資料がない――関山
◆はじめに
「校訂石見神楽台本」六調子の部に「関山」という演目がある。天竺、唐を経て日本へ渡ってきた悪僧を日本の大天狗が引き裂くという内容である。提婆の流れを汲むとあるので、生きたまま地獄に堕ちたという提婆達多(だいばだった)のことだろう。その悪行に通じているということか。仏教の外道に対して修験道の優位を訴えるといった内容だろうか。
◆関山
校訂石見神楽台本に収録された(六調子)「関山」を口語訳してみた。
僧「抑(そもそ)も是は三界(欲界、色界、無色界)無庵の修行でござる。私は天竺に生まれ提婆(だいば)の流れを学び大唐を経巡り普く三千世界(世界全体)を尋ねたけれども法力行力手に立つ(相手となるに十分な)者が一人もいない、今日本へ渡って来てあらゆる天神地祇を従え靡かせ一度この国を我が道学の奴(しもべ)と成そうと思い立ち先ずこの関山に来て摩道(ママ)のものを退け去り我が存念(考え)を達せようと思い暫くここに止まってこの山の有様を伺い見るべし」
舞 ここに天狗が化生出る
大天狗「あそこに見えるのは何者ぞ」
僧「おお我は三千世界(全世界)無庵の修行であるが幼い時から天竺提婆の流れを慕い行力法力功績を積み三千世界(全世界)に手に立つ(相手となるに十分な)者が一人もいない。今ここ日本に渡って来て普く天神地祇を押し随えさせ一度国を覆そうと思い立ったのである。お前は私に随うならば長く我が奴(しもべ)としよう。否と言ったらたちどころに我が行力の秘術で一命を失わせてくれよう。どうだ」
大天狗「あら可笑しいかな、抑(そもそ)もこの日本という国は神明(神)の御国でお前如き邪法の輩は一時も足を止める国ではない。我こそは天津神の狗となって一天四海(四方の海)を飛行しお前ごとき悪心欲心高慢我意(わがまま)の者どもをばたちどころに引き裂いてくれる事を我が業(務め)とする所である。汝の一命惜しくば早く心を翻し今まで学んだ外法を捨て清潔な神国の教えに基づくならば見逃してくれよう。さもなくば、ただ今お前の運命を止めてくれよう」
僧「さてさて面白い面白い。いざ、これからは我が行法の力で一戦し勝負を決してくれよう」
舞 大天狗、僧を裂殺する
切「あら有難いあら有難い実に神国の威徳で悪心慢心ただちに身を八つに引き裂き捨て喜悦の眉を開きつつ虚空に飛行し失せたことだ」
◆余談
「関山」に関しては資料がほとんどなく、書けることもほとんどない。牛尾三千夫「神楽と神がかり」の大元神楽台本に収録されているので古くからあった演目であることは想像がつく。
◆参考文献
・「校訂石見神楽台本」(篠原實/編, 1982)pp.202-203
・「神楽と神がかり」(牛尾三千夫, 名著出版, 1985)p.184
記事を転載→「広小路」
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