高島のお伊勢さん
◆はじめに
高島は益田市の沖合いにある島。現在は無人島。
石見舟唄に生きるおイセの物語
ハア どんと どんと と エー
波 高島で ヨーソレホイ
おイセよぶ声 なつかしや ヨートコホイ
トノエ ナニオエー ソレソレ
昔 津田村の娘おイセが高島の若者に嫁いだ。始めの幸せな気持ちは単調>な島の生活にあき やがて望郷の思いに変わった。しかし三里(十二キロ)の海に隔てられ帰るすべもなく対岸を眺めては涙した。ある日、島の周囲は一里(四キロ)あり、三周できると対岸に泳ぎつけることに気づいた。波静かな日、おイセは試みに泳いだところ、島を三周することができた。
「これで帰ることができる」という喜びに疲れも忘れ、そのまま対岸を目指し泳ぎ始めた。荒磯へ半里(二キロ)の小島に泳ぎ着きあと少しで着くとほほえんだ。
安堵で気がゆるんだのかそのまま息絶えてしまった。
これを知った浦人たちはおイセの心ねを哀み涙を流した。以来この小島を「伊勢島」と呼び「石見舟唄」に歌い継がれている。鎌手地区連合自治会
山陰道鎌手保存会
◆高島にまつわる伝承
「島根の伝説」(島根県小・中学校国語教育研究会/編, 日本標準, 1981)に収録された「高島のおいせ」(122-126P)という民話。
対岸の津田から高島に嫁に入ったおいせ。はじめはもの珍しかったが、やがて故郷が恋しくなった。三里(約12キロメートル)の距離と聞いたおいせは島の周り(約4キロメートルで一周)を泳ぎはじめる。なんとか3周できるようになったおいせはある日、対岸を目指し日本海を泳いで渡ろうと試みる。が、荒波で疲れたおいせは対岸から約2キロメートルの地点にある小さな暗礁にたどり着くと休む。が、天候が悪化。やむなく再び対岸を目指し泳ぎはじめたおいせを波が呑みこんでしまう。おいせの遺体は鎌手の浜に打ち上げられたという内容。
浜田市でも粟島の鶴という娘の名で伝承されているようだ(同248P)。
海上保安庁のサイトで高島について詳しく紹介されており、お伊勢の伝承も掲載されている。
高島灯台について/浜田海上保安部沿岸域情報提供システム
高島は「ちび姫さん」(234-238P)でも舞台の一つとなる。赤雁の背に乗った乙子狭姫が一休みしようと高島に降りたとうとしたところ、大山祇神の遣いである鷹に我は肉食ゆえ五穀はいらぬと拒まれてしまう。このため島で作物があまり獲れないという説話になっている。「石見鎌手郷土史」(矢冨熊一郎, 1966)によると実際鷹や雁がいたようだ。
唐音から望む高島
◆アニメ
まんが日本昔ばなしでアニメ化されていた。youtubeにアップロードされていたのを鑑賞。タイトルは「お伊勢物語」。演出:大橋六郎, 演出:沖島勲, 美術・作画:なべしまよしつぐ とクレジットされている。出雲・石見の伝説(角川書店刊)よりとある。「出雲・石見の伝説 日本の伝説48」(酒井董美, 萩坂昇, 角川書店, 1980)だ。
元となった伝説より更に暗いトーンの演出となっている。お伊勢たちの貧しさが強調されており、東北の寒村のようなイメージすらある。
一方、島を三周するくだりはない。島を三周して……というのは、お伊勢の浅はかさでもあり、アニメではただひたすら故郷に帰りたいと願うお伊勢像になっている。
アニメで先ずお伊勢の伝説に触れ、それから出典に収録された伝説を読んだら拍子抜けする人もいるかもしれない。
伝説を約10分程のボリュームに膨らませるため脚本家の手が加えられているはずだが、どうやっているか比較できた。コメントを読むとトラウマと書いているものが幾つかあった。
アニメとして放映されたとき、新たなお伊勢像に基づく伝説のバリエーションが生まれたと言えるかもしれない。
◆参考文献
・「出雲・石見の伝説 日本の伝説48」(酒井董美, 萩坂昇, 角川書店, 1980)pp.108-109, pp.144-149
・「石見鎌手郷土史」(矢冨熊一郎, 1966)
・「石見高島の秘話」(矢富熊一郎, 益田史談会, 1960)pp.45-48
・「島根の伝説」(島根県小・中学校国語教育研究会/編, 日本標準, 1981)pp.122-126
記事を転載 →「広小路」(※一部改変あり)
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