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2017年1月 7日 (土)

キュウリの神さまと山辺神社

◆はじめに

 江津市は赤瓦の街並みが美しい町であるが、その中に山辺神宮がある。その山辺神宮にまつわるお話である。

島根県江津市の赤瓦の民家
天領江津本町甍街道・案内図

◆あらすじ

 江川の河口に近い郷田の里に一人の男が病気の母親と二人で暮らしていた。ある日男が江川へ釣りに出かけると、魚がよく釣れた。あまり獲ると川の神さまが怒るのでこれくらいにしようと、釣り道具を片づけはじめていると、川上からキュウリが一本流れてきた。ただのキュウリではない。何かピカピカ光るものが乗っている。
 おや、と思った男がキュウリを拾いあげると、キュウリの上に小さい宮さまの形をした箱があり、中を開けると神さまがお祀りしてあった。
 どうして流れてきたかは知らないが、とにかく家へお連れしましょうと男はキュウリと一緒に神さまを懐に入れ、家に帰った。
 神さまをお祀りして一心に祈った男と母だったが、御利益があったのか、母親の病気がすっかり良くなった。これは神さまのおかげだ。自分たちだけで拝んでいるのではもったいないと庄屋に相談することにした。
 話を聞いた庄屋はそれではと郷田の村の小高い山の上にお宮を建てることにした。村中の者たちが力を出し合って働き、立派なお宮が出来上がった。
 お祭りの日が決まった。その日庄屋が「この神さまはキュウリに乗って来られた。キュウリは神さまの足だ。キュウリをお祭りの日だけは食べないようにしよう」と言った。皆、賛成してお祭りの日にはキュウリを食べないことにした。
 山辺神社がそのとき作られたお宮だという。そして、お祭りの日には今でも辺りの人たちはキュウリを食べないと言われている。

JR三江線から見た江川
JR三江線から見た江川

 江津市の山辺神社(山辺神宮)は式内社の論社の一つとのこと。浜田市旭町和田の八幡宮にも山辺神社があり、類社の一つだとのこと。

島根県江津市の山辺神社・鳥居
山辺神社・山門
階段から見上げた山辺神社・拝殿
山辺神社・拝殿
山辺神社・願い石
願い石

 山辺神社は昭和の時代に大水害に見舞われたとのことで、その所為か建物はコンクリート製である。境内に災害保存太鼓という破れた太鼓が飾られていて、当時の水害の激しさを物語っている。

山辺神社・災害保存太鼓

 「式内社調査報告 第二十一巻 山陰道4」によると、「また祇園信仰と習合してゐたため、例祭を挟んで七月一日から十七日までは胡瓜を食べないという風習がある」としている(885P)

 また、特殊神事としてホーランエーがあり、山辺神社の江津祇園大祭礼に合わせて四年に一度執り行われるとのこと。

◆余談

 浜田市旭町の八幡宮周辺は映画「天然コケッコー」のロケ地だったようである。

浜田市旭町の山辺神社・鳥居と拝殿
浜田市旭町の山辺神社・拝殿
浜田市旭町和田の山辺神社。八幡宮の隣に鎮座する。

◆参考文献

・「式内社調査報告 第二十一巻 山陰道4」(式内社研究会/編, 皇学館大学出版部, 1983)pp.883-885
・「島根県の民話」(日本児童文学者協会/編, 偕成社, 1981)pp.93-98

記事を転載 →「広小路

 

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