全編、史料集――本田安次「日本の伝統芸能 第三巻 神楽Ⅲ」
本田安次「日本の伝統芸能 第三巻 神楽Ⅲ」を読み終える。650ページもある大著でしかも全編が神楽の史料集だったので、読むのが大変だった。旧字体など知らない漢字読めない漢字も多く(フォントが小さく老眼では判別できない文字もあった)、IMEの手書き文字認識機能に頼ったが、もっとも、内容的には天の岩戸神話を主体とした日本神話に関する内容が多かったので、おおまかな意味は取れたと思う。全く未知の史料ならこんなには読めない。二巻と合わせて全国の神楽の史料を約800ページほど読んだことになる。様々な神楽の詞章に触れることができたので、達成感みたいなものはある。
九州の神楽の詞章は唯一神道流に改訂されたものが多かったという印象。石塚尊俊が神体出現の神楽として高く評価した宮崎県の銀鏡(しろみ)神楽だが、詞章を読んだところ、近世に入って神道風に改訂されたのではという印象だった。
関東より東になると黙劇が多く、神楽の詞章は記載されていないものが多かった。それにしても舞ぶりの描写が子細で、自分だとただ舞っているとしか書けないところを細かく描写していたのに驚かされる。
悉皆調査ではないので漏れはあるけど、全国の詞章を読んで、例えば広島県の「将軍」は九州では「弓将軍」「荘厳」などというタイトルとなっていた。ただし、唯一神道流に改訂されていたのが多かった。「荘厳」の様に二人の将軍が登場する舞だと櫛岩窓命、豊岩窓命と解釈されているものもあった。東日本でも「大宝舞」「大豊之次第」とタイトルは異なるものの、広島の阿刀神楽と同じような詞章を確認できるものがあって参考になった。
荒平だと「三界鬼」「柴荒神問」などというタイトルで荒平が荒神として書き換えられ、神道の由来について神主と問答する内容のものとなっていた。神楽歌が一部被っているので、元は荒平だろうと推測できる。「荒平言葉」「御笠問」の様に中には荒平の名が残っているものもある。また、荒神は猿田彦命の化身という解釈もあるようだ。
五朗王子は東日本では五郎の姫宮となるようだ。西日本の五郎王子の物語が長大化したのと対比を成している。
松澤で演じているのは、樂人三瓶善次翁の談によれば、もと田村郡阿久津村の神主村上安一郎氏が、「奈良の管長富田先生」なる人よる、伊勢流(これに対して出雲流といふのもあつた由)とて伝授されたものを最初田村郡高野村丹伊田に伝え、次に来てこの松澤村に伝えたものといふ。(526P)
とあるように、1000ページ程読んでようやく出雲流という言葉が口伝で述べられている箇所に当たった。他、東北で丹波流などもあるようだ。
残念ながら「日本の伝統芸能 第一巻 神楽Ⅰ」は横浜市立図書館には所蔵されていない。「日本の伝統芸能」という同じ著者の一般向けの本があって、それと混同したものと思われる。読みたければ、国会図書館にでも通う他ない。なお、浜田市立図書館にも所蔵されている。
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