舞の形態学――井上隆弘「霜月神楽の祝祭学」
井上隆弘「霜月神楽の祝祭学」(岩田書院)を読む。奥三河の花祭など三信遠の湯立神楽を取り上げた論考。
本書の特徴として第一部では舞の形態学とでも言えばいいのか、舞の所作や足取りを図にプロットして、そこから分節され構造化されてくる舞台の空間秩序(コスモロジー)を分析している。舞台は初めから舞台としてあるのではなく、舞によって分節されていくのだというのが著者の主張。またこの所作にはこんな意味があるといったアプリオリ(先験的)な分析は行わず、あくまで舞の形態から意味(本質)を見出そうとしている。但し、詞章についてはその限りでない。また適宜、南九州の椎葉神楽や島根県隠岐の島の隠岐神楽などと比較参照している。
基本出不精で花祭には行ったことがないのだけど、これは実際に舞ったことのある人でないと理解できないと思う。反閇(へんばい)についてはYouTubeで榊鬼がステップを踏むのを視聴したことがある。
成城大学の俵木悟氏は「身体と社会の結節点としての民俗芸能」「日本民俗学」252号で本書を取り上げ、井上氏の行った舞の構造把握は分節された瞬間、歴史的に固定されたものとなってしまっているが、実際には舞もその時代時代に応じて変化しているのではないかと評している。
最終章では岩田勝の「神楽源流考」を取り上げ、悪霊鎮送説(神楽を託宣型と悪霊強制型に分類する)に対して批判を試みている。「神楽源流考」が1983年の発刊で本書が2004年だから、まともな批判が出てくるまでに20年を要したことになる。
湯立神楽は湯を神に献上することで清め祓うという意味が、霜月神楽には霜月(旧暦十一月)という冬至に近い時季に太陽の再生を願うという意味があり、概ね折口の神座鎮魂論(善神を身体に付着させることで生命の更新を図るとする説)で説明可能だけれど、著者は更に死霊鎮めや破邪の意義をもそこに見出しているのである。そういう点では岩田説を批判的に踏襲しているのである。
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