浮布の池――モチーフ分析
◆あらすじ
三瓶山の麓にある浮布の池はもとは浮沼池という。昔、池の原の長者の子ににえ姫という美しい姫がいた。古くから池に住む池の主がいつしか姫に思いを寄せるようになった。姫は池のほとりで美しい若者と出会った。姫は若者に心を惹かれた。姫は若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう。そして空を飛ぶ夢を見る。気づくと一人で池のほとりに座っていた。着物は濡れていなかった。このようなことが度重なって、姫の顔に生気が無くなってきた。人々の心配を他所に姫は池のほとりを歩く。ある日、通りかかった武士が大蛇に巻き付かれた姫を見た。武士は弓で大蛇を射る。浮布の池はざわめいたが、池の主の姿はなかった。意識を取り戻した姫だったが、池に身を投げて死んでしまった。姫が着ていた衣の裾が白く帯のように池の中央に浮かんでいた。この日は六月一日で、それから毎年六月一日にはこの白い波の道が光って池の表に現れるところからこの池を浮布の池と呼ぶようになった。にえ姫を祀るにえ姫神社は池の東側の中ノ島にある。
◆モチーフ分析
・三瓶山のほとりに浮布の池がある
・昔、池の原の長者の子ににえ姫がいた
・池の主が姫に思いを寄せるようになった
・姫、若者と出会う
・姫、若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう。空を飛ぶ夢を見る
・このような事が度重なって姫から生気が失われていく
・ある日、武士が大蛇に巻き付かれた姫を見つける
・武士は大蛇を射る。大蛇は姿を消してしまう
・気がついた姫は池に入水してしまう
・姫の着物の裾が池の真ん中に浮かんでくる
・それで浮き布の池と呼ぶようになった
形態素解析すると、
名詞:姫 池 大蛇 布 武士 気 若者 にえ ほとり 三瓶 主 事 入水 原 夢 姿 子 昔 浮 浮き 生気 真ん中 着物 空 裾 誘い 長者
動詞:失う ある いる つく 出会う 呼ぶ 寄せる 射る 巻き付く 度重なる 思う 浮かぶ 消す 行く 見つける 見る 飛ぶ
形容動詞:このよう
副詞:ある日
姫/蛇/武士の構図です。姫―蛇―武士の図式です。
大蛇に魅入られた姫は大蛇が化けた若者と逢瀬を重ねる[逢瀬]。が、あるとき大蛇の姿を人に見られてしまい[露見]、矢で射られてしまう[攻撃]。意識を取り戻した姫は入水してしまう[入水]、そしてそれが池の名の由来となる[由来]
蛇との逢瀬を見られた姫は蛇の跡を追って入水してしまう……という内容です。蛇に魅入られた娘の結末を表現しています。
発想の飛躍は、姫が入水、着ていた衣が水面に浮かんでくるというところでしょうか。池の名の由来となる訳です。
互いに思いを寄せ、逢瀬を重ねますが、姿を他人に見られてしまいます。<好意>が<愛情>に変わり<逢瀬>を重ねるが正体が<露見>することで大蛇は<攻撃>され<逃亡>、<破綻>してしまいます。また破綻した結果は姫の<入水><死>となります。<破綻>から<入水>へと繋げ、それが池の名の<由来>となったとしています。
モチーフ素自体は無理なく繋がっています。<破綻>から直に<死>へと繋げることで姫の悲しみを強調し、池の名の<由来>とすることで、由来の根拠となるところを補強しています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.21-23.
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