姫野の池――モチーフ分析
◆あらすじ
三瓶山の麓に姫野の池という小さな池がある。ほとりにはカキツバタが生えている。池の近くに長者がいて、お雪という娘がいた。薪を牛に載せて長者の家の前を通る若者がいた。娘と若者は互いに恋をした。その頃、野伏原に山賊がいたが長者の屋敷は襲わなかった。山賊の頭はお雪に目をつけていたのである。山賊の頭はある日屋敷を訪れてお雪を嫁に所望した。相手は山賊の頭で、お雪は若者と恋をしていたので長者は苦しんだ。長者はしばらく待って欲しいと答える。返事がないのに苛立った頭は手下を引き連れてお雪を奪いに長者の屋敷を襲った。そのことを知った若者は山刀をふるって山賊の群れに飛び込んだ。多勢に無勢で追われた若者は姫野の池のほとりまで来て斬り合ったが遂に斬り殺されてしまった。それを見たお雪は若者一人だけ死なせまいと池に身を投げた。池の底は深い泥で埋もれていたので娘が浮かび上がってくることはなかった。雨が降って昼と夜の気温の差の激しい夜には霧が池の辺りに下りてくる。そのときはお雪のすすり泣く声が聞こえるという。六月になると咲くカキツバタはお雪の生まれ変わりという。
◆モチーフ分析
・三瓶山の麓に姫野の池がある。池のほとりにはカキツバタが生えている
・池の近くに長者の屋敷があり、娘がいた
・牛に薪を積んで長者の家の前を通る若者がいた
・若者と娘は互いに恋をした
・野伏原に山賊がいた。山賊の頭は娘に目をつけていた
・山賊の頭は長者を訪ね、娘を嫁に所望した
・長者は事情を知っていたので、しばらく待ってもらう
・返事がないのに苛立った山賊の頭は長者の屋敷を襲った
・若者が加勢にかけつけるが、多勢に無勢で池のほとりに逃げる
・若者は斬り殺されてしまう
・跡を追って娘も入水してしまう
・池のほとりのカキツバタは娘の生まれ変わりという
形態素解析すると、
名詞:娘 池 長者 山賊 若者 ほとり 頭 カキツバタ 屋敷 三瓶 事情 入水 前 加勢 多勢 姫野 嫁 家 恋 所望 無勢 牛 目 薪 跡 近く 返事 野伏 麓
動詞:いる ある いう かけつける する つける 待つ 斬り殺す 生える 生まれ変わる 知る 積む 苛立つ 襲う 訪ねる 追う 逃げる 通る
形容詞:ない
副詞:しばらく 互いに
娘/山賊/若者の構図です。娘―山賊―若者の図式です。
娘と若者が恋をする[恋愛]。一方で山賊の頭が娘に横恋慕する[横恋慕]。娘を奪おうとした山賊の頭だったが[奪取]、若者が助けに入る[救援]。多勢に無勢で若者は殺されてしまう[殺害]。跡を追った娘は入水してしまう[入水]。娘はカキツバタに生まれ変わったとされている[転生]。
娘の救援に入るも多勢に無勢で殺されてしまう。その跡を追って入水する……という内容です。
発想の飛躍となるのは姫が入水した地にカキツバタが生えてくることでしょうか。姫の生まれ変わりとされているのです。
<恋>と<恋>が衝突し、争いとなります。助けに入った若者は<殺害>されてしまいます。跡を追って娘は<入水>します……ということで<殺害><死>のモチーフ素の直後に<入水><死>のモチーフ素をもって来て、娘の悲しみを強調しています。冒頭に出てきたカキツバタは娘の生まれ変わりと結んで伝説の真実であると信じられている認識を補強します。また、<恋>が<死>に終わることで悲しみで物語を締め括っています。<恋>と<入水>のモチーフ素の間は離れています。これは全体的な話の基調を定めています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.24-25.
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