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2020年1月 2日 (木)

備後東城荒神神楽能本――三宝荒神能

◆はじめに
「日本庶民文化史料集成 第1巻 神楽・舞楽」に収録された広島県比婆郡東城町戸宇の栃木家本の「三宝荒神」は三宝荒神に関するものの中でも古いものに属するのではないかと思われる。

 三上敏視「新・神楽と出会う本 歌・楽器・お囃子」によると、三宝荒神というのは、祭りに山の神が乱入してきて「わしは山の支配者である。わしの許可なく祭りをするのは何事か。榊一本切り取ることは許さない」(32P)というものだそうだ。三上は乱入系と名づけている。

◆三宝荒神能
 「三宝荒神能」は日本の三方宝荒神が天竺から六面八面の荒神が日本にやって来るのを防ぐ内容である。

 広島県比婆郡戸宇の栃木家に伝わる寛文年間の能本に収録された「三宝荒神能」に手を入れてみた。意味がとれない箇所が幾つかあったのでご了承願いたい(カタカナをひらがなに改めた)。

三宝荒神能

一 御前に罷立る神化(か)をば何成神とや思召す これは大文つの三神三宝荒神とは某(ソレカシ)が事にて候
一されば某がし日本四方(ヨモ)の衆生を守護し御座をならせ玉をべしと存ずる所に それ尊(トヲト)の六面の荒神来る由を聞き 如何に気負いを成すとも 白(シロ)金の御(おん)垂らしに なつめ(棗か)のかむら(鏑か)を一つ使い大国に射返さばやと存じ候 あれに見たわ六面の荒神と見かけ申たにて候

〇さん候 某(ソレカシ)日本に住せばやと存じ候

〇さらば一句かけ申

〇一字千金(せんきん)に当たる 一天他生をたずく(手装か)

 一字千チエン(知縁か)わ日月の如し 一月の齢(レイ)の月を返し

〇えんのう(演能か)の使いに発せられたり さてよすまある

一 されば某(それかし)六面の荒神射返し申所に 天竺より八面荒神来由神通を以て悟り ただ易々と防ぎ退けばやと存じ候

 あれに見えたるは八面の荒神見かけたにて候

〇さん候 日本に渡り四方(ヨモ)の守護とならばやと存じ候

〇某(ソレガシ)住せばやと存じ候

〇さらば一句掛け申

〇さん候

〇シハフネ(柴舟か)や シハフネヤ 漕ぐに心かい削がれて
〇鬼 ふきの返せしシハ(柴か)の松風去つて何(ナジ)退けや
〇 あら目出度や 六面八面の荒神をただ易々と防ぎ退け 日本の三宝荒神と御座を和らげ四方(ヨモ)の衆生を無事に守(マボ)らばやと存じ候

 〇いざなりと 匿(しな)ぶしなりとも

  良き様に納べし

◆参考文献
・「日本庶民文化史料集成 第1巻 神楽・舞楽」(芸能史研究会/編, 三一書房, 1974)pp.186-187
・「新・神楽と出会う本 歌・楽器・お囃子」(三上敏視, アルテスパブリッシング, 2017)

記事を転載→「広小路

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