ファン、地域、製作者のトライアングル――山村高淑「アニメ・マンガで地域振興~まちのファンを生むコンテンツツーリズム開発法~」
山村高淑「アニメ・マンガで地域振興~まちのファンを生むコンテンツツーリズム開発法~」を読む。近年、アニメの背景にロケハンされた風景が描かれることが増えてきた。それを元に実際のロケ地に足を運ぶ新型の観光が勢いを増しつつあるというのが本書のテーマ。コンテンツツーリズムというと映画やドラマも含まれるけれど、本書ではアニメ・マンガに限定して論述している。
アニメでコンテンツツーリズムが成功した事例として先ず取り上げられるのが境港市の水木しげるロードである。「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪たちのブロンズ像が商店街にずらりと並べられているのだけど、これで境港市は大いに活性化した。
ところで鬼太郎が題材となっているのだけど、鬼太郎は何度もアニメ化された非常に息の長い(繰り返しのアニメ化に耐えうる)国民的人気番組である。そういう意味では成功は半ば必然かもしれない。
以降、本書では「らき☆すた」「サマーウォーズ」「戦国BASARA」を題材として進んでいく。特に「らき☆すた」の鷲宮町(現・埼玉県久喜市)が好んで取り上げられるのだけど、「らき☆すた」の場合、主に首都圏や関西圏などを中心に放送された全国ネットではない深夜アニメである。そういう意味で必ずしも国民的人気作品でない新作でもアニメツーリズムは可能であるという事例となっている。
本書では、コンテンツを、その地域に付与されている物語性と定義する。魅力的なコンテンツ(物語性)を持つ地域に人が集まるとするのである。これは物語マーケティングの面からみても首肯できる。物語化することで理解が容易になるのだ。
インターネットの発達で観光客自身が情報をブログ、SNS、ホームページなどで情報発信できるようになり、従来観光業が担っていた情報発信の役割に変化が訪れた。ネット上の仮想空間で人々が結びつきはじめたのである。本書では江戸時代にあった連という組織――俳諧など趣味人の緩い繋がりを例に挙げて、今再びそのような同好の士の緩い繋がりが生まれつつあるとしている。
鷲宮町では関東最古の神社である鷲宮神社がアニメ化の素材となったのだけど、例えば鎌倉の様な従来型の観光資源を持たない地域でも、コンテンツが充実し、それを発信できさえずれば人々が惹きつける可能性があるとする。
鷲宮の事例ではアニメ放映中にロケ地が鷲宮町であることがアニメ雑誌や同人誌によって明かされ、実際に訪れるファンが増えた。当初、鷲宮町ではアニメ効果で観光客が増えていることに気づいておらず、それを察知して商工会議所が中心となって動き、アニメの著作権者である製作委員会(角川書店が窓口)とコンタクトを取り、土産物やイベントの企画が動き始めたという流れだそうだ。
ファン、地域、製作者の三者が理想的な関係を作り上げたことが報告されている。その中ではキーマンとなる人達の存在が指摘されている。キーマンとなるべき人材がいないから自分たちでは上手くいかないと考えるのでなく、思い切ってアニメに理解のある若手に任せてみることも提言されている。
ちなみに、鷲宮町で発行された特別住民票には「らき☆すた」のキャラが鷲宮神社の土師一流催馬楽神楽を舞っている姿が描かれているとのこと。
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