昔話の概説書――小澤俊夫「昔話入門」
小澤俊夫「昔話入門」を読み終える。このところ昔話の理論書を何冊か読んでいて、昔話の概説書が読みたかったので丁度よかった。マックス・リュティの理論やアールネ=トムソンの分類した昔話の話型、グリム童話の沿革など。子供に昔話を読み聞かせるための一章もある。
第4章「子どもに昔話を!」では、
また、「やさしく心豊かな子どもに育てたい」との教育的配慮からいえば、残酷な場面を省いてしまった再話もよく見かけますが、広い意味での教育的配慮からいえば、むしろ昔話における残酷さは子どもの成長にきわめてたいせつな役割を果たしているといえるのです(小澤俊夫著『昔ばなしとは何か』(福武書店<ベネッセ>、一九九〇年)及び野村泫著『昔話の残酷性』(東京子ども図書館、一九七五年)』参照)。
このほか、教訓臭の強い再話、情緒に訴えようとするセンチメンタルな再話など、昔話本来の子ども奥深くへ働きかける力強さを失ってしまった再話を選ばないように心がけることもたいせつです。すなわち、語るためのお話を選ぶ時には、再話の良し悪しを見極めること、昔話の法則を保っているかを見極めることが必要なのです(本書第二章参照)。
「昔話入門」(小澤俊夫, ぎょうせい, 1997)p.151
昔話絵本『かちかちやま』には、実際いろいろなものがあり、中には、最後にうさぎがたぬきを赦し、手に手を取り合って、これから仲良く暮らしましょうというものさえあります。このような安易な話の結び方では人生の厳しさや自然の摂理にふれないままで終わってしまいます。本の読者よりもっと年齢層の低い幼児向けの絵本で、あえて「とうとう、やまんばを ころしてしまいましたとさ」としたところに、昔話に織り込まれた人生の真実を伝えようとした、再話者の意図が読み取れるのではないでしょうか。書店に並ぶ昔話絵本が教育的配慮? として、残酷性を排除しようとしたり、みんな仲良く暮らしましょうといった安易な筋運びをしていることを思うとき、昔話絵本は決して改ざん、改悪してはならないと思うのです。(207P)
と昔話の残酷性にも触れている。昔話の残酷性というのは、昔話がある面で因果応報を説いていることの裏返しである。安易な物語の改変は、因果が巡り巡って自分に返って来るという人生の真実から目を逸らしてしまうことにもつながりかねない。悪いことをしたら報いが返ってくるという人生の真実が自然に学べるのが昔話なのである。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- グランドセオリー的スケール感――松村一男『神話学入門』(2022.05.12)
- 具体的事例多し――澤渡貞男『ときめきの観光学 観光地の復権と地域活性化のために』(2022.05.09)
- 5600ページもある(2022.04.04)
- 岩戸神楽に限らず――泉房子『<岩戸神楽>その展開と始原 周辺の民俗行事も視野に』(2022.04.01)
- AmazonのKindleストアで電子書籍をセルフ出版してます(2022.03.31)
「昔話」カテゴリの記事
- 神話学で昔話を読み解く――古川のり子『昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話学』(2022.02.20)
- 昔話の理論を図式化してみる(2022.01.25)
- 募集テーマは「日本各地に伝わる昔話やおとぎ話、民話、小説などの<二次創作>」(2021.10.20)
- 世間並みの自我形成――安藤則夫「昔話から見た日本的自我のとらえ方―日本昔話が持つ教育的効果に関する一考察―」(2021.06.03)
- 昔話のハードカバー本――武田正「日本昔話の伝承構造」(2021.03.19)