平易な入門書――ケネス・J・ガーゲン「あなたへの社会構成主義」
ケネス・J・ガーゲン「あなたへの社会構成主義」(東村知子/訳, ナカニシヤ出版)を読み終える。奥付を見ると、初版15刷とあるので売れている本らしい。Amazonでもレビュー数が多かった。
構築主義(社会構成主義)について平易に解説した本。デカルトの「我思う、故に我あり」から始まり、経験主義哲学へと進み、それらの認識論はやがてポストモダン哲学で批判されることになるのだけど、その流れを平易に解説している。
社会構成主義は個人主義な認識論に異を唱え、我々は個であるのではなく、我々を結ぶ関係性の網の目の中にいるとする。そして関係性の中に意味が発生すると考えるのである。つまり、我々を取り巻く現実は社会的に構成されるのだとする。ソシュールの言語学から始まり、ヴィトゲンシュタインの言語ゲームという理論が援用される。
主観と客観、どちらも絶対的なものではありえないというところか。
観念論的であるけど、では痛みはどう説明するのかという問いにも答えている。別に物体の実在までを否定している訳ではないのだ。
しかし、構築主義的に疑いはじめたらきりがない。どこかで判断停止(エポケー)しなければならないのではないか。
では自分の関心事項である文化構成主義における伝統文化も社会的に構成された想念に過ぎないことになる。極論すると虚構である。人の身体を通して表現される無形文化財の型や様式などは特にそうであろう。文化の真正性の有無について構成された(日本なら日本の、社会での)文脈に基づいて我々は伝統文化について判断していることになる。
著者は心理学者なので心理学に関する言及が多い。社会構成主義なので社会学的なものを期待していたのだけど、それは他の本で補うことになりそうだ。
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