あの男を探す――文禄・慶長の役にまつわる民話
◆はじめに
◆あらすじ
今から三百九十年前(二〇二〇年代だと四百三十年前)のこと。当時、豊臣秀吉は朝鮮の国を攻めるため各地から兵を集めていた。浜田を治めていた毛利氏も兵を出さねばならなくなった。
毛利氏の命を受けた役人がやって来て、細谷からも兵を出すことになった。手柄をたてて帰った者には三間(約六メートル)のはしごに登って見渡せるだけの土地をやると言って募集したが、皆尻込みして募集に応じる者はいなかった。
役人が腰抜けどもめと怒ったとき、一人の男が行くと答えた。朝鮮がどんなところか知らないが、貧乏は嫌になったから、広い土地をくれるなら自分が行くと。
側で聞いていた村人たちは、止めておけ。嘘に決まっている。死ねば元も子もなくなると小声で話しかけたが、言い出した男は後に引かなかった。そうしてとうとう連れていかれてしまった。
あちこちの村や国から集まった者たちは朝鮮に送られた。朝鮮では大変難儀な目に遭ったが、男は歯を食いしばって頑張った。
何年も続いた大きな戦はようやく終わった。しばらくして豊臣軍は朝鮮から帰ってきた。その中に細谷から出た男もいた。男は無事に帰れたことを喜んだ。
ところが、このことを知った役人は困った。約束を守って広い土地を与えねばならない。他の役人たちと相談した挙げ句、殺してしまうしか他に手立てがないとなった。
そんなことも知らぬ男は喜び勇んで帰ってきた。そして村境の朝付峠(あさつけたお)から久しぶりに見る細谷の家々を懐かしく眺めた。大地主になれる、そのことで頭が一杯だった。
峠を下り、細谷へ向かおうとしたとき、役人が現れた。役人は、お前はここで死なねばならぬと刀を抜いた。男は何かの間違いでないかと思ったが、約束が守れないため自分を殺そうとしていると悟った。
男は必死に逃げたが、追い詰められて、とうとう殺されてしまった。十二月二日のことであった。
男の首は恨みでかっと目を見開いて坂を転げ落ちた。細谷の人たちは男を哀れに思い、お堂を建ててその霊を祀った。その祠を付近の人たちは「大地主さん」と呼んでいる。今でも十二月二日には男の霊を祀っているとのことである。
◆ドライブ
今度は朝付峠から細谷方面へ向かう。天候もよく、道も整備されていてストレスなく走れた。細谷へは浜田川沿いに行った方が楽で、朝付峠を超える道を選ぶのは物語の都合――斬られた首が峠から細谷までころがった――であろうか。結局、大地主さんの祠は分からなかった。
◆彦兵衛の石――益田の民話
豊臣秀吉が天下を治めていた頃、今の益田市の下種(しもたね)町に岡彦兵衛(おかひこべえ)という下級武士がいた。
天正十九年(一五九一年)、秀吉は朝鮮に兵を出し、多くの兵を集めた。彦兵衛もその一人であった。
朝鮮に着いた彦兵衛は目覚ましい働きをした。命に関わるような事が何度もあったが、無事に切り抜けた。
ある朝のこと。昨日の激しい戦いで両軍疲れ切ったのか、ときの声も弓矢の音もしなかった。干し飯をかじりながら彦兵衛は外に出た。彦兵衛は故郷のことを思い出していた。
ふと、彦兵衛はわらじの中に挟まっていた小石を見つけた。取り出してみると薄紫の光を出して輝いている。変わった石だ。今まで見たこともないと思った彦兵衛は故郷への土産とすることにした。
戦いも終わって彦兵衛は下種の我が家に帰った。彦兵衛はこれしか持ち帰らなかったと例の石を取り出した。
これはおかしい、彦兵衛は取り出した石をもう一度確かめた。拾ったときよりも何となく大きくなっているようだ。
彦兵衛は無事に帰れたのはこの石のおかげかも知れないと考え、絹の布と箱を用意させ、神棚にお供えした。石のおかげか家族は病気一つしなかった。やがて、近所の人たちも拝みに来た。
ある日のこと、彦兵衛が神棚の掃除をしようと思い、この石を出してみた。石は相変わらず光を放っていた。しかも、今までよりやはり大きくなっている。掌に載らないくらいになっていた。
これは大変なことだ。家の中でお祀りしただけではばちが当たると思った彦兵衛は庭先に立派な祠を建て、神官を呼んで丁寧に祀った。
この話が人から人へと伝わって遠くの方の人たちまでお参りに来るようになった。願い事を言って拝むと、その願いが叶うので、ますます評判が高くなった。
今、この石は「彦兵衛の石」と呼ばれ、益田市下種町の岡家で大事に祀られている。
同じく赤雁町の天道山から見た解説に「この地に八幡宮を勧請したのは赤雁(あかがり)益田氏第五代兼豊(かねとよ)であり、豊臣秀吉の朝鮮出兵にあたって、武運の長久を祈って天正15年(1587年・安土桃山時代)10月15日に造営されました」とある。
◆余談
◆参考文献
記事を転載 →「広小路」(※一部改変あり)
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