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2019年4月 6日 (土)

オーバーキャパシティをマネジメントする――アレックス・カー、清野由美「観光亡国論」

アレックス・カー、清野由美「観光亡国論」(中公新書ラクレ)を読む。日本のインバウンド(要するに訪日外国人客数)は2011年の622万人から2017年は2869万人と右肩上がりで、東京オリンピックで4000万人達成も夢ではなくなってきた。著者はこれを第二の開国と呼んでいる。

インバウンドの消費額は4兆4162億円にも達し、トヨタの過去最高益の1.5倍もの数字になっている。長らく日本を支えてきた製造業に匹敵する21世紀の産業となるポテンシャルを秘めているのである。

一方で京都や富士山ではオーバーキャパシティによる観光公害が目立ち始めている。バルセロナやフィレンツェといった外国の観光先進地では「オーバーツーリズム(観光過剰)」「ツーリズモフォビア(観光恐怖症)」といった造語で以て語られる様になっているとしている。そこで筆者は適切なマネージメントとコントロールを提言する。

が、民泊新法では全国一律の規制となっており、地域の実情による規制となっていないなどの指摘がなされている。

世界の趨勢として観光地と駐車場を離れた位置に置き、観光客に歩かせる(動線の設定として途中には商店街があって消費を見込む)形態が主流になっているとする。日本だと大田市の石見銀山が長距離歩かせるということで一部で不評らしいが(実際、一通り見ようとすると7~8kmは歩くことになる)、むしろ強くアピールすべきだとしている。

実は大型観光バスによるツアー客の一か所当たりの滞在時間は短く、地元に落とす金額も微々たるものらしい。それよりも少数の観光客に長期滞在してもらう方が効率がよいとする。が、行政の発想の転換が遅れ、観光地化というと大型駐車場やバイパスの整備といった方向性になってしまうとしている。

他、昔のままに伝えている文化の化石化、生きているようで生きていない文化を「ゾンビ化」、時代に合わせて柔軟に変化しているが、文化の核心への理解がなく、本質とは異なるモンスター化してしまうのを「フランケンシュタイン化」と呼んでいるとこと等が面白かった。

タイトルは観光亡国となっているが、これは増え過ぎた観光客に対する適切なコントロールとマネジメントを欠いたらという仮定の話であり、フランスの様に更なる観光客の増加もあり得ないではないとしている。

著者は日本の古民家を改装して宿泊施設として提供する活動で実績のある人。200ページほどの分量であり、一日で読めた。

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