はじめに――石見地方の昔話のモチーフ分析を行う
これから未来社『日本の民話 34 石見篇』の民話を題材にモチーフ分析を行っていきたいと思います。約150話ほどあります。モチーフ分析を行うことで何か見えてくるといいのですが。
民話とあるので昔話と伝説の両方が収録されています。当ブログではこれまで島根県石見地方の伝説に焦点を当てて解説してきましたが、これからは昔話に力を入れていきたいと思います。
世間話は無いようです。案外、伝説が多い印象です。
分析に当たっては、モチーフ間の接続に着目したいと考えています。普通のお話ではモチーフ間の接続に問題はありませんので、違和感のないお話となります。モチーフ間の接続によって面白みが出るのかもしれません。一方でモチーフ間の接続に難がある場合、違和感、不思議な感触をもたらします。
モチーフ分析を行うということは、例えば、語り口の面白さ等を捨象してしまうということでもあります。そういう意味では十全な分析ではありませんが、モチーフ間の接続に注目してみたいと思います。
角川書店『日本昔話大成』シリーズも読んで類話をチェックしたかったのですが、それには手元に置かねばなりませんし、それは色々な面で苦しいので、今回は行わないことにしました。
類話との比較ではなく、対象のお話に没入して分析してみたいと考えています。
アールネ・トンプソンのタイプ・インデックスは資料が入手できないので参照しません。『日本昔話通観』第28巻が昔話タイプ・インデックスとなっていますので、作業が終わりましたら参照してみたいと考えています。
石見篇の編者である大庭良美は突出した話者には出会わなかったとしていますので、特定の話者に偏っていることはないでしょう。石東から石西までバランスよく採集されていると考えます。
モチーフは一般的には、例えば「ウルトラマン」に登場するバルタン星人はセミをモチーフにデザインされたといった使われ方をします。ここではそうではなくて物語の単位としての意味を持ちます。
モチーフについてはお話を分解した小単位としたいと考えています。古い論文ではお話の最小構成単位とする見解があるのですが、プロップの機能(ファンクション)やダンデスのモチーフ素といったより細かな単位が主張されているからです。
お話をモチーフ単位に分解して、更にそこから<>とくくって重要な要素を抽出したいと考えています。これは記号論的な手法です。今となっては古い手法ですね。これをモチーフ素とみなします。ちなみにプロップは動詞が物語の機能(ファンクション)となるとしています。
プロップの機能は採用しません。プロップの分類はあくまでロシアの魔法昔話についてであって昔話全体を網羅するものではないからです。
お話の最小単位をツーク(Zug)と分類する見解もあります。モチーフは幾つかのツークで構成されます。が、ツーク(フィーチャー)は日本の昔話の分析においてあまり用いられないようなのでここでは使用しません。
モチーフへの分解は我流になります。異論もあるかと思います。むしろツーク単位で分解していると言った方が正しいかもしれません。ありきたりな分析で終わる可能性も多々あります。
物語分析、ナラトロジーと言い換えていいでしょうか、は高度に複雑に発展しており、一読では理解が困難です。ナラトロジーの入門書を読んだのですが、これは誰もがなんとなくは分かっていることで、強いて憶えようとは感じませんでした。当ブログでのモチーフ分析はダンデスの理論の実践という形となるでしょうか。
◆参考文献
・大庭良美「石見の民話―その特色と面白さ―」『郷土石見』8号(石見郷土研究懇話会, 1979)pp.58-71
・小澤俊夫「モティーフ論」
https://ko-sho.org/download/K_009/SFNRJ_K_009-01.pdf
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