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2020年8月 8日 (土)

モチーフ素にまで分解する――アラン・ダンデス他「フォークロアの理論 歴史地理的方法を超えて」

アラン・ダンデス他「フォークロアの理論 歴史地理的方法を超えて」(荒木博之/編訳, 法政大学出版局)を読む。民俗学者によるフォークロア(民俗)に関する論考。

まずフォークロアの定義からして難儀である。フォーク(民衆)とはとなると例えば日本では柳田国男の常民という概念が当てられるだろう。柳田が考えた当時は本百姓を指していたらしいけれど、英訳するとコモン・ピープルで時代によってその指すものが変化してしまうのである。農民とすると都市民が外れてしまう。また、無文字社会に暮らす人々も対象外となってしまう。ロア(伝承)についても同様である。口承で伝えられるものというニュアンスがあって、説話、ことわざ、音楽、習俗など色々あるけれども、例えば日本では民具も対象である。かなり広い内容を含んだものとなってしまうのである。

サブタイトルの「歴史地理的方法を超えて」というのは、フォークテール(民間説話)に関するフィンランド学派の歴史地理的手法を指している。フィンランド学派は民間説話を採集するに当たって、そのバリエーションを比較しモチーフを抽出、その説話がどのように伝播したか後付け、遡及してその原型を探る立場にある。水面の波紋が同心円状に拡がるように、説話も自動的に広がると考えるのである。

これに対して、フォン=シドウという学者は説話を持ち運ぶのはトラディターと呼ばれる一部の語りに長けた人たちであるとし、トラディターによって持ち運ばれた説話がその地域に根付いたのをオイコタイプと呼ぶのである。

民話を分析する単位としてモチーフが用いられる。モチーフとは、フォークロア(民俗学)において、お話を分析したその小単位である。話型はモチーフが幾つか集合して成立する単位と言える。単一のモチーフから成る話型もある。

ダンデスはモチーフには可変な要素と不変の要素が混在して、物語分分析の最少単位ではあり得ないと指摘する。

ダンデスはプロップの昔話の形態論を持ち出す。そしてプロップが昔話の機能(ファンクション)と定義したところをモチーフ素と呼び直して分析するのである。これは言語学における音声と音素との連想から来ているようである。昔話からモチーフを取り出して分析する手法があるけれど、モチーフは物語の最少の単位ではないと考え、それに代わるものとしてモチーフ素を提案するのである。

たとえば、昔話に登場するのがキツネであってもタヌキであっても入れ替え可能、つまり可変だが、人を「化かす」という点では不変なのである。この不変の構成要素を物語の機能(ファンクション)もしくはモチーフ素と呼ぶのである。

プロップは文法においては動詞が機能(ファンクション)となると考察している。ただ、意訳に意訳を重ねる場合もあるとのことである。

このように説話に関する論文が多いので、昔話や伝説が好きな自分にとっても興味深い内容だった。ただ、翻訳ものというのは書いてある文字は読めるが、内容が頭に入ってこない。それは僕自身の理解力が高くないからであるけれど。

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