特撮番組制作者の理論武装――白倉伸一郎「ヒーローと正義」
白倉伸一郎『ヒーローと正義』(寺子屋新書)を読む。東映で特撮ヒーロー番組のプロデューサーを務めている著者の作品。白倉Pのイメージは切れ者。平成ライダーシリーズを軌道に乗せ、若くして東映の取締役にも就任している。
読むと特撮ヒーローに限らず「ヒーロー」と「正義」全般について考察されている。ちょっと意地悪な見方をすると、特撮番組の制作において、大きなお友達のクレームに対処するには、これ程の理論武装が必要となる。切れ者が理論武装しているのだから、容易には崩せない。
このブログ的に見所を紹介すると、日本のヒーローの原型としてスサノオ命が挙げられる。いわゆるヤマタノオロチ神話である。高天原を追放されたスサノオがオロチを退治することで出雲の英雄となる神話である。
ところで古事記や日本書紀は大和朝廷によって編纂された書物である。朝廷の正統性を訴えるという観点からすると、出雲のスサノオ命や大国主命の神話は削除したいもののはずである。だが、それができなかったのは編纂時、既にスサノオや大国主命の神話は民衆の間でポピュラーなものとなっていた。それ故に取りこまなければならなかった……というもの。白倉氏独自の視点か参照した文献があるのかまでは分からない。巻末に参考文献は挙げられている。
<追記>
桃太郎の昔話では確かに村人たちが鬼たちの被害に遭う場面は描写されていない。しかし、桃太郎が鬼ヶ島から持ち帰る財宝はどうやって集めたのだろう。それは略奪されたものではないか。財宝を描くだけでそこまで想像力が働くのではないだろうか。
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