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2022年6月25日 (土)

怪力尾車――モチーフ分析

◆あらすじ

 福光川の下流に岩根屋敷というところがある。昔ここに岩根という大金持ちが住んでいた。その家に尾車(おぐるま)という相撲とりがいた。大男ではなかったが力が強く、近辺には尾車に勝つものはいなかった。

 この話を聞いた上方の相撲とりが、ひとつ勝負をしてみようと思って、はるばる岩根屋敷へやってきた。尾車はその時下男の様な身なりで庭の掃除をしていた。尾車は不在だが、弟子の自分が力だめししましょうと言って大黒柱を一尺ばかり持ち上げた。これを見た上方の相撲とりは胆をつぶした。弟子でこれほどなら師匠の尾車とは勝負にならないと逃げ帰った。

 ある日、尾車が波打ち際にいると、沖の方から牛鬼がやって来て尾車を海へ引き込もうとした。尾車は逆に陸に引き上げてやろうと思って波打ち際で大相撲になった。どちらも力が強くて勝負がつかない。一晩中相撲をとったので、尾車も段々疲れてきた。海の方に引かれそうになった尾車だが、そのとき、一番鶏が鳴いた。牛鬼は夜が明けると力がなくなるので、お前の様な力の強い人間に出会ったのは始めてた。この勝負はおあづけにしようと言って沖へ姿を隠してしまった。

◆モチーフ分析

・福光の岩根屋敷に大金持ちがいた。その家に尾車という相撲とりがいた
・尾車は大男ではなかったが力が強く、近所で敵う者はいなかった
・上方の相撲とりが噂を聞いて尾車と相撲を取りたいとやってくる
・下男の格好をしていた尾車は自身の弟子だと偽る
・尾車、大黒柱を一尺も持ち上げる
・上方の相撲とり、弟子でこれでは勝負にならないと逃げ出す。

・ある日、尾車が波打ち際にいると牛鬼がやってきて海へ引き込もうとする
・尾車は逆に陸に引き上げようと牛鬼と相撲をとる
・勝負が中々つかない。尾車は次第に疲れてくる
・そのとき一番鶏が鳴き、夜明けを告げた
・夜が明けると力を失う牛鬼は尾車を賞賛して退散する

 形態素解析すると、
名詞:尾車 牛鬼 相撲とり 上方 力 勝負 弟子 相撲 一 これ とき 一番鶏 下男 噂 夜 夜明け 大男 大金持ち 大黒柱 家 屋敷 岩根 格好 波打ち際 海 福光 者 自身 賞賛 近所 退散 逆 陸
動詞:いる する やる いう つく とる なる 偽る 取る 告げる 失う 引き上げる 引き込む 持ち上げる 敵う 明ける 疲れる 聞く 逃げ出す 鳴く
形容詞:ない 強い
副詞:ある日 中々 次第に
連体詞:その

 尾車/相撲とり、尾車/牛鬼の構図です。抽象化すると、力士/力士、力士/妖怪です。尾車―(偽る)―相撲とり、尾車―勝負―牛鬼の図式です。

 尾車の伝説は二つのパートからなります。

 尾車という力の強い相撲とりがいる[存在]。ある日、上方からやってきた相撲とりに勝負を申し込まれる[申し入れ]。尾車は自分は弟子だと偽る[偽装]。尾車は大黒柱を一尺も持ち上げ、それを見た上方の相撲とりはとても敵わないと逃げ出す[退散]。

 波打ち際で牛鬼と遭遇した尾車は牛鬼と相撲をとります[遭遇][勝負]。決着が中々つかないが[実力伯仲]、一番鶏が夜明けを告げる[夜明け]。朝になると力を失う牛鬼は尾車を賞賛して退散する[退散]。

 尾車は上方の相撲とりを驚かせるほど力が強かった。牛鬼と勝負した尾車だったが夜明けまで勝負がつかなかった……という内容です。

 発想の飛躍は、尾車が自身を弟子と偽って怪力を見せつけるところでしょうか。尾車―(偽る)―相撲とりの図式です。まんまと騙すことに成功するのです。

 牛鬼の伝説として見た場合、牛鬼との<遭遇>から牛鬼の<退散>までが描かれます。また自身の弟子と<偽った>尾車は上方の相撲とりを<騙し>、怪力を<誇示>して相撲とりを<退散>させます。

 牛鬼との<遭遇>と<退散>のモチーフ素はペアになっています。両者の間は離れていますので、牛鬼との<相撲>がじっくりと描かれることになります。また、上方の相撲とりとの関係では身分を<偽り><騙き><退散>させるとモチーフ素が畳みかけられています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.39-40.

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