日 (火)

一度は体験したいKJ法――川喜田二郎「発想法」

川喜田二郎「発想法」(中公新書)を読む。KJ法は現在で言えば質的研究にあたるもので、収集した大量のデータを一行要約的に細かく分解、カード化して脱文脈化したものを、親近感のあるカード同士をまとめて小グループにし、更に中グループにまとめて……として図解化、データの傾向を読み取り、更に文章化して再文脈化する……という説明でいいだろうか。小から大へというところがミソだそうである。

中には孤立したカードも出てくるそうだが、それは必ずしも失敗ではなく、むしろ発想の元となる可能性が高いそうである。

発想とその統合は未開拓の分野であるとして取り組んだその結晶がKJ法である。

KJ法って一度体験してみたいのだが、経験したことがない。絵心がなくて描画ソフトも使えない。図解するのが苦手である。基本、紙ベースで行うものだが、現在はソフトウェア化されているようだ。

KJ法は理性による思考ではなく情念による思考だとしている。脳科学的なことは分からないが、脳内でバックグラウンド的に連想、アナロジー的な思考が働いており、それを可視化する手法というところだろうか。

<追記>
ScrapboxというWEBサービスがKJ法の理念に近いかなという印象。Scrapboxはカードをまとめることはできないが、ページ間にリンクを貼ってリゾーム状の構造にできるのである。

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2022年7月 4日 (月)

しの田の森の白狐――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、炭焼きがいた。女房もおらず貧乏をしていた。ある日いつものように炭焼きをしていると、やせた狐がやってきたので炭焼きはむすび飯の残りを与えた。それから四五日経って、美しい女房がやってきて嫁にして欲しいと頼んだ。炭焼きは貧乏だからと断ったが、女房が頼み込んだので嫁にした。女房はよく働き反物も織ったので暮らしも楽になり男児が生まれた。

 男児が三歳になったある日、母親が昼寝をしているのを見ると、着物の裾から尻尾が覗いていた。母親は誤魔化した。びっくりした男児は父親にそのことを話した。母親は書き置きを残して逃げた。父親は書き置きを読んでびっくりして子供を連れてしの田の森へいった。書き置きにあった歌の返歌を読む。すると母狐の親の婆さんが出てきた。婆さん狐は人間の孫はお前一人だけだと懐かしがる。爺さん狐も母狐も出てきた。

 孫に何かやりたいと婆さん狐が言ったので母狐が知恵と言えと子供に教えた。それで爺さん狐は耳とくをくれた。耳にかけると鳥や獣の言葉が分かる、三里先のことでも聞こえる便利なものだった。

 子供はその耳ときを得たので世の中のことが何でも分かる様になる評判となった。

 ある時天子が病気になったとき、この子供を召して病気を治させた。子供は大層なご褒美を得た。

◆モチーフ分析

・昔、炭焼きがいた。独身で貧乏だった。
・いつものように炭焼きをしていると、やせた狐が寄ってきた
・狐にむすび飯の残りをやる。狐、喜んで去る
・四五日後、女房がやってきて嫁にして欲しいと頼む
・炭焼き、一旦は断るが、断りきれず嫁にする
・女房は働き者で反物を織った。暮らしも楽になる
・男児が生まれた
・三歳になった子供がある日、昼寝していた母の尻尾を見てしまう
・母親、誤魔化す
・子供、そのことを炭焼きに話す
・母親、書き置きを残してしの田の森に逃げる
・炭焼き、子供を連れてしの田の森へ行く
・炭焼き、書き置きにあった歌の返歌を読む
・婆さん狐が出てくる。婆さん、人間の孫はお前だけだと懐かしがる
・爺さん狐、母狐も出てくる
・婆さん狐、孫に何かやりたいと言う
・母狐、子供に知恵と言えと教える
・子供、知恵が欲しいと答える
・子供、耳とくを得る
・耳とくを使うと動物の言葉が分かるようになった
・子供、世の中のことが何でも分かる様になり評判となる
・病気となった天子が子供を召した
・子供は耳とくを使って天子の病気を治した
・子供、褒美を得た

 形態素解析すると、
名詞:子供 狐 炭焼き とく 婆さん 母 耳 こと 天子 女房 嫁 孫 森 母親 田 病気 知恵 三 四五 いつも お前 一旦 世 中 人間 働き者 動物 反物 尻尾 昔 昼寝 爺さん 独身 男児 褒美 言葉 評判 返歌 飯
動詞:する なる やる 使う 出る 分かる 得る 断る 書き置く 言う ある いる むすぶ やせる 去る 召す 寄る 教える 暮らす 残す 残る 治す 生まれる 答える 織る 行く 見る 話す 誤魔化す 読む 逃げる 連れる 頼む
形容詞:欲しい 懐かしい
形容動詞:楽 貧乏
副詞:ある日 何か 何でも 喜んで
連体詞:その

 炭焼き/狐/子供の構図です。炭焼き―むすび飯―狐、男―子供―女房/狐、子供―耳とく―婆さん狐の図式です。婆さん狐は援助者です。

 炭焼きがむすび飯を飢えていた狐にやると[贈与]、狐は女房の姿になって嫁にして欲しいと頼む[婚姻]。暮らし向きは楽になり、子供が誕生する[生誕]。子供が母親の秘密を知ってしまう[露見]。母狐は歌を残し去る[退去]。炭焼きが子供を連れてしの田の森へ行くと[訪問]、婆さん狐が出てくる[登場]。母狐の助言で子供は耳とくというアイテムをもらう[獲得]。そのアイテムは動物の声が聞き取れるようになるものである[聴覚]。そのアイテムの力によって子供は評判を得る[獲得]。病気の天子に召された子供は天子の病気を癒やす[治療]。子供は褒美を得る[獲得]。

 知恵が欲しいと言えと母の助言を受けた子供は耳とくという魔法のアイテムを得る……という内容です。

 発想の飛躍は、狐の女房と結婚するところと子供が知恵を得るところでしょうか。

 最後の天子の病気を癒やす件は、それ自体で一つのモチーフとなっています。

 <贈与>がきっかけとなり<婚姻>、男児が<誕生>します。が、秘密が<露見>、母狐は<去り>ます。<返歌>が再会の鍵となります。母狐に<再会>した子供は母の<助言>で知恵を<獲得>して評判になる……という流れです。

 <贈与>は<婚姻>と結びつきますが、全体としては知恵の<獲得>と結びつくとも解釈できるでしょうか。

 異類婚姻譚です。しの田と表記されていますが、信太の森としますと、安倍晴明の伝説とも関わりを持ってきます。ここでは禁止の侵犯によって正体が露見する訳ではありませんが、別の事情によって正体が露見する流れとなっています

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.55-57.

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2022年7月 3日 (日)

アナログの時代の悪戦苦闘――梅棹忠夫「知的生産の技術」

梅棹忠夫「知的生産の技術」(岩波新書)を読む。知的生産とあるので、カードを使った発想法についてだろうかと考えていたが、案外、形式的な側面が強かった。手帳、カード、スクラップブック、ファイルキャビネット、タイプライターといったツールについて語られる。これらは現在ではデジタル化されて利便性が格段に向上している。アナログ、紙ベースでしか処理できなかった時代の悪戦苦闘の記録が現代に伝えられているといった読み方をすべきだろうか。例えば、タイプライターの時代では漢字廃止論が根強くあったことが窺える。

また、手紙、日記、原稿、文章の書き方にもページが割かれているが、これも形式的な側面が強い。文章作法的なことが書かれているのだ。一方で、カードを並べ替え組み替えて文章を生成するこざね法についても触れられている。これが唯一発想法的だろうか。

発想法について知りたい人は、川喜田二郎「発想法」(中公新書)を当たった方がよさそうだ。

メモをとることの大切さも強調されている。僕自身、自分の内にあった思いを言語化しなかったことで後悔したことがあるので身につまされる。

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炭焼き長者――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、分限者の酒屋があった。娘がいたが大層な酒好きで朝から酒ばかり飲んでいた。旦那は色々言って聞かせたが一向に効き目がない。とうとう娘に大判小判を持たせて追い出してしまった。

 追い出された娘は江戸へ上り、日本橋でぶらぶらしていると易者に呼び止められた。娘の手相と人相をみた易者は娘の縁談は佐渡の国の何村の何兵衛に決まっているから訪ねるよう勧めた。

 娘は喜んで佐渡へ渡った。何日も探してようやく炭焼きのことだと分かった。炭焼きの家へ行って一晩泊めて欲しいと頼むと、あなたの様な人をこんな家には泊められないと断られた。無理に頼むとようやく泊めてくれた。

 夜が明けても米がないので娘は炭焼きに大判を一枚渡し、これで米を買ってくるように言い付けた。ところが炭焼きは途中でサギに大判を投げてしまった。もう一度渡すと今度は犬に投げて帰ってきた。あれは大判といって米でも何でも買えるのだと説明すると、炭焼きはあんなものは幾らでもあると答えた。行ってみると本当に黄金がごろごろ転がっていた。炭焼きもこれが黄金だと理解し、それから黄金を掘り出して大金持ちになって娘と夫婦になって楽しく暮らした。

◆モチーフ分析

・昔、分限者がいた。大酒飲みの娘がいた
・分限者、娘を諭すが効き目がない。娘に金をやって放逐する
・娘、江戸へ上る
・日本橋で易者と出会う。手相と人相を占った結果、佐渡に婿がいると予言される
・娘、佐渡へ渡る。あちこち探しまわって炭焼き小屋に辿り着く
・娘、炭焼きに一夜の宿を頼む。炭焼き、初めは拒否していたが、止むなく迎える
・朝、朝食の米がない。娘、炭焼きに大判を渡して買い物にいかせる
・炭焼き、サギに大判を投げてもどってくる
・娘、再び大判を渡す
・炭焼き、今度は犬に大判を投げて帰ってくる
・娘、炭焼きに大判の価値を説明する
・炭焼き、そんなものは裏にあると答える
・果たして黄金があった
・黄金を掘り出した炭焼きは金持ちとなり、娘と夫婦になった

 形態素解析すると、
名詞:娘 炭焼き 大判 佐渡 分限者 黄金 あちこち もの サギ 一夜 予言 人相 今度 価値 初め 効き目 大酒飲み 夫婦 婿 宿 小屋 手相 拒否 放逐 日本橋 易者 昔 朝 朝食 江戸 犬 米 結果 裏 説明 買い物 金 金持ち
動詞:いる ある なる 投げる 渡す いく もどる やる 上る 出会う 占う 帰る 掘り出す 探しまわる 渡る 答える 諭す 辿り着く 迎える 頼む
形容詞:ない
形容動詞:そんな
副詞:再び 果たして 止むなく

 娘/炭焼きの構図です。抽象化すると、女/男の構図です。分限者―放逐―娘、娘―大判―炭焼きの図式です。

 分限者が大酒飲みの娘を放逐[追放]、娘は江戸へ上る[上京]。易者と遭遇した娘は占いをしてもらい未来の夫が佐渡にいると情報を得る[予言]。佐渡に渡って探し歩き、炭焼きと出会う[遭遇]。炭焼きに大判を与え買い物に行かせたところ無駄にしてしまう[放棄]。炭焼きはそんなものはいくらでもあると答え黄金を発見[発掘]、結婚する[婚姻]。

 大判の価値が分かっていない炭焼きに価値を教えたところ、そんなものは幾らでもあると言って黄金が発見される……という内容です。

 発想の飛躍は黄金の価値が分かっていないというところでしょうか。佐渡の金山の由来を説明する昔話でもあります。また、娘が大酒飲みであるのも独自性があります。

 <追放>が<結婚>に転換される点でユニークな話型です。大判を<無駄>にしたところ黄金の<発見>につながる、また<占い>が黄金の<発見>に結びついたとも読み取れます。

 <追放>から<帰還>へと着地しない点も挙げられるでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.52-54.

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2022年7月 1日 (金)

現在では乗り越えられるべき存在――福田アジオ「日本民俗学方法序説」

福田アジオ「日本民俗学方法序説」を読む。これは民俗学の理論に全面的な検討を加えた本で、当時、柳田国男が確立した民俗学の方法論を金科玉条のごとく守っていた彼の弟子たちに対して痛烈な批判を浴びせたものとなる。

検討内容は多岐に渡るが、主な批判は民俗学の資料操作法、つまり重出立証法と周圏論について理論的検討を加えたものとなる。

重出立証法は比較研究とも呼ばれ、民俗学者たちが全国で収集した資料を比較検討することで分類し系統づけ、その分布状況から個々の変遷を推測するというものである。

福田は重出立証法に対し、差異を比較することでは歴史的な変遷までをも明らかにすることはできないのではないかと批判する。

周圏論は本来は方言周圏論、つまり方言は中央(近畿)から同心円状に分布するとしたものである。これはある面で地域の隔絶具合によって方言の変遷の早い遅いを示すもので、その変遷を一系統上の変化と見なすものである。

本来は周圏論は方言研究に限定されていた。が、やがて民俗全般に適用されるようになっていったと批判するものである。

柳田の中央集権的な方法論(地域の研究者は資料の提供者として限定されていて、理論構築からは疎外されている)を批判した本でもある。

また、収集した資料が(カード化されること等によって)脱文脈化されることで、その地域との繋がりを失った根無し草となるのではないかと疑義を呈している。

他にも批判は多岐に渡るのであるが、一読ではまとめきれない。

読んでみた感想として、これは民俗学の核心的な内容にメスを入れた本であるが、特に難解ということはなかった。そういう意味では自分に合っていた学問は民俗学だったのかなと考えさせられた。

2020年代の現在では福田アジオは逆に乗り越えられるべき存在と見なされていることも付け加えておこう。

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