2019年10月20日 (日)

関東の里神楽のお約束~その2~

関東の神楽では、まず第一の登場人物が登場して、舞を舞った後で床几に腰をかけるという展開が多い。それから従者役のもどきが登場して、「ご主人さま~どこですか~」と舞う。舞台の上手と下手でそれを繰り返して、「そうだ、先にお屋敷に戻っているに違いない」と独り納得して屋敷に戻ると、案の定主が腰かけているという展開がある。これも関東の里神楽のお約束である。

菩比の上使・もどき、下手で主人を探す
菩比の上使・もどき、下手で主人を探す
菩比の上使・もどき二人が顔を合わせて相談する
菩比の上使・もどき二人が顔を合わせて相談する
菩比の上使・もどき二人が掌を合わせる 
菩比の上使・もどき二人が掌を合わせる
菩比の上使・もどき、上手で主を探す
菩比の上使・もどき、上手で主を探す
菩比の上使・もどき、よく探す
菩比の上使・もどき、よく探す
菩比の上使・もどき、考える
菩比の上使・もどき、考える
菩比の上使・「そうだ、先に屋敷に戻っているに違いない」
菩比の上使・「そうだ、先に屋敷に戻っているに違いない」
菩比の上使・もどき、無事に主に対面する
菩比の上使・もどき、無事に主に対面する

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関東の里神楽のお約束~その1~

関東の里神楽を観ていて気づいたことがある。もどきという滑稽な所作をする役がいるのだけど、大抵は従者役である。その従者が酒など物を持って来いと命じられる場面がある。そこでもどき、もしくはおかめさんが舞いを舞うのだ。これはお約束といっていい。

山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
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山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・おかめさんが酒を持ってくる舞
山海交易・龍宮の場・山幸彦が酒を飲む

伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・もどきが酒を運ぶ舞いを舞う
伊吹山・ヤマトタケル命が酒を飲む

関東の里神楽はできるだけストーリーに沿って載せようとしているが、こういうもどきやおかめさんの舞は本筋と関係ないだけに省略してしまう。そこで、ここで紹介することにした。

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2019年10月19日 (土)

新宿で会食する

新宿で文教大学の斉藤修平先生たちと会食する。六月に行われた第二回かながわのお神楽公演のプレ反省会。司会をつとめた若い女性二人が同席する。室内が思ったより騒がしく、声が聞き取り難かった。パンフレットに意外とお金が掛かるとのこと。2,000円×300人で60万円は掛かることになる。資料的価値を残すためカラーにしているのが要因の一つだとか。僕自身は四社中による共演大会方式は良かったと思うのだが、当の社中の方たちにしてみると、そうでもないらしい。

若い人たちの発想は柔軟で、イベント関係のノウハウの無い僕には思いも寄らない会話が続いた。

斉藤先生から石見神楽・東京社中はどれくらいの人数がいるの? と訊かれて答えられなかったが、大蛇ができるので、それなりの人数はいるはずと答えた。

その他、流鏑馬神事は落馬事故が多いとのこと。関東の里神楽は元締めと家元とで異なるのだそうだ。

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2019年10月13日 (日)

神剣幽助と小鍛冶

◆はじめに
 2019年9月に横浜市港北区大豆戸町の八杉神社で加藤社中による奉納神楽を見る。その中に「神剣幽助」があった。謡曲「小鍛冶」を題材にした作品で、帝から勅命で刀を打つよう命じられたが相方がいない三條宗近が稲荷大神の助力を得て名刀・小狐丸を打つという内容。

加藤社中・神剣幽助・三條宗近
加藤社中・神剣幽助・三條宗近
加藤社中・神剣幽助・もどきが刀を打つ道具を用意する
加藤社中・神剣幽助・もどきが刀を打つ道具を用意する
加藤社中・神剣幽助・刀を打つ用意が整う
加藤社中・神剣幽助・刀を打つ用意が整う
加藤社中・神剣幽助・三條宗近、稲荷明神に祈誓する
加藤社中・神剣幽助・三條宗近、稲荷明神に祈誓する
加藤社中・神剣幽助・稲荷明神登場
加藤社中・神剣幽助・稲荷明神登場
加藤社中・神剣幽助・稲荷明神と刀を鍛える三條宗近
加藤社中・神剣幽助・稲荷明神と刀を鍛える三條宗近
加藤社中・神剣幽助・刀が打ちあがった
加藤社中・神剣幽助・刀が打ちあがった
加藤社中・神剣幽助・刀が打ちあがった
加藤社中・神剣幽助・刀が打ちあがった
加藤社中・神剣幽助・打ちあがった刀を三條宗光に渡す
加藤社中・神剣幽助・打ちあがった刀を三條宗光に渡す

◆小鍛冶
 謡曲「小鍛冶」を口語訳してみた。

前シテ:童子
後加藤社中・神剣幽助・稲荷明神と刀を鍛える三條宗近シテ:稲荷明神
ワキ:三條小鍛冶
ツレ:橘道成
處は:京都

三條小鍛冶神助を得て、加藤社中・神剣幽助・稲荷明神と刀を鍛える三條宗近勅命の御剣を打つ事を作れり。

大臣詞「是は一條の院にお仕えする橘(たちばな)の道成(みちなり)でござる。扨(さて)も(ところで)今夜帝に不思議のお告げがありましたので、三條の小鍛冶(こかじ)宗近(むねちか)を召して、御剣を打たせるべきとの勅命であるので、ただ今宗近の私宅へと急ぎます。いかにこの屋敷の内に宗近がいるか」
ワキ詞「宗近とは誰でございますか」
大臣「是は一條の院の勅使であるぞ。扨ても(ところで)帝に今夜不思議なお告げがあったので、宗近を召して御剣を打たせるべきとの勅命である。急いでお仕えせよ」
ワキ「宣旨は畏まって承ります。その様な御剣を献上すべきときには、自分に劣らない者が相槌を奉仕してこそ、御剣も成就するでしょう。是は兎に角お返事を申し兼ねたばかりでございます」
大臣「実にお前が申すことは道理であるけれども、帝に不思議のお告げがあったので、頼もしく思いつつ、早々と領掌(承知)申すべしと、重ねて宣旨があったので」
ワキ「この上は兎にも角にも宗近が」
地「兎にも角にも宗近が進退ここに極まって御剣の刃(やいば)の乱れる心だった。そうではありながら、政道(政治の路)が素直な今の御代なので、もしや奇特のことは有りはしないだろうか、そればかり頼む心かな、そればかり頼む心かな」
ワキ詞「言語道断。一大事を仰せになられたものかな。このような事は神の力を頼まなくてはと思います。某(それがし)の氏神は稲荷の明神なので、これから直ぐに稲荷に参り、祈誓申そうと思います」
シテ詞「のうのう、あれは三條の小鍛冶宗近でいらっしゃるか」
ワキ「不思議かな。なべて(一般に)尋常でない事を、我が名を指しておっしゃるのは、どのような人でいらっしゃいますか」
シテ「雲の上の帝から、剣を打って参らせよとあなたに仰せだったよのう」
ワキ「さればこそ、それに付けても猶も不思議な事かな。剣の勅もただ今のことだったのを、早くもお知りになっていらっしゃる事は返す返すも不審です」
シテ「実に不審とはそういう事だけれども、自分だけが知れば他所の人までも」
ワキ「天に声あり」
シテ「地に響く」
地「壁に耳、岩の物言う世の中に、岩の物言う世の中に、隠れもしない。殊に猶、雲上人の御剣の光は何が闇(くら)いだろう。ただ頼めこの君の、恵みによれば御剣も、どうして心に叶わないことがあろうか。どうして叶わないだろうか」
地クリ「それ漢王三尺(さんせき)の剣、居ながらにして秦の乱れを治め、また煬帝がけい(怪異か)の剣、周室の光を奪った」
シテサシ「その後玄宗皇帝の鍾馗大臣も」
地「剣の徳に魂魄は、君の周りにお仕えし」
シテ「魍魎鬼神に至るまで」
地「剣の刃(やいば)の光に恐れて、その寇(あだ)をなす事ができない」
シテ「漢家本朝(日本)に於いて剣の威徳」
地「申すに及ばぬ奇特とか」
クセ「また我が朝のその始め、人皇十二代景行天皇、詔(みことのり)の御名をば日本武(やまとたけ)と申した人が、東夷を退治の勅命を受け、関の東も遥かな東(あずま)の旅の道すがら、伊勢や尾張の海面(うみづら)に立つ波までも帰ることよと羨(うらや)み、いつか自分も帰る波の衣手にあれと、思い続けて行く程に」
シテ「ここやあそこの戦いに」
地「人馬巌窟(がんくつ)に身を砕き、血は涿鹿(たくろく:黄帝が蚩尤[しゆう]と戦った地)の川となって、紅波(紅色の波:血潮の流れ)が楯を流し、数度に及ぶ夷(えびす)も兜を脱いで矛を伏せ、皆降参を申した。尊(みこと)の御宇(御代)から御狩場(みかりば)をお始めになった。頃は神無月、二十日あまりの事なので、四方(よも)の紅葉も冬枯れの、遠い山にかかる薄い雪を詠(なが)めたところ」
シテ「夷が四方を囲みつつ」
地「枯野の草に火を懸け、餘焔(余炎:消え残りの炎)がしきりに燃え上がり、敵は攻め鼓(つづみ)を打ちかけて、火焔を放って懸ったので」
シテ「尊(みこと)は剣を抜いて」
地「尊は剣を抜いて、辺りを払い忽ちに炎も立ち退(しりぞ)けと、四方の草を薙ぎ払えば、剣の精霊嵐となって焔(ほのほ)も草も吹き返されて、天に輝き地に満ち満ちて、猛火(みやうくわ)は却って敵(かたき)を焼いたので、数万騎の夷(えびす)どもは、忽ちこごに失せてしまったことだ。その後四海治まって人家戸ざし(戸をさし固めること)を忘れたのも、その草薙の故だとか。ただ今お前が打つべきその瑞相(ずゐそう)の御剣も、どうしてそれに劣ることがあろうか。伝える家の宗近よ、心安く思って下向し給え」
ワキ詞「漢家本朝に於いて剣の威徳、時に取って祝言(祝い)である。扨ても扨ても(ところで)そなたはどのような人か」
シテ「たとえ誰であってもただ頼め、まずまず勅命の御剣を打つべき壇を飾りつつ、その時我を待っているならば」
地「通力の身を変じて、必ずその時節に参り会って御力をつけ申すだろう。待ち給えと、夕雲の稲荷山、行方も知れず失せたことだ、行方も知れず失せたことだ」
ワキ「宗近は勅命に随って、ただちに壇に上りつつ、不浄を隔てる七重の注連(しめ)、四方に本尊をかけ奉り、幣帛を捧げ、仰ぎ願わくば、宗近は時に至って人皇六十六代、一條の院の御代に、その職の誉れを蒙ることは、これ私の力にあらず。伊弉諾(いざなぎ)伊弉册(いざなみ)の天の浮橋を踏み渡り、豊葦原をお探りになった御矛から始まった。その後南瞻(なんぜん)僧伽陀(かだ)国、波斯彌陀尊者(はしみだそんじゃ)からこの方、天国(あまくに)日継ぎの子孫に伝えて今に至った。願わくば」
地「願わくば、宗近自身の高名ではない。普天率土(ふてんそつど:天下)の勅命による。ならば十万恒沙(がうじゃ:恒河沙の略)の諸神、ただ今の宗近に力を与えて賜び給えと言って、幣帛を捧げつつ、天に仰ぎ頭(こうべ)を地に付け、骨髄の丹誠(たんじやう:まごころ)を聞き入れ、納受させ給えや」
ワキ「謹上再拝」
地「いかにや(どうだどうだ)宗近。勅命の剣、勅命の剣、打つべき時節は虚空に知れた。頼めや頼め、ただ頼め」
後シテ「童男が壇の上にあがり」
地「童男が壇の上にあがって、宗近に参拝の膝を屈し、さて御剣の金(かね)はと問えば、宗近も恐悦の心を先にして、金を取り出し、教えの槌をはっと打てば」
シテ「ちょうと打つ」
地「ちょうちょうちょうと、打ち重ねた鎚の音が天地に響いて夥しい」
ワキ詞「かくして御剣を打って、表に小鍛冶宗近と打つ」
シテ「神体時の弟子なので、小狐と裏に鮮やかに」
地「打った御剣の、刃(やいば)は雲を乱したので、天の叢雲(むらくも)とも是なろうか」
シテ「天下第一の」
地「天下第一の、二つの銘の御剣で、四海を治めれば、五穀成就もこの時なろう。ただちにお前の氏神、稲荷の神体小狐丸を勅使に捧げ申して、これまでだと云い捨てて、また村雲に飛び乗って東山、稲荷の峯に帰ったことだ」

◆余談
 神楽「神剣幽助」では宗近の外にモドキが一名いて身の周りの世話をしている。弟子の様な存在かもしれないが、宗近の相槌を打つには足りないというところだろうか。稲荷明神が助けに現れるのである。

◆参考文献
・「謡曲叢書 第一巻」(芳賀矢一、佐佐木信綱/編, 博文館, 1914)※「小鍛冶」pp.733-738

記事を転載→「広小路

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2019年10月10日 (木)

鷲宮神社の奉納神楽を鑑賞 2019.10

埼玉県久喜市の鷲宮神社に行き、奉納神楽を鑑賞する。寝坊したため最初の演目は見逃した。

・天心一貫本末神楽歌催馬楽之段(見ず)
・折紙の舞
・天神地祇感応納受之段
・端神楽
・祓除清浄杓大麻之段 小学5年生+2年生バージョン
・端神楽
・磐戸照開諸神大喜之段
・端神楽
・祓除清浄杓大麻之段
・八洲起源浮橋事之段

鷲宮神社・折紙の舞
折紙の舞
鷲宮神社・天神地祇感応納受之段
天神地祇感応納受之段
鷲宮神社・祓除清浄杓大麻之段
祓除清浄杓大麻之段 小学5年生+2年生バージョン
鷲宮神社・磐戸照開諸神大喜之段
磐戸照開諸神大喜之段
鷲宮神社・祓除清浄杓大麻之段
祓除清浄杓大麻之段
鷲宮神社・八洲起源浮橋事之段
八洲起源浮橋事之段

八洲起源浮橋事之段は一度、八甫鷲宮神社で見ているのだけど、鷲宮神社の神楽にしては激しい舞で印象が違った。杓舞は二度やった。

今回、大酉茶屋で初めて昼食を摂る。海藻ラーメンセットを頼む。ラーメンにかやくご飯とおでんが付いてきた。案外、量が多かったので、ラーメンだけでも良かったかもしれない。

相席した夫婦と会話を交わす。奥さんは近所の人だそうだけど、10月20日頃にアメリカからの訪問団が来るとのことで、通訳を頼まれたとか。それで神社の勉強に来たのだと。僕が神楽が好きだと言うと、武州日野の浅間神社の神楽がいいと教えてくれた。ただ、調べてみると神社自体は武州日野駅から近いのだけど、秩父線のその先にある駅で横浜からはかなり遠い神社だった。鷲宮神社も片道3時間かかるのだけど、これは東武鉄道と半蔵門線、田園都市線が一本でつながっていて左程手間ではないのだ。

パナソニックGX7mK2+35-100㎜F2.8で撮影。今回は場所取りが悪かったのか、良い写真はあまり撮れなかった。

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2019年10月 7日 (月)

関東の里神楽の課題

6月の橘樹神社から初めて10月まで横浜近辺の里神楽の奉納神楽を何軒か鑑賞した。色々な演目が実見できて楽しかったが(カメラの背面液晶越しに見ていて肉眼では見てないケースが多かった)、色々と課題も感じた。以下にそれを記したい。

関東の里神楽の難点として演目と演目の間に一時間くらい間が空いてしまうことが挙げられる。その間に観客が帰ってしまうのだ。

神社の境内で過ごす一時間は満員電車の中の一時間とは違って開放感があって、左程しんどくはないが、それでも待ち時間は短い方がいい。横越社中の様に次は何時からだと表示してくれると有難い。

間が空くのは着付けに時間が取られるかららしいが、いかにも惜しい。僕の出身地の島根県石見地方の石見神楽では観客がせっかちなこともあって、演目と演目の間に間を挟まずすぐ次の演目に取り掛かるらしい。

これは一つの演目を演じる間に次の演目の演者がスタンバイしていることになる。つまり、社中の団員に余裕があって初めて可能になるということである。その点で関東の社中には難しいのかもしれない。

対策として演目と演目の間に獅子舞やお囃子を演奏して繋ぐことを実施している社中がある。これだと奏楽の人の負担は高いが、受け手としては満足できる。

神楽を鑑賞しながら、チェックポイントとして観客の中の子供がどうしているかを観察した。関東だと親御さんが子供に神楽を見せる習慣があまりないようだ。島根県石見地方の子供たちは神楽のお囃子が聞こえると落ち着きがなくなると言われている。これも良し悪しだけど、幼い頃から神楽に接しているから、自然とそうなるのである。

もちろん、関東にも神楽に興味を示す子供はいて、舞いを真似する子もいたし、「神楽みたい」と親にせがむ子もいた(これも演目と演目の間に時間がかかるので親御さんは難色を示していた)。

神楽を見て育った子が親となり、その子に神楽を見せる。島根や広島ではそのサイクルが確立しているのだ。関東でもそのサイクルを何とかして構築できないものだろうか。

それと、関東の社中は情報発信に消極的な様子だ。もしかすると、ある程度信頼できると思われる人間くらいまでなのかもしれない。僕自身、たまたまSNSでフォローしていたから実見することができた。

<追記>
 ……というような内容を文教大学の斉藤先生にぶつけてみたところ、関東の里神楽はあくまで氏子のためにあるのですといった趣旨の返信を戴いた。僕自身、知らず知らずのうちに観光神楽目線になっていた様だ。

 

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2019年10月 6日 (日)

雉子神社の奉納神楽を鑑賞 2019.10

10月6日(日)、五反田駅から徒歩5分ほどの位置にある雉子神社に萩原社中の奉納神楽を見にいく。ビルとビルの間にある神社で境内はビルのアトリウム的な空間だった。そこに仮設の舞台が設けられていた。演じられた演目は「天孫降臨」「日代之宮」「熊襲征伐」「紅葉狩り」「敬神愛国」「山神」だった。

萩原社中・天孫降臨・天鈿女命と猿田彦命
萩原社中・天孫降臨・天鈿女命と猿田彦命
萩原社中・天孫降臨・黒雲を剣で薙ぎ払う猿田彦命
萩原社中・天孫降臨・黒雲を剣で薙ぎ払う猿田彦命
萩原社中・日代之宮・景行天皇、熊襲征伐に行かないと答えた大碓命を打擲する
萩原社中・日代之宮・景行天皇、熊襲征伐に行かないと答えた大碓命を打擲する
萩原社中・日代之宮・景行天皇から剣と衣を授かった小碓命
萩原社中・日代之宮・景行天皇から剣と衣を授かった小碓命
萩原社中・熊襲征伐・酔い臥した熊襲健を女装した小碓命が狙う
萩原社中・熊襲征伐・酔い臥した熊襲健を女装した小碓命が狙う
萩原社中・熊襲征伐・熊襲健と戦う小碓命
萩原社中・熊襲征伐・熊襲健と戦う小碓命
萩原社中・紅葉狩り・酔い臥した平維茂の前で鬼女の正体を現した更科姫
萩原社中・紅葉狩り・酔い臥した平維茂の前で鬼女の正体を現した更科姫
萩原社中・紅葉狩り・鬼女と戦う平維茂
萩原社中・紅葉狩り・鬼女と戦う平維茂
萩原社中・敬神愛国・鯛を釣り上げた恵比寿さま
萩原社中・敬神愛国・鯛を釣り上げた恵比寿さま
萩原社中・敬神愛国・福を撒く大黒さま
萩原社中・敬神愛国・福を撒く大黒さま
萩原社中・山神・神楽の締めくくりの舞
萩原社中・山神・神楽の締めくくりの舞

「日代之宮」「敬神愛国」が未見の演目だった。「敬神愛国」は恵比寿さまと大黒さまが登場する演目で短い縁起の良い内容かと思っていたら(時計は確認していなかったが)もどきが大活躍して一時間を超える長編だった。舞台は美保関と言っていたので、恵比寿さまも大黒さまも出雲系の神ということになる。

昼間は一時雨が降ったのだけど、境内がビルの下の空間で雨の心配はなかった。10月も6日となれば涼しく、長袖のTシャツでは寒さを感じる程だった。

文教大学の斉藤先生によると萩原社中の構成員はほとんどが親戚筋に当たる人達らしい。面と衣装が素晴らしいとのこと。衣装は生地を買って、自分たちで仕立てているそうだ。

観客数は上々で、演目と演目の間には間が空くのだけど、複数の演目を見ている子供(親子連れ)もいた。

ニコンD600を使っているカメラマンに何のレンズを使っているか訊くと、70-300㎜だった。夜になっても同じレンズなので、フルサイズだと暗いレンズでもISO感度を思い切って上げることができるので、問題ないのだろう。マイクロフォーサーズだとISO3200が許容できる上限だ。

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2019年10月 5日 (土)

狂言から神楽へ――棒縛

◆はじめに
 2019年8月に横浜市港北区大豆戸町の八杉神社で加藤社中の「棒縛」を観た。狂言「棒縛」を題材にした新作である。「棒縛」は海外でも人気の高い演目とのこと。

◆あらすじ
 酒をくすねて飲む奴がいて困っていた主人はあるとき太郎冠者と次郎冠者を呼びつける。次郎冠者に棒術を披露させたその隙に主人と太郎冠者は次郎冠者を棒縛りにしてしまう。更に主人は太郎冠者を後ろ手に縛ってしまう。安心した主人は外出する。一方、縛られた太郎冠者と次郎冠者はあの手この手で酒をくすねて飲む。ところがそこに主人が帰ってきて……という内容。

加藤社中・棒縛・主人登場
加藤社中・棒縛・主人登場
加藤社中・棒縛・主人、太郎冠者に酒を持ってこさせる
加藤社中・棒縛・主人、太郎冠者に酒を持ってこさせる
加藤社中・棒縛・酒を飲む主人
加藤社中・棒縛・酒を飲む主人
加藤社中・棒縛・次郎冠者登場、棒術を披露する
加藤社中・棒縛・次郎冠者登場、棒術を披露する
加藤社中・棒縛・主人と太郎冠者、次郎冠者を棒縛りにする
加藤社中・棒縛・主人と太郎冠者、次郎冠者を棒縛りにする
加藤社中・棒縛・棒縛りにされた次郎冠者
加藤社中・棒縛・棒縛りにされた次郎冠者
加藤社中・棒縛・主人、太郎冠者を後ろ手に縛る
加藤社中・棒縛・主人、太郎冠者を後ろ手に縛る
加藤社中・棒縛・後ろ手に縛られた太郎冠者
加藤社中・棒縛・後ろ手に縛られた太郎冠者
加藤社中・棒縛・主人、外出すると言いおく
加藤社中・棒縛・主人、外出すると言いおく
加藤社中・棒縛・次郎冠者、何とか酒を飲もうとする
加藤社中・棒縛・次郎冠者、何とか酒を飲もうとする
加藤社中・棒縛・次郎冠者、太郎冠者に酒を飲ませる
加藤社中・棒縛・次郎冠者、太郎冠者に酒を飲ませる
加藤社中・棒縛・太郎冠者、後ろ手に酒を次郎冠者に飲ませる
加藤社中・棒縛・太郎冠者、後ろ手に酒を次郎冠者に飲ませる
加藤社中・棒縛・次郎冠者、再び太郎冠者に酒を飲ませる
加藤社中・棒縛・次郎冠者、再び太郎冠者に酒を飲ませる
加藤社中・棒縛・太郎冠者、再び次郎冠者に酒を飲ませる
加藤社中・棒縛・太郎冠者、再び次郎冠者に酒を飲ませる
酔って舞う太郎冠者と次郎冠者
酔って舞う太郎冠者と次郎冠者
加藤社中・棒縛・そこに主人が帰って来て……
加藤社中・棒縛・そこに主人が帰って来て……

◆狂言
 狂言を口語訳してみた。

(主・太郎冠者登場。次郎冠者も続いて出て、狂言座に座る)」
主「これはこの辺りに住む者でござる。某(それがし)、ちと所用あって、山一つあちらへ参ろうと思う。さてそれにつき、いつも自分が留守になると、両人の者が酒を盗んで飲むのによって、今日はきっといましめてやろうと思う。まず太郎冠者を呼び出そう。やいやい太郎冠者、居(を)るか」
太郎冠者「はあーっ」
主「いたか」
太郎「お前に居りまする」
主「思いの外早かった。お前を呼び出したのはほかでもない。ちと事情があって次郎冠者をいましめる故に、そう心得よ」
太郎「お咎めの程は存じませぬが、あいつも幼少から召し使われる者のことでござりますので、何とぞ堪忍して下さい」
主「いやいや、別にそれほど深刻に考える必要はない。そうではあるけれども、あいつは日頃つねづね武術のたしなみがある者なので、そら行くぞ、討つぞ、ではなるまいが、何としたものであろうか」
太郎「されば何がようござりましょう。(思案して)いや、それならば、あいつはこの頃棒を稽古致します。その棒の中に夜の棒という流儀がございます。これをとご所望なされ、間合いを見て両人で棒に左右の手を縛りつけてやるのはいかがでございましょう」
主「それは一段とよかろう。それならば急いで次郎冠者を呼び出せ」
太郎「畏まってござる。(次郎冠者に向かい)いやのうのう、次郎冠者、召すぞ」
次郎冠者(立って)「や、何を召されるのです」
太郎「いかにも」
次郎「召すならば召すと早く言われたらよいのに」
太郎「さあさあ、急いでお出になれ」
次郎「心得た」
太郎(主に)次郎冠者、出ました」
次郎「次郎冠者、お前に」
主「思いの外早かった。お前を呼び出したのは他でもない。聞けばお前はこの頃棒を稽古するとやらいうが、今日は私の前で使って見せよ」
次郎「いや、それは私ではござりますまい。たぶん人違いででもございましょう」
主「隠すな。太郎冠者が告げたぞ」
次郎(太郎冠者に)「よう、そなた申し上げたか」
太郎「その通り。我が申し上げた」
次郎「こいつはまあ。これを申し上げるということがあるものか」
太郎「それでも申し上げた」
次郎「申し上げたものならば、是非には及びません。一つ二つ使ってお目にかけましょう」
主「早く使って見せい」
次郎「まずその棒を取って参ります」
主「それがよかろう。(次郎冠者、舞台後方へ行く。主、太郎冠者に)必ず抜かるな(うっかりして失敗するな)。(用意のひもを渡す)」
太郎(受け取って)「抜かることではござらぬ」
次郎(棒を持って出て)「いや申します。すなわちこの棒でございます」
主「ほおーん」
次郎「まず、これをこのように致して参りますと、向こうから狼藉者が打ってかかれば、と、これで受けます。(仕形を見せる)打った太刀ならば引かねばなりませぬ。引くところをつけ込んで参り、胸板を勢いよく突き、たじたじとしたところを、(棒を)さっと持ち直して、両臑(もろずね:左右のすね)をともに打って打って打ち据える(動けなくなるまで激しく打ちたたく)ことでございます」
主「さてさて、激しい技じゃなあ、太郎冠者」
太郎「左様でございます」
主「とてものことに、夜の棒とやらも使って見せい」
次郎(太郎冠者に)「よう、これも申し上げたか」
太郎「その通り。これも申し上げた。
次郎「とんでもない奴だ。これは私の秘密の技じゃ。これを申し上げるということがあるものか」
太郎「でも申し上げた」
次郎「申し上げたものならば、是非には及びません。夜の棒をも使ってお目にかけましょう」
主「早く使って見せよ」
次郎「夜の棒と申しても、別に難しい技ではございません。我らが如き者が夜にお使いに参ると言って、見ての通り丸腰でございます。その時この棒が一本あればざっと済むことでございます」
主「ほおーん」
次郎(棒を首筋に当てて水平にし、左右の手を伸ばして支えて)「まずこれをこのように致して、夜お使いに参りますと、右から狼藉者が打ってかかれば、と、これで受けます。またある時は(棒をくるくると振り回しながら)このように致して参ることでございます。いや申す、ちと側を寄ってみられよ」
主「えーえ、危ないわい、危ないわい」
次郎「太郎冠者も、ちと側へ寄ってみぬか」
太郎「えーえ、危ないわい、危ないわい」
次郎(笑って)「それほど危ないとこわがるほどのことでもないよ。(以前のように棒を水平に左右の手で支えて)ただ、このように致して参れば、前後怖いことも恐ろしいこともございません」
主・太郎(次郎冠者の後ろから、ひもを持ってかかる)「こいつめ」
次郎「これは何とされる」
主「何をすると言って、おのれ、覚えがあろう」
次郎「私は何も覚えはございません」
主「覚えのないと言うことがあるものか」
次郎「太郎冠者、何をするか」
太郎「何かは知らぬが、ご主人さまのご意向じゃ。ご意向じゃ。(主・太郎冠者、二人がかりで次郎冠者を棒縛りにする)」
主「憎い奴め。それへ寄っていよ」
次郎「これは迷惑」
太郎(次郎冠者の姿を見て、笑って)「よいなりの、よいなりのまるで案山子を見るような。どうせ縛られるならば、これこうまともな形に(と両手を後ろにまわして)いましめられいでよ」
主(太郎冠者の後ろから、ひもを持ってかかる)「餓鬼め」
太郎「これは何と召さる」
主「何をすると言って、おのれこそ覚えがあろう」
太郎「私は何も覚えはございません」
主「覚えのないということがあるものか」
次郎(縛られた棒で太郎冠者を押えつけながら、主に)「きっといましめられい。きっといましめられい」
主(太郎冠者を後ろ手に縛り上げて)「憎い奴だ。おのれもそれへ寄っていよ」
次郎「これは迷惑」
主「さて、両人もの者よく聞け。自分はちと所用があって、山一つあちらへ行く故に、お前たちはよく留守をせい」
次郎「いや申します。こんな案山子の様な格好で、お留守がなるものでございますか」
太郎「ここを解いてお行きになられませ」
主(それには構わず)「頼むぞ頼むぞ」
次郎「盗人が入っても知りませんぞ」
太郎「盗人が入っても存じませぬぞ」
主「頼むぞ頼むぞ、頼むぞ頼むぞ(橋がかりへ行き、狂言座に座る)
次郎「いや、申します」
太郎「頼んだ人」
次郎「ほ、お行きになった」
太郎「まことに、さっさとお行きになった」
太郎「まず座れよ」
次郎「心得た」
次郎・太郎「えいえい、やっとな(両人、大小前に座る)
次郎「さて、何としてこのようにいましめられたものであろうか」
太郎「されば、何としてこのようにいましめられたものであろうか」
次郎「ははあ、我の思うに、いつも頼んだお方が留守になれば、お前が酒を盗んで飲むのによってのことじゃ」
太郎「いやいや、そなたが酒を盗んで飲むのによってのことじゃ」
次郎「いやいや。そちじゃ」
太郎「いやいや、そちじゃ」
次郎「そちじゃ」
太郎「そちじゃ」
次郎・太郎「そちじゃ、そちじゃ、そちじゃ、そちじゃ。(両人笑う)」
次郎「とにかく両人で盗んで飲むのによってのことじゃ」
太郎「その通りじゃ。(また両人笑う)」
次郎「さて、このようにいましめられたと思えば、いよいよ酒が飲みたくなった」
太郎「おっしゃる通り、ひとしお酒が飲みたくなった」
次郎「何かよい手立てはないか知らぬか」
太郎「されば何がよかろうか」
次郎「いやのう、よい手立てがある」
太郎「何とする」
次郎「我らはこのようにいましめられてはいるけれど、これを見やれ、手首が動くわ。(手首を動かして見せる)」
太郎「まことに動くわ」
次郎「この分ならば、藏の戸が開けられないことはあるまい。まず開けて参ろう」
太郎「それがよかろう」
次郎「首尾よく開ければよいが」
次郎(舞台前方へ出て、棒縛りのままで身体を斜めにして藏の戸をあける)「ぐゎら、ぐゎら、ぐゎらぐゎらぐゎらぐゎら、開いたわ、開いたわ」
太郎「まことに開いたわ。開いたわ」
次郎「ははあーっ。おびただしい酒壺(さかつぼ)じゃ。してこれはどの酒に致そう」
太郎「それは亭主(その座の主)の好みに任せよう」
次郎「はや、自分を亭主にするか」
太郎「まずは、今日の亭主じゃ。(両人笑う)」
次郎「いや、それならば、ここに渋紙(しぶがみ)で覆いをしたのがある。これに致そう」
太郎「それがよかろう」
次郎「まず渋紙を除こう。(身体を斜めにして壺の覆いの紙を取る)ムリ、ムリ、ムリムリムリ、バッサリ。ははあ、よい香りがするわ」
太郎「この方までもよい香りがするわ」
次郎「まず汲むものを取って参ろう」
太郎「それがよかろう」
次郎(舞台後方から葛桶[かずらおけ]のふたを持って出て)「まず一つ汲もう。やっとな。(不自由な姿勢でやっと汲んで)さて、これをそなたに飲ませたくはあるけれど、これまでの骨折りに、まず自分から飲もう」
太郎「何とそんな(棒縛りになった)格好で酒が飲めるものか」
次郎「ええ、飲まないでおこうか。(いろいろ苦心し、はては身体をはずませて盃へ口を届かせようとするが飲めるはずがない)」
太郎「ああこれこれ、酒がこぼれるわい。酒がこぼれるわい」
次郎「さてさてやかましい。是非に及ばぬ。そちに飲ましてやろう」
太郎「何、自分に飲ましてくれるか」
次郎「いかにも」
太郎「それは思いがけないこと(で恐縮)だ。(次郎冠者の前に片膝をついて待ち受ける)」
次郎「(葛桶のふたを太郎冠者の口もとへつけて)「それ、それ、それそれそれ。(太郎冠者、飲む)何と、飲めたか、飲めたか」
太郎「飲めたわ、飲めたわ。殊のほかうまい酒じゃ」
次郎「ああ、うまそうに飲むわ。また汲んで参ろう」
太郎「それがよかろう」
次郎「やっとな。(汲んで)さて、この度こそは自分が飲もう」
太郎「何と、その躰(てい)で飲めるものか」
次郎「ええ、飲まないでおこうか。(また色々もがきまわるが飲めない)」
太郎「ああこれこれ、酒がこぼれるわい。酒がこぼれると言うに」
次郎「さてさて本当にせっかちだ。是非に及ばない。またそなたに飲ましてやろう」
太郎「また自分に飲ましてくれるか」
次郎「いかにも」
太郎「それは度々思いの外だ」
次郎「それ、それ、それそれそれ。(前と同様にして飲ませる。太郎冠者、また喜んで飲む)何と、飲めたか、飲めたか」
太郎「飲めたわ、飲めたわ。飲めば飲むほどうまい酒じゃ」
次郎「ああまた、うまそうに飲むわ。さてそなたばかり飲まして、自分は飲むことができないが、何としたものであろう」
太郎「されば何がよかろうか。(思案して)いやのう、よい手立てがある」
次郎「何とする」
太郎「まず汲んで渡せ」
次郎「心得た。(汲んで)して、何とする」
太郎「自分もこのようにいましめられてはいるが、これを見よ、手首が動くわ。(後ろ手の手首を動かして見せる)」
次郎「まことに動くわ」
太郎(立って)「この分ならば盃を持てないこともあるまい。さあさあ、持たしておくれ」
次郎「何はともあれ、心得た。(葛桶のふたを渡す)何と持てたか、持てたか」
太郎「持てたわ、持てたわ。さあさあこれへ寄って飲ませよ」
次郎「心得た。(太郎冠者の後ろへまわり、葛桶のふたに口をつける)」
太郎「それ、それ、それそれそれ。(次郎冠者、飲む)何と、飲めたか、飲めたか」
次郎「飲めたわ、飲めたわ。おっしゃる通りうまい酒じゃ。また汲んで参ろう」
太郎「一つ謡(うた)わさせ」
次郎「心得た。(汲みながら)浮かめ浮かめ水の花」
次郎・太郎「げに面白き河瀬かな、げに面白き河瀬かな。(両人笑う)」
次郎「この上ない酒盛りになった」
太郎「その通りじゃ。(また両人笑う)」
次郎「さて自分が盃の方は受け持ったので、そなたは何か肴をさせ」
太郎「何と、このような躰(てい)で舞が舞われるものか」
次郎「その躰(後ろ手に縛られた格好での舞)が所望じゃ。ぜひとも舞いなされ」
太郎「それならば、舞ってもみようか」
次郎「それがよかろう」
太郎「ところどころお参りゃって、疾(と)う下向召され、咎をばいちゃが負ひまんしょ。(謡いながら舞う)」
次郎「やんややんや」
太郎(笑って)「失礼をいたした」
次郎「今の骨折りに、またそなたへ飲ましてやろう」
太郎「何、また、自分に飲ましてくれるか」
次郎「いかにも」
太郎「それは度々思いの外である」
次郎「それ、それ、それそれそれ。(前と同様にして飲ませる。太郎冠者、飲む)何と、飲めたか、飲めたか」
太郎「飲めたわ、飲めたわ」
次郎「また汲んで参ろう」
太郎「また謡わさせよ」
次郎「心得た。(汲みながら)強者(つはもの)の交わり、」
次郎・太郎「頼みある中の酒宴かな。(両人笑う)」
次郎「次第次第ににぎやかになった」
太郎「その通りじゃ。(また両人笑う)さて、自分も一つ受け持ったので、そなたも何か肴をさせよ」
次郎「何と、この案山子のような体で舞が舞われるものか」
太郎「その、案山子が所望じゃ。なにとぞ舞っておくれ」
次郎「それならば舞ってもみようか」
太郎「それがよかろう
次郎「そなた、地謡を謡うておくれ」
太郎「心得た」
次郎「十七八は」
太郎「竿に干いた細布、取り寄りゃいとし、手繰り寄りゃいとし、糸より細い腰を締むれば、い、たんとなほいとし。(棒縛りにされたままの姿で舞う)」
太郎「やんややんや」
次郎「(笑って)失礼いたした」
太郎「今の骨折りに、またそなたへ飲ましてやろう」
次郎「何、また自分に飲ませてくれるか」
太郎「いかにも。さあさあ盃を持たせておくれ」
次郎「心得た」
太郎「それ、それ、それそれそれ。(前と同様にして飲ませる。次郎冠者、また喜んで飲む)何と、飲めたか、飲めたか」
次郎「飲めたわ、飲めたわ。(汲みながら)ざざんざ」
次郎・太郎「浜松の音はざざんざ。(両人笑う)」
主(立ち、一の松まで出て)「ようやく用のことを片づけてござる。両人の者をきっといましめてはいるけれども、不安なので、急いで戻ろうと思う」
次郎「さて、頼んだお方はこのようなこととはご存じなくて、両人ともいましめておいたと思い、ゆるりと慰んで戻られるであろう」
太郎「まずは、そんなところだろうよ。(両人笑う)」
主(本舞台に入り)「いや何かと申す内に、はや戻った。ははあ、大層内が騒がしい。何事じゃ知らん。これはどのようなこと、また留守の間(ま)に酒を盗んで飲んでいる。さてもさても腹の立つことじゃ。これはまず何と致そう。いや、致しようがござる。(二人の後ろへ行き、立っている)」
太郎「さて、またそなたに飲ましてやろう」
次郎「何、また自分に飲ませてくれるか」
太郎「いかにも。さあさあ盃を持たせておくれ」
次郎「心得た。(葛桶のふたを取ろうとするが、そのとき主がうつむくので、酒の表面にその顔が映る。次郎冠者、驚いて)よーう。太郎冠者、盃の中を見られよ」
太郎「盃の中がどうかしたか」
次郎「まず見られよ」
太郎「心得た。(覗き込む。主またうつむいて顔を映す。太郎冠者も驚いて)よーう」
次郎「何と何と、頼んだお方のお姿ではないか」
太郎「まことに、頼んだお方のお姿じゃ」
次郎「何としてこれへ映らせたものであろうか」
太郎「されば、どうして映らせたものであろうか」
次郎「ははあ、自分が思うには、両人ともいましめておいてはあるけれど、また留守の間に、酒を盗んで飲みはしまいかと思う執心が映らせたものであろう」
太郎「どのみちそのようなことであろう」
次郎「この分ならば、酒壺の中にもあらん故に、行って見て参ろう」
太郎「それがよかろう」
次郎「静かに渡せよ」
太郎「心得た。(両人、舞台前方まで行き覗き込む。主もそっと寄り添い、上から覗き込む)
次郎「ああ、おられるわ、おられるわ」
太郎「まことに、おられるわ、おられるわ」
次郎「何と何と、しかめっつらではないか」
太郎「おっしゃる通り、にがりきった渋面じゃ。(大小前へ戻る)」
次郎「さて、自分は、これについて謡(うたひ)を思いついた。謡うたならば心得るであろう。そなたも一緒に踊っておくれ」
太郎「心得た」
次郎「月は一つ」
太郎「影は」
次郎・太郎「二つ、満つ汐(しほ)の、夜の盃に、主(しゅう)を乗せて、主とも思わぬ内の者かな」
主(肩衣[かたぎぬ]の片袖を脱いで)「もはや堪忍ならぬ。何の内の者。(扇を振り上げる)」
次郎太郎「そうりゃお帰りじゃ」
主「やいやい、やいそこの奴」
太郎「えい、頼んだお方」
主「何の、頼んだお方」
太郎(笑って)「許させられよ許させられよ。(逃げ入る)」
主「おのれ、どっちへ行く。やるまいぞやるまいぞ。(もとへ戻って)また一人居(お)るはずじゃ。やいやい、やいそこの奴」
次郎(ぺたんと座り込んで)「へぇ、お帰りなさいませ」
主「何、お帰りだと。また留守の間(ま)に、酒を盗んで飲みおったな」
次郎「いや申しましょう。何とこの案山子の様な躰で、酒が飲まれるものでございますか」
主「まだそのようにしらばくれるか。おのれ打擲(ちやうちやく)して(打って)やろう。(扇を振り上げる)」
次郎「何、打擲だと」
主「いかにも」
次郎「打擲ならば、夜の棒で参ろう」
主「夜の棒とは」
次郎「やっとな、やっとな、やっとな(棒縛りのままの姿で打ちかかる)」
主「何をする、何をする、何をする。(あわててよける)」
次郎「やっとな、やっとな、やっとな(なおも打ちかかる)」
主「許してくれい、許してくれい。(逃げ入る)」
次郎「やっとな、やっとな、やっとな。(左右から打ちかかりながら追い入る)」

……とある。狂言の結末では次郎冠者が反撃するが、神楽では酒を飲んで酔っているところを見つかって終わるのが違うところ。

◆余談
 初見時は、太郎冠者、次郎冠者の両人がいずれも酒をくすねていたというのが面白かった。もどきは関東の里神楽で滑稽な仕草を演じる役だが、もどきらしさを活かした新作と言えるだろう。新作といえばバトル一辺倒の石見神楽・芸北神楽とは異なる方向性で興味深い。

 狂言は小学生のとき、狂言師の方たちが来校して実演してくれたことを憶えている。セリフは現代語に訳されていたはずだが、楽しかったことを憶えている。

◆参考文献
・「狂言集 新編日本古典文学全集60」(北川忠彦, 安田章/校注, 小学館, 2001)pp.138-155

記事を転載→「広小路

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2019年10月 4日 (金)

歩く・見る・聞く――石塚尊俊「顧みる八十余年―民俗採訪につとめて―」

石塚尊俊「顧みる八十余年―民俗採訪につとめて―」を読む。出雲の碩学と言える著者の自伝的作品。生い立ちから中学校卒業までは普通の自叙伝風に描かれるが、大学に上がって民俗学を専攻するようになってからはテーマ別に分かれる。日記、採訪ノートをこまめにつけていたようで、何月何日、何時何分の特急で移動し、誰と会い、どこそこに泊まった等細かに記録されている。

民俗採訪七十年の章では、サエの神に始まって/タタラ・金屋子神をたずねて/納戸神との出会い/俗信の由縁を探る/イエの神・ムラの神、年頭行事/離島を訪ねて/奥所の神楽/民俗の地域差を考える―北陸同行地帯と安芸門徒地帯―と節が分かれる。また、各節に関連する論文が引用されている。

神楽については、離島を訪ねて/奥所の神楽といった節で言及される。中四国・九州と丹念に見て回っている。その成果が「西日本諸神楽の研究」としてまとまっていて博士論文ともなっているのだけど、郷土史の執筆等、神楽だけに専念する時間的余裕が無かったようで、東北、関東、中部など東日本の神楽には奥三河の花祭り以外言及されない。これがいかにも惜しく思われる。

「サエの神に始まって」では境界の神である塞の神を考察している。してみると、僕のルーツである浜田市下府町の才ヶ峠は塞の神と地獄の閻魔様の眷属を祀る十王堂が共存していることが特徴か。いわば生の世界と死の世界とを分かつ境界でもある訳だ。

戦時中は出征していて、中国戦線にいたようだ。満州や南方戦線だと生きて帰れなかっただろうと述懐している。中国では国境警備などに従事していたようで、激しい戦闘には遭遇していないようである。それでも、牛尾三千夫に対しては出征していない癖にといった複雑な感情があるのを別の論文(講演)で読んだことがある。

大正生まれの人であり、戦後、高度経済成長で民俗が失われ始めるまでの言わば民俗学の絶頂期を歩く・見る・聞くといった行為に費やしている。そういう意味では地方在住の民俗学者としての務めを忠実に果たしている。

 

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2019年10月 1日 (火)

蛇胴の大蛇が出てびっくり――シネマ歌舞伎「幽玄」

桜木町のブルク13に行き「シネマ歌舞伎特別篇 幽玄」を見る。坂東玉三郎と鼓童がコラボした演目。能楽的な舞踊劇だった。驚いたのは終盤、蛇胴を持つ大蛇が登場したこと。石見神楽の大蛇の要素が取り込まれていた。ネットで調べてみると、「幽玄」は能楽の「羽衣」「道成寺」「石橋」を元に構成しているらしい。眠くて目をつぶっていて見逃したが「道成寺」のパートがそうだろう。「幽玄」は玉三郎自身の演出なので、玉三郎はどこかで石見神楽の大蛇を見ていることになる。

チケット購入時、カウンターに誘導されたのだけど、受付のお姉さんの説明をよく聞かずに料金2100円のところ1100円しか出さず恥ずかしい思いをする。いや、前回のシネマ歌舞伎は(短かったから)1100円だったはずなのである。

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