立教大学・公開セミナー「石見神楽 神と人のエンターテイメント」
立教大学・池袋キャンパスで催された公開セミナー「石見神楽 神と人のエンターテイメント」を受講する。まず初めにレジュメが配られ、細井尚子・異文化コミュニケーション学部教授の神楽に関する概略の説明があった。
全体として観光神楽的なお話かと予想していたが、神楽そのものに絞った話だった。講師は浜田市の西村神楽社中の日高均氏。東京社中のメンバーがサポートする。石見神楽はショーだと批判もあるが、それに対する回答は六掛け理論のようだ。
伝統芸能が100%継承されることはなくて、80%でよくできた。60%でまあようやったという水準だ。もし60%の出来が二世代続いたら、0.6×0.6=0.36と36%ほどの水準となってしまう。故に創意工夫が必要なのである(別に他所の伝統芸能批判ではない)。振り子の様に行き過ぎれば戻るのを繰り返すのだとのこと。
石見神楽台本の詞章は古事記よりむしろ日本書紀から取られたものが多いそうだ。
石見神楽では笛も改良されたとのこと。元々はフルートのように音を出すのが難しかったところ、リコーダーのように音が出るものに改良されたとか。
日高氏は65歳で、現在はたまにイカ釣り漁をしていらっしゃるとのこと。二十代で社中を結成し、月給が3~4万円だった時代に300万円農協から借金して衣装を揃えたとのこと。皆が連帯保証人になって、月5,000円ずつ返済したという。十周年には浜田市民ホールで上演して1700名の来客があったとのこと。
神楽には野次がつきものだが、演者も「ええぞ」とか野次は求めているのだとか。ただし、「へたくそ」とか悪意のある野次については、それを切り返せるようになって一人前なのだとか。神様はものを言わない。観客が喜んでいるのを見て、「私の子供たちが喜んでいる」とお喜びになるのだという。
他、記憶している中では、明治維新後、それまでお寺が戸籍管理をしていたのをお宮にさせようとしたが、短期間で頓挫して史料もあまり残っていないとのこと。
明治時代には神がかりが禁止されたのだが、理由の一つは神の声を聞けるのは宮城のやんごとないお方だけであること、そして上記の様な管理上の理由もあったのだとか。
木彫りの面に変わって、浜田では(筆者捕捉、多分:長浜人形の)ノウハウがあったので、粘土で面を作ることが試みられたが失敗、和紙を塗り重ねる張り子の面が完成したとのこと。
大蛇の実演もされたが、提灯型蛇胴が開発される前はウロコ模様の衣装を着て舞っていたとのこと。
講演の他に、面を姫とか神とか茶利とか色々付け替えて実演してくれた。面によって印象が変わるのである。仮面をつけるというのは役になりきるということだけれども、熟練の技が垣間見えた。
面を着けて顔を揺らすのは、面の視界が悪いからで、ああやって位置関係を把握するのだとのこと。
アンケートには、ちょっとズレた内容だが、「観光神楽で観光客を誘致する戦略は広島県の芸北神楽と被るがそこら辺どうお考えか」といった質問と「関東の里神楽も見たが、とにかく子供が見ない。神楽は子供に見せてナンボのものだと思うので、そこら辺も追及して欲しい」といった内容のことを書いた。
立教大学に行くのは初めてだったけど、レンガ造りの建物のイメージを新しい建物も継承していて、統一感のある美しいキャンパスだった。
立教大学
公開セミナー「石見神楽 神と人のエンターテイメント」
大蛇(オロチ)の実演
姫の面をつけて実演
八十神の茶利の面をつけて実演
神の面をつけて実演
展示された面
展示された面
悪狐の面
ちなみに、レジュメの内容は下記の通りである。パワーポイントで作成したものをテキストエディタで記述するので、そのままではないが。
日本の神楽①
「かぐら」←「かむくら」=神座:移動する神座
天鈿女命…子孫猿女君:凶悪なものを払い天皇の殯所を保護する→鎮魂
6世紀後半~仏教(鎮護国家):宮中の鎮魂=御巫(男性)>猿女(巫女)
宮中…御神楽(みかぐら):神楽歌中心+採物歌(舞踊)・前張(さいばり)など
→宮廷外の神事芸(男性による)の定着
民間…里神楽:石清水八幡など京都近辺の諸大社の御神楽
神懸系(巫女神楽)・出雲系(採物神楽+神話物)・伊勢系(湯立神楽)
獅子系(山伏神楽・伊勢太神楽)
神事芸能
神事+芸能:宗教的職能者による儀式+宗教的職能者による芸能
福建省泉州の道士集団(棹頭城・土脚戯・打城戯)①②③
四川省南充の端公(跳神・端公戯)
:宗教的職能者による儀式+俗人による芸能
四川省南充の端公…端公戯(灯戯)
青海省同仁県チベット族集落のルロ④(上田信撮影)⑤⑥
↓
俗人により演じられる儀式+俗人による芸能
日本:明治3-4(1870-71)年
神職演舞禁止令・神懸り禁止令
(いずれも通称)
式次第―儀式の式次第+芸能
―儀式の式次第の中に芸能が組み込まれる
↓
宗教的職能者ではない者(俗人)が式次第も演じる
・民間で行われる
・提供者がそれを生業とする
・演じる時・演じる場・演じる目的
石見神楽
明治以前:神職が担う→氏神の例祭:5-6名…芸能=素面・採物舞
→式年祭:5年、7年、13年などに1回・20名余り。=大元神楽
↓
明治以降:農民が担う=地域により氏神の例祭が伝承・出雲神楽系の神話物吸収など個性
<改革>
・台本 文化7(1810)年 三浦重賢「御神楽舞言立目録」(式年祭の神楽台本)
→明治15年(1882)年頃 藤井宗雄による改訂→1964年 篠原実「校定石見神楽台本」
・囃子の調子を速くした「八調子」→石州和紙の神楽面:軽量化・肥大化
・出雲神楽系の神話物…植田菊市の提灯型蛇腹→「大蛇」
・細川衣装店の刺繍技術
※芸能部分の発展=「塵輪」など異国から襲来する神+神話「大蛇」など
視聴覚要素強化
(筆者注)
・①②③④⑤⑥は写真
・チベットの儀式+芸能が俗人によるものとされているのは中国が宗教的職能者によるものを認めていないため。
・「塵輪」の「異国から」というのは共同体の外から程度のニュアンス。
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