純文学は小説作法から自由――保坂和志「書きあぐねている人のための小説入門」
保坂和志「書きあぐねている人のための小説入門」を読む。僕も創作指南本は結構読んだけれども、その中では一風変わった本であった。創作指南本はべからず集であったり、作品に一定の構造、様式を求めるものが多かった。本書は純文学の書き方指南本である。純文学にはエンタメのような作法は求められないのだ。
僕自身は純文学、ないしは私小説の類いは読まない。どうしてもノンフィクションに引きずられてしまうからだが、純文学を書くに当たっての心構えと言えるだろうか。
というか、要するに他人の不幸に興味がないから読まないのである(※純文学は時代の変化を敏感に察知するというか見通すと言われているが)。殺人事件にも興味がないからミステリーも読まない。ライトミステリは読むが。
エンタメ作品の場合、小説なら一冊、映画なら二時間、ドラマなら一時間と一つのパッケージの中でドラマやうねりを生み出すことが求められる。自然、起承転結や三幕構成法といった手法に頼ることになるのだけど、この本はそういったテクニックを一旦否定する。小説の書き方に守破離があるなら破か離に相当する本だろう。
創作ノートも面白い。
<追記>
平山瑞穂『エンタメ小説家の失敗学~「売れなければ終わり」の修羅の道』を思い出す。この人は元々純文学を書いていたが、応募したファンタジー小説が入賞しエンタメ作家に転身したキャリアを持つ。しかし、その後売れ行き不振で純文学に回帰しようとしたところ、編集者からはエンタメ小説的な色がついていると指摘され弾かれたのだそうである。純文学の編集者は小説の技法などにこだわらない作者を求めていると思われる。
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