戦前の神楽研究本――西角井正慶「神楽研究」
西角井正慶「神楽研究」、本文を読み終わる。昭和9年の発行で戦前の本。若き日の牛尾三千夫が編集に携わったとのこと。早川孝太郎「花祭」、小寺融吉「芸術としての神楽」の方が先行しているが、神楽のまとまった研究書としては黎明期の段階の本だろう。
先ず宮廷で催された御神楽に言及される。里神楽はそれからだ。西角井正慶は折口信夫門下生とのことで、基本的には折口説で解釈している。といっても、僕自身、折口信夫の著書はほとんど全く読んだことがないで想像を働かせる他ない場面もあった。
要するに神楽を鎮魂と解釈する説と言ってよいだろうか。天岩戸神話の解釈に顕著である。天の岩戸神話を自然神話(戦前に既に日食説があったことが分かる)と葬祭説との解釈に別れるとし、一方で折口信夫の鎮魂論で解釈、古代の死の観念は生と死の境が曖昧なもので、一種の眠りと捉えていた。そして天照大神の身体から離れた魂を鎮魂(たまふり)で再び身体に付着させ蘇らせたとする。
「神楽研究」は西角井正慶が34歳のときに出版されたもので、まだ若い時期のものである。そういう意味では研究の集大成として出した本ではなく、新進気鋭の研究者として叩き台となる本を世に問うたという段階か。
資料集も200ページほどあり、読むのに骨が折れた。広島十二神祇神楽の荒平と九州の三宝荒神の関連を窺わせる神楽の詞章も収録されていた。
以前手にしたときは石見神楽にしか興味がなく、石見神楽に関する章がないので興味のあるそうなページを少しだけコピーするに留まった。今回は最初から最後まで読んでみることで、戦前の研究の水準を窺い知ることができた。
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