中心と周辺、ヴァルネラビリティ――「地域メディアが地域を変える」(河井孝仁, 遊橋裕泰/編, 日本経済評論社)
「地域メディアが地域を変える」(河井孝仁, 遊橋裕泰/編, 日本経済評論社)を読む。地域活性化に地域メディアを活用しようという本である。モバイル社会研究所というNTTの系列の研究所が企画した本。
地域活性化が成功した際によく語られるのが「キーパーソンは誰々だ」「誰々さんがいたから成功した」というフレーズである。本書ではスーパー地域職人と呼んでいるが、そういうスーパーマンがいないと活性化は成功しないのだろうか、いないとしたら登場するまで待たねばならないのかといった疑問が湧いてくる。
本書では解決策として地域情報アーキテクチャを提案する。2009年の発刊であるからだが、Web2.0という今ではいささか古くなった概念を援用して、地域SNS、ブログ、地域ポータルサイトなどを提案するのである。
地域情報アーキテクチャの「信頼を与える力、誘引する力、(共通のことば、目的を基礎に)翻訳する力」を基礎として、地域職人が行う地域活性化を図る「しごと」を本章では「発火」と名づける。
また、地域職人による「発火」が行われて、「信頼を与える力、誘引する力、(共通のことば、目的を基礎に)翻訳する力」という潜在力を持つ地域情報アーキテクチャが機能し、地域活性化を可能とする集合知の形成利用が行われるとも考える。(21-22P)
事例として地域情報のアーカイブの制作にPopCorn、PushCornといったツールを活用したことや、富山市の商店街のポータルサイト(iモール富山)の制作・運営といった事例が挙げられている。富山市の事例は個人の一代芸であるともしているが、iモールは他の中堅都市にも広がりを見せている。
また、ヴァルネラビリティという概念を重視する。誘発性という訳語を当てているが、弱点、脆弱性といった意味を持つ言葉である。たとえば、地域SNSの子育てコミュニティの中心メンバーは子育て中の女性が中心となる。そこではリアル社会では中心から外れた周縁部に属する女性たちが中心となるのである。周縁が活性化されることによって中心が刺激される効果が見られるのである。そこに周縁から中心へと位置をずらす力を見るのである。
地域活性化に繋がる存在として「よそもの・わかもの・ばかもの」が挙げられているが、これも、ヴァルネラビリティと関わる言葉である。
こういったIT技術の活用による周辺から中心への人材の活用、地域職人の発火といった合わせ技で地域の活性化を図るとしている。
……数年前に「サクラクエスト」というアニメが放映された。富山県のとある市に手違いで観光大使(国王)として赴任したヒロインが地域活性化のために一年間奮闘するという物語である。設定では観光来客数が年間数万人という規模の観光の目玉が無い地域で(モデルとなった市には世界遺産があるなど、有力な観光地である)たった一年で目立った成果が出るはずもなく、劇的な幕切れとはならなかった。が、テーマがテーマだけに毎週見てしまった。特に面白いという訳でもなくつまらなくもない平凡な出来なのだけど、ネットで配信されているので、興味のある人は見てみればいいんじゃないかと思う。
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