イメージは案外強固――「観光心理学を愉しむ」(宮原英種, 宮原和子)
「観光心理学を愉しむ 観光行動のしくみを解明する」(宮原英種, 宮原和子, ナカニシヤ出版, 2001)を読む。180ページほどの分量で記述も平易だったので直ぐに読めた。
この本が出版された2001年時点では観光心理学というジャンルは確立していないとのことである。心理学の知見自体は十二分に蓄積されているので、応用心理学として発展するだろう。観光とは日常を離れ、非日常の世界に心を遊ばせるものだけど、マズローの欲求の階層性といった心理学の基本的な概念を用いて観光を分析していく。
ある短期大学の学生を対象にオーストラリアに行ったことのある学生と行ったことのない学生とでオーストラリアのイメージについてSD法という手法でアンケートをとったところ(その学校ではオーストラリアでの研修旅行があって参加は任意である)、オーストラリアに関して抱いているイメージは経験の有無とでほとんど変わりがなかったという結果が出ている。イメージというものは移ろい易いものという印象があるが、実験結果からすると、イメージは強固で容易に変えにくいという結果となったとしている。ここから観光におけるイメージ戦略の重要性が説かれている。
また、ハワイと沖縄で比較したところ、それぞれに抱いているイメージはほとんど同じという結果が出た。つまり、ハワイと沖縄は観光行動において競合するのである。
21世紀に入ってから、政府はクールジャパンといったサブカルチャー方面でのイメージアップ戦略を掲げているけれど、アニメの聖地巡礼が21世紀型の観光と目されており、こうした観光のイメージ戦略とも繋がっているのかもしれない。
島根県のイメージというと、「鳥取県の隣」となる。そしてどっちがどっちか分からないのである。
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