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2018年3月 3日 (土)

人面犬の昔話もあり――田中瑩一「伝承怪異譚」

田中瑩一「伝承怪異譚――語りのなかの妖怪たち」(三弥井書店)を読み終える。島根大学名誉教授の著書。2010年の刊行なので、7年近く積読していたことになる。冒頭に益田市乙子町での昔話採集のエピソードが語られていて、その中に乙子狭姫の話が語られていて、そこだけ読んで満足してしまっていた。記述自体は平易で分かり易いものである。

主に島根県で採集した昔話をベースとして様々な怪異が紹介される。

ラフカディオ・ハーンの怪談「雪女」について考察があるが、西多摩郡調布村とあるので今の調布市だろう、調布で採集した話が元だとされていることから、雪女の成立過程について考察している。僕自身は昔、講談社ブルーバックスで「怪談の科学―幽霊はなぜ現れる」という本を読んだことがあって、江戸時代は現在より寒冷な気候だったと記されていた事を記憶している。なんでも、低体温症になると錯乱、身体が熱くなって着ている着物を脱いでしまうといった現象が報告されており、それが雪女のイメージとなったとのことで、元は東北か信越地方で生まれた伝説だろうけれど、江戸で伝承されていてもおかしくはないと思っていた。なので、「伝承怪異譚」で雪女の成立過程――「舌抜き女」の昔話と関連づけての考察があることに興味を覚えた。

「からさでさん」という出雲地方の昔話では、十一月二十六日に出雲の国に集まった神様たちが帰る日を「からさでさん」というが、その日は謹慎して戸締りをして目張りをして外を見ないようにするとのことである。ところが、一人のいけず子が神様とはどのような姿をしているのか見てみようと思い立ち、家を抜け出てしまった。果たして神様の行列と遭遇してしまったいけず子だったが、見とがめられて「ワンワン」と犬のふりをしたところ、神様は犬ではしょうがないと帰ってしまった。ところが、夜が明けて見ると、いけず子は顔が人で首から下は犬になって「ワンワン」と悲しそうに鳴いていた……という話があった。これは、いわゆる人面犬の古い形ではないだろうか。思わぬところで人面犬の話に出くわした。

章立てとしては、炭焼き小屋に来る女/山の呼ぶ声/山姥の来る家/山人、大人/蛇と蝦蟇/もの言う猫、踊る猫/人を襲う猫/人をとる蜘蛛/食わず女房/しだいだか、せこ、小豆とぎ/七尋女房、杓貸せ/からさでさん、さで婆さん/大きくなった石、口をひねられた蛭 といった内容となっている。

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