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2019年4月 7日 (日)

おもてなしは案外不評――デービッド・アトキンソン「新・観光立国論」

デービッド・アトキンソン『新・観光立国論 イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」』を読む。元ゴールドマン・サックスのアナリストで現在は伝統建築や文化財などの修復を行う会社の経営者である著者の観光論。

Amazonで僕が見た時点で139ものレビューがついていた。ベストセラーということになるだろう。読んでみて、頭の切れる人が噛んで含める様にして日本の観光の問題点を洗い出したものという印象。

アナリストらしくデータを駆使して日本の観光の水準は観光大国とされる先進国から比べると低い水準にあることが示される。要するに、まだまだ伸びしろがあるということなのだけど、21世紀の人口減少時代にGDPを伸ばす方策として観光に力を入れるべきであるとしている(移民政策には日本人がそうだからと否定的である)。

著者は観光立国の条件として「気候」「自然」「文化」「食事」を挙げる。これらの全てが揃わなくても観光客を呼び込むことはできるが、日本はこれら四つの条件が揃った稀な国だとしている。それは観光立国の条件が揃っているにも関わらず、観光の各種数値が低い水準にあるという裏返しでもある。

一方、「おもてなし」に代表される日本のサービスは実は外国人観光客にとっては画一的で不評なのだという指摘もなされる。欧米からの観光客数がまだまだなので、そこにマーケティングして注力すべきだとしているけれど、遠くから来る観光客は長期滞在する傾向にあり、お金をより多く落とす上客なのだとのこと。それら上客の需要を満たすサービスが提供されていないと指摘している。

著者は日本の観光業はゴールデン・ウィークに集中した大量の客を効率よくさばく様に特化しているとする。なので、ゴールデン・ウィークを廃止して休暇を分散させるよう提言している。

日本の場合、外国の街のように旧市街地があって古くからの建物が現存して町並みを形成しているということはない。モダンな建築物の間に伝統のある神社があったり、そういう古いものと新しいものが共存している(常にスクラップ・アンド・ビルドを繰り返している)ところが日本らしさなのだと思う。大体、日本の古い町並みは空襲で焼けてしまったのである。京都は被害が少なかったというだけの話でもある。

「気候」「自然」「文化」「食事」の四点を島根県に適用してみると、気候、自然は日本海の海、そして冬場は西日本でもスキーが楽しめるといった点に求められるだろうか。「食事」は海のものは日本海の食材、山のものは近年島根県産のものに注力しているとして、残るは文化である。この点、やはり松江や出雲が有利だろう。石見地方だと津和野や石見銀山か。浜田だと海水浴とアクアスが中心で文化の薫りはあまりしないのだけれど、石見神楽がそれを補ってくれるだろうか。

<追記>
この本では高所得層向けに例えば沖縄に大規模リゾートを開発するべきだと書いているけれども、それはバブルの時代に頓挫した流れではないか。大規模な開発によって沖縄の自然が影響を受けたのである。アトキンソン氏はバブル期には既に日本にいたはずで、このことをどう思っているのだろうか。

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