西洋の東洋観――サイード「オリエンタリズム」
サイード「オリエンタリズム」上下巻を読む。800ページ以上もある大著なので読破するのに時間がかかった。幅広い事象を扱っており、一読で理解できる内容ではないので簡単に記す。著者のサイードの出自はパレスティナだとのこと。
オリエンタリズム、西洋の東洋観を扱った本である。主に中東からインドまでを対象としていて日本を含む東アジアは対象外となっている。中東でもトルコについては言及されていない。トルコに言及していないのは民族的に異なるとしても要注意点ではないか。
オリエントはユーラシア大陸とアフリカ大陸とを結ぶ交通の要衝でもあり、古代文明、イスラム文明が花開いた土地でもある。現在は石油を軸にしたエネルギー政策で世界に影響力を及ぼしている。
一口にオリエントと言っても、そこには「セム族」「アラブ」「イスラム」といったアイデンティティが錯綜しているのである。オリエンタリズムは原理的に反セム族、反アラブ、反イスラムの色を帯びている。
サイードは欧米が長年に渡って蓄積してきた東洋観についてドグマだと痛烈に批判する。例えばアラブは更生できない連中だと敵視する見方などである。該博な知識に裏づけされた論旨には説得力がある。
問題の根深さを感じさせるのは本書が欧米で英語で発表されたこと、著者が米国の大学に奉職していること。他のレビューにフーコーの影響を指摘したものがあるが、欧米に拠点を置いて欧米発の認識論に基づいて欧米の言語で発信せざるを得ないという状況自体が欧米社会の優越性を感じさせる。
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