参与観察を行って民族誌を書く――佐藤郁哉「フィールドワークの技法 問いを育てる、仮説をきたえる」
佐藤郁哉「フィールドワークの技法 問いを育てる、仮説をきたえる」(新曜社)を読む。タイトルの通り、フィールドワーク(参与観察)を行って民族誌(エスノグラフィー)をまとめていく過程について論じたもの。ですます調で書かれていて、読み易さに配慮されている。
幾つかの参与観察が実体験に基づいて語られる。修士時代に行った東北の少年矯正施設での参与観察では東北大学の学閥が施設長の許可を得る上で役立ったことが挙げられている。博士課程で行った京都での暴走族の参与観察では、暴走族のたむろしている付近をうろつくことで接触の機会を得るといった体当たり式の参与観察が行われている。大学に職を得て以降では、プロの劇団に制作マネージャーとして入り、大学での仕事の合間をぬいながら参与観察したこと、そして観察の途中で理論構築の隘路にはまり、仕切り直しして民族誌を出版するまで結局8年かかったことなどが記されている。失敗談についても触れられており、そういう点で意識に引っ掛かり易くもなっている。
フィールドノーツ(複数形)をつけていく段階では、まず先行研究をリサーチして調査する上での問いを立てること、未来の民族誌の章立てを考えることからはじまる。その次に実際に参与観察に入ると、まず現場メモを取り、それを清書することになる。この記述が難物である。僕自身はフィールドワークを行ったことはないが、多分、箇条書きの貧相なメモしか取れないだろう。
フィールドノーツの内容がある程度たまってきたら、仮説を立てて中間報告を行うべきことが提示される。このとき仮説と実際のデータとの間に乖離が生じていることがままある。本書では分離エラーと表現されている。こうなると論文の締め切りに追われることになってしまう。そこで本書では漸次構造化法という手法が提示される。問題設定、データ収集と分析、民族誌の執筆を並行的に行うものである。こうすることでフィールドノーツが分厚い記述となっていくとしている。そういう意味では事前の入念なリサーチがまず求められると言っていいだろう。
具体的なフィールドノーツの整理の仕方、構造化に関しては佐藤郁哉「質的データ分析法 原理・方法・実践」を併せて読むといいだろう。
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