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2022年6月

2022年6月30日 (木)

どぶの主――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔ある村に長い間住職のいない荒寺があった。あるとき一人の侍がこの村を通りかかって、茶店の主人にあの荒寺はどういう訳であんなに荒れているのか尋ねた。すると主人はあの寺には夜になると化物が出るので誰も住む者がいない。それで荒れているのだと答えた。それを聞いた侍はそれでは自分が退治してやろうと言った。主人が無事に帰った者はいないと引き留めたが侍は荒寺へ入っていった。

 侍が本堂に上がってみると、足の踏み場もないほど荒れていた。真夜中になると、何ともいえぬ鬼気が迫ってきた。そのうちに激しい邪気を催してきた。侍は眠気をこらえてじっと見張っていると、何ともつかぬさまざまな形をした化物がぞろぞろと現れた。

 侍は出てくる化物をかたっぱしから斬った。が、化物は後から後から出てくる。そのうちに化物がお待ちくださいと言った。侍が刀を引くと、化物は訳を話しだした。この寺の住職と家内が物を粗末にし、茶碗や皿、箸、しゃもじその他の道具や品物を少し使ってはどぶに流し込んだ。我々はどぶに流されたので、きたない泥水の中で長い間苦しんでいる。それを知ってもらうために変化になったのだが、誰もすぐ逃げ出してしまい、話を聞いてくれるものがいないと。

 侍が承知すると化物たちはすっと消えてしまった。夜が明けると侍はお寺の裏に出てみた。裏には台所から流しの水の出るところに小さなどぶ池があって、ぶつぶつと泡だって嫌な臭いがする。ここだと思って棒きれでまぜ返すと、椀や杓子などが沢山でてきた。侍は人々に訳を話し、どぶ池をさらって埋まっている道具類を引き上げて焼き捨てた。それから化物は出なくなった。

◆モチーフ分析

・昔ある村に住職のいない荒寺があった
・一人の侍が村を通りかかり、荒寺の訳を聞く
・化物が出る戸知った侍は自分が退治すると乗り出す
・村人の制止にも関わらず、侍、荒寺に入る
・夜になると邪気が襲ってくる。化物登場
・侍、化物を斬る。化物が待ってくれと言う。
・化物、事情を話す。住職たちが家財をどぶに捨てていた
・夜が明け、侍はどぶを浚う
・やってきた村人たちに事情を話し、出てきた家財を焼却する
・それで化物は出なくなった

 形態素解析すると、
名詞:化物 侍 荒寺 どぶ 事情 住職 夜 家財 村 村人 一人 制止 戸 昔 焼却 登場 自分 訳 退治 邪気
動詞:出る ある 話す いる なる やる 乗り出す 入る 待つ 捨てる 斬る 明ける 浚う 知る 聞く 襲う 言う 通りかかる 関わる

 侍/化物の構図です。抽象化すると、男/妖怪です。侍―家財―化物の図式です。

 荒寺のある村に侍が通りかかる[訪問]。化物の噂を聞く[聴聞]。制止を聞かず[禁止の侵犯]化物を退治することにした侍、荒寺に入る[入場]。化物が登場、侍、化物を斬る[応戦]。その内、化物が事情を打ち明ける[告白]。了承した侍は剣を収め、どぶを浚う[浚渫]。道具類が出てくる[露見]。道具類を言われたとおり焼く[焼却]。化物は出現しなくなる[消失]。

 荒寺に化物が出ると聞いて行ったところ、つくも神だった……という内容です。

 発想の飛躍は、化物の正体が住職たちによって捨てられた家財道具だったというのでしょうか。

 荒寺に化物が出るパターンのお話です。化物が<登場>し、侍は<応戦>します。その内に化物が事情を<告白>し、了承、どぶを<浚った>ところ道具類が出てきて<焼却>、化物は<消滅>するという形です。

 化物の<出現>と<消滅>というペアですが、その間に人間が原因を引き起こしたと語られるのが特徴でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.49-51.

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2022年6月28日 (火)

蛤姫――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、一人の若い漁夫がいた。毎日海へ出て魚を獲って、それを町で売って生計を立てていた。ある日、いつもの様に舟で漁をしたが、一尾もかからなかった。もう一度釣ってかからなかったら今日はやめようと思って最後の糸を投げ込んだ。

 しばらくすると手応えがある。やっとのことで引き上げてみると、見たこともない様な珍しい蛤(はまぐり)だった。びっくりして見とれていると、蛤が二つに割れて中からきれいな女の子が出てきた。漁夫は喜んで家へ連れて帰り、蛤姫と名をつけて大切に育てた。

 姫は大きくなるにつれてますます美しくなった。そして姫は機を織ることが大変上手で、その織物は何ともいえぬ美しさだった。漁夫はそれからは漁をやめ、姫の織った反物を町に売りに出て、たくさんの金を儲け、楽しく暮らした。

 姫は美しい反物を織るばかりでなく、機を織る音がまるで美しい音楽のようだった。それを聞いた人たちが姫の機を織る様子を見ようと漁夫の家に押しかけてきたが、姫はなぜか一室に閉じこもって、戸を固く閉め、機を織る姿を誰にも見せなかった。

 ある日、漁夫はいつも通り、反物をもって町へ出かけた。ある一軒の大きな家で呼び止められ、たくさんの金で買い取られた。よい物を買った。お礼にと座敷に上げ、ご馳走やお酒でもてなした。漁夫はよい気分で酔い潰れてしまった。

 家では蛤姫が今日も一人、一室で美しい音をたてながら、とんとんからりと機を織っていた。すると近所の人たちがやって来て、今日は漁夫が帰っていないから、戸を開けてみようではないかと相談して、部屋へそっと近寄るといきなり戸をあけてのぞき込んだ。

 蛤姫はびっくりして機を織る姿を見られたら、もうここにいることはできない。蛤の中へ帰ると言って消えてしまった。

◆モチーフ分析

 「蛤姫」は蛤女房が艶笑譚なのを子供向けに改作したものと考えられます。
・昔、一人の若い漁夫がいた
・漁に出た漁夫だったが不漁だった
・これで駄目なら引き返そうと釣り針を海に入れたところ、珍しい蛤が釣れた
・蛤の中から可愛い女の子が出てくる
・蛤姫と名づけられる
・蛤姫は機を織るのが得意で美しい反物を織った
・また、機を織る音は美しかった
・だが、機を織る姿は誰にも見せなかった
・漁夫は反物を売りに町へ出かける
・反物が高く売れる
・反物を売ったお屋敷で漁夫は宴席によばれる
・漁夫は酔い潰れてしまう
・漁夫がいない隙に近所の者たちが蛤姫がいる部屋の戸を開けてしまう
・機を織る姿を見られた蛤姫はもうここにはいられないと消えてしまう

 形態素解析すると、
名詞:漁夫 蛤 反物 姫 機 姿 お屋敷 ここ これ ところ 一人 不漁 中 売り 女の子 宴席 得意 戸 昔 海 漁 町 者 誰 近所 部屋 釣り針 隙 音 駄目
動詞:織る いる 出る よぶ 入れる 出かける 名づける 売る 売れる 引き返す 消える 見せる 見る 酔い潰れる 釣れる 開ける
形容詞:美しい 可愛い 珍しい 若い 高い
副詞:また もう

 漁夫/姫の図式です。抽象化すると、男/動物女房です。男―蛤―姫、姫―(織る)―反物の図式です。

 漁夫が漁に出る。不漁だが遂に珍しい蛤を釣り上げる[遭遇]。蛤の中から可愛い女の子が出てくる[登場]。女の子は蛤姫と名づけられる[命名]。蛤姫は機を織る[働き]。しかし、織る姿は誰にも見せない[禁止]。漁夫、蛤姫が織った反物を売りに外出する[商売]。その隙に近所の人たちが蛤姫が機を織る姿を見てしまう[覗き見]。蛤姫、もうここにはいられないと消えてしまう[消失]。

 蛤姫が反物を織る姿を見ると、姫はもうここにはいられないと消えてしまう……という内容です。

 発想の飛躍は蛤から生まれた蛤姫というところでしょうか。

 基本的には<禁止>の<侵犯>による<婚姻>の<破綻>です。姫は機を織っているところを他人に見られてしまいますが、特に変わった様子はありません。ただ見られたから、ここにはいられないとなるのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.46-48.

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2022年6月27日 (月)

当てが外れる

国会図書館に行く。お目当ての博士論文はどちらも関西館所蔵で当てが外れた。江戸里神楽公演のパンフレットからアンケートのページをコピーする。七回以降は掲載されていないのが意外だった。

梅雨が明けた。真夏の様な暑さだった。

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えんこうの手紙――モチーフ分析

◆あらすじ

 明治の中頃、大田市の鳥居村に喜三郎という魚商人がいた。ある日出雲の国との境の邑智(おおち)郡の奥へ行って、帰りに小原村の江川(ごうがわ)のほとりを通ると、手ぬぐいを深く被った女がなれなれしく声をかけてきた。静間を通って大田へ帰るのかと訊くので、その通りと答えると、手紙を渡して、それを静間の神田の渕へ投げ込むように頼まれた。魚商人は手紙を受け取った。魚商人は川合の町まで帰ると、岩谷屋という店で酒を一杯飲んだ。そして主人に先ほどのことを話すと、静間川の神田の渕はえんこう(河童)の住処だと言って、その手紙を見せろとなった。そこで手紙を開くと、人間の文字ではなくみみずののたくった痕のようなものが書いてあった。これは江川のえんこうが化けたもので、魚商人をとるようにと神田の渕のえんこうに合図したのに違いないとなった。震え上がった魚商人は店主に相談して手紙を焼いてしまった。魚商人は川合から道をかえて長久を通って家へ帰った。それからは用事があっても静間川の方へは決して行かなかった。

◆モチーフ分析

 これは「河童の手紙」で有名な伝説です。「石見の民話」では明治時代の話としていて、近代民話に属するものとなっています。

・大田市の鳥居村に魚商人がいた
・出雲の国の境まで商売に行く
・帰りがけ、江川のほとりを通りかかると、女と遭遇する
・女は手紙を渡し、静間川の渕に投げて欲しいと頼む
・承知した魚商人は再び帰る
・途中立ち寄った店で先ほどの話をする
・怪しんで手紙を開いたところ、河童の手紙だった
・あやうく静間川の河童にとられるところだった
・手紙を焼却する
・ルートを変えて帰宅する
・その後も静間川には近づかない

 形態素解析すると、
名詞:手紙 静間 ところ 商人 女 河童 魚 ほとり ルート 先ほど 出雲 商売 国 境 大田市 川 帰りがけ 帰宅 店 後 承知 村 江川 渕 焼却 話 途中 遭遇 鳥居
動詞:いる する とる 変える 帰る 怪しむ 投げる 渡す 立ち寄る 行く 近づく 通りかかる 開く 頼む
形容詞:欲しい
副詞:あやうく 再び
連体詞:その

 魚商人/女の構図です。抽象化すると、男/妖怪です。男―手紙―女/えんこう、男―手紙―店の図式です。

 魚商人が出雲の国との境の村に行って、帰りに江川のほとりを通ると、女が声をかけてくる[遭遇]。女は静間川の渕に手紙を投げる[投棄]よう託して[付託]魚商人はそれを承諾する[承諾]。途中で店に寄って休憩した魚商人はそのことを店の主人に話す[会話]。主人はそれを怪しみ、手紙を開くと人の字ではなかった[露見]。これは江川の河童が静間川の河童に魚商人をとる様に伝えた手紙だということになり[解読]、手紙を焼く[焼却]。魚商人は別ルートを通って帰宅します[帰還]。その後も魚商人は静間川に近づかなかった[忌避]。

 女手紙を託されたところ、それはえんこうの手紙だった……という内容です。

 発想の飛躍は、他所の河童に人をとるように書かれた河童の手紙でしょうか。男―手紙―女/えんこうの図式です。

 女との<遭遇>からアイテムの<授受>、途中でそのことを他人に<話し>、河童の企みが<露見>する。結果、当初予定していたルートを<回避>するという構成となっています。各モチーフ素間の距離は適度に離れており、内容が具体的に描写されます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.44-45.

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2022年6月26日 (日)

弥兵衛の天昇り――モチーフ分析

◆あらすじ

 天保時代に石橋弥兵衛という人がいた。ある日大風が吹いて屋根の藁が飛んだたので屋根へ上がって繕っていた。すると海から竜が上がってきて弥兵衛の背中を撫でた。弥兵衛は竜の尻尾をつかまえると、竜と一緒に天に昇った。天には雷の家があった。弥兵衛は雷の家で使ってもらうことになった。弥兵衛は拍子木を打とうとすると、うっかり雲の端を踏んでしまい、海に落ちた。海では竜宮に行った。竜宮で使ってもらうことになった。竜宮のお姫様の坊やの世話をすることになった。ある日、隣村の祭りに坊やを連れていくことになった。しかし、果物はとってはならないと言われる。あまりに旨そうなので一つ取ると漁師の罠にかかった。弥兵衛は漁師に釣り上げられた。弥兵衛の身体にはウロコが一杯ついていた。人魚かと漁師の家へ連れて帰られた弥兵衛だったが、見物人の中に隣の爺さんがいた。弥兵衛は爺さんに声をかけて助けられた。南無阿弥陀仏と念仏を唱えると身体のウロコが落ちた。

◆モチーフ分析

・弥兵衛という人がいた
・大風が吹いて屋根の補修に上がったところ、竜がやってきた
・竜のしっぽにつかまった弥兵衛は天に昇る
・天には雷の家があった。雷の家で下男として働くことになる
・拍子木を鳴らそうとしたら雲の切れ端で足を滑らせ落下してしまう
・海に落下する。竜宮にいき下男となる
・竜宮のお姫様の坊を隣村に連れて行く
・途中にある果物はとってはならないと言われていたが、つい取ってしまう
・果物は漁の罠で弥兵衛は海上に引き上げられてしまう
・弥兵衛の身体にはウロコが生えていた。見物人がやってくる
・見物人の中に隣の爺さんがいることに気づいて、事情を話して解放してもらう
・念仏を唱えると、ウロコが落ちる

 形態素解析すると、
名詞:弥兵衛 こと ウロコ 下男 天 家 果物 竜 竜宮 落下 見物人 雷 お姫様 しっぽ ところ 中 事情 人 切れ端 坊 大風 屋根 念仏 拍子木 海 海上 漁 爺さん 罠 補修 解放 足 身体 途中 隣 隣村 雲
動詞:なる ある いる する やる いう つかまる とる 上がる 働く 取る 吹く 唱える 引き上げる 昇る 気づく 滑る 生える 落ちる 行く 言う 話す 連れる 鳴らす
形容詞:いい
副詞:つい

 弥兵衛/竜/雷/竜宮の姫/隣の爺さんといった構図です。弥兵衛―屋根の補修―竜、弥兵衛―下男―雷、弥兵衛―下男―竜宮、弥兵衛―ウロコ―隣の爺さんといった図式です。

 これは幾つものお話が解決されることなく連続するお話です。

 大風が吹いて屋根の補修に上った弥兵衛の前に竜が現れ、弥兵衛は竜の尻尾につかまって天に昇る[昇天]。そこには雷の家があり、雷の下男として働くことになるが[下働き]、雲の端から落下してしまう[転落]。海に落ちた弥兵衛は次に竜宮に行く[竜宮行]。竜宮の姫様の坊の面倒をみることになった弥兵衛だが、隣村にいく際に「果物をとってはならない」という禁止を[禁止]破り果物をとってしまう[禁止の侵犯]。すると果物は漁師の罠で、弥兵衛は海上へ引き上げられる[捕獲]。弥兵衛の身体にはウロコが生えており、人でないと誤解されるが[見物]、隣の爺さんを見つけ、説明してもらうことで解放される[釈放]。ウロコは念仏を唱えることで落ちる[復帰]。

 地上―天―海―地上と行き来することが発想の飛躍でしょうか。

 地上―天―海―地上と舞台は移り変わります。三つのお話が連続し、それぞれが解決しないままに次の物語に移行しますので、モチーフは昇天、転落、禁止を破る、罠に捕獲される、陸に引き上げられ、元の人間に戻るといった形で継起します。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.41-43.

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2022年6月25日 (土)

寝てしまう――ゲキ×シネ『狐晴明九尾狩』

ゲキ×シネ『狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり) 』を港北ノースポートモールで見る。劇団☆新感線の作品。演劇を映画館で観劇するのは初めて。が、一幕、二幕とも睡魔に襲われて寝てしまった。このところ「犬王」「東京オリンピック2020 SIDE:B」と寝てしまっているので、三連続で寝てしまったことになる。調子が悪いのか。

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怪力尾車――モチーフ分析

◆あらすじ

 福光川の下流に岩根屋敷というところがある。昔ここに岩根という大金持ちが住んでいた。その家に尾車(おぐるま)という相撲とりがいた。大男ではなかったが力が強く、近辺には尾車に勝つものはいなかった。

 この話を聞いた上方の相撲とりが、ひとつ勝負をしてみようと思って、はるばる岩根屋敷へやってきた。尾車はその時下男の様な身なりで庭の掃除をしていた。尾車は不在だが、弟子の自分が力だめししましょうと言って大黒柱を一尺ばかり持ち上げた。これを見た上方の相撲とりは胆をつぶした。弟子でこれほどなら師匠の尾車とは勝負にならないと逃げ帰った。

 ある日、尾車が波打ち際にいると、沖の方から牛鬼がやって来て尾車を海へ引き込もうとした。尾車は逆に陸に引き上げてやろうと思って波打ち際で大相撲になった。どちらも力が強くて勝負がつかない。一晩中相撲をとったので、尾車も段々疲れてきた。海の方に引かれそうになった尾車だが、そのとき、一番鶏が鳴いた。牛鬼は夜が明けると力がなくなるので、お前の様な力の強い人間に出会ったのは始めてた。この勝負はおあづけにしようと言って沖へ姿を隠してしまった。

◆モチーフ分析

・福光の岩根屋敷に大金持ちがいた。その家に尾車という相撲とりがいた
・尾車は大男ではなかったが力が強く、近所で敵う者はいなかった
・上方の相撲とりが噂を聞いて尾車と相撲を取りたいとやってくる
・下男の格好をしていた尾車は自身の弟子だと偽る
・尾車、大黒柱を一尺も持ち上げる
・上方の相撲とり、弟子でこれでは勝負にならないと逃げ出す。

・ある日、尾車が波打ち際にいると牛鬼がやってきて海へ引き込もうとする
・尾車は逆に陸に引き上げようと牛鬼と相撲をとる
・勝負が中々つかない。尾車は次第に疲れてくる
・そのとき一番鶏が鳴き、夜明けを告げた
・夜が明けると力を失う牛鬼は尾車を賞賛して退散する

 形態素解析すると、
名詞:尾車 牛鬼 相撲とり 上方 力 勝負 弟子 相撲 一 これ とき 一番鶏 下男 噂 夜 夜明け 大男 大金持ち 大黒柱 家 屋敷 岩根 格好 波打ち際 海 福光 者 自身 賞賛 近所 退散 逆 陸
動詞:いる する やる いう つく とる なる 偽る 取る 告げる 失う 引き上げる 引き込む 持ち上げる 敵う 明ける 疲れる 聞く 逃げ出す 鳴く
形容詞:ない 強い
副詞:ある日 中々 次第に
連体詞:その

 尾車/相撲とり、尾車/牛鬼の構図です。抽象化すると、力士/力士、力士/妖怪です。尾車―(偽る)―相撲とり、尾車―勝負―牛鬼の図式です。

 尾車の伝説は二つのパートからなります。

 尾車という力の強い相撲とりがいる[存在]。ある日、上方からやってきた相撲とりに勝負を申し込まれる[申し入れ]。尾車は自分は弟子だと偽る[偽装]。尾車は大黒柱を一尺も持ち上げ、それを見た上方の相撲とりはとても敵わないと逃げ出す[退散]。

 波打ち際で牛鬼と遭遇した尾車は牛鬼と相撲をとります[遭遇][勝負]。決着が中々つかないが[実力伯仲]、一番鶏が夜明けを告げる[夜明け]。朝になると力を失う牛鬼は尾車を賞賛して退散する[退散]。

 尾車は上方の相撲とりを驚かせるほど力が強かった。牛鬼と勝負した尾車だったが夜明けまで勝負がつかなかった……という内容です。

 発想の飛躍は、尾車が自身を弟子と偽って怪力を見せつけるところでしょうか。尾車―(偽る)―相撲とりの図式です。まんまと騙すことに成功するのです。

 牛鬼の伝説として見た場合、牛鬼との<遭遇>から牛鬼の<退散>までが描かれます。また自身の弟子と<偽った>尾車は上方の相撲とりを<騙し>、怪力を<誇示>して相撲とりを<退散>させます。

 牛鬼との<遭遇>と<退散>のモチーフ素はペアになっています。両者の間は離れていますので、牛鬼との<相撲>がじっくりと描かれることになります。また、上方の相撲とりとの関係では身分を<偽り><騙き><退散>させるとモチーフ素が畳みかけられています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.39-40.

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2022年6月24日 (金)

影ワニ――モチーフ分析

◆あらすじ1

 温泉津の辺りではサメのことをワニと言う。影ワニという怪物がいるという。船が沖を走っているとき、船乗りの影が海に映ることがある。その影を影ワニが呑むと、影を呑まれた船乗りは死ぬと言う。

 昔、ある船乗りが影を呑まれそうになった。気づいた船乗りは反対に影ワニを撃ち殺した。村に帰った船乗りは、ある日浜を歩いていると魚の骨が足の内に突き刺さった。その傷が元で船乗りは死んでしまった。後になって調べてみると、その骨は船乗りが殺した影ワニの骨であった。

 もし影ワニに見つかったら、むしろでも板でも海に投げて自分の影を消さなければならないと言う。

◆モチーフ分析

・温泉津の辺りでは影ワニという怪物がいる
・船乗りの海面に映った影が影ワニに呑まれると、その船乗りは死んでしまう
・影ワニに影を呑まれそうになった船乗りが逆に影ワニを撃ち殺した
・村に戻って浜を歩いていると船乗りの足に魚の骨が刺さった
・その傷が元で船乗りは死んでしまった
・その骨は船乗りが撃ち殺した影ワニだった

 形態素解析すると、
名詞:影 船乗り ワニ 骨 傷 元 怪物 村 浜 海面 温泉津 足 辺り 逆 魚
動詞:呑む 撃ち殺す 死ぬ いう いる 刺さる 戻る 映る 歩く
連体詞:その

 船乗り/影ワニの構図です。抽象化すると、男/妖怪です。船乗り―影/骨―影ワニの図式です。

 船乗りが影ワニに影を呑まれそうになります[遭遇]。逆に影ワニを撃ち殺す。[反撃][殺害]。浜に戻ったある日、魚の骨が足に刺さってしまう[負傷]。このときの傷が元で死んでしまう[死]。

 影ワニに襲われ、逆に撃ち殺してしまったが、そのときの影ワニの骨を踏んでしまい、死に至る……という内容です。

 発想の飛躍は、船乗りの影を食べる影ワニの存在でしょうか。船乗り―影―影ワニの図式です。

 影ワニに<反撃>して<殺害>しますが、その影ワニの骨で<傷>を負い<死>んでしまいます。<殺害>が自身の<死>を招き寄せる結末となっています。

◆あらすじ2

 日祖の港の西側にアバヤという所がある。そこの岬に東から西に通り抜ける大きな洞穴がある。この東側の入口の沖で二人の漁師が漁をしていた。二人とも夢中になっていたが、突然一人が悲鳴を上げた。もう一人が驚いて振り返ると影も形も無かった。海に落ちたのかと、そこら中メガネで探したが見当たらなかった。後で村中総出で、やっと海の底から死んだ漁師の着物だけを拾い上げた。アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいると言われている。

◆モチーフ分析

・アバヤの岬に洞穴がある
・洞穴の東側の沖で漁師が二人漁をしていた
・突然一人が悲鳴を上げ消える
・もう一人が探すが見つからない
・村中総出で探して消えた漁師の着物だけが見つかる
・アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいるという

 形態素解析すると、
名詞:洞穴 アバヤ 一人 漁師 ワニ 二人 岬 影 悲鳴 昔 村中 東側 沖 漁 着物 総出
動詞:探す 消える 見つかる ある いう する 上げる 住む
副詞:もう 突然

 漁師/影ワニ/漁師の構図です。抽象化すると、男/妖怪/男です。漁師―着物―影ワニの図式です。

 洞穴の東で漁をしていた漁師の内、一人が突然消える[消失]。探すも着ていた着物しか見つからない[捜索]。洞穴には影ワニがいると言う[存在]。

 漁師が突然消えた海には影ワニがいると言われる……という内容です。

 発想の飛躍は、漁師の消失でしょうか。漁師―着物―影ワニの図式です。

 着物しか見つからないことで漁師の<死>を暗示しています。そしてそれは影ワニによるものだと最後で明かしています。

 牛鬼の伝説では大抵の場合助かるのですが、影ワニの場合、犠牲者が出る場合もあり、話の色合いが多少異なっています。

 水面に映った人の影を食べるサメという想像力が魅力でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.37-38.

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2022年6月23日 (木)

うしおに――モチーフ分析

◆あらすじ1

 波路浦に一人の漁師がいた。ある日の漁は大量であった。喜んで帰りかけると、海の中から大きな牛の様な怪物が大きな声で「魚をくれ」と叫ぶので、恐ろしくなって投げてやった。ところが怪物はまたしても「魚をくれ」と叫ぶので、その度に少しずつ投げてやった。ようやく港へ着くと急いで家へ帰った。しばらくすると怪物がやってきて、どんどん戸を叩きながら「魚をくれ」と言った。漁師が「家の中へ入れ。魚をやろう」というと「お前はお仏飯を食べているから、家の中へは入られない」といって逃げていった。あくる朝戸をあけて庭へ出てみると大きな足跡が残っていた。足跡は牛の様でもあるし、牛とは違う様にもあるし、村人は不思議に思った。これは昔から言われている牛鬼だろうということになった。

◆モチーフ分析

・波路浦に漁師がいた。ある日の漁は大漁だった
・帰りかけると。海の中から怪物が「魚をくれ」と叫ぶので魚をやる
・「魚をくれ」と叫び続けるので、その都度魚をやる
・港へつくと急いで家へ帰る
・家まで怪物が来て「魚をくれ」と言う
・「家の中へ入れ」と言うと「お前はお仏飯を食べているから中に入れない」と怪物が答え逃げていく
・あくる朝、戸をあけると足跡が残っていた
・これは牛鬼だろうということになった

 形態素解析すると、
名詞:魚 中 家 怪物 あくる朝 お前 こと これ 仏 大漁 戸 波路 浦 海 港 漁 漁師 牛鬼 足跡 都度 飯
動詞:くれる やる 入れる 帰る 言う あける いう いる つく なる 叫び続ける 叫ぶ 急ぐ 来る 残る 答える 逃げる 食べる
副詞:ある日
連体詞:その

 漁師/牛鬼の構図です。抽象化すると、男/妖怪です。漁師―魚/お仏飯―牛鬼の図式です。

 漁師が漁に出たところ大漁だった[豊漁]。帰りかけると牛鬼が現れ[登場]、魚をねだる[要求]。魚をやるとついてくる[追跡]。家に逃れる[逃避]と戸の前まで牛鬼がやってくる[来襲]。家の中に入れと言いますと、漁師はお仏飯を食べているから中には入れない[侵入不可]と答え、牛鬼は逃げる[逃亡]。

 牛鬼に魚をやったところ家までついてきたが、お仏飯を食べていたので被害は免れる……というお話です。

 発想の飛躍は、お仏飯を食べていると牛鬼に襲われないということでしょうか。漁師―魚/お仏飯―牛鬼の図式です。

 <大漁>が牛鬼の<登場>を促します。それから牛鬼に<追跡>されるので<逃亡>します。家の中に逃げ込むと、お仏飯を食べたものは<害>せないとなって牛鬼は<逃亡>します。

 全体的に見れば牛鬼の<登場>から<逃亡>までを描いています。お仏飯が牛鬼の<害>を防ぐ要因となります。

◆あらすじ2

 波路浦の大下(おおしも)という家の何代も前の主人が三人の仲間と一緒に四月のある晩釣りに出た。他の舟は沖へ出ていたが、この舟は温泉津の港と福光海岸の中程のシューキの岸近くで糸を下ろした。ここは秘密の釣り場で、その日もよく釣れた。夜が更けて岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがあった。この辺りは断崖絶壁で人のゆける所ではない。狐が悪戯をするのだと思って「おう、来たけりゃ、来い」とからかい半分に言った。ところが「おう」と返事と共に何か大きなものが海にどぶんと飛び込んだ。舟に向かって牛鬼が泳いできた。真っ青になった四人は一生懸命波路浦に向けてこぎ出した。牛鬼も舟を追って来る。ようやく一里ばかり離れた波路浦の浜に着くと、一番近い大下の家へ飛び込んで戸を閉めた。牛鬼は戸をどんどん叩きながら「開けろ、開けろ」とどなる。四人は土間にへばりこんでさっぱり動こうともしない。家の者が火箸を囲炉裏で真っ赤に焼いて、大戸の鍵穴に口を寄せて「今戸を開けてやるから静かにせい」と怒鳴った。牛鬼は声のした鍵穴から中をのぞき込んだ。その時、焼き火箸を鍵穴へ突っ込んだ。目を焼き火箸で突き刺された牛鬼はたけり狂ったが、柱の上に張ってある出雲大社のお札に気づくと身震いしてもの凄い声をあげて逃げていった。この辺りの漁師はそれから必ず出雲大社のお札を戸口に貼るようになった。

◆モチーフ分析

・波路浦の大下の家の主人が仲間と共にある晩釣りにでかけた
・温泉津と福光の間のシューキの秘密の釣り場で釣りをする
・よく釣れた
・岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがいる
・狐だと思い、「おう」と返すと牛鬼が海に飛び込み舟めがけて追いかけてきた

・焦った主人たちは波路浦に向けてこぎ出す。牛鬼も舟を追ってくる
・ようやく波路浦の浜につくと大下の家に逃げ込む
・牛鬼が「開けろ」と怒鳴る
・牛鬼が鍵穴をのぞき込んだところ、家のものが焼いた火箸を鍵穴に突っ込む
・目を突かれた牛鬼はたけり狂うが、出雲大社のお札に気づくと逃げていった
・それからこの辺りの家は出雲大社のお札を戸口に貼るようになった

 形態素解析すると、
名詞:牛鬼 家 波路 お札 もの 主人 出雲大社 大下 浦 鍵穴 ところ シューキ 仲間 声 岸 戸口 方 晩 浦の浜 海 温泉津 火箸 狐 目 福光 秘密 舟 辺り 釣り場 間
動詞:行く ある いる おう かける こぎ出す する たけり狂う つく でかける のぞき込む めがける 向ける 怒鳴る 思う 気づく 焦る 焼く 突く 突っ込む 貼る 返す 追いかける 追う 逃げる 逃げ込む 釣る 釣れる 開ける 飛び込む
副詞:ようやく よく 共に
連体詞:この

 主人/牛鬼の構図です。抽象化すると、男/妖怪です。主人―火箸/お札―牛鬼の図式です。

 漁に出たところ、怪物が声をかけてくる[遭遇]。応じるとそれは牛鬼で、牛鬼が追ってくる[追跡]。家に逃げ込んだ漁師たちだったが、焼けた火箸で牛鬼の目を突き刺す[反撃]。怒った牛鬼だが出雲大社のお札に怖れをなして逃げる[逃散]。それから各戸で出雲大社のお札を戸口に貼るようになった[由来]。

 牛鬼と遭遇したが、火箸で牛鬼の目を潰した。出雲大社のお札の功力で牛鬼は退散した……という内容です。

 発想の飛躍は、火箸で牛鬼の目を突くことでしょうか。主人―火箸―牛鬼の図式です。

 牛鬼の<追跡>と<逃走>、機転を利かせて牛鬼の目を突いて<反撃>します。出雲大社のお札が重要なアイテムとなり牛鬼は<逃散>します。

◆あらすじ3

 日祖(にそ)の漁師に友村清市という人がいた。ある晩一人で小舟に乗って沖へ出た。すると牛鬼が一匹、追いかけてきた。力が強く胆のすわった清市は舟中の綱をまとめて牛鬼が近づくのを待った。間もなく牛鬼は船べりにきて舟に上がろうとした。清市はこれに組み付き、舟へ引き上げて、がんじがらめに縛り上げた。清市は小二町(こふたまち)まで舟で帰り、そこから山越しに日祖まで牛鬼を担いで帰った。浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、日祖中の人がぞろぞろ見にきた。わいわい言っていると、一人の若者が櫂を持って牛鬼の頭を力任せに殴りつけた。すると変な音がして櫂は二つに折れた。近寄ってよく見ると、椿の木の古い根ががんじがらめに縛ってあった。昔から椿は化けるということで、椿の花は仏さまには絶対に供えない。

◆モチーフ分析

・日祖に漁師がいた
・ある晩、小舟に乗って沖へ出た
・牛鬼が一匹追いかけてきた。牛鬼は船べりまでやって来た
・漁師は組み付き、舟へ引き上げてがんじがらめに縛り上げた
・漁師は小二町まで舟で帰り、日祖まで牛鬼を担いで帰った
・浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、村中の人が見物にきた
・一人の若者が櫂で牛鬼の頭を殴りつけた。すると櫂は二つに折れた
・近寄ってよく見ると、椿の古い根ががんじがらめに縛ってあった
・昔から椿は化けるので、椿の花は仏さまには絶対に供えない

 形態素解析すると、
名詞:牛鬼 椿 漁師 がんじがらめ 日 櫂 祖 舟 一 二 一人 二つ 人 仏 前 小舟 昔 晩 村中 根 沖 浜 舟小屋 船べり 花 若者 見物 頭
動詞:帰る いる くる やって来る 乗る 供える 出る 化ける 引き上げる 投げ出す 折れる 担う 殴りつける 組み付く 縛り上げる 縛る 見る 近寄る 追いかける
形容詞:よい 古い
副詞:絶対
連体詞:ある

 漁師/牛鬼の構図です。抽象化すると、男/妖怪です。漁師―(縛る)―椿/牛鬼の図式です。

 漁に出ると、牛鬼が追いかけてきたが[遭遇]、漁師が牛鬼を捕まえる[捕獲]。捕獲した牛鬼を村まで担いで帰る[帰還]。捕獲された牛鬼を見物に村人たちがやって来る[見物]。一人が牛鬼を櫂で叩くと[殴打]、それは椿の根だった[露見]。椿は化けるので仏に供えない[由来]。

 牛鬼を捕獲して連れ帰ったところ、それは椿の根だった……という内容です。

 発想の飛躍は、捕獲した牛鬼が椿の根だったということでしょうか。漁師―(縛る)―椿/牛鬼の図式です。

◆あらすじ4

 日祖である晩いわしの地引き網を入れた。ところがどうしたことか一尾もかからない。気をくさらせて皆は酒を飲んでさっさと引き上げた。そのとき小舟にいた一人の老人が家に帰ってから煙草入れを忘れたのに気がついて取りにいこうとした。家内は不吉な予感がすると言って行くのを止めたが、老人は振り切って行こうとする。そこで家内は仏壇に供えてあったお仏飯を食べさせて出した。煙草入れを探すのに夢中になっていた老人が騒がしい波の音に気がついてふとその方を見ると一匹の牛鬼が側まで来ていた。舟の中であり、もう逃げられないと思ったが、思わず櫂で殴ってやろうと身構えた。すると牛鬼は「お前はお仏飯を食っているから近づけない」と言って逃げていった。昔から子供が海や山へ行くときには怪我の無いようにといってお仏飯を食べさせる。

◆モチーフ分析

・日祖である晩いわしの地引き網を入れた。が、一匹もかからない
・漁師たちは酒を飲んでさっさと引き上げた
・小舟にいた老人が煙草入れを忘れて取りに行こうとした
・家内が不吉だと止めたが、老人は振り切ったので、お仏飯を食べさせる
・老人が煙草入れを探していると牛鬼が側までやって来た
・老人は櫂で殴ろうとする
・牛鬼は「お前はお仏飯を食べているから近づけない」と言って逃げた
・昔から子供が海や山に行くときは怪我の無いようにお仏飯を食べさせる

 形態素解析すると、
名詞:老人 仏 飯 煙草入れ 牛鬼 一 いわし お前 とき 不吉 側 地引き網 子供 家内 小舟 山 怪我 日 昔 晩 櫂 海 漁師 祖 酒
動詞:食べる する 行く いる かかる やって来る 入れる 取る 引き上げる 忘れる 振り切る 探す 止める 殴る 言う 近づける 逃げる 飲む
形容詞:無い
副詞:さっさと

 漁師/牛鬼の構図です。抽象化すると、男/妖怪です。漁師―煙草入れ/お仏飯―牛鬼の図式。

 老人が舟に置き忘れた煙草入れ[忘れ物]を取りに行こうとする[外出]。不吉なので家内がお仏飯を食べさせる[食事]。舟で煙草入れを探していると牛鬼がやって来た[接近]。身構えるが、お仏飯を食べていたので牛鬼は逃げ出す[逃散]。それで子供が海や山に行くときにはお仏飯を食べさせる[由来]。

 忘れ物を取りにいって牛鬼に遭遇するも、お仏飯を食べていて無事だった……という内容です。

 発想の飛躍は、お仏飯を食べていると牛鬼の被害を免れることでしょうか。漁師―お仏飯―牛鬼の図式です。

 ……まとめますと、おおよそ牛鬼の<登場>から<退散>までが描かれます。間に漁師の<逃走>が描かれます。牛鬼を退散させる手段は幾つかありますが、主にお仏飯と出雲大社のお札です。<漁>に伴う伝説でありますため、多くは漁師町で語られていた伝説と思われます。

 牛鬼の存在自体が発想の飛躍でしょうか。海から現れる力の強い怪物です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.32-36.

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ごうろ坂の一ツ目小僧――モチーフ分析

◆あらすじ

 ごうろ坂は矢滝城山の中腹にある胸つき十八町といわれる急な坂道で、大森(銀山)へ行く難所だった。いつの頃からか、ここに一ツ目の化物が出て旅人をとって食うという噂が広がった。夕方になると道を歩く人もなくなってしまった。大森の代官所でも強い武士に化物を退治させようとしたが、その度に失敗した。

 ある夕方、温泉津から清水を通って西田に来た一人の武士がいた。その武士が西田の茶店で休んで出発しようとすると、もう夕方なので化物が出る。今夜は泊まって明日出立した方がよいと言われる。化物が出ると知った武士は退治してやろうと考える。武士は制止を振り切って出立した。

 坂の頂上辺りまで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた。明日の朝温泉津を出る北前船に乗らなければならないのだが、急に腹が痛くなって動けないと女は答えた。闇に女の顔が白く浮かぶ。

 人間ではないと気づいた武士だったが、女を背負うと西田へと下っていく。歩く内に背中の女は次第に重くなり、とうとう歩けなくなった。武士は決心して女を道ばたの石に投げ下ろした。ぎゃっという悲鳴とともに女の姿は消えてしまった。

 あくる朝、矢滝の人々がいってみると、大石は血で染まり、側に狸の毛が一杯落ちていた。人々はそこに地蔵さまを祀った。それからはそういうことはなくなった。

◆モチーフ分析

・ごうろ坂は急な坂道で大森へ行く難所だった
・いつの頃からか坂に一ツ目の化物が出ると噂が立った
・夕方になると人気が絶えた
・代官所も武士に化物退治をさせたが、その度に失敗した
・ある夕方、温泉津から西田へ来た武士がいた
・武士が西田の茶店で休んでいると、もう夕方だから今夜はここに泊まっていけといわれる
・化物がでると知った武士は制止を振り切って出立する
・坂の頂上まで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた
・明日の朝までに温泉津に行かねばならない
・闇に女の顔が白く浮かぶ。人でないと武士は見破る
・女を背負った武士、西田へと下っていく
・背中の女は次第に重くなり、歩けなくなってしまった
・思い切って女を道ばたの大石に投げ下ろした
・悲鳴とともに女の姿は消えた
・人々が行ってみると、大石は血で染まり、狸の毛がいっぱい落ちていた
・人々はそこに地蔵を祀った
・それから化物が出ることはなくなった

 形態素解析すると、
名詞:女 武士 化物 坂 夕方 西田 人々 大石 温泉津 道ばた いつ うろ ここ こと そこ とき 一ツ 一人 人 人気 今夜 代官 出立 制止 噂 地蔵 坂道 大森 失敗 姿 度 急 悲鳴 明日 朝 毛 狸 背中 茶店 血 退治 闇 難所 頂上 頃 顔
動詞:行く 出る 来る いう いる する でる なくなる なる 下る 休む 投げ下ろす 振り切る 染まる 歩く 泊まる 浮かぶ 消える 知る 祀る 立つ 絶える 背負う 苦しむ 落ちる 見破る
形容詞:白い 若い 重い
副詞:いっぱい ともに もう 思い切って 次第に
連体詞:ある その

 武士/女の構図です。抽象化すると、男/女です。武士―(背負う)―女/狸の図式です。

 ごうろ坂で一ツ目の化物が人を驚かすと噂になる[噂]。その噂を聞きつけた武士が宿屋の制止[禁止]を聞かず坂に向かう[禁止の侵犯]。坂にやってくると一人の女が腹痛で苦しんでいる[遭遇]。急用の女を西田まで送るために武士は女を背負う[背負う]。が、女の身体は次第に重くなってしまう[重量増加]。決心した武士は女を大岩めがけ投げ捨てる[投棄]。すると女の姿は消え、跡に狸の毛が残っていた[露見]。人々はそこに地蔵をたてて祀った[祭祀]。

 ごうろ阪で女を背負ったところ、狸が化けたものだった……という内容です。

 発想の飛躍は、人ではないと悟りつつ、女を背負うところでしょうか。後に重さに耐えかねて投げ出してしまう行動につながります。

 化物の<噂>を聞いて間もなく女に化けた化物に<遭遇>します。この時点で女の正体は明かされていませんが、<噂>から間髪を入れずに<遭遇>しています。そして女を<背負う>ことで武士は危険を身に引き受けます。結果、重さに絶えかねた武士は女を大岩めがけ<投棄>します。そうすることで化物の正体が<露見>します。モチーフ間の接続に特に問題は見られません。<遭遇>から<露見>までがこの話の胆です。間には正体の<暗示>があります。<暗示>がお話を効果的に盛り上げます。<遭遇>から<露見>の間の距離は少し離れています。その間に状況の進行を説明するのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.29-31.

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2022年6月22日 (水)

足半踊り――モチーフ分析

◆あらすじ

 馬路(仁摩町)の乙見神社は大国主命をまつっている。昔、大国主命が志賀美(しかみ)山(高山)を見て、あそこはとてもよいところだ。永くこの地にとどまって国造りをしようと言って船をこぎよせられた。神子路(みこじ)の浜は大国主命の子神が通ったと言われている。後に志賀見山に社を建てた。

 ある夏のはじめ、志賀見山に火事が起きた。火は社の近くまで迫った。願城寺に住んでいた婆さんがこれは一大事と神さまをお助けすることを近所の人たちに呼びかけたが、火事の中であり、うっかり神さまに触っては祟りがあるかもしれないと思って助けようとする者がいなかった。

 三年前に夫をなくした婆さんは自分ひとりでもと決心して足半(あしなこ)をもって山の上へ駆け上った。山は険しく、つまづいたりぶつかったり、こけたりまるげたりしながら煙の中に見える社にようやく駆けつけた。

 幸い社は無事だった。婆さんはお参りすると、どうして神さまをお連れしようか考えた。女は穢れのあるものとされているので直に身体に触ってはいけない。そこで履いてきた足半の表の土のつかない方を背中にあて、裏の土のついた方を神さまの方へ向け、ご神体を背負って急な坂を下りはじめた。

 火は路へは回っていなかったので、何度も滑って尻もちをつきながら、ようやく麓の乙見の里についた。

 村人たちは婆さんの勇敢な行いに感心し、さっそく新しい社をどこに作るか相談した。山火事でも危険の無いところにしようと東西に川のある今の所を選んで社を建て、乙見と名づけた。

 ある晩、婆さんが寝ていると、して欲しいことがあれば祈願せよと神さまのお告げがあった。婆さんは社にお参りして田畑の作物が枯れそうだ、雨を降らせて欲しいとお祈りした。すると、その願いを叶えようとお告げがあって、黒い雲が空を覆い、大粒の雨が降ってきた。田畑の作物は生気を取り戻した。これを見た村人たちは大喜びで仕事着に足半を履いたまま、婆さんを先頭に社へ参って踊りを踊って神さまにお礼を言った。

 それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると、必ず雨が降るようになり、足半踊りを踊ってお礼まいりするようになった。有名な馬路の盆踊りの足半踊りはこれが始まりである。

◆モチーフ分析

・ある夏、志賀見山に火事が起きて、火は社の近くまで迫った。
・願城寺に住んでいた婆さんがご神体を避難させようと提案したが、村人たちは祟りを怖れ消極的だった
・婆さんは自分ひとりで足半を持って山へ登った。山は険しく苦労したが社に辿り着いた
・社は無事だった。女は穢れのあるものとされているので婆さんは足半を間に挟んでご神体を持ち出した
・何とか麓まで辿り着いた
・村人たちは婆さんの行いに感心、新しい社を乙見に建てることにする
・婆さんが寝ていると、夢のお告げがあった。婆さんは日照りなので雨を降らせて欲しいと祈った
・お告げがあって雨が降ってきた。田畑の作物は生気を取り戻した
・村人たちは足半を履いたまま踊り、神さまに礼を言った
・それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると必ず雨が降った
・村人たちは足半踊りを神さまに奉納するようになった
・馬路の盆踊りの足半踊りの起源はこれである

 形態素解析すると、
名詞:婆さん 足半 村人 社 雨 お告げ ご神体 山 日照り 神 踊り こと これ とき ひとり まま もの 乙見 作物 城寺 夏 夢 奉納 女 子孫 志賀 感心 提案 火 火事 無事 生気 田畑 盆踊り 礼 祟り 自分 苦労 見山 起源 近く 避難 間 雨乞い 願 願主 馬路 麓
動詞:ある する 降る 辿り着く なる 住む 取り戻す 寝る 履く 建てる 怖れる 持ち出す 持つ 挟む 登る 祈る 穢れる 行う 言う 起きる 踊る 迫る
形容詞:新しい 欲しい 険しい
形容動詞:消極的
副詞:何とか 必ず
連体詞:ある その

 婆さん/ご神体の構図です。婆さん―足半―ご神体の図式です。

 火事が起き、ご神体が危機に晒される[火難]。老婆が一人山に上がってご神体を麓まで避難させる[退避]。老婆に夢のお告げがあり[夢告]、日照りなので雨を降らせて欲しいと願う[祈願]。果たして雨は降ってきた[降雨]。村人たちは足半踊りを踊って神さまに礼を言う[奉納]。これが馬路の雨乞いと足半踊りの起源である[由来]。

 火事でご神体を避難させたところ、夢のお告げがあった……という内容です。

 発想の飛躍は、足半を間に挟んでご神体を運ぶところでしょうか。後に足半踊りの起源となる訳です。

 <火事>によるご神体の<避難>とその功徳による<雨乞い>の起源とに伝説は分割されます。足半が伝説の前段と後段とを結ぶのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.26-28.

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2022年6月20日 (月)

半年かかるか

未来社「石見の民話」のモチーフ分析、一日二話と考えていたが、これが案外苦しい。あらすじに起こすのが負荷がかかるのである。休憩を入れれば不可能ではないが、一日一話くらいが適正だろう。約150話あるのでだいたい半年ほど見積もることになる。

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姫野の池――モチーフ分析

◆あらすじ

 三瓶山の麓に姫野の池という小さな池がある。ほとりにはカキツバタが生えている。池の近くに長者がいて、お雪という娘がいた。薪を牛に載せて長者の家の前を通る若者がいた。娘と若者は互いに恋をした。その頃、野伏原に山賊がいたが長者の屋敷は襲わなかった。山賊の頭はお雪に目をつけていたのである。山賊の頭はある日屋敷を訪れてお雪を嫁に所望した。相手は山賊の頭で、お雪は若者と恋をしていたので長者は苦しんだ。長者はしばらく待って欲しいと答える。返事がないのに苛立った頭は手下を引き連れてお雪を奪いに長者の屋敷を襲った。そのことを知った若者は山刀をふるって山賊の群れに飛び込んだ。多勢に無勢で追われた若者は姫野の池のほとりまで来て斬り合ったが遂に斬り殺されてしまった。それを見たお雪は若者一人だけ死なせまいと池に身を投げた。池の底は深い泥で埋もれていたので娘が浮かび上がってくることはなかった。雨が降って昼と夜の気温の差の激しい夜には霧が池の辺りに下りてくる。そのときはお雪のすすり泣く声が聞こえるという。六月になると咲くカキツバタはお雪の生まれ変わりという。

◆モチーフ分析

・三瓶山の麓に姫野の池がある。池のほとりにはカキツバタが生えている
・池の近くに長者の屋敷があり、娘がいた
・牛に薪を積んで長者の家の前を通る若者がいた
・若者と娘は互いに恋をした
・野伏原に山賊がいた。山賊の頭は娘に目をつけていた
・山賊の頭は長者を訪ね、娘を嫁に所望した
・長者は事情を知っていたので、しばらく待ってもらう
・返事がないのに苛立った山賊の頭は長者の屋敷を襲った
・若者が加勢にかけつけるが、多勢に無勢で池のほとりに逃げる
・若者は斬り殺されてしまう
・跡を追って娘も入水してしまう
・池のほとりのカキツバタは娘の生まれ変わりという

 形態素解析すると、
名詞:娘 池 長者 山賊 若者 ほとり 頭 カキツバタ 屋敷 三瓶 事情 入水 前 加勢 多勢 姫野 嫁 家 恋 所望 無勢 牛 目 薪 跡 近く 返事 野伏 麓
動詞:いる ある いう かけつける する つける 待つ 斬り殺す 生える 生まれ変わる 知る 積む 苛立つ 襲う 訪ねる 追う 逃げる 通る
形容詞:ない
副詞:しばらく 互いに

 娘/山賊/若者の構図です。娘―山賊―若者の図式です。

 娘と若者が恋をする[恋愛]。一方で山賊の頭が娘に横恋慕する[横恋慕]。娘を奪おうとした山賊の頭だったが[奪取]、若者が助けに入る[救援]。多勢に無勢で若者は殺されてしまう[殺害]。跡を追った娘は入水してしまう[入水]。娘はカキツバタに生まれ変わったとされている[転生]。

 娘の救援に入るも多勢に無勢で殺されてしまう。その跡を追って入水する……という内容です。

 発想の飛躍となるのは姫が入水した地にカキツバタが生えてくることでしょうか。姫の生まれ変わりとされているのです。

 <恋>と<恋>が衝突し、争いとなります。助けに入った若者は<殺害>されてしまいます。跡を追って娘は<入水>します……ということで<殺害><死>のモチーフ素の直後に<入水><死>のモチーフ素をもって来て、娘の悲しみを強調しています。冒頭に出てきたカキツバタは娘の生まれ変わりと結んで伝説の真実であると信じられている認識を補強します。また、<恋>が<死>に終わることで悲しみで物語を締め括っています。<恋>と<入水>のモチーフ素の間は離れています。これは全体的な話の基調を定めています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.24-25.

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2022年6月19日 (日)

浮布の池――モチーフ分析

◆あらすじ

 三瓶山の麓にある浮布の池はもとは浮沼池という。昔、池の原の長者の子ににえ姫という美しい姫がいた。古くから池に住む池の主がいつしか姫に思いを寄せるようになった。姫は池のほとりで美しい若者と出会った。姫は若者に心を惹かれた。姫は若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう。そして空を飛ぶ夢を見る。気づくと一人で池のほとりに座っていた。着物は濡れていなかった。このようなことが度重なって、姫の顔に生気が無くなってきた。人々の心配を他所に姫は池のほとりを歩く。ある日、通りかかった武士が大蛇に巻き付かれた姫を見た。武士は弓で大蛇を射る。浮布の池はざわめいたが、池の主の姿はなかった。意識を取り戻した姫だったが、池に身を投げて死んでしまった。姫が着ていた衣の裾が白く帯のように池の中央に浮かんでいた。この日は六月一日で、それから毎年六月一日にはこの白い波の道が光って池の表に現れるところからこの池を浮布の池と呼ぶようになった。にえ姫を祀るにえ姫神社は池の東側の中ノ島にある。

◆モチーフ分析

・三瓶山のほとりに浮布の池がある
・昔、池の原の長者の子ににえ姫がいた
・池の主が姫に思いを寄せるようになった
・姫、若者と出会う
・姫、若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう。空を飛ぶ夢を見る
・このような事が度重なって姫から生気が失われていく
・ある日、武士が大蛇に巻き付かれた姫を見つける
・武士は大蛇を射る。大蛇は姿を消してしまう
・気がついた姫は池に入水してしまう
・姫の着物の裾が池の真ん中に浮かんでくる
・それで浮き布の池と呼ぶようになった

 形態素解析すると、
名詞:姫 池 大蛇 布 武士 気 若者 にえ ほとり 三瓶 主 事 入水 原 夢 姿 子 昔 浮 浮き 生気 真ん中 着物 空 裾 誘い 長者
動詞:失う ある いる つく 出会う 呼ぶ 寄せる 射る 巻き付く 度重なる 思う 浮かぶ 消す 行く 見つける 見る 飛ぶ
形容動詞:このよう
副詞:ある日

 姫/蛇/武士の構図です。姫―蛇―武士の図式です。

 大蛇に魅入られた姫は大蛇が化けた若者と逢瀬を重ねる[逢瀬]。が、あるとき大蛇の姿を人に見られてしまい[露見]、矢で射られてしまう[攻撃]。意識を取り戻した姫は入水してしまう[入水]、そしてそれが池の名の由来となる[由来]

 蛇との逢瀬を見られた姫は蛇の跡を追って入水してしまう……という内容です。蛇に魅入られた娘の結末を表現しています。

 発想の飛躍は、姫が入水、着ていた衣が水面に浮かんでくるというところでしょうか。池の名の由来となる訳です。

 互いに思いを寄せ、逢瀬を重ねますが、姿を他人に見られてしまいます。<好意>が<愛情>に変わり<逢瀬>を重ねるが正体が<露見>することで大蛇は<攻撃>され<逃亡>、<破綻>してしまいます。また破綻した結果は姫の<入水><死>となります。<破綻>から<入水>へと繋げ、それが池の名の<由来>となったとしています。

 モチーフ素自体は無理なく繋がっています。<破綻>から直に<死>へと繋げることで姫の悲しみを強調し、池の名の<由来>とすることで、由来の根拠となるところを補強しています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.21-23.

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島根の伝説と対の本――日本標準「島根のむかし話」

日本標準「島根のむかし話」を読む。隠岐・出雲・石見の各地域からバランスよく昔話がセレクトされている。伝説に類する話も何話か収録されている。

この本は「島根の伝説」と対になった本である。むかし話は復刊されたが、伝説シリーズは復刊されていない。

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2022年6月18日 (土)

蛇島――モチーフ分析

◆あらすじ

 昔、温泉津の釜野の辺りに長者がいた。長者には美しい娘がいた。多くの若者たちは誰でもその娘を欲しいと思った。ところが近くに山の主と言われる大蛇がいた。大蛇も娘を欲しいと思って何度も長者に申し込んだが、長者は承知しなかった。

 蛇の頼みがあまりにしつこかったので、長者も断りきれなくなって、それでは釜野の沖の島を八回巻け。巻くことができたら娘を嫁にやろう。その代わり、巻くことができなかったら、この土地から出ていってもらうと言った。
 大蛇は大喜びで沖に出て島を巻きはじめた。そうして七巻き半まで巻いたが、どうしても後の半分ほどが足りない。大蛇は必死にぐいぐい締め付けたが、どうしても八回にならなかった。

 大蛇はくやし涙を流しながら長者との約束を守って、海を渡ってどこへともなく立ち去った。

 そのとき蛇が締め付けた跡が島に残った。それで蛇島と言うようになった。

◆モチーフ分析

・温泉津の釜野に長者がいる
・長者には美しい娘がいる
・多くの若者が娘に求婚したいと思う
・近所の山の主である蛇が求婚する
・断りきれなくなった長者は条件を出す
・蛇は実行する。島を身体で巻くが七巻き半しか巻けない
・どうしても八回巻けない
・あきらめた大蛇は約束を守って去る
・蛇が巻いた跡がついた島は蛇島と呼ばれる様になる

 形態素解析すると、
名詞:蛇 長者 娘 島 求婚 七 八 半 多く 大蛇 実行 山 条件 温泉津 約束 若者 蛇島 跡 身体 近所 釜野
動詞:巻く いる あきらめる する つく 出す 去る 呼ぶ 守る 思う 断る
形容詞:美しい
形容動詞:主
副詞:どう

 蛇/娘/長者の構図です。蛇/島の構図でもあります。蛇―(巻く)―島の図式です。

 釜野の長者には美しい娘がいて[美女の存在]、多くの若者たちが求婚したいと思う[求婚の願い]。近所の山の主である蛇が求婚する[求婚]。断りきれなくなった長者は釜野の沖の島を八回巻けと条件を出す[条件の提示]。蛇はどうやっても七回り半しか巻けない[条件の未達]。あきらめた蛇は約束を守って去った[退去]。

 どうやっても七回り半しか島を巻けなかった蛇は約束を守って退去した……という内容です。

 発想の飛躍は、蛇に島を八回巻けと条件を出すところでしょうか。蛇―(巻く)―島の図式です。実際にやってみると七回り半しか巻けず条件が達成できません。

 要約しますと、蛇の<求婚>から<条件の提示>、実行するも<条件未達>。求婚を諦めて<去る>という内容です。条件の提示に当たっては長者に知恵が働いたか明確にされていません。<求婚>と<条件の未達>が、この話の骨子です。

 見方を変えると、<嫁>の欠落を埋めるべく求婚しますが、条件未達で欠落は埋め合わされません。更に失敗したときの条件として、その土地を去ることになるのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.19-20.

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琴姫物語――モチーフ分析

◆あらすじ

 栄華を極めた平家一門も源氏の軍勢に追われ、西海へと落ち延びていった。そして壇ノ浦の戦いに敗れ、海の藻屑となってしまった。都に住んでいた一門の姫君たちも故郷を遠く離れて西海の波の上に漂わねばならなかった。

 今年十八歳の琴姫は目の見えない父と二人で暮らしていた。父は琴の名人で琴姫に丹精をこめて秘曲を伝えた。姫はまもなく琴の名手となり、二人は琴の音で慰め合っていた。

 琴姫も源平の戦いに追われて都を離れたが、混雑に紛れて父を見失ってしまった。二位の尼が海に沈んだとき、多くの人が従って死んだ。が、琴姫は運が尽きなかったのか、その翌日に家来に救われて、頼るところもなく広い海に漂った。船の中には姫が命と頼む琴が一張りあるだけだった。

 三日目の朝、空がにわかに曇って酷い風雨になった。船は転覆しそうになった。琴姫と家来は波のまにまに流されていく他なかった。その内に船はとうとう砕けてしまった。力尽きた琴姫は琴を抱いて波に身を任せた。

 それから何日か経って、家来とも離ればなれになって、遂に死んだ姫の亡骸は石見地方のある浜辺に漂着した。手には琴を堅く抱いていた。

 村の人たちは浜を見下ろす小高い丘に懇ろに姫を葬った。

 あくる日、静かな浦から美しい琴の音が響いてきた。村人たちは浜へ出てみたが、誰もいない。ただ琴の音がどこからともなく聞こえてくる。

 砂が鳴る。人々が歩く度に琴の音は足下から起こるのだった。村人たちは時の経つのも忘れて耳を傾けた。これは、あの可哀想な女の人が弾いて聴かせるのだと皆が言った。

 それからしばらく経ったある日のこと、杖を頼りに流れた盲いた老人がいた。浦の人からここは琴の音が聞こえる不思議な浜であることを聞くと、砂浜へ下りていった。老人が耳を傾けると夢のようにコロンコロンと琴の音が聞こえてきた。

 これはまちがいなく琴姫が弾く琴の音だと老人は叫んだ。老人は琴姫の父親だった。流れ流れて遠い石見の海岸まで盲いた身で訪ねてきたのだ。琴の調べは老人が教えた秘曲だった。老人の目に平和な日々が浮かんできた。老人は全てを悟った。

 老人は琴の音に誘われるように静かに水際へ下りていった。琴の音は海の中から波の向こうから聞こえてきた。老人は一歩一歩、静かに海へ入っていった。水は次第に深くなり、寄せてきた波は老人を吞んでしまった。

 そしてここは何時しか琴ヶ浜と呼ばれるようになった。

 ……この伝説では琴姫は死んで琴ヶ浜に打ち上げられる。そして琴姫の父が登場するという話となっています。非日常から日常へ、そして日常から非日常へとお話は移り変わります。

◆モチーフ分析

 モチーフ分析を行いますと、

・源平合戦で平家一門は西海に落ち延びた。壇ノ浦で敗れ、平家は滅亡する
・琴の名手の琴姫がいた。姫は目の見えない父と二人で暮らしていた。
・琴姫と父は離ればなれとなってしまう
・壇ノ浦を生き延びた琴姫は海上を漂う
・三日目に波浪で船が砕けてしまう。姫は波に身をまかせる
・琴を抱いた姫の亡骸が琴ヶ浜に漂着する
・村人、姫を小高い丘の上に葬る
・すると浜から琴の音が鳴り響くようになった
・それは砂が鳴いているのだった
・これは琴姫が鳴らしているに違いないと村人たちは考える
・盲目の老人が琴ヶ浜にやって来る
・老人は浜の音を聞いて、これは琴姫が弾いたものだと言う
・全てを悟った老人は入水する
・浜は琴ヶ浜と呼ばれるようになった

 形態素解析すると、
名詞:琴 琴姫 姫 浜 老人 これ ノ 壇 平家 村人 浦 父 音 三 それ もの 一門 上 丘 二人 亡骸 入水 全て 合戦 名手 波 波浪 海上 源平 滅亡 漂着 目 盲目 砂 船 西海 身 離ればなれ
動詞:いる なる まかせる やって来る 呼ぶ 弾く 悟る 抱く 敗れる 暮らす 漂う 生き延びる 砕ける 考える 聞く 落ち延びる 葬る 見える 言う 鳴く 鳴らす 鳴り響く
形容詞:小高い 違いない

 琴姫/村人、村人/老人の構図です。抽象化すると、姫/村人です。琴姫―琴/音―村人、村人―音―老人の図式です。

 源平合戦で落ち延びた琴姫だったが[脱出]、船が難破してしまった[難破]。琴を抱いた姫の亡骸[死]が浜辺に漂着した[漂着]。村人たちは姫を埋葬したが[埋葬]、それから浜で琴の音が鳴る様になった[鳴き砂]。老人がやってきた[来訪]。老人は琴の音を聞くと琴姫の音に違いないと悟り、海へと入っていった[入水][死]。

 琴姫の亡骸を埋葬したところ、浜辺で琴の音が鳴るようになった。やって来た老人は琴姫の父だった……という内容です。

 発想の飛躍は、姫を葬ったところ浜から琴の音が鳴り響くようになったというところでしょうか。琴ヶ浜の鳴き砂の起源を説明した由来譚となります。

 父と琴姫の別離、流浪、難破、そして琴姫の死から、浜で砂が鳴るようになったことが語られます。そして琴姫の父が登場して、砂の音を琴姫のものだと悟って入水する……という様に分解できます。

 ここでは老人が琴姫の琴の音だと叫ぶことで、老人が琴姫の父であることが明らかになります。そして全てを悟った老人が入水するという悲しい結末となっています。

 琴姫の<死>のモチーフ素から<鳴き砂>のモチーフ素へと繋がり、老人の登場、老人の素性が明らかとなって、老人の入水、<死>のモチーフ素へと繋がります。<死>から<死>を繋ぐことで更なる悲しみを表現していると言えるでしょうか。モチーフ素の繰り返しでそのモチーフを強調していると見ていいでしょう。

 『石見の民話』では琴姫は死んで琴ヶ浜に漂着しますが、他の本では生きて琴ヶ浜に漂着し村人と交流する筋立てとなっています。

 なお、琴姫伝説は「まんが日本昔ばなし」でアニメ化されています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.15-18.

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意外と採集話数が少ない――未来社「出雲の民話」

未来社「日本の民話 12 出雲の民話」(石塚尊俊/編)を読む。まえがきにもあるが、出雲の昔話は案外少なく「出雲の民話」一冊だけしか出版されていない。出雲弁で書かれているので石見人の自分にとっては注記なしでは意味がとれない箇所もあった。神話の宝庫でもあるので、神話に題材をとった話も多い。

出雲と言えば、民俗の宝庫とも言え、なぜ昔話の採集話数が少ないのか、これも謎のひとつである。

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昔話「手なし娘」は外国の昔話の翻案か

◆はじめに

 千野美和子「日本昔話『手なし娘』にみる精神性」という論文を読む。ネットに掲示されている。手なし娘のあらすじが書かれていたのだが、これは外国の昔話の翻案だろう。グリム童話にもあるようだ。外国の昔話では悪魔になっているのが日本では継母となっているところが大きな違いだが、モチーフの一致度が高い。

◆グリム童話

 粉屋の主がだんだん貧乏になっていき、粉をひく水車とその後ろに生えている大きなリンゴの木の他に何も無くなってしまった。あるとき、粉屋が薪を取りに森にいくと、見かけたことのない年寄りが近づいてきて、お前の水車の後ろに立っているものをわしにくれると約束すれば、お前を金持ちにしてやると言った。粉屋はリンゴの木のことだと思って応じた。そしてその見知らぬ男に証文を書いた。その男はあざ笑って三年経ったら、わしのものを受け取りに来る」と言った。粉屋が家に戻るとおかみさんが急に金持ちになった。いったいどうした訳だろうと言ったので、粉屋が森で会った見知らぬ男がくれた。その代わりに水車の後ろに立っているものをやるという証文を書いたのだと答えた。すると、おかみさんはそいつは悪魔だ。そいつはりんごの木じゃなくてうちの娘のことを言っていたんだよ。あの子は水車の後ろに立って、庭を掃いていたからと言った。

 粉屋の娘は美しい信心深い子で、その三年間を神さまを敬い罪を犯すこともなく暮らした。三年が過ぎて悪魔が娘を引き取りにくる日が来ると、娘は身体を洗って清め、チョークで自分の周りに輪を描いた。悪魔は娘に近寄ることができなかった。悪魔は怒って粉屋に水を全部片づけて娘が身体を洗えないようにしろと言った。粉屋は怖くなってその通りにした。悪魔がまた来たけれど、娘は両手を顔に当てて泣いたので両手がすっかり清められた。だから悪魔はまたもや娘に近寄ることができなかった。かんかんになった悪魔は粉屋に娘の両手を切ってしまえと言った。どうして我が子の手が切れましょうと粉屋が言うと、悪魔は切らないというのならお前がわしのものになるのだとおどした。父親は怖くなって娘に打ち明けた。娘は両手を差し出して切らせた。悪魔が三度めにやって来たが、娘が手の無い腕の先を顔に当てていつまでも酷く泣いたので、やはり腕の先がすっかり清められた。それで悪魔は引き下がるより他なかった。そして娘を自分のものにする権利をすっかり無くしてしまった。

 粉屋が娘にお前のおかげで私はお金をたくさん手に入れた。だから一生楽をさせてあげると言ったが娘は自分はここにいられない。情け深い人たちがいるだけのものはきっと恵んでくれるだろうと言って、お日様が上がると家を出て、夜になるまで一日中歩いた。

 すると娘はある王さまの庭にやってきた。庭の木々に果物がなっているのが月明かりに見えた。でも、庭の周りに堀があったから中へ入ることができなかった。お腹がすいた娘は神に祈った。すると、不意に天使が現れて、堀の水門を閉めたので水が干上がり娘は堀を渡ることができた。娘が庭に入ると天使もついて来た。娘は梨を一つだけ食べた。庭番がそれを見ていたが、天使が傍にいたので怖くなった。そしてあの娘は幽霊だろうと思うと口がきけなくなった。娘は梨を食べてしまうとお腹も収まったので、そこを離れて茂みに隠れた。庭の持ち主の王さまが次の朝庭へ下りて梨を数えた。すると一つ足りないのに気づいた。庭番に尋ねたところ、庭番は昨夜見たことを話した。王さまは今夜は庭番と一緒に見張ることにした。

 辺りが暗くなると王さまは庭へやって来たが、司祭を一人連れていた。この司祭が幽霊に話しかけることになっていた。真夜中になると娘が茂みから這い出して来て、また梨を一つ食べた。娘の傍に白い服を着た天使が立っていた。そこで司祭が進みでて何者か訊いた。娘は自分は幽霊ではない。みんなから見捨てられた。神さまからだけは見捨てられていないと答えた。王さまは自分はお前を見捨てないぞと言って娘を自分の城へ連れていった。娘は美しく信心深かったので王さまは心の底から娘が好きになり、娘に銀の手を作ってやり、妻にした。

 それから一年経って王さまは旅に出ることになった。王さまは若い后を自分の母親に委ねた。妻が子供を産んだらすぐに手紙で知らせてくださいと言った。やがてお后は美しい男の子を産んだ。そこで年取った母親は急いで手紙を書き、喜ばしい知らせを息子に伝えた。ところが、使いの者が道すがら、小川のほとりで一休みした。つい寝込んでしまった。そこへ例の悪魔がやって来た。お后に害を加えてやろうとつけ狙っていたのだ。悪魔は手紙を別のものとすり替えた。その手紙にはお后はとりかえ子を産んだと書いてあった。王さまは手紙を読むとびっくりして酷く悲しんだ。けれども返事には自分が帰るまで皆でよく后の世話をするように書いた。

 使いの者はこの手紙を持って戻ったが、同じ場所で休み、また寝込んでしまった。すると、またもや悪魔がやってきて、別の手紙を使いの者のポケットに入れた。それには后を子供と一緒に殺すように書いてあった。

 年取った母親はこの手紙を見るとびっくり仰天した。本当とは思えなかったので、もう一度王さまに手紙を書いた。ところが同じ返事しか来なかった。その上、後の手紙には殺した証拠に后の下と目をとっておくようにと書いてあった。年取った母親は何の罪もない者の血が流されることになると思うと泣けてきた。そこで夜になると雌の鹿を連れてこさせ、その舌と目を切り取ってしまっておいた。それからお后に王さまの命令だけど自分にはお前を殺させることはできない。でも、お前はこれ以上ここにいる訳にはいかないと言った。お后は目を泣きはらして家から出ていった。

 お后はまだ人の手が入ったことがない大きな森の中へ来た。そこにひざまづいて神さまに祈った。すると主の天使が現れてお后を小さな家に連れていった。その家にはここには誰でもただで泊まれますという札がかかっていた。家の中から雪のように白い服を着た乙女が出てきてお后を迎えた。お后が訳を尋ねると、乙女は自分はあなたとお子さんを世話するために神さまから使わされた天使だと答えた。こうしてお后は七年間この家に留まり、面倒を見てもらった。また、お后は信心深かったので、神さまの恵みによって切られた両手がまた生えた。

 とうとう王さまが旅から城へ戻ってきた。王さまはまっさきに妻と子供に会いたがった。すると年取った母親が悪魔が書き換えた二通の手紙を王さまに見せた。そして証拠の品を見せた。そこで王さまは哀れな妻と息子のことを思って泣いた。母親は実は后はまだ生きていると告げた。王さまは妻と子を見つけだすまでは食べもしないし飲みもしないと言った。

 それから王さまは七年の間歩き回り、くまなく探したが、二人は見つからなかった。王さまはその間中食べもしなければ飲みもしなかったが、神さまが命を養ってくれた。終いに王さまは大きな森へやって来て、そこに小さな家を見つけた。その家にはここには誰でもただで泊まれますという札がかかっていた。すると白い服を着た乙女が中から出てきて、家の中へ案内した。天使は王さまに食べ物と飲み物を勧めたが、王さまはそれを口にせず休んだ。

 その後、天使はお后と息子のいる部屋へ行った。天使がお后にお子さんを連れてあちらの部屋へいらっしゃい。ご主人がおいでになりましたと言った。お后が王さまの寝ているところへ行くとハンカチが王さまの顔から落ちた。お后が息子にハンカチを拾うように言った。息子はハンカチを拾って父親の顔にかけた。王さまはハンカチをもう一度わざと落とした。息子は癇癪(かんしゃく)を起こして自分にはこの世に父親がいないと言った。王さまはこれを聞くと起き上がってあなたは誰ですかと尋ねた。お后は自分はあなたの妻です。これは息子の<あふれる悲しみ>ですと言った。すると王さまはその人の血の通っている手を見て、自分の妻は銀の手をしていたと言った。お后は恵み深い神さまが本物の手をまた生やしてくださったのだと言った。天使が銀の手を持ってきて王さまに見せた。それで初めて王さまはそこにいるのが妻と子であることが分かった。王さまは重い石が胸から落ちたと言った。それから天使が皆にご馳走を出した。それを食べてから三人は城へ帰り、年とった母親の許に戻った。誰も彼もが大喜びした。それから王さまとお后はもう一度結婚式をあげた。二人は死ぬまで楽しく暮らした。

◆日本昔話大成

 角川書店『日本昔話大成』第五巻に「てっきり姉さま(手無し娘)」収録された内容では、

 昔、大阪の様な所に大金持ちがあった。美しい一人娘がいて母がなく後妻が来たが、心がけの悪い人であった。あるとき、父親は殿様の役のために江戸へ上った。留守中に継母は継子が憎くて殺したいと思ったが、賢しい娘をどうすることもできない。そこで家来どもに命じて、娘を山奥へ連れていかせ殺す様にといいつけた。家来どもはしかたなく行ったが、良い人であったから、皆泣きながら姉様の両手を切って捨ててきた。手無しになった娘は泣きながらあてなく歩いているうちに京都のような大きな町へ出た。ある家の傍らを通ると塀越しに蜜柑がたくさんなっている。喉も渇くから取って食べたいと思ったが、手無しではしかたなく、ようよう口で取って食べた。それから前に回ってみれば暖簾(のれん)に日野屋と書いてあった。娘はそれを見て、ここは京の日野屋だ。それならここの若旦那と私とは許嫁(いいなずけ)だが、こんなになってはどうすることもできないと独り言を言って口説いていた。日野屋の召使いはそれを聞いて不思議に思い、若主人のところに行って話した。それは本当だ。手が切れていても自分の女房になる娘だ。呼んでこいと言った。そして姉様から継母の話を聞いて可哀想だと思った。あるとき、若旦那は西国の方に用事があってしばらく留守になった。姉様はその留守中にお産をして、玉のような子供をなした。両親の喜びは大変であった。早速息子の若旦那に通知しようとして使いに手紙を持たせて旅先までやった。手紙にはお前の留守中に嫁は玉のような男の子をなして皆喜んでいる。早く用事を済ませて帰りを待っていると書いてある。使いは途中よせばいいのに気をきかして大阪の嫁の里へ寄って、姉様が丈夫な話を知らせた。それを聞いた継母は内心憎くてたまらない。使いにうんと酒を飲ませて、ぐでんぐでんに酔わせて眠らせ、自分で書いた贋(にせ)の手紙と取り替えた。それには猿だか鬼だか分からない子供が生まれたので捨てようかとしてあった。それを使いはそのまま神戸に滞在中の若旦那に渡した。その返事には、鬼でも猿でもよい。自分の子だから帰るまで大事にして、どこへも出してはならないと言ってよこした。使いはまたしても継母のところに寄って酒を飲ませられて、またも手紙を変えられた。それには鬼や猿の子は自分の子でないから親もろとも投げてしまえとあったので、両親はどうしたことかと大変悲しく思ったけれども、息子からの手紙でしかたなく、嫁を孫もろとも出してしまった。手切り姉様は子供を背負って泣く泣くその家を出て、あてなく行くうちにある所に出た。そこにはお堂があった。姉様は悲しくてその神様を拝んで、切られてなくなった手の出る様に祈った。そこからまた行く内に六部に出会った。道を尋ねて行くうちにまたも六部に出会った。六部はどこへ出ても、構わずに行けばとてもびっくりするときがある。そのときにお前の切られた手は生えると教えた。姉様はよろこんで行くと右にも左にも行かれないような岩窟に出た。岩の下には川が流れている。子供も乳を欲しがるし、自分も喉が渇くので静かに川に下りて水を飲もうとした。その拍子に子供が背中から抜けて川へ落ちそうになった。姉様はびっくりしたが、子供を取り押さえようとした。精一杯の力が両腕にこもったそのはずみに双方の手がぴょうっと出た。姉様は神の助けと喜んでまた行くうちに六部にあった。六部はもう少し行けばお寺がある。そこへ行って世話になれと教えてくれた。お寺に行き和尚に頼んで母子二人世話になっていた。いつしか月日も経って子供は四つばかりになった。大阪の日野屋では若旦那が用事も済んで久しぶりで家に帰った。妻子に会って楽しく話もしようと思ってきてみれば、両親が泣きながら、お前の手紙のためにしかたなく孫を出したというので、若旦那は大いに驚いた。そして使いを調べてみると、みな継母の悪事と分かった。そこですぐ若旦那は妻子を訪ねることになって旅立ちの用意をして、当てもなく方々廻って歩いたが、それらしい者も見当たらない。そのうち二、三年の時が過ぎた。ある日、道々母子らしい者の様子を聞きながら歩いている内に六部に出会った。どこそこのお寺に行ってみるようにと言われて訪ねていったら、寺の境内で四つばかりの男の子が遊んでいた。もしや我が子ではなかろうかと思ってみれば、母にもよく似ている。近寄っていくと子供は急いで奥に行き母親にお母様、お父様が来たと言った。母親がそんなはずがない。お前の父は自分の子でない。投げてしまえと言った方だ。人違いするなと言ったが、聞かずに駆けていき取りついた。若旦那は和尚から子細を聞いて、妻子の無事を喜び、厚く礼をして二人を引き取り、親子三人無事に家に帰り、両親はじめ家中の者の喜びを請けた。近所振舞いも立派にしてめでたく栄えて暮らした。継母は悪いことばかりしたから、しまいに盲目になった。それだから、悪い心がけを持ってはならない。(青森県三戸郡)

分布:鹿児島県、宮崎県、大分県、福岡県、愛媛県、香川県、徳島県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県、兵庫県、京都府、静岡県、岐阜県、山梨県、新潟県、栃木県、福島県、山形県、秋田県、岩手県、青森県、朝鮮

 グリム童話と昔話大成の例話を比較すると、悪魔か継母かという違いはあるが、展開はほとんど同じである。グリム童話の書承と考えてもよいのではないか。日本昔話大成によると千一夜物語にも見られ、現在のところでは十二世紀の南イングランドの文献が最も古い様だ。

 マックス・リュティが『ヨーロッパの昔話 その形と本質』で指摘したように、手なし娘は手を切られても血を流して傷つく描写が無い。あたかも節足動物の足がもげたかのごとくである。

 手なし娘の手が生える場面はいわば奇跡である。グリム童話では神の恩寵とし、日本昔話の類話では弘法大師や観音さまの功力とするものが多いそうだ。

◆参考文献
・『完訳グリム童話集2』(ヤーコップ・グリム, ヴィルヘルム・グリム, 野村泫/訳, 2006)pp.117-131.
・『日本昔話大成』第五巻(関敬吾, 角川書店, 1978)pp.156-173.
・千野美和子「日本昔話『手なし娘』にみる精神性」『京都光華女子大学研究紀要』(京都光華女子大学, 2012)pp.29-39.

記事を転載→「広小路

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2022年6月17日 (金)

はじめに――石見地方の昔話のモチーフ分析を行う

 これから未来社『日本の民話 34 石見篇』の民話を題材にモチーフ分析を行っていきたいと思います。約150話ほどあります。モチーフ分析を行うことで何か見えてくるといいのですが。

 民話とあるので昔話と伝説の両方が収録されています。当ブログではこれまで島根県石見地方の伝説に焦点を当てて解説してきましたが、これからは昔話に力を入れていきたいと思います。

 世間話は無いようです。案外、伝説が多い印象です。

 分析に当たっては、モチーフ間の接続に着目したいと考えています。普通のお話ではモチーフ間の接続に問題はありませんので、違和感のないお話となります。モチーフ間の接続によって面白みが出るのかもしれません。一方でモチーフ間の接続に難がある場合、違和感、不思議な感触をもたらします。

 モチーフ分析を行うということは、例えば、語り口の面白さ等を捨象してしまうということでもあります。そういう意味では十全な分析ではありませんが、モチーフ間の接続に注目してみたいと思います。

 角川書店『日本昔話大成』シリーズも読んで類話をチェックしたかったのですが、それには手元に置かねばなりませんし、それは色々な面で苦しいので、今回は行わないことにしました。

 類話との比較ではなく、対象のお話に没入して分析してみたいと考えています。

 アールネ・トンプソンのタイプ・インデックスは資料が入手できないので参照しません。『日本昔話通観』第28巻が昔話タイプ・インデックスとなっていますので、作業が終わりましたら参照してみたいと考えています

 石見篇の編者である大庭良美は突出した話者には出会わなかったとしていますので、特定の話者に偏っていることはないでしょう。石東から石西までバランスよく採集されていると考えます。

 モチーフは一般的には、例えば「ウルトラマン」に登場するバルタン星人はセミをモチーフにデザインされたといった使われ方をします。ここではそうではなくて物語の単位としての意味を持ちます。

 モチーフについてはお話を分解した小単位としたいと考えています。古い論文ではお話の最小構成単位とする見解があるのですが、プロップの機能(ファンクション)やダンデスのモチーフ素といったより細かな単位が主張されているからです。

 お話をモチーフ単位に分解して、更にそこから<>とくくって重要な要素を抽出したいと考えています。これは記号論的な手法です。今となっては古い手法ですね。これをモチーフ素とみなします。ちなみにプロップは動詞が物語の機能(ファンクション)となるとしています。

 プロップの機能は採用しません。プロップの分類はあくまでロシアの魔法昔話についてであって昔話全体を網羅するものではないからです。

 お話の最小単位をツーク(Zug)と分類する見解もあります。モチーフは幾つかのツークで構成されます。が、ツーク(フィーチャー)は日本の昔話の分析においてあまり用いられないようなのでここでは使用しません。

 モチーフへの分解は我流になります。異論もあるかと思います。むしろツーク単位で分解していると言った方が正しいかもしれません。ありきたりな分析で終わる可能性も多々あります。

 物語分析、ナラトロジーと言い換えていいでしょうか、は高度に複雑に発展しており、一読では理解が困難です。ナラトロジーの入門書を読んだのですが、これは誰もがなんとなくは分かっていることで、強いて憶えようとは感じませんでした。当ブログでのモチーフ分析はダンデスの理論の実践という形となるでしょうか。

◆参考文献
・大庭良美「石見の民話―その特色と面白さ―」『郷土石見』8号(石見郷土研究懇話会, 1979)pp.58-71
・小澤俊夫「モティーフ論」
https://ko-sho.org/download/K_009/SFNRJ_K_009-01.pdf

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更に上をいく――博労と狐

◆あらすじ

 昔、博労(ばくろう)がいた。牛や馬を売ったり買ったりするのが商売で、なかなか悪賢い男であった。近くによく化ける狐がいた。ある日博労が狐にお前は何変化知っているか尋ねた。狐は七変化していると答えた。すると博労は自分は八変化知っていると答えた。狐がひとつ押してくれんかと言うと、博労は自分は博労だからお前が良い牛に化ければ教えてやる、お前より一変化多いから狐がなんぼ変化しても見れば分かると答えた。

 狐は良い牛に化けるからひとつ教えて欲しいと頼んだ。それではずっと良い牛に化けよと博労が言い、狐は一変化多く教えて貰おうと思って良い牛に化けた。博労はそれをあれこれ言って猶させて良い牛にこしらえてお金持ちの百姓のところへ連れていった。百姓の旦那はとても良い牛なので沢山の金を払った。博労は金を沢山貰って帰った。

 狐は駄屋へ入れられた。藁を与えられたが少しも食べられない。仕方ないので二三日いて抜けて帰った。

 狐は博労のところに来て、やれ苦しかった、二三日ほど何も食わないで戻ったから早く変化を教えてくれと頼んだ。博労はそういう約束だったから教えてやるから大きな袋をひとつ持ってこいと言った。

 狐が袋を持ってくると、お前に親類や子供や兄弟がいれば皆呼んでこい。そうれば皆習われる。お前一人習ってもつまらん、皆連れて知らねばいかんと答えた。狐は親兄弟、一家親類みな連れてきた。お前の兄弟親類は他にはおらんかと博労が尋ねると、狐はこれほどだと答えた。それじゃあ、この袋に入れと博労が言った。

 狐が皆袋に入ると、博労は口をしっかり縛って、教えるからよく習えよと言って大きな棒を持ってきて、袋に入っているのを「一変化」といってぶん殴った。狐は痛いので、こんなことをしてはいけない、変化を教えよと言った。博労はこれが変化だ、二変化といって叩いた。コンコン狐が言うのを三変化、四変化と言って、とうとう七変化と言って七つ叩いたときには狐はもう皆死んでしまった。

◆モチーフ分析

 上記あらすじをモチーフに分解してみた。

・悪賢い博労がいた
・よく化ける狐がいた
・博労、狐に何変化知っているか尋ねる
・狐が七変化知っていると答えると、博労は八変化知っていると答える。嘘
・狐、一変化教えて欲しいと頼む
・博労、狐に牛に化けさせる
・博労、牛に化けた狐を百姓に売って大金を得る
・狐は牛小屋に入れられるが、食べるものもないので二三日で抜けてくる
・狐、博労に一変化教えて欲しいと頼む
・博労、狐に大きな袋を持ってこさせる
・博労、狐に親兄弟、親類を呼んでこさせる。嘘
・博労、狐たちに袋に入らせる
・博労、袋の口を縛って逃げられないようにする
・博労、変化と言って袋を棒で叩く
・狐、痛い、早く変化を教えよと言う
・博労、これが変化だと言って袋を叩く
・七回叩いたところで狐は皆死ぬ

 博労の悪知恵が狐の悪知恵を上回る話である。博労は自分は狐より一変化多く知っていると言って狐をだます。だまされた狐は牛の姿で百姓に売り飛ばされる。しんどい思いをして抜け出てきた狐だが、だまされたと気づかない。一変化教えよと博労に言うと、今度は袋を持ってこさせる。ここでも嘘でだましている。更に一族の者を連れてこさせて袋に皆入れさせられる。博労がこれが変化だと言って狐を叩く。ここでも狐はだまされたことに気づかない。博労が七変化分叩くと狐は皆死んでしまう。

 博労の<嘘>でだまされる狐だが、酷い目に遭ってもだまされたと気づかず、更に次の<嘘>でだまされてしまう。<嘘>でだまされた狐はそこに<欠落>があると感じてしまうのである。物語的に欠落は<回復>されねばならない。狐は博労の罠にまんまとはまってしまうのである。

・<嘘>でだまされる
・だまされたことに気づかずに更なる<嘘>でだまされる

と二度の嘘にだまされることが面白みを出している。

◆日本昔話大成

 角川書店『日本昔話大成』第六巻に収録された「狐と博労(狐むかし)」では、

 昔、荻野の周囲には狐が沢山出た。有名な利口な狐がいて、板橋のやろごろ狐という男狐、お夏という上野の女狐、中島のねんねこという、いつもねんねこを着ておぼこぶっている狐の三匹が特に有名だった。決して人に化かされない。三匹とも利口者だったと。ある日、荻野の博労が夜あがりしてきたら、この三匹が集まって相談している。何だかゴノゴノと語る声がするので、そっと草原の中をのぞき込んでみたら、狐が三匹だった。大急ぎでこっそり馬を止めて耳を近づけると、「なあ二人や。そろそろ雪が降るのに今年は何一つ人間から騙して盗んでいない。この頃は人間も賢くなったもので、お包み一つ盗るのも。この分では冬も越せない。困ったものだ」「俺に考えがある。二人でやってみたらいいのではないか」「良い工夫とは何だ」「それはな、三人のうち一人が立派な馬になって化けて酒田の本間辺りの金持ちに売ってきたらいい。うんと高く売れるぞ」「そうか。それならば、誰が馬に化けるか。男狐だ」「そうか、それならば俺が馬に化ける」やら大きな声で言った。それを博労はすっかり聞いてしまった。「これは良いことを聞いた。明日、うんと早く出て行こう。まだ暗いうちだぞこれは、良いこと聞いた」。次の日、まだ誰も起きない内に博労は野原に出かけた。「やれ、目を覚ましたか。早くしないと人が来るぞ」「ほう、めっぽう早いものだ。どれ、ひとつ化けるか」パッと狐が化けて毛並みの立派な馬になった。それで博労だもの。立派な馬だ。どこが長くてどこがくびれているか、出ているか、みな知っているもので、「ほら、足が少し短いぞ。足を長くしろ。もっと背中を伸ばしてシャンとしろ」とか立派な馬を作って酒田に売りに出かけた。そして本間さんへ連れていったら、番頭さんが「これはこれは、近年にない立派な馬ですな。こんな立派な馬は見たことが無い。売りに来たのか」「そうですよ」「なんぼで売るか」「ですな。こんな立派な馬だもの。千両、二千両じゃあもったいない。千両箱も三つももらわねば」って言った。すると、本間の大金持ちで「そうだな。こんな立派な于馬だ。千両箱の三つも積まなければ。よし、三千両で買うぞ」三千両で手を打って、「お夏、お夏、家へ帰ったら油揚げ飯をたくさん作っておけ。自分は三日のうちに必ず逃げていくので。馬のものや人間の食うものでは狐は立たない」「おいおい、あんまりだ。油揚げ飯、腹がくちくなるほど沢山作っておくぞ」。博労は馬屋へ入れ家へ帰ってきた。大金を手に入れて楽々安楽に暮らした。(山形県新庄市)

※方言で書かれているため、意味のとれない箇所は省略した。

分布:熊本県、島根県、山梨県、新潟県、福島県、山形県、秋田県、岩手県、青森県

◆島根のむかし話

 日本標準『島根のむかし話』に「キツネ退治」という昔話が収録されている。飯石郡なので出雲の昔話である。

 栗の木坂に上手に人を化かす狐がいた。その狐は栗の木坂を人が通ると化かすので、皆困っていた。そこで、なんとかして退治せねばどうにもいけないということになった。そうしたら元気のいい男がそれなら自分が退治してやると言った。その男は家に帰って嫁に今夜狐退治に行くから大きな袋を作ってくれと頼んだ。袋を作ってもらった男は晩になって栗の木坂に行った。そうしたら坂の途中に綺麗な娘がいた。娘さん、どこへ行くのかねと聞いたら、自分は変化を教えてもらおうと思って立っていました。お前さんはどこへ行きなさると聞いたものだから、ああ、自分も変化を教えてもらおうかと思って来た。お前さんはなんぼ変化を知っておるかねと訊いたところ、自分は七変化知ってますが、お前さんは? と娘が言った。自分は八変化しってますが、それならお前さんに八変化教えてあげますから、お前さんの家の者を連れてきなさいと言った。それなら連れてきますからと言って子供を五人連れて来た。いや、これだけでない、もっといると言ったら一人連れて来た。いや、まだおると言ったら、また一人連れて来た、いいや、まだまだおる。みんな連れてこないと教えてやらんと言ったら、また一人連れて来て八人になった。よし、教えてやる。さあ、誰もこの袋の中に入りなさいと言って大きな袋の中へみんな入れてしまった。さあ、いいか八変化を教えてやるぞと言って、そら、ひと変化、ふた変化、み変化と言って人間に化けた狐を叩いた。そうしたら、中の狐が許してください。悪いことはもうしません。許してくださいと言ったので許してやったそうな。
 こうして『石見の民話』「博労と狐」、『日本昔話大成』「狐と博労」、『島根のむかし話』「キツネ退治」とを比較すると、「博労と狐」は「狐と博労」と「キツネ退治」の二つの話を合成した様な内容となっている。なので、「博労と狐」の方が成立が遅いと考え得る。話を合成させることで博労のずる賢さを強調する内容ともなっていると見ることができる。

◆余談

 牛馬を売り買いする博労が登場するので、邑智郡でも阿須那の話だろうかと思ったが、出典は大和村のものである。大和村は美郷町のはずである。阿須那とは結構離れている。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.227-229.
・『日本昔話大成』第六感(関敬吾, 角川書店, 1978)pp.119-123.
・「島根のむかし話」(島根県小・中学校国語教育研究会/編, 日本標準, 1976)pp.162-165.

記事を転載→「広小路

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2022年6月16日 (木)

ようやく通読する――未来社「日本の民話 34 石見篇」

未来社「日本の民話 34 石見篇」を通読する。第一集と第二集の合本。編者は大庭良美。十年以上前に買った本だが通読していなかった。

民話なので昔話だけではなく伝説も収録されている。他の本とも被るお話も少なからずある。

さて、これで石見地方の昔話を一通り読んだと言えるだろうか。ここから何かが見つかればいいのだが。

読んでいて面白いと思ったのは「博労と狐」。牛馬市のあった阿須那の昔話かと思ったら、大和村で美郷町の話のようだ。「日本昔話大成」にも収録されているので、特に島根の昔話という訳でもない。

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2022年6月12日 (日)

浜田商業高校・郷土芸能部の神楽ライブ動画配信を視聴する

浜田商業高校・郷土芸能部の神楽動画ライブ配信を見る。

https://www.youtube.com/watch?v=RpRat2qo5wM

演目は「八幡」「岩戸」「頼政」「大蛇」の四演目。大蛇は八頭だて。頼政の猿といい、できるだけ部員を登場させようとした配慮と思われる。ライブで視聴していたのは「大蛇」の時点で40人ほど。時間帯が悪いのかもしれないが、集客に課題を残しているか。

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2022年6月 7日 (火)

いつになったら読み終わるか――オースランダー「ライブネス」

オースランダー「ライブネス」を電子書籍でマウスオーバー辞書を引き引き読んでいる。全然進まない。今やっと20%くらい。読み終えるのに何ヶ月かかるか。

この本、ライブパフォーマンスはメディア化の進んだ現代ではテレビでの鑑賞と違わないと主張している。

例えばスポーツの鑑賞では、テレビではクローズアップ、リプレイ、スローモーションなどの技法があり、現地で見るよりも便利かもしれない。オースランダーは一等席にいるのと変わらないとしている。

しかし、実感として、プロ野球の中継は数え切れないほど見たが、現地の野球場で見た記憶には勝てないのだ。夏の夜の爽やかな空気までは再現できないのである。ドームはそういうの無いけれど。

どんなに立派なホームシアターを構築したとしても、ライブの実感とは異なるのである。

ライブ性を巡るオースランダーとフェラン(フィーラン)の論争は日本でも知られているけれど、「ライブネス」自体は日本語訳されていない。日本は海外の書籍の翻訳が盛んな国でもあるのだけど、翻訳されていないということは、オースランダーの主張に価値があると認められていないということだろう。

<追記>

第二章ではロックの真正性(オーセンティシティ)が取り上げられる。ミリ・ヴァニリのリップシンクによるグラミー賞剥奪事件とエリック・クラプトンのアンプラグドの演奏によるグラミー賞の受賞が主な事例となる。ここではロックの真正性はライブ・パフォーマンスによって担保されるとしている。MTVのアンプラグドにも真正性を認めている。

第三章では裁判における陪審員の宣誓がビデオ録画でも認められていることを挙げている。他、ライブパフォーマンスと著作権についてなど。

一日3%読むことにして読書ペースが安定した。大体15ページくらい。一日3%だと約一ヶ月で読み切れる。

マウスオーバー辞書で参照するだけだと単語を全然憶えない。書くかタイプするかしないと記憶されないようだ。

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2022年6月 6日 (月)

宛先を間違える

長野県の木曽町役場に「大豊」という神楽について問い合わせたら、上松町役場に問い合わせてくれと返信が帰ってきた。お手数をおかけしました。後で郵便局のサイトで確認したら、それだけでは判断できないものだった。

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2022年6月 3日 (金)

民俗学の方法論の特集――国立歴史民俗博物館研究報告第27集

国立歴史民俗博物館研究報告第27集を読む。民俗学の方法論の特集で斉藤修平先生に送っていただいたもの。個々の論文をコピーして読むことはあったが、通読するのは初めて。非売品である。

なぜ歴史民俗博物館なのかと思っていたが、考えるに、歴史は文字に記録された史料を元に考証する。一方で民俗学は言わば当然のこととして文字化されてこなかった口頭伝承を対象とする。そういう点で補い合う関係にあると言えるだろうか。

平成2年の発行なので30年以上が経過している。民俗学の場合、1930年代の創始の頃にあった民俗は現在では多くが消えてしまっている。民俗芸能は祭礼に伴う芸能だから命脈を保っているが、僕の周辺でも年中行事的なものはあまりない。正月のとんど焼きくらいである。新たに加わったものとしてハロウィンがあるか。

民俗学の存立基盤を揺るがす大問題なのだけど、どうなのだろう。現代の社会を対象にするとなれば社会学とも被ってくる。質的量的研究をよくする社会学に劣位となってしまう。

それはともかく、方法論に意識が向いてきたということは大分分かってきたということかもしれない。

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