超高齢での仕事――御薗生翁甫「防長神楽の研究」
御薗生翁甫「防長神楽の研究」(未来社)を読む。歴史学者である著者が88歳のときからフィールドワークをはじめたもの。超高齢での仕事。毛利氏や大内氏の研究が専門だが、神楽が消滅の危機に瀕しているので優先させたとのこと。歴史学なので民俗学の学者が書いたものとはちょっと異なるテイストである。
山口県の神楽は周囲の影響を受け、混然としているようだ。湯立神楽、山伏神楽、石見神楽の流入もある。また、出雲からは大元神楽(※石見の大元神楽とは演目が異なるようだ)、芸州の神楽や豊前の神楽の影響もある。山伏神楽には将軍といった演目が見られる。将軍で神がかりしたかは明らかではない。
神がかりも残されていたそうで、山口県ではチャンチキ舞といったそうである。託宣は無かったようである。
歴史学らしいところは庶民の生活史。非常に貧しい、粥しか食べられない貧相な食生活だったようだ。甘藷がもたらされるまでは、どうやって空腹を凌いでいたのだろう。雪の降らない瀬戸内沿岸では麦の裏作をして凌いでいたとか。虫害も深刻で、いもち病でせっかくの稲を燃やさねばならない無念はいかばかりか。そんなところから五穀豊穣を願う神楽が支持されてきた。
著者は92歳で亡くなったようだが、亡くなる一週間ほど前は意識が混濁して原稿の前後が混乱してしまい、それを今の形に直したそうである。残念なのは、資料集が付加されていないこと。資料集があれば、著者が意識しなかったことに他の誰かが気づくこともあっただろう。
なお、百姓神楽の起源として以下のように分類している。
1. 悪疫の流行によって死亡者が続出することを避けようとするもの。
2. 天候不順で五穀がみのらず、百姓の多くが餓死することのないように、稲作の無事息災や風雨順時を祈願したもの。
3. 雨乞。
4. 非業の最後をとげた者の怨霊、すなわちミサキを鎮め、また非常の災害にあった人民が餓死した折に、これを鬼神のたたりとしてミサキ鎮めをおこなうもの。
5. 同族が親和団結をはかるために神を祭って神楽を奉納する、いわゆる祖先崇拝にその端を発するもの。
6. 住民とはなんの関係ない神人等がやってきて伝授したもの。(59-60P)
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