脳が理解を拒否する――斎藤幸平『人新世の「資本論」』
斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)を読む。オープンフォーラムで言及されたもの。400ページ近くあり、普通の新書の倍近いボリュームである。その分読むのに時間がかかった。特にマルクスの資本論の解説の辺りで読書スピードが極端に下がった。果たしてこれは妥当なことを言っているのだろうか(長いこともあって僕自身は「資本論」を読んでいない)と脳が理解を拒絶してしまったのだ。
例えばブランドを希少性で説明しているけれど、それは一面的な見方に過ぎないように感じるのである。「このブランドなら安心」ということももブランドにはあるのだ。でなけば、百貨店という業態が今でも存在していることが説明できないだろう。
このままでは気候変動が避けられないと前提し、そのためには脱成長コミュニズムの導入が不可避であると結論づけている。言ってしまえば、これまでのマルクスの解釈は誤りであり、最新の研究成果に基づいているのですと主張している。しかし、墓場を暴いて死体を掘り返すように思える。どうして21世紀の我々が19世紀の人間の思想に左右されねばならないのか。
たとえば柳田国男は「無方法の方法」と批判されるけれども、彼の日本論は驚く程本質を突いていると評される。それに比べてマルクスはどうだろうか。彼の思考が本質を突いていたなら、一億人以上の人々が死に追いやられることはなかったのではないか。
ソ連が崩壊したとき、左派の人たちは「あれは正しくない社会主義だったのです」と弁明した。しかし、歴史上、正しかった社会主義があったためしがないのだ。
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