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2009年10月

2009年10月 3日 (土)

幻の書――清水真三郎「石見神祇史稿」

国立国会図書館へ行く。実は今回が初めて。今までは横浜市立図書館や島根県立図書館、益田市立図書館、浜田市立図書館で事足りていたのだが、帰省時まで待つのも何なので決行する。

旧島根県史をマイクロフィッシュで閲覧。1・2巻(神代編)だけ請求したのが失敗。3巻(国造政治時代編)に知りたい内容があった。

時間切れで再訪問。コピー申請用紙を書くのに手間取る(マイクロフィッシュ用申請書は1コマ毎に該当ページ数を記入)。

何を探しにいったかというと、旧島根県史に転載された清水真三郎「石見神祇史稿」。

雑誌「郷土石見」4号(石見郷土研究懇話会, 1977)に桜井貞光「石見の神々 石見国式内社研究の歴史と問題点」という論考で紹介されていた。主たるテーマは、氏族分布より見た石見国内式内社の研究とでも言いたいもので(5P)……とある。

(この石見神祇稿は県の図書館にもないので、一般には幻の書になりつつあると思われる)[5P]

国会図書館所蔵のマイクロフィッシュ及びデジタルデータでは第三巻が「国造政治時代編」である。このうち、

・第十七章「石見に於ける諸氏族の分布」(590-776P)
・第十八章「石見に於ける御名代」(776-778P)
・第十九章「石見に於ける屯田」(778-779P)
・第二十章「石見に於ける部曲」(779-782P)

が石見地方に関する章である(590-782P)。

主に第十七章「石見に於ける諸氏族の分布」だが、該当する箇所はページ上欄に「石見神祇史稿抄出」と注釈されていて引用された箇所が分かる。

現在はデジタル化されたデータの複写申請が可能(※要利用者登録)。近代デジタルライブラリーでは国会図書館館内のみ閲覧可能となっている。

◆復刻版

旧島根県史の復刻版が島根県立図書館、益田市立図書館に所蔵されている。復刻版では第2巻が「国造政治時代」となっている。

ちなみに、上記論考で紹介されていた
 栗田寛「神祇志料」
 伴信友「伴信友全集・神名帳考証」
 鈴鹿連胤「神社覈録」


◆石見国式内神社在所考

上記桜井論文では藤井宗雄「石見国式内神社在所考」についても触れている。「神祇全書 第5輯」(思文閣, 1971)に収録されている(339-356P)。藤井宗雄は明治期に活躍した浜田出身の国学者。

◆現状認識

新修島根県史では、ちょっと待ったとワンクッション置いて地名と氏族名の関わりを解釈する姿勢のようだ。

残念ながら清水真三郎という学者に関する詳しいことは分からない。博士だが、神道関連の人物名鑑を参照しても記載されていなかった。

六所神社(松江市)
http://www.genbu.net/data/izumo/rokusyo_title.htm?print=on (※アドレスをコピペしてください)
こちらのサイトによると、出雲大社権宮司とのこと。

学者としての清水博士については分からず。県史に大々的に引用されるのだから、その道の権威と考えて違いない。島根県立図書館のレファレンスコーナーで質問すれば分かる確率が高いはず。

◆三隅の伝説

「三隅町誌」に大麻山と高山の石合戦の伝説が収録されている。石見地方にやって来た阿波忌部族が大麻山周辺の小野族と衝突したという内容だが、実は昭和の時代に再話されたものだという。再話した人が誰かも明らかになっている。確かに旧島根県史にその元となった近隣騒動の記述がある。

角川書店「出雲・石見の伝説」では特に断りなく上記石合戦の伝説が収録されており、ある意味この時点で上記の氏族移住的な史観を盛り込んだ新しい伝説が誕生したという見方もできる。つまり、いつ頃からその伝説がその内容で語られるようになったのか時代がほぼ特定できる事例なのだ。

なので、旧島根県史の該当箇所は島根県石見地方の伝説を読む上で一読しておいた方がよいと思った次第。

◆余談

受付カウンターで応対してくれたのは若い女性だった。宝石鑑定用ルーペの様な感じでマイクロフィッシュ一枚一枚確認する。現在はデジタル化されて、そちらの複写に切り替わった様で、ある意味貴重な体験をしたかもしれない。

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2009年10月 2日 (金)

jpeg画像だけど

国会図書館の本、ネット配信へ [読売新聞]
で近代デジタルライブラリーの存在を知る。明治・大正期の本が既に15万冊くらいデジタルアーカイブ化されているとか。著作権切れのものが対象のようだ。
試してみたが、これは凄いと思わされた。
マイクロフィルムをスキャンしてjpeg画像として保存したもので決して読みやすいとはいえないが、PDF形式でダウンロードすることも可能だ(※一回10コマずつ)。
例えば藤井宗雄「浜田鑑」という明治期の本がある。明治時代に活躍した国学者だそうで当時の浜田の様子が伺えるが、これが自宅に居ながらにしてブラウザで閲覧できるのだ。今までなら直接図書館に出向いて閲覧するしかなかったはず。デジタル化されたものを閲覧する分には汚損のおそれもない。時間の問題もクリアされる。
全体では約90万冊あるそうで、全体のアーカイブ化が終了するのはいつ頃になるだろう。
国立国会図書館 | 近代デジタルライブラリー
<追記>
これらのデジタルアーカイブ化で神保町の古書店は打撃を受けるのだろうか。まあ、通読するのには向いていないかもしれないし、これぞという本は手元に置いておきたいこともある。
例えば島根県だと江戸時代の地誌「石見八重葎」などが県の支援で活字化されている。おかげで素人でも読むことができるようになっている。確か出版はしていないそうなので、国会図書館には所蔵されていないようだ。

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