備後東城荒神神楽能本――清盛之能
◆はじめに
広島県比婆郡東城町戸宇の栃木家蔵本の「清盛之能」は平家の棟梁である平清盛が厳島神社など諸寺諸社を建立して篤く信仰したところ、厳島明神が現前して薙刀を与え天下を治めさせる……という内容である。
◆寛文本
「清盛之能」に手を入れてみた。詞章が崩れて意味がとれない箇所はそのままとした。カタカナはひらがなに改めた。
清盛之能
一 抑(そも)御前に罷立る某(それがし)をば如何なる物とや思召す 神武(ぢんむ)天皇より五十代 桓武(くわんむ)天皇より平家始まり給い(玉い)候 其の以後に王代八十一代高倉(たかくら)の末に平家の大将(たいしやう)清盛とは某がしが事にて候
されば某がし弓矢のぢんすを射てば他の将軍(しやうぐん)ひげ(卑下か)功名(こうめう)名を万天(ばんてん)に上げ 武運(ぶをん)長久ため現世(げんせ)未来(みらい)の為に諸塔(とう)を建て 諸社を建立(こんりやう)申します 東大寺を建て 次に大塔(とう)を建て又越前(えちせん)の気比(けい)の社を立 たいそかい(胎蔵界か)の大日を崇め奉 又をうぼう(王法か)元年に辛(かのと)の歳に兵庫(ひをこ)の築島(つきしま)を整(とゝの)え 名をば経島山(きやうどさん)と名付け某(その)以後(いこ)安芸の国厳島(いつくしま)を建立(こんりやう)申 百八十間(けん)の回廊(くわいろう)を整(とゝの)え 某上長床(ながとこ)に一夜の参篭(さんろう)申さばやと存(ぞん)候
さて神(しん)出給う(玉う)
一 抑々(そもそも)御前に罷立る神化(か)をば何成神(しん)とや見給(たも)う これはせんよう(宣揚か)とう(塔か)はけか国の内 安芸(あき)の国の主(あるじ)厳島(いつくしま)の明神とは我事なり
一 さればごんせん(御前)か御社を磨き立 百八十間(け)の回廊(くわいろう)を整え現世(げんせ)未来(みらい)の願(くわん)成就(ちやう)の其の為に真(まこと)の神(しん)これまで現れたり
一 ならとこれにて白金(しろかね)の蛭巻(ひるまき)したる薙刀(なきなた)を 汝に得さするぞ これを以て天下(か)を治むるべし
○さて神(しん)は人給う(玉う)
○また清盛(きよもり)曰く
一 波の上出ひの花わ残らね共 験(しるし)は残るこれぞ目出度き
一 長床(なかとこ)参篭(さんろう)申新たさよ 白柄(しらゑ)の薙刀長く久しく
◆参考文献
・「日本庶民文化史料集成 第1巻 神楽・舞楽」(芸能史研究会/編, 三一書房, 1974)p.184
記事を転載→「広小路」
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