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2021年5月 7日 (金)

リアリズムと女形――渡辺保「明治演劇史」

渡辺保「明治演劇史」(講談社)を読む。2012年発行で、この本は書店で買ったから9年近く積読となっていたことになる。500頁近くある本なので、読了までに時間が掛かった。

歌舞伎も能楽も文楽も全然知識が無く、明治維新から始まる序盤を読み進めるのが難航した。この本を買ったのは島村抱月の業績が知りたかったからだけど、それは最終章でなので、そこまでたどり着くのに時間が掛かった。この本では抱月は坪内逍遥の弟子で女優・松井須磨子を見出したことが主に描かれているといった扱いだった。抱月はスペイン風邪で亡くなってしまったので、志半ばで散ったことも影響しているだろう。

明治時代は急速な近代化が施された時代で、芸術面では自然主義リアリズムが導入された時代だった。この本ではリアリズムに価値を置いているようである。

当初は歌舞伎も現代劇をやっていたことを知る。現代劇は散切り狂言→壮士芝居→新派→新劇といった過程を経るのだけど、その過程の中で歌舞伎は古典劇に注力していくようになった様だ。ただ、それでも歌舞伎の影響からは抜けきれず、女性役は女形が務めることが大半だった様だ。その中で成功したのがオッペケペの川上音二郎の妻である貞奴であるが、彼女も歌舞伎の影響下にあった。歌舞伎とは無関係の出自を持ち、イプセンの「人形の家」で一躍注目を浴びた松井須磨子が近代的な意味での最初の女優になるとしている。

当初は演劇がメディアの役割も果たしていて、戦争劇で大当たりをとる。しかし、活動写真の登場によってメディアとしての役割は奪われていったという流れでもある。

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