アニメの構造主義的分析――川﨑瑞穂「百合の神話論理序説―アニメ『明日ちゃんのセーラー服』第9話の範列分析―」
・川﨑瑞穂「百合の神話論理序説―アニメ『明日ちゃんのセーラー服』第9話の範列分析―」『比較文化研究』149(日本比較文化学会, 2022)pp.123-136.
・川﨑瑞穂「百合と紫陽花―アニメ『やがて君になる』第8話の範列分析―」『比較文化研究』145(日本比較文化学会, 2021)pp.39-52.
という論文を読む。ここでいう範列は言語学の範列とは若干異なり「範列的」とした方が正確なようだ。双方の論文とも紫陽花が作中の重要なモチーフとして登場するが、それらの連鎖を範列的とみることで分析を進めていっている。その点で、(花言葉といった)象徴分析より一歩進んだとしている。
「神話論理」とはレヴィ=ストロースの同名の本からで、レヴィ=ストロースの分析手法が映像作品の分析に援用されている。
社会学者の橋爪大三郎氏はレヴィ=ストロースの分析を「名人芸的」と形容したが、本論文ではマトリクス形式に落とし込む形で自家薬籠中のものとしている。ただ、もう少しかみ砕いて分析手法を解説してくれれば……と思わないでもないが、それは論文の目的とするところではないので仕方ない。
百合は女性同士の恋愛感情を含んだ関係性を描いた作品を指す。「明日ちゃん」は女子校が舞台だけど主な登場人物は中学一年生で恋愛要素は無いに等しい。ちなみに、検索したところ、著者は男性だった。まあ、男性が百合作品を好むことは珍しくはない。BLを好むことは少ないだろうが。
読んでいて、コードという用語がピンと来ないなと思う。音楽だとコード進行、プログラミングだとソースコードといった風に用いられるが。
マトリクスでは心理的コード、社会的コード、身体的コード、植物的コード、気象的コード(明日ちゃん)、身体的コード、言語学的コード、社会学的コード、気象学的コード(やがて君)という風に列を設け、それぞれの項目を埋めていく(※空白になる行もある)。気象学とあるのは紫陽花が梅雨時に咲く花で雨と深い関わりがあるからだと推測される。
両作とも漫画からアニメ化されることとなったのだが、媒体の違いもあってアニメ化の際に改変が施されることはままある。本論文ではそれをヴァリアントと呼んでまさに神話的な異伝的なものとして比較考察の対象としている。
「明日ちゃん」の原作者は男性で監督はおそらく女性だが、こういった象徴的なモチーフの連鎖は自家薬籠中のものとして「こうすればこうなる」とほとんど無意識的に構成しているのではないか。そうした方が収まりがよくなるからそうするのだと思う。
余談。
去年の今頃、有楽町に「明日ちゃん」の原画展を見にいった。銀座から一駅歩く程度だったのだけど、それで息切れしてしまう有様だった。引っ越しの準備で疲弊していてそれがピークに達していた時期だった。
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