魅惑の花祭――早川孝太郎「花祭」
早川孝太郎「花祭」(角川ソフィア文庫)を読む。電子書籍版。講談社学術文庫版と両方あったが、角川が約370ページで講談社が約420ページだった。50ページの差がどこから来ているのかは分からない。
奥三河の花祭を取り上げたモノグラフ。祭りの式次第を図解を加えて極めて詳細に記述している。実際に花祭を見たことがある訳ではないので到底理解したとは言い難いが、魅惑の祭であった。
早川は画家だったとのことで、その観察力がモノグラフに活かされている。現代なら写真を撮るところだが、写真だと被写体の全てを描写するのに対し、絵だと描きたい、強調したいところだけを描写することになるから、却って分かりやすいものとなっている。
現在の神楽研究でも「花祭」ほどに詳細に祭のあれこれを記述したものは無いと言えるだろう。発表された当時、民俗学者たちに衝撃を与えたというのも頷ける。
一方、読んでいて思い出したのだが、確か岩田勝の指摘だったと思うが、榊鬼、山見鬼の裏で土公祭文が読誦されていたそうなのだが、早川の注意は土公祭文には向かわないのだ。土公祭文は竈祓いの祭文でもあり、また、花祭で読誦される土公祭文では五郎王子が五郎の姫宮となっているといった特徴もあるのだが、本書ではほとんど取り上げられていない。今入手できる「花祭」は抄縮版であり、元の「花祭」では記述があったのかもしれない。
花祭に登場する榊鬼、山見鬼は年齢争いで負けて反閇を踏んで大地を鎮めるなど、敬愛される存在であり、同じ鬼でも悪鬼しか登場しない中国地方の神楽とは異なっている。
花祭見学ツアーなど催されていないのだろかと検索したところ、過去にそういうツアーがあったことは確認できた。徹夜で舞う祭なので、宿泊はしないのだろう。そういう意味ではあまり地元にお金が落ちないのかもしれない。
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