「連想」というキーワードで国会図書館に所蔵された雑誌を検索し、とりあえず下記の論文の遠隔複写サービスを申し込む。
1. 山愛美「連続連想にみられる反応パターンの特徴」『心理学研究』57(5)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 1986)pp.287-292.
2. 深尾誠, 大河内茂美「言語連想における刺激語と反応語の線形変換モデルの検証」『心理学研究』64(2)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 1993)pp.91-98.
3. 鍋田智広, 目久田純一, 神垣彬子, 松井剛太, 朴信永, 山崎晃「幼児の連想的記憶における意味的知識の発達」『心理学研究』78(6)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2008)pp.591-598.
4. 松田崇志, 松川順子「連想構造を持つリストにおける検索誘導性忘却への加齢の影響」『心理学研究』81(5)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2010)pp.517-522.
5. 月元敬, 橋本剛明, 唐沢かおり「間接的連想関係による虚記憶」『心理学研究』82(1)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2011)pp.49-55.
・西田勇樹, 服部雅史, 織田涼「遠隔連想テストは何を測るか」『心理学研究』94(5)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2003)pp.392-401.
……これらの論文はタイトルにあるような実験の結果に統計処理を施して分析したもので、統計学は未履修なので内容まで理解した訳ではない。
心理学というか認知科学で連想がどのような模式図で描かれているのかと考えたのだけど、基本的には語句と語句とを線分で結ぶ形式でよさそうだった。
連想とは一つの言葉や観念が別の言葉や観念を呼び起こすことと定義できる。そのため、刺激語とそれに対する反応語とに区別されている。心理学の実験では連想の反応時間に着目したり制限時間を設けたりするケースが多いようだ。
1の論文では連想を
・分離的自由連想
・継続的自由連想
・分離的制限連想
・継続的制限連想
と分類している。
・継続的方法はある一つの刺激語に対して連鎖的に反応語を求める
・分離的方法は反応語を一語だけに制限する
・制限的方法は反応語をたとえば「動物の中から選びなさい」等と制限する
また、反応語については、ポジティブ/ニュートラル/ネガティブと三分類している。
2の論文では、
・間接連続連想:刺激語に対する反応語が次の反応語を出すための刺激語となりその語に対する反応語が次の反応語を引き出すための刺激語となるような連想法
・直接連続連想:最初に与えた刺激語に対して思い浮かぶ限り反応語を出してもらうような連想法
の二つを挙げている。ざっくりとだが、2論文では連想を行列と捉える。線形代数の世界である。ただし、2論文では連想構造の線形性を仮定しているが、非線形性のモデルがあり得ることも想定している。
また、因子として、
・明暗の因子……“暗い―明るい”“ねっとりとした―さっぱりした”
・情緒的評価の因子……“嫌な―好ましい”“親しみにくい―親しみやすい”
・緊張・弛緩の因子……“硬い―柔らかい”“力強い―弱々しい”
・興奮・沈静の因子……“重々しい―軽やかな”“落ちついた―にぎやかな”
・一般的評価の因子……“醜い―美しい”“冷たい―暖かい”
といった風に五つに分類した因子分析を行っている。
3の論文では虚偽記憶を取り上げている。虚偽記憶とは、実際には生じていない出来事を誤って想起することとしている。要するに勘違いである。虚偽記憶を調べる手法としてDRM法と呼ばれる実験手法がある。ちなみにDRMとは三人の人名の頭文字からとられている。
DRM法においては、学習時に呈示されたリスト内の単語(学習語)と共に呈示されていないクリティカル・ルアーと呼ばれる単語までも誤って再生、再認してしまうことが発生するとのことである。
3論文では、DRM法における虚偽記憶が意味的知識の構造を反映する点で注目が集まっているとしている。
4の論文では、虚記憶と呼称しているが、DRM法を用いた検索誘導性忘却について実験/検証が行われている。
検索誘導性忘却とは、記憶からある項目(ターゲット項目)を検索すると、その検索行為により、後のターゲット自身の検索可能性は増加するが、一方で、ターゲット項目と関連した項目は抑制され、検索可能性が低下することとしている。
4論文では、連想的な関係性を持つ項目は連想関係によって結びついており、連想ネットワーク構造を持っている。そのような連想ネットワーク構造の中から特定のターゲット項目を検索するとき、ターゲット項目と連想的な関係性にある項目も同時に活性化され、活性化資源を奪い合うこととなる。ターゲット項目を適切かつ迅速に検索するため、この競合状態を解消するよう抑制機能が働くとの仮説を立てている。
5の論文では、たとえば「消防士は男性的職業」といったステレオタイプが媒介する間接的連想関係について実験/検証している。
連想関係を、
・直接的連想関係
・間接的連想関係
とに分類している。たとえば、「りんご」と「赤い」、「赤い」と「ポスト」は直接的連想関係にある一方、「りんご」と「ポスト」は直接的連想関係ではなく「赤い」が媒介した間接的連想関係となる。
5論文ではDRM法をDRMパラダイムと呼称し、ルア語の他、学習語と意味的関連のない新奇語も取り上げている。
6の論文は、洞察問題について実験/検証を行った論文である。洞察問題とは、解決するために特別な知識を必要としないが、すぐに思いつくような方法では解決できないことが多い問題としている。
洞察問題解決を研究するため遠隔連想テスト(RAT)がよく用いられているとのこと。日本語版RATだと、たとえば「住」「在」「汚」といった三つの問題語がある。正解語は「職」である。固着語(三つのうち二つだけと単語を構成する語)は「宅」である。
実験はクラウドソーシングサイトで被験者を募り、WEB上で回答させる形式となっている。
……といった内容だった。6論文だけ少し離れた内容となっている。
「連想」に関して、認知科学でどのような定義づけがされているか調べたもの。NDL-OPACで検索してヒットしたものの上位から選んだもので、『心理学研究』に絞って取り寄せた。他にも掲載論文はあったのだけど、他との兼ね合いでこの程度の数字に留めた。右も左も分からない状態だったので万全とは言えないが、とりあえずのとっかかりとはなったのではないか。
こうしてみると、数学を避けていたツケがのしかかってくる。僕の母校の学部では一般教養の理系科目に心理学があったのでそれを履修したのだけど、それは基礎的な内容で、こういった統計学を駆使したような内容では当然なかった。
ちなみに、若き日の西垣通氏も講師としていらした。そちらは教職課程とバッティングしたため履修できなかった。
僕が漠然と考えているのは昔話における話の展開を何か連想的なものと捉えられないかというもの。それらに対する何らかの手がかりが得られないかと思った次第。たとえば、レヴィ=ストロースの神話分析などはかなり飛躍した連想がされているように感じる。間接的、継続的な連想と言えるかもしれない。